コメの価格高騰が続く中で、江藤前農水相が「コメは買ったことがない」などの失言で、今月21日に更迭された。後任に抜擢された小泉進次郎農水相は23日、「売り渡しを随意契約に変え、備蓄米の店頭価格を5キロ2000円に抑える」と明言したことから、メデイアや国会で大きく取り上げられ、コメ問題が社会の大きな関心を集めている。
その随意契約による備蓄米は29日午前、大手の小売業者へ運び込みが始まった。このうち、仙台市に本社のある大手生活用品メーカー、アイリスオーヤマでは関連会社で精米や袋詰めを行った後、6月2日から5キロ入り税込み2160円で店舗で販売する。
また、この会社では午後1時から自社のネット通販サイトで、予約の受付を始めたが、開始から45分で予定していた数量が完売した。
楽天グループも29日正午からネット通販サイトで販売を始めたが、開始後まもなく売り切れたほか、予約の受け付けも午後2時過ぎに上限に達したため、終了したという。
一方、農水省は2021年産米の10万トンについては、大手の小売り販売業者ではなく、中小のスーパーやコメ販売業者を対象に売り渡す方針で、30日から購入申し込みの受け付けを始める予定だ。
このように石破政権は、備蓄米の売り渡しをこれまでの競争入札から随意契約に切り替え、市場価格に政府が積極的に介入する方法に転換した。今回の方法はうまく機能するのか、どのような課題や問題点を抱えているのか点検してみたい。
備蓄米、低価格で広く行き渡るか
まず、備蓄米の放出方法を随意契約に切り替えたことについて、小泉農水相は26日、「これまでと同じやり方では、国民の期待に応えられないと考えた。国が定めた定価で毎日、売り渡し、早ければ6月上旬に店頭に並べることができる」とのべ、政治決断だったことを強調した。
江藤農水相は競争入札で3回放出したが、備蓄米が消費者の元にほとんど届かなかったこともあって、与野党の間では今のところ随意契約への異論は少ない。問題は、税抜きで2000円程度の価格で、希望する国民に幅広く行き届くかどうかではないか。
小泉農水相は、今回の30万トンで効果が出ない場合は、さらに30万トンを追加して放出する考えだ。日本のコメの消費量は670万トンとされ、30万トンの放出量はその4.5%程度に過ぎない。
このため、国民の多くが購入を希望した場合、低価格は維持されても国民の幅広い需要に応えることができるのか、分量の不足を危ぶむ声も聞かれる。
また、これまでの国会の質疑では備蓄米のほとんどを放出した場合、大地震や災害など本来の緊急事態に必要なコメの確保をどうするのか。アメリカなど海外からのコメ輸入に踏み切るのかといったさまざまな問題点の指摘も出されている。
コメ全体の価格引き下げにつながるか
国民の多くの希望は、低価格の備蓄米は歓迎するが、これまで食べていた銘柄米の価格をもう少し引き下げてもらいたいということではないか。
農水省の調査でも現在、コメの平均価格は5キロあたり4200円台だ。去年の春と比べると2倍以上も値上がりしているのは異常だと言わざるを得ない。
また、コメの大幅な価格高騰がなぜ起きているのかについて、石破首相や農水省の説明を聞いてもよくわからない。農水省はコメの生産量は去年より増えており、流通に目詰まりが起きているのではないかなどと指摘するが、原因を特定するまでには至っていない。
一方、コメの適正価格については、農家がコメの生産を続けるのに必要な価格を設定する必要がある。そうした要素を考慮するにしても、主食のコメの価格が1年で2倍以上も上昇するのは異常と言わざるをえない。
コメの専門家によると、コメの価格は入札や流通コストをかけているので、備蓄米が出回ってもコメ全体の価格が低下するのは難しいと指摘する。
そのうえで、今後のコメの価格の見通しとしては(5キロあたり)、「◆2000円から1800円程度の備蓄米、◆売り渡し済みの備蓄米と銘柄米の3000円程度のブレンド米、◆4000円台の銘柄米といった三極化する可能性が大きい。備蓄米の流通によって、4000円台のコメの価格が下がっていくかは未知数だ」との見方をする。
