コロナ”桜”戦線拡大 正念場の菅政権

政権発足から2か月半、順調な滑り出しをみせていた菅政権だが、ここに来てコロナ感染が急拡大し、看板政策であるGoToトラベルなどの一部見直しに追い込まれた。また、政府のコロナ対策分科会の専門家からは、より踏み込んだ対応策をとるよう厳しい注文がつけられた。

一方、安倍前首相の後援会が開催した「桜を見る会」の前夜祭について、安倍氏の事務所側が費用の一部を補填していたことが明らかになった。これまで全面的に否定してきた安倍首相の国会答弁を覆す内容だけに、安倍首相を支えてきた菅首相も大きな打撃を受ける形になっている。

現在、開会中の臨時国会乗り切りに加えて、急拡大のコロナ感染への対応、”桜”疑惑の火の粉、さらには第3次補正予算案と新年度予算案の編成作業など菅政権の戦線は、多方面に拡大しつつある。正念場を迎えている菅政権への影響や今後を分析してみたい。

 コロナ感染危機、専門家の厳しい指摘

GoToトラベルをめぐる議論が続いていた11月25日夜、政府のコロナ対策分科会の尾身会長は記者会見で、「GoToトラベルの見直しばかりに注目が集まっているが、最も重要な取り組みが十分、共有されていない」といらだちを見せた。

「一部の地域では、感染拡大が急激に進んでおり、このままでは医療提供体制が厳しい状況に陥る」として、感染が急速に拡大している地域では、◇酒を提供する飲食店の営業時間の短縮。◇人の往来をできるだけ控えること。◇ステージ3の感染急増の地域では、GoToトラベルは停止など強い対策を取るよう政府と自治体に厳しい注文をつけた。

一方、菅首相は同じ25日に開かれた衆参両院の予算委員会で「GoToトラベルの利用者は延べ4000万人が利用し、コロナの陽性率は180人に止まっている。地域のホテルや旅館、食材提供など900万人の雇用を維持している」とのべ、自ら旗振り役を務めているGoToトラベルなど経済活動との両立をめざす基本方針は変えない考えを強調した。

このように政権のトップと、コロナ対策の専門家との間には、感染の現状認識や経済活動との兼ね合いなどの考え方に大きな隔たりがあることが、浮き彫りになった。

 「桜」前夜祭、安倍氏側 補填の衝撃

11月の3連休最後の23日、読売新聞は、安倍首相側主催の「桜を見る会」の前夜祭をめぐり、東京地検特捜部が安倍氏の公設第1秘書らから事情聴取をしていたことを朝刊でスクープした。同じ日の午後、今度はNHKが、安倍前首相側が前夜祭の費用のうち800万円以上を負担していたことを示す、ホテル側作成の領収書があることを特ダネで報じて切り返した。その後、報道各社が、安倍事務所側が領収書を廃棄したことなどの続報を続けている。

公職選挙法や政治資金規正法違反にあたるような事件だが、法律に詳しい専門家によると、後援会員という特定の人を対象にした場合、公職選挙法の適用は難しい。政治資金規正法も秘書の責任を立証できるか、難しいのではないかとの見方が示されている。検察当局がどこまで切り込めるか注視していきたい。

一方、この問題は、国会で野党側が1年にわたって追及を続けてきた。これに対し、安倍首相は「懇親会の全ての費用は、参加者の自己負担で支払われており、安倍事務所や後援会の収支は一切ない。領収書や明細書についてもホテル側からの発行はなかった」と全面的に否定してきた。今回の報道内容は、こうした答弁を覆す内容だけに衝撃は大きい。

野党側はさっそく25日の衆参両院の予算委員会で「安倍氏は国会に出てきて説明をすべきだ。菅首相も安倍氏に説明を求めるべきだ」と迫った。これに対し、菅首相は「安倍前首相自身が国会でいろいろ答弁してきたのは事実だ。国会の件は、国会で決めていただきたい」と防戦に追われた。

    菅政権 戦線拡大、カギはコロナ対応

秋の臨時国会も終盤に差し掛かっているが、政府は急拡大しているコロナ感染対策をはじめ、「桜を見る会」前夜祭の経費補填問題が再燃、さらに第3次補正予算案や新年度の税制や予算編成の準備に追われ、政権運営の戦線が多方面に広がっている。

中でも直ちに問われているのが、コロナ対策への対応だ。先に触れた政府の分科会が、3週間の集中期間にさらに強い対策を求める提言を出したことで、政府としても具体策のとりまとめに追われている。

ところが、コロナ感染対策をめぐって、先に見たように菅首相と、分科会の尾身会長ら専門家との現状認識、GoToトラベルをはじめとする政策の評価をめぐっても大きな隔たりがある。

また、感染状況のレベルの判定や、営業時間の短縮、協力金の支給水準などについて、政府と都道府県との意見調整の仕組みづくりは進んでいなかった。

こうした背景には、菅政権はGoToトラベルへ東京を追加するなど経済活動再開への取り組みは積極的だったが、感染抑止については、対策の具体化が進まなかった事情がある。

菅首相は26日夜、記者団に対し、分科会の答申を受けて「東京、名古屋市などでも飲食店の時間短縮を行うことになった。協力した店舗に対し、しっかり支援していきたい」とのべたが、新たな対応策への言及はなかった。

急増している重症者用の病床を確保し、感染拡大に歯止めをかけることができるかどうか政府の対応が問われている。

  菅政権に打撃、解散・政局にも影響

コロナ対策と、”桜”前夜祭の問題は、菅政権の国会・政権運営に打撃を与えることになりそうだ。

今の臨時国会は12月5日が会期末、会期延長なしで閉会、時間切れで野党の追及をかわすことになりそうだ。問題は、新年の通常国会。召集時期は上旬になるのか、中旬になるのかどうか決まっていないが、第3次補正予算案を冒頭で処理する必要がある。

その補正予算案は、20兆円程度の大規模な補正が取り沙汰されており、審議もかなりの時間がかかるとみられている。加えて、”桜”問題も重なり、荒れ模様の展開になることも予想される。

また、コロナ感染が収まっているのかどうか、不確定要素が極めて大きい。さらに菅首相は、デジタル庁の新設など改革の実績を上げたうえで、解散に踏み切る慎重な考えとみられている。このため、自民党内で期待の強い「年明け通常国会冒頭の解散」の確率は極めて低いとみられる。

一方、”桜”問題をめぐっては、野党側は衆院選も意識して、安倍前首相の参考人招致や証人喚問を強く要求することが予想される。通常国会では予算案の審議日程と絡めて、実現を強く迫る見通しだ。政治とカネの問題をめぐっては、中曽根元首相、竹下元首相、細川元首相の証人喚問も行われた。安倍前首相はどうなるか、大きな焦点になりそうだ。

安倍前首相については、自民党内で3度目の首相登板に期待する意見が出されていた。それだけに来年秋の総裁選にどのような影響が出てくるか。岸田前政務調査会長は、安倍前首相の支援を期待しているが、安倍首相の影響力が低下するような場合は、戦略の見直しに迫られる。

菅首相にとっては、官房長官時代の責任を追及され、内閣支持率の低下などにつながるかどうか。一方、安倍氏や岸田氏の影響力が低下すれば、菅氏が総裁選に向けて相対的に優位になるとの見方もある。

このようにコロナと”桜”の問題は、自民党の総裁選や解散・総選挙に様々な影響を及ぼすことになりそうだ。

 

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