真冬の超短期決戦となった衆議院選挙は8日投開票が行われ、自民党が単独で、衆議院全体の3分の2を上回る316議席を獲得して圧勝した。これに対し、野党側は中道改革連合が、選挙前の172議席から3分の1以下の49議席へ激減、惨敗した。
自民党政権下では昭和61年・1986年、当時の中曽根首相が衆参ダブル選挙に持ち込んで衆院で300議席を獲得したのが、過去最多の議席数だった。今回はこれを上回ると同時に、1つの政党が単独で衆院の3分の2以上の議席を獲得するのは戦後初めてだ。
一方、野党第1党の立憲民主党と公明党が選挙直前に結党した中道改革連合もここまで激減するとは個人的には想定していなかった。自民党の歴史的な圧勝と、中道の惨敗はどのような事情・背景で起きたのか探ってみたい。
高市首相の戦略と争点設定が奏功
今回の衆院解散・総選挙は、前回衆院選から1年半も経っていないことや、異例の通常国会冒頭解散、新党結成が重なり、各党の選挙情勢は読みにくかった。前号のブログで取り上げたように自民単独で「絶対安定多数の261+α」の可能性との見方をしていたが、単独で300議席を上回るケースまでは想定していなかった。
なぜ、自民党は歴史的圧勝を収める事ができたのか、自民党の長老に聞いてみた。「賛否は別にして、高市首相が電撃的な解散を仕掛けたことと、誰が首相にふさわしいのかという争点づくりに成功したことが大きい。それに中道が、首相の土俵に乗って勝負したことも有利に働いた」と指摘する。
高市首相が、野党の不意を突いて解散に打って出るとともに「高市早苗が内閣総理大臣で良いのかどうか、国民に決めてもらう」として、単純明快な争点設定を打ち出した。
これに対して中道側は、世論の多数が疑念を抱いていた解散の大義や時期などについて、政権の姿勢を徹底的に追及すれば主導権を握る可能性もあったとみていたが、そのまま選挙戦に突入し高市首相ペースの展開になった。
選挙戦に入れば、高市内閣の支持率は高い水準を保っていることから、高市首相は自らを選挙戦の前面に押し出して、自民候補の得票上積みにつなげ、短期決戦を逃げ切った。
その選挙戦で自民党は、ユーチューブやXなどのSNSを使って大量発信しており、SNS時代のメデイア戦略も自民圧勝効果を発揮したものとみられる。このように今回の解散・総選挙は高市首相が牽引する形の展開になったのが大きな特徴だ。
論戦面では、高市首相は「『責任ある積極財政』、危機管理投資で強い経済をつくる」と強調するともに「国論を二分するような大胆な政策を進めるためにも国民の信任が必要だ」と訴えた。但し、消費減税には選挙期間中は全く触れず、保守的な政策についても具体的な言及を避けた。
また、選挙期間中に予定されていたNHKの党首討論番組も持病の関節リウマチの悪化を理由に欠席したことから、党首レベルでほとんど議論らしい議論はなく、政策論争なき選挙戦になってしまった。選挙圧勝後の高市政権の政策をめぐり、果たして国民の理解と支持をどこまで得たと言えるのか疑問符がつく。
中道 新党効果みえず、野党乱立の影響も
今回の総選挙では、中道改革連合がどこまで新党効果を上げることができるかどうかも大きな焦点だった。だが、衆院解散直前の新党結成になったこともあって、新党がめざす政治理念や主要政策などを浸透させることができなかった。
他の野党からは、選挙目当ての新党といった批判を浴びたほか、立憲民主党の支持層からは、安全保障法制や原発政策などをめぐって党の独自性を失ってしまったなどとする意見も聞かれ、勢いに欠ける面もみられた。
NHKの出口調査で比例代表の投票先をみてみると今回、自民党は38%で最も多かったのに対し、中道は16%に止まった。前回・2024年衆院選では自民党は28%だったのに対し、立憲民主党は24%、公明党は8%だった。両党が連携して前回並みの支持を得ていれば自民党を上回るはずだったが、合流効果は見られなかった。
勝敗のカギを握る無党派層の投票先(比例代表)をみても前回衆院選では、自民党は17%、立憲民主党は27%で最も多く、公明党は5%だった。今回は、自民党は28%へ11ポイントも増やしたのに対し、中道は16%で、前回の立民・公明合計の半分に止まった。無党派層の獲得率でも新党効果を上げられなかった。
このほか、全国の選挙区をみると中道をはじめ、国民民主、参政、共産、れいわなど野党各党の候補が乱立したケースもかなりみられた。今の選挙制度の下で、与党の独走を許さないためには、野党の役割と連携のあり方も考えないと万年野党状態が続くことになる。
中道改革連合の野田・斉藤の両共同代表は9日、衆院選大敗の責任を取りたいとして、辞任することになった。後任の代表は18日までに選び、新たな体制で特別国会に臨む方針だが、立民系の幹部や重鎮が軒並み落選したことから再建の道は険しい。
政権基盤強化も、難題多い高市首相
衆院選の歴史的圧勝を受けて高市首相は9日、記者会見し「国民から『政策転換を何としてもやり抜いていけ』と力強く背中を押していただいた」として、政権公約の実現に向けて、党が一丸となって取り組んでいく考えを表明した。
そして、政権公約に掲げた食料品を2年間に限って消費税の対象としないことについて「国民会議」でスケジュールや財源などの課題の検討を進め、少なくとも夏前には中間とりまとめを行いたいとの考えを示した。
また、記者団から「首相が『国論を二分するような政策』に果敢に取り組むとしている政策とは何か」と問われたのに対し、高市首相は「『責任ある積極財政』の経済・財政政策の大転換、安全保障政策の抜本的強化、インテリジェンス機能の強化に向けた国家情報局の設置に挑戦していく」とのべ、こうした3点を重点に取り組む考えを示した。
さらに「国の理想の姿を物語るのは憲法だ。憲法改正に向けた挑戦も進めていく」とのべ、憲法改正に改めて意欲を示した。このように第2次政権では、高市カラーの濃い政策が前面に出てくることが予想される。
このうち、食料品の軽減税率をめぐって、高市首相は選挙期間中は実施の時期や財源について言及しなかったほか、自民党内には財政悪化を招くとして慎重論も根強くある。
高市首相は2026年度中に実現したいと踏み込んだ発言もしたが、国民会議や党内を説得できるのかどうか。困難となれば公約違反だとして、世論の反発を招くおそれもある。
自民党内には、選挙の圧勝で高市首相の政権基盤と求心力は強まるとの見方がある一方、衆院だけでも300人に膨れあがった自民党のとりまとめは、派閥解散もあって容易ではないという見方もある。
来週18日には特別国会が開かれ、第2次高市内閣がスタートする。新年度予算案の審議をはじめ、来月に予定されているトランプ大統領との日米首脳会談、さらには自らの台湾有事発言をきっかけに悪化している日中関係など数多くの難題が待ち受けている。高市首相の党内の掌握力は高まるのかどうか、選挙圧勝後の注目点の一つだ。(了)