低価格の備蓄米の放出で、コメの価格高騰に歯止めをかけながら、コメ全体の価格の引き下げにつながる対応策を打ち出せるのかが問われているのではないか。
コメ問題と農政改革、参院選の焦点へ
今回のコメ問題は、日本の農業政策をどのように改革していくかという問題と深くつながっている。28日に開かれた衆議院農林水産委員会では、立憲民主党の野田代表、国民民主党の玉木代表、日本維新の会の前原代表がそろって質問に立つという異例の展開になり、小泉農水相と議論を交わした。
この中で、備蓄米をめぐってさまざまな問題が取り上げられたが、問題の中心はコメをはじめとする農政改革だった。
野党3党の代表に共通しているのは、戦後長期にわたって続けてきた減反政策はコメの縮小再生産をもたらしているとして、コメの増産転換し、価格が下がった場合は、農家の所得保障を行うべきだという点だった。
自民党の農政族と農水省は、事実上の減反政策が現実的な対対応策だとして、この政策を維持すべきだとしている。一方、石破首相は増産政策にカジを切るべきだとの立場を取っており、小泉農水相も一定の理解を示している。
このため、石破政権の下で、政府・自民党がどのような農業政策をめざしていくのか。また、今回の米問題を受けて与野党がどのような対応策を打ち出すのか、大きな論点になる可能性がある。
また、夏の参議院選挙では、勝敗のカギを握っているのが全国で32ある1人区の攻防だ。この1人区の多くが農業県だけに、農政改革は選挙の大きな争点になる。参議院選挙に先だって行われる東京都議選でも、コメの価格高騰対策と関連して、農業政策が焦点になる見通しだ。
以上、みてきたように私たち国民もコメの価格の問題だけでなく、コメの生産と価格を安定させるために農業政策をどのように変えていくか、投票にあたっての判断材料に加えていく必要がある。夏の参院選に向けて、コメと農業をめぐる論争にも耳を傾けていきたい。(了)
★追記(5月31日15時)◆政府が随意契約で売り渡す備蓄米について、大手小売業者への引き渡しが29日午前から始まった。◆随意契約で大手小売り業者に引き渡された政府備蓄米は、一部の小売店の店舗で31日から、店頭での販売が始まった。大手スーパー「イトーヨーカ堂」の東京・大田区の店舗では、5キロ税込み2160円で、ひと家族1点の購入制限が設けられたが、500袋は開店から30分で売り切れた。
前農林水産大臣の後を引き継いだ小泉大臣が、備蓄米の放出にあたり、これまでの入札から随意契約を適用して、異常に高騰している
コメの価格を何とか下げようとする政府の政策を受け、その効果の
有無やそれによって発生する問題点等を分かり易く論理的に説明が
展開されており、大変良く理解できました。
旧態然の農業政策に懲りかたまった政治家による備蓄米の放出は、誰が考えてもコメ価格の下落にはつながりえない「入札制度」と
「1年以内に同量の買い戻しが必要」は愚策のなかの愚策でしかあ
りえません!
小泉農水大臣は、ただこの誤った従来農政のしがらみを排除しただ
けで、大騒ぎするほどのことではないと思います。
マスコミの大騒ぎするような取り上げ方に危惧を感じます!
今回のコメ価格高騰の原因はどこにあるのか、そして本来あるべき
米の生産量と適正な販売価格はいくらなのかその本質的な解決策を
見出すべきと考えます。
このままでは、コメ価格は3局化して推移するだろうことは間違いのないところだろうと考えます。
運のよい数パーセントの国民が2160円の備蓄米を手にするだけで終わりそうです。
お米に対する政策を根本から見直すには今しかないと強く強く思います!
文章について
①「備蓄米、低価格で広く行き渡るか」の項
1行目
随意契約に切り替えてたことについて
→切り替えた ( て が余分です)
②同じ項
5行目
消費者の下にほとんど
→消費者の元にほとんど
( 下 ではなく 元では?)
③同じ項
11行目
4.6%
→4.5%では? (30割る670)
④同じ項
下から2行目
さまざまなな問題点
→さまざまな問題点
( な が余分です)
5月30日 妹尾 博史