通常国会の閉会に伴って、9月に行われる自民党総裁選をにらんだ動きが始まった。先月23日には、菅前総理が事実上の岸田首相の退陣を求める発言が党内に波紋を広げている。
一方、岸田首相が続投に意欲をにじませていることもあって、ポスト岸田の候補とみられる幹部は、いずれも自らの立候補に言及することを避けている。しばらくは、各候補とも水面下で準備体制を整えていくものとみられる。
総裁選の注目点は、1つは岸田首相の進退で、続投をめざすのか、退陣もありうるのか。2つ目は、候補者として「石破、河野、高市、茂木の各氏にプラスα」(党関係者)との見方もあるが、最終的にどんな顔ぶれになるのかだ。
3つ目に派閥解散の下での総裁選びのプロセスがどうなるか。キングメーカーとして麻生、菅両氏が力を発揮するのか。それとも党員、議員の自主的な判断が強まったり、中堅議員グループから新たな候補者が出たりするのかが注目される。
候補者が態度を表明するまでには、時間がかかりそうだ。総裁選の選挙管理委員会が設置され、選挙日程の協議が始まる8月に入ってからになるとみられる。
そこで、今回は兼ねてから気になっていた点、具体的には、岸田政権の支持率や、自民党の政党支持率がそろって大幅に下落している現象をどのようにみたらいいのか、掘り下げて考えてみたい。
内閣・自民党も支持者激減の地殻変動
さっそく、国民が岸田政権や今の自民党をどのようにみているのか、6月のNHK世論調査(7~9日実施)のデータを基にみてみたい。
◆岸田内閣の支持率は21%まで下がり、不支持は60%にまで増えた。岸田内閣が発足した2021年10月以降で最も低く、自民党が政権復帰した2012年以降でも最低の水準だ。
◆自民党の支持率も25.5%まで下落した。内閣支持率が下落しても、これまでは自民党支持率は比較的高い水準を維持してきたが、岸田政権では、内閣支持率、自民党支持率がそろって下落が続く異例の状態が続いている。
自民党の支持率が30%ラインを割り込んだのは、自民党政権下では麻生政権以来だ。2009年8月に衆院解散・総選挙に踏み切る直前の支持率は26.6%だった。今回は、この時の水準も下回っている。
当時の野党第1党・民主党には勢いがあり、支持率も20%台後半まで伸ばしていたので、今とは大きな違いがある。直ちに政権交代が起きる状況にあるわけではないが、危機的状況にあることは間違いない。
この原因としては、岸田政権と自民党の裏金問題への対応について、国民の多くが強い不満や不信を抱いていることが影響しているものとみられる。裏金問題をきっかけに「世論の政権離れ、自民党離れ」が急速に進んでいるわけだ。
この「支持離れ」は、岸田内閣の発足時の2021年10月と、今年6月とを比較するとわかりやすい。◆内閣支持率は49%から21%へ実に半分以下に急落。自民支持層だけに限っても岸田内閣の支持割合は7割から5割に下がっている。
◆自民党支持率も41.2%から25.5%へ16ポイント、割合にして4割も減少している。このように内閣、自民党ともに支持者離れが劇的に起きているので、「地殻変動」と表現しても言い過ぎではないだろう。
総裁選による復活論は通用するか?
