米「相互関税」一時停止、日本の対応は

アメリカのトランプ大統領は、貿易赤字が大きい国などへの「相互関税」を90日間、停止する異例の対応をとる一方、中国に対しては125%からさらに引き上げ145%の関税を課すなど強い姿勢を打ち出した。

これに対して中国政府は10日午後、アメリカからの輸入品に予定よりも50%上乗せした84%の追加関税を課す措置を発動するなど一歩も引かない構えを示している。

こうした米中両国による関税引き上げの応酬を受けて、10日のニューヨーク株式市場ではダウ平均株価が一時、前日と比べて2100ドル余り値下がりした。終値は、前日に比べて1014ドルの下落となった。

一方、11日の東京株式市場も全面安の展開となり、日経平均株価は一時、1900円を超える大幅な下落となった。トランプ大統領が「相互関税」の停止措置をとったあとも世界の株式市場は不安定な状況が続いている。

こうしたトランプ大統領の一連の関税政策を日本政府はどのように受け止め、対応しようとしているのか、最近の動きを探ってみた。

安堵と戸惑い、関税見直しへつながるか

まず、今回トランプ大統領が「相互関税」の上乗せ措置を発動してから、わずか半日で急遽、停止したのはなぜか。米国メデイアの報道によると株式や通貨、それに米国債まで売られる「トリプル安」が起きたことから、トランプ大統領としても停止措置に踏み切らざるを得なかったとの見方をしている。

日本政府の見方はどうだろうか。林官房長官は10日、記者団から今回の受け止め方を質問されたのに対し「これまでも関税措置の見直しについて、さまざまなルートで申し入れてきたので、非常に前向きに受け止め止めている」とのべ、安堵の表情をみせた。

一方で、米国事情に詳しい外交専門家によると「トランプ関税は3か月から半年、あるいは1年程度続いた後、軌道修正されると予想していた。予想していなかった展開だ」と戸惑いをみせる。トランプ大統領の関税措置は、今後も突如として変更されることが十分ありうることを念頭に置いておく必要がある。

さて、今回のアメリカの決定で日本にとっては「相互関税」の24%の課税は一時停止になったものの、一律10%の「相互関税」は残されたままだ。また、鉄鋼製品やアルミニウム、それに自動車へ25%の追加関税は続いている。

特に、自動車の対米輸出額は年間6兆円を超え、関連部品も1兆円に上る基幹産業だけに追加関税の影響は深刻だ。加えて、米国向けの幅広い輸出品に25%の追加関税が重荷となってのしかかる。日本政府のこれからの対応はどうなるか。

政府は、引き続き関税措置の見直しを強く求めていく方針だ。米側との交渉の担当閣僚に指名された赤澤経済再生相は来週にもワシントンを訪れ、交渉相手のベッセント財務長官と会談する方向で調整に入った。

日米交渉に向けて政府は11日、赤澤経済再生相と林官房長官をトップに外務省や経済産業省などの関係省庁で構成するチームを発足させた。2月の日米首脳会談の際に戦略を練ったメンバーが中心になっている。

石破首相は11日午前、赤澤経済再生相と会談し「国難とも言える事態に日米双方の利益になるようアメリカ側と協議してほしい」と指示した。

赤澤氏としては、対米投資を中心に日本が協力できる案件をはじめ、エネルギー分野の開発、非関税障壁の改善などを幅広く検討しながら意見を交わし、関税引き下げに向けた地ならしをどこまで進めることができるかが焦点だ。

ベッセント財務長官はウオール街の出身で、今回の「相互関税」停止決定に当たっては大きな影響を与えたとされる。赤澤経済再生相にとって手強い交渉相手になりそうだ。

 問われる石破政権の戦略・対応

トランプ政権の一連の関税政策にどのような姿勢で向き合うのか、日本に直接関係する関税の見直しだけでなく、国際社会全体の視点に立った戦略、対応も問われる。

米側の対日交渉責任者に決まったベッセント財務長官は、関税をめぐる各国との交渉について「日本が列の先頭にいる」とのべた。世界各国との交渉にあたって、日本をモデルケースにしたいというねらいがうかがえる。

それだけにアメリカ側が強い姿勢で交渉に臨むことが予想される。日本としては、まずは日本に直接関係する関税措置の撤回や、引き下げで具体的な成果を上げることができるか石破政権の力量が試される。

