岸田首相の後任を選ぶ自民党総裁選挙が12日告示され、過去最多の9人が立候補を届け出た。9氏は党本部で立ち会い演説会に臨み、経済政策や党改革、外交・安全保障政策などをめぐり、それぞれ意見を表明した。
9氏は13日に党本部で共同記者会見、14日に日本記者クラブで候補者同士の討論会に臨む。その後、全国8か所の演説会などを経て27日に投開票が行われ、新しい総裁が選出される運びだ。
自民党内では、派閥の裏金問題を受けて「自民党が生まれ変わった姿を見せないと次の選挙は戦えない」との受け止め方がある一方で、「首相の顔を変えて戦えば、選挙を乗り越えることはできる」として、早期の衆院解散・総選挙論が急速に広がりつつある。
一方、選挙情勢は、報道各社の世論調査や自民党関係者の見方を総合すると「石破元幹事長と小泉進次郎元環境相の2人が先行している」との見方が強いが、決選投票にまで持ち込まれる公算が大きく、最終結果を見通せるまでには至っていない。
そこで、今回のブログでは、今度の総裁選の特徴と、総裁という「表紙」が変わって「中身も本当に変わるのか?」「何が問われているのか」といった点を中心に考えてみたい。
混戦の背景、人材枯渇現象の裏返し
最初に、総裁選の立候補者9人を分類してみると◆岸田政権の中枢にいる林芳正官房長官(63)と茂木敏充幹事長(68)。◆閣僚は、高市早苗経済安保相(63)、上川陽子外相(71)、河野太郎デジタル担当相(61)。◆党幹部として、ベテランの石破茂元幹事長(67)、加藤勝信元官房長官(68)、中堅・若手が小泉進次郎元環境相(43)小林鷹之前経済安保相(49)となる。
つまり、政権与党の中枢と閣僚が5人を占める。岸田政権の当事者なので、主要政策の責任の一端を背負っている立場にあることを頭に入れておく必要がある。
そのうえで、今回の立候補者がこれまで最も多かった5人を大幅に上回り、過去最多の9人、大混戦となった理由・背景としては何があるのだろうか。
まず、自民党は裏金問題を受けて派閥の解散を決めており、従来のように派閥のタガ、締め付けが効きにくくなったことがある。同じ旧岸田派にいた林氏と上川氏、旧茂木派の茂木氏と加藤氏のように、同じ派閥から2人が立候補したのは派閥の締め付けががなくなったことが大きい。
また、閣僚経験者の1人は「推薦人20人を集めることができれば、立候補できるようになったので、総理・総裁をねらう人たちが名乗りを上げ、総裁選立候補の足跡を残しておきたいという思惑が働いているのではないか」と解説する。
さらに、党の長老に聞くと「次の政権は政治とカネの問題が響いて、衆院選挙は苦戦も予想され、短命政権となるおそれもある。政権の先行きを見越した思惑もあるのではないか」との見方を示す。
一方で、「かつては『三角大福中』『安竹宮』『麻垣康三』といった次の総裁候補の面々が控えていたが、今や衆目一致する有力なリーダー候補がいなくなったともいえる」と語る。この発言の意味は混戦というが、実態は有力なリーダー候補がいない”人材枯渇現象”の裏返しではないかとの厳しい見方だ。
中身は変わるか、2つの視点がカギ
さて、今回の総裁選の選挙権は、自民党所属の衆参両院の議員376人と105万人党員に限られ、ほとんどの国民は選挙権はない。選挙権はないが、国民の多くは、岸田首相が退陣表明の際に強調した「自民党は変わらなければならない」との訴えが、本物になるのかどうかを注目しているのではないか。
9人の候補者は立候補の届け出を済ませた後、党本部で行われた立ち会い演説会でそれぞれの意見を明らかにした。
各候補は◆政治とカネの問題を受けて、信頼回復のための党改革や政治改革のあり方、◆経済・財政政策や物価高対策、◆人口減少対策と社会保障、◆外交・安全保障、◆憲法改正などについて、それぞれの立場から対応策を訴えた。
驚いたのは、政権幹部である茂木幹事長が「増税ゼロ」を訴え、防衛増税と子育て支援金の追加負担、各1兆円を停止する考えを打ち出したことだ。また、茂木氏は政治とカネの問題では「政策活動費」の廃止も表明した。いずれも岸田政権の方針とは正反対の考え方だ。
