新しい年が明けて石破首相をはじめ各党党首は、それぞれの党の仕事始めや記者会見、海外訪問に出発するなど本格的な活動を始めた。
各党首の年頭記者会見などを聞くと、衆議院の与党過半数割れという新しい政治状況を受けて、年明けの通常国会は新年度予算案などの修正を含め与野党の激しい攻防が予想される。
一方で、内外情勢が厳しさを増す中で、党派を超えて合意を図る政治をめざすべきだという方向では多くの党が一致しているので、対立だけでなく歩み寄り、一定の成果も期待できるのではないか。
こうした中で、今年は夏の参議院選挙に合わせて衆院の解散・総選挙を行う「衆参同日選挙」がありうるのではないかとの見方も聞かれる。この衆参ダブル選挙説は、参議院選挙が近づくにつれて今後も浮上することが予想されるので、どの程度の確率があるのか探ってみたい。
ダブル選挙、少数与党から脱出へ
最初に今年前半の政治日程を確認しておくと年明けの通常国会は今月24日に召集される見通しで、会期末は6月22日になる。会期延長がない場合は、公職選挙法の規定などで、夏の参議院選挙は7月3日公示、20日投開票という日程になる。
一方、東京都議選は、6月下旬から7月初めにかけて投開票が行われる見通しだ。4年に一度の都議選と、3年ごとの参院選が12年ぶりに同じ年に重なる「巳年選挙」になる。
さて、その都議選に続いて行われる参議院選挙に合わせて、衆議院選挙を行う「衆参同日選挙説」が取り沙汰されている。
石破首相自らも年末の民放テレビ番組で、衆参同日選挙の可能性を問われたのに対し、「これはある。参議院と衆議院の時期が同時ではいけないという決まりはない」とのべた。その後、発言を軌道修正したが、政界に波紋を広げた。
自民党内では先の衆院選で大敗し、国会では野党の攻勢に譲歩を重ねていることに不満が鬱積している。このため、何とか早期解散に持ち込み、過半数割れからの脱出を図りたいという思いは強い。
また、先の衆院選では公認から外れた候補にも2000万円を支給した問題が敗北の決め手になったとの受け止め方が強く、これがなければ次の衆院選では一定の議席の回復は見込めるとの見方も出ている。
そして、野党側が例年と同じように会期末に内閣不信任決議案を提出することが予想されるため、それをきっかけに衆院解散に踏みきり、衆参ダブル選挙を断行してもいいのではないかとの意見が政権内にもあるのは事実だ。
こうした早期解散論の背景としては、石破首相と森山幹事長ら党執行部としては、少数与党で思うような政権運営が描けないため、解散説を流すことによって野党側をけん制するねらいがあるものとみられる。今後も国会での与野党の攻防が緊迫する際に、衆参ダブル選を模索する動きが出てくることが予想される。
政権の求心力弱く、ダブル選は困難か
さて、自民党内の一部から衆参ダブル選期待論が聞かれるのは事実だが、実現へのハードルは極めて高い。過去2回の衆参同日選挙のうち、2回目は1986年の中曽根政権の時で、自民党が圧勝した。
当時、中曽根内閣の世論の支持は高かった。現場を取り仕切ったのは最大派閥・田中派幹部の金丸幹事長で、2人が組んで用意周到、定数是正法案も絡めて秘策を尽くし、ダブル選挙に持ち込んだ。強力な政権だったからこそ、実現が可能だった。
これに対して、今の石破政権は衆院で少数与党であり、自民党内の掌握、野党との折衝体制、衆院選に向けた選挙体制づくりなど整っていないようにみえる。
また、連立政権なので、公明党の理解と協力が不可欠だ。その公明党は、政界進出の原点である都議選と参院選に専念したいのが本音だとみられる。山口那津男元代表は8日、石破首相との会談後、記者団に「衆参同日選は望ましくない」との考えを示した。
さらに報道各社の世論調査をみると石破内閣の支持率は、朝日新聞の調査(12月14,15両日)で36%、不支持率は43%。読売新聞の調査(12月13~15日)では支持率39%、不支持率は48%と低迷している。自民党の支持率も20%台前半まで低下している。「政治とカネ」をめぐる取り組みを「評価しない」との受け止めが多く、世論の信頼回復には遠く及ばないのが実状だ。
選挙に詳しい自民党関係者に聞くと「衆参ダブル選は昭和の時代、党の支持率は高いのに保守層が投票所に足を運ばなかった。この状態を打開するために投票率を上げると同時に、議席の大幅拡大もねらった選挙戦略だった。今のような低支持率の政権にはまったく適合しないので、止めた方がいい」と指摘する。
先の衆院選挙の出口調査(朝日新聞、比例代表)をみると無党派層の投票先は、最も多かったのは立憲民主党の22%、2位が国民民主党の18%で、自民党は14%の3位に止まっている。仮に衆参ダブル選挙が実現したとしても今のような選挙情勢では野党側に競り負け、衆参ともに一気に政権から転落する可能性もある。
一方、立憲民主党の野田代表は、内閣不信任決議案は「会期末だから出すといった『竹光』を振るってチャンバラをやる時代ではない。『伝家の宝刀』だと思って刃をよく磨いておきたい」として、自民党内の動きを見ながら慎重に対応するする構えだ。
このようにみるとこの夏の参議院選挙に合わせた衆参ダブル選挙の可能性は、極めて低いというのが結論になる。この夏は、都議選に続いて、参議院選挙が最大の政治決戦になるとみている。
その参議院選挙について森山幹事長は、7日の自民党仕事始めの後の記者会見で勝敗ラインについて「与党で過半数を死守することだ。参議院全体でも改選議席でも過半数を果たすことが大事だ」とのべ、与党で改選議席の過半数である63議席以上をめざす考えを明らかにした。
これに対して、立憲民主党の野田代表は「少なくとも改選議席の与党の過半数割れを実現したい」として、特に32ある1人区で野党が候補者を1人に絞って対決していく戦いをめざしている。
夏の参議院選挙では与野党が真正面からぶつかり、与党が改選議席の過半数を獲得すれば石破政権が続投することになるが、過半数を割り込むと石破首相の政治責任論が浮上し、政局は一気に流動化することになりそうだ。(了)
新しい年を迎えて、各政党がどのような思惑でどのように
活動を行おうとしているのかということを、政党支持率等を
踏まえて、分かりやしく解説されており、大変良く理解でき
ました。
また、今回の主題としている衆参ダブル選挙の可能性について
過去の事例を振り返り、その当時の政治情勢さらには思惑等を
分析し、今の政情ではその実施の可能性が薄いとの説明が展開
されており、これまた納得しかりに思いました。
政党支持率等の推移をみるに、「自民党の政治と金の問題」に
ついて国民の多くが、ほとんど納得していないことが鮮明に
あらわれていると痛感しています。
自民党が、心底からダーテイな「裏金つくり」から脱却しない
かぎり、支持率の回復はありえないと思っています。
今月開催される国会において、与野党が真剣に実のある論戦を
とりかわし、国民の目線にあった政策を実現してもらいたいと
強く祈念しています。
文章について
①「ダブル選挙、少数与党から脱却へ」の項
3~4行目
夏の参議院選挙は7月3日公示、30日投開票という日程になる。
→7月3日公示、20日投開票という日程になる。
(30日 ではなく20日(日)ではないですか)
②最後から3行目
石破首相の政治責任が浮上し、
→石破首相の政治責任論が浮上し、
(このほうが良くないですか?)
1月10日 妹尾 博史