それでは、岸田首相や自民党執行部は、こうした支持者離れの地殻変動をどのように受け止め、対応しようとしているのか。
岸田首相は6月21日の記者会見で「政治資金パーテイー券購入者の公開基準の引き下げなど政治資金規正法改正が実現できた」と成果を強調するとともに「国民の最大の関心事項は、経済・物価・賃金にある」として、物価や経済対策に全力を上げる考えを表明した。
自民党の閣僚経験者に聞いてみると「党の基本戦略は、秋の総裁選を華々しく展開し、人材が豊富にいることと政策立案能力を示すこと。そのうえで新総裁の下、時間を置かずに衆院解散・総選挙に打って出て勝利することに尽きる」と語る。別の幹部からも同様の考えを聞く。
岸田首相や自民党幹部は「支持率減少は、政治資金問題による一時的な現象で、総裁選を盛り上げていけば、国民の支持と、以前のような強い自民党への復活は可能だ」という認識に立っているように見える。
確かに従来はそのような対応で状況を打開できたが、今回も同じようにいくとは限らない。というのは、岸田政権に対する世論の批判は「裏金問題への対応ができていない」として、未だに強い怒りや不信を抱いているからだ。
その後の新聞各社の世論調査の結果をみれば一目瞭然だ。成立した改正政治資金規正法について「効果がない」が77%(朝日、15・16日調査)、「評価しない」56%(読売21~23日調査)。
一連の政治資金問題については、岸田首相は「指導力を発揮していない」78%(読売調査)となっており、国民の厳しい評価は以前と変わっていない。
このように裏金問題の評価をめぐっては国民と、岸田首相や自民党執行部との間に「大きな認識のズレ」があることが読み取れる。こうした国民の認識、政権に対する不信感などに真正面から向き合い、対応策を打ち出していかない限り、支持率の回復は極めて困難だろう。
総裁選、衆院選ワンセットの政治決戦
ここまで岸田政権と自民党の支持者離れ現象をみてきたが、「総裁選で新しい総裁が選出されれば、事態は変わるのではないか」といった指摘が予想されるので、この点についても触れておきたい。
確かに、その可能性はないとはいえない。但し、今回の支持率減少は、一過性の現象とはみえないので、新総裁誕生で直ちに事態改善へとは進まないのではないかというのが私の見方だ。
というのは、支持者離れは一時的ではないからだ。NHK世論調査で見ると岸田内閣の支持率を不支持率が上回る「逆転現象」は去年7月以降、12か月続いている。自民党の支持率も30%ラインを割り込むのは今年3月以降、4か月連続になる。
また、安倍政権当時も内閣支持率が低下したこともあったが、2,3か月程度で早期に回復し、復元力の強い政権だった。その後の菅政権、岸田政権ともに支持率低迷が続き、回復力の弱い政権と言えそうだ。
さらに、先に触れたように支持率減少の原因に踏み込んだ対応策を打ち出していないので、状況は改善されないままだ。このため、総裁選で仮に「政権・政党の表紙」を変えたとしても、支持率回復に結びつかない公算が大きいという見方をしている。
さて、今度の自民党総裁選は、新総裁が選ばれると時間を置かずに衆院解散・総選挙が行われる可能性が大きい。総裁選と衆院選とが、事実上、ワンセットの政治決戦ということになる。
そうすると衆院選で勝てなかった場合は、その責任を問われ短命政権として終わる可能性もある。こうした事態を避けるためにも「支持基盤の地殻変動」に真正面から向き合い的確に対応できるかどうかが大きなカギを握っている。
具体的には、国民が選挙の争点の1つに想定するとみられる「政治とカネの問題」に対応策を打ち出せたか。そのうえで、何を最重点課題として打ち出していくのか、さらには新総裁の能力や力量などが問われることになる。
一方、国民としては、同じ9月に行われる野党第1党・立憲民主党の代表選挙も注目していく必要がある。世論調査では、次の選挙後の政権として、自公政権の継続と、野党中心の政権交代を望む意見とが接近しつつある。
政治に緊張感を持たせ、よりよい政策を打ち出していくためにも、しっかりした野党が必要だ。内外ともに激しい動きが予想される中で、与野党が競い合う政治の実現をめざしてもらいたい。私たち国民も、どちらの主張を支持するか、的確な評価と判断を次の選挙で示していきたい。(了)
誰が次の自民党総裁になるか、あるいはふさわしいかと
言う議論の前に、今の自民党のなかに「政治とカネ」の
問題に、今回の政治資金規正法の改正では全くもって
意味をなさないという見解の人材がただの一人として
いないということが大問題であります。
岸田首相にいたっては、素晴らしい改正案が成立した
という評価であり、国民との意識の差が著しい限りと
なっています。
自民党のベテラン、若手を含め誰一人として、この改正案
では不十分だという人材がいないことが自民党政権の
末期的状態にあると言えます。
野党の立憲民主党も、政権を担うにふさわしい政策の
提示ができてなく、だらしない限りです!
国民があきらめることなく、岸田政権や自民党支配に
限りなく「ノー」を突き付けていることが唯一の
救いといえましょう。
都の知事選では自民党への「ノー」の投票の意思表示を
あらわすことは難しいですが、せめて都議補選では、
はっきりと自民党に「ノー」の意思表示を実らせたい
ものです。
7月3日 妹尾 博史