また、トランプ政権の一連の関税政策は、アメリカの利益最優先の保護主義的な政策で、自由貿易体制を推進していく立場から容認できない。同じ立場に立つEU・ヨーロッパ連合や、ASEAN・東南アジア諸国連合などとも連携をとりながらトランプ大統領を説得していく取り組みが問われることになる。

日本としては、関税問題が前進した段階で改めて日米首脳会談を開いて同盟関係を再確認するとともに、日米が協力してG7首脳会合や、G20サミットなどで国際社会が安定に向けた流れを強められるような役割を果たすことが求められるのではないかと考える。

一方、国内では自民・公明の与党側から、トランプ政権の関税政策の影響や物価高対策として、現金給付や減税を求める意見が強まっている。公明党の斎藤代表は10日、党の中央幹事会で、減税が実現するまでのつなぎの措置として、現金の給付を検討すべきだという考えを示した。

自民党内でも参議院側を中心に「現金給付で迅速に対応し、その後、減税を行うべきだ」という意見が出ている。現金給付にあたっては所得制限をつけずに国民1人当たり数万円を支給すべきだという意見もある。

野党側では、現金給付よりも減税を中心にした対策を求める意見が多い。具体的には「現金給付のようなバラマキ的なやり方ではなく、食料品にかかる消費税の税率引き下げやガソリン税の暫定税率の廃止などを検討すべきだ」といった意見が出ている。

このほか、政府や与野党の中から「トランプ政権の関税政策については、影響の大きい産業や分野の状況を把握したうえで、効果のある対策を打ち出すべきだ」という意見も聞かれる。

こうした関税に関連した与野党の対策については、夏の参議院選挙をにらんだ選挙対策ではないかという見方や批判も聞かれる。それだけに石破政権、与野党ともにトランプ関税が影響を及ぼす分野や程度の評価とセットで、対応策について議論を深めていく必要があるのではないかと考える。

トランプ関税と激動する国際社会の外交・安全保障、それに国内の新たな経済政策としてどのような対応策が必要なのか、これからの後半国会と夏の参議院選挙の大きな焦点になりそうだ。(了)                     ★追記(12日午前7時半)◆中国政府は、アメリカからの輸入品に125%の追加関税を課すと発表した。12日から実施する。トランプ政権が中国からの輸入品に145%の関税を課す方針に対抗した措置。                  ◆トランプ政権の関税措置をめぐって、赤澤経済再生相は16日から訪米し、17日にベッセント財務長官らと初めての会談を行う見通し。

 

 

 

 

 

“米「相互関税」一時停止、日本の対応は” への1件の返信

  1. トランプ大統領の突然の関税措置90日間の延期措置に対し
    日本政府がどのように対応すべきかについて、分かり易く
    論旨が展開されており、納得しかりに思います。
    トランプ大統領の「思いつき」とも思われる関税方針一つで
    全世界の経済が大混乱に陥る状況が日々続いていることは、
    決してあってはならない由々しき事態と言えます!
    世界一の経済大国のアメリカが大統領の思惑一つで、突然
    従来政権とは真逆の「政策」を打ち出すことが可能である事
    自体を大問題と把握すべきと思います。
    今回の論旨の主眼は、下記論点に尽きると感じました。
    「日本としては、関税問題が前進した段階で改めて日米首脳
    会談を開いて同盟関係を再確認するとともに、日米が協力し
    てG7首脳会合や、G20サミットなどで国際社会が安定に向けた
    流れを強められるような役割を果たすことが求められるのでは
    ないかと考える。」
    公正な自由貿易体制の維持・促進に向けての日本の役割は極めて
    大きいと思います。
    日本政府においては日本経済の維持・発展を追及するのみならず
    貴殿の指摘するような世界的な役割を果たすことが求められて
    いると思います!

    文章について
    ①「安堵と戸惑い、関税見直しへ繋がるか」の項
     16行目
     一律10%の「相互関税」は残さたままだ。
     →残されたままだ。(れ が脱字となっています)
    ②「問われる石破政権の戦略・対応」の項
     14行目
     トランプ大統領を説得していく取り組み問われる
     →説得していく取り組みが問われる
      (が 脱字となっています)
    ③最後から20行目
     現金給付よりも減税に中心にした対策
     →減税を中心にした対策
     (減税に →減税を  )
    ④最後から19行目
     「現金給付ようなバラマキ的なやり方
     →「現金給付のようなバラマキ的なやり方
      (の  脱字となっています)

     4月12日  妹尾 博史

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