また、小泉進次郎氏は「総理・総裁になったら、できるだけ早期に衆議院を解散し国民に信を問う」考えを表明するとともに規制改革・解雇規制緩和などに取り組む考えを示した。解雇規制の緩和は、政府内や国民の間でも意見が分かれている問題だ。党内の合意形成はできるのだろうか。
総裁選なので、それぞれの候補が自らの考えを表明するのは自由だが、政権与党なので、政権の掲げる政策と異なる場合、その理由や内容などについて、詳しい説明を行う必要がある。
以上を確認した上で、本論である「自民党の中身は、本当に変わるのかどうか」に話を移したい。2つの視点が重要だと考える。
まず、国民の関心が高い「政治とカネの問題」については、国民の疑念に真正面から取り組むことが必要だ。立ち会い演説会を聞いた限りでは、各候補の主張はほとんどが一般論で、取り上げても部分的で、具体性が極めて乏しい。これでは、国民の政治不信を払拭し、信頼を回復するのは難しいだろう。
求められているのは、◆裏金問題の説明責任と処分の扱いをどのようにするのか。◆先の国会で成立した改正政治資金規正法の中で、「検討項目」として盛り込まれた第三者機関の設置などの改革をどのように実現していくのか明らかにする必要がある。
2つ目は、国民の多くが知りたいのは、端的に言えば、これからの「経済・社会のかじ取り」をどうするのかだ。国内では人口急減社会が急ピッチで進む一方、GDPの規模は円安政策もあってドイツに抜かれて4位に後退するなど国際社会での日本の地位低下に歯止めがかからない。
これに対して、各候補の主張は「強い日本列島をつくる」「世界をリードする日本をつくる」「所得倍増を成し遂げる」など威勢のいい目標は盛んに語られるが、目標はどのような政策を組み合わせると実現するのか、説得力のある説明は聞かれなかった。これでは、国民の将来不安は中々、消えない。
この10年余り続いたアベノミクスを総括し、これからの経済・社会の基本方針をどのように設定するかを明確に打ち出す時期ではないか。こうした基本方針と実現への道筋を示すことこそ、政権与党の自民党が問われている点だと考える。
自民党内には「総裁選で新総裁が誕生すれば、政権の支持率が上がり、その勢いに乗って早期の衆院解散に踏み切れば、選挙に勝てる」との見方が広がっている。
一方、政治とカネの問題への対応は曖昧なまま、将来の暮らしや経済の展望も開けないとなれば、次の衆院選では有権者からしっぺ返しを受けるというのが、これまでの教訓だ。
私たち国民は、総裁選での論戦を通じて「政治のカネの問題」と「経済・社会の基本方針」の議論が進むのかどうかを見極め、次の衆院選挙の投票する際に生かしていくことが必要ではないかと考える。(了)
自民党の総裁選の立候補を受けて、至極「まっとう」な分析
および論理の展開がなされており、頭の中がすっきりまとまり
ます。納得しかりです。
しかも立候補者に対して、誰一人として個人を揶揄するような
論調はなく、気持ちの良いわかり易いブログであると思います。
特に岸田政権を担った党の役員、大臣の立ち位置の矛盾に
ついての指摘はもっともであります。
茂木幹事長は、なにを勘違いしたのか岸田政権の主要政策に
対して、真向に相反する方針をブチあげるに至っては、何を
か言わんやと思います。
多分、他の候補者との「違い」を出さねばと、はやとちった
のだと思います。もっとも、岸田政権に背を向けていたこと
の延長とも言えます。
我々国民は、来る早い時期に実施されるだろう衆院選において
確かな判断のもと、しかるべき投票行動を行うことが何より
寛容であることは言うまでもないことです!
文章について
①最初の項
15~16行目
総裁という「表紙」は変わっても
→総裁という「表紙」が変わって
(「は」→「が」、「も」→不要ではと思います)
②最後から7行目
との見方広がっている。
→との見方が広がっている。
(「が」 が抜けています)
9月13日 妹尾 博史