先の東京都知事選挙で、政党からの支援を受けなかった無所属・新人の石丸伸二氏が165万票余りを獲得し、蓮舫・前参議院議員の128万票余りを抑えて2番手に食い込んだことが与野党に衝撃を与えた。
一方、全国規模の世論調査でも、支持する特定の政党がない「無党派」がこの10年余りで最も多い割合を占めるようになった。無党派層は90年代後半に大幅に増えたが、なぜ今、再び無党派が増えて国民の主流を占めるようになったのか、さまざまな面から分析してみたい。
首都決戦、投票者の半数が無党派層
今月7日に投開票が行われた東京都知事選と、9つの都議補選の結果の分析については前号で取り上げたので詳しくは繰り返さないが、首都決戦の大きな特徴の1つが、実際に投票した有権者の半数近くを無党派層が占めたことだ。
NHKが投票者を対象に行った出口調査によると投票者のふだんの支持政党は、◇自民支持層が25%、◇立憲民主支持層が10%、◇共産支持層が4%、◇公明支持層が2%などと続いた。最も多かったのは、◇支持政党がない無党派層で、48%だった。
無党派の規模は、自民支持層の倍、立憲民主支持層の5倍に達し、多くの無党派層が投票所に足を運んだことが浮き彫りになった。
また、NHK出口調査のうち、「期日前投票を済ませた有権者」を対象にした調査結果が興味深い。選挙期間中の9日間を選んで、2万人余りを対象に行った調査だ。
調査初日の6月22日の時点で、トップは小池知事で大きくリードしており、2番手を石丸氏と蓮舫氏が横並びで争っていた。その後も、小池知事は得票率は下降傾向を示したものの、一貫してトップの座を維持した。2位争いは接戦が続いたが、最終盤で石丸氏が支持を伸ばして、蓮舫氏を上回った。
当初、メデイアの多くは「小池知事と蓮舫氏の与野党対決、これを石丸氏が追う構図」とみていた。私も同じような見方をしていた。ところが、出口調査によると当初から「小池知事が大きくリードし、次いで蓮舫氏と石丸氏が横並びで追う展開」が実態に近かったということになる。
小池知事については、選挙前に子ども1人あたり月5000円の支給を始めるなど現職の立場を活かした取り組みを進めていたことから、選挙戦で優位に立つだろうと予想していた。他方で、学歴詐称問題が再び問題視され、3期目で勢いに陰りも指摘されたことから、小池知事の選挙情勢を慎重に見極めるのは、取材者として当然の対応だと考えていた。
選挙結果は、小池知事が291万票を獲得して大勝、次点が石丸氏で165万票、蓮舫氏が128万票で3位に沈んだ。小池知事は、自民・公明支持層をはじめ、都民ファースト、無党派、維新、国民民主など幅広い層の支持を集めた。
最も多い無党派層の投票状況は、石丸氏が30%余りで最も多く、次いで小池知事の30%余り、蓮舫氏は20%に止まった。石丸氏と、蓮舫氏の勢いは、この「無党派層の獲得率」の差が大きく影響した。
石丸氏は、無党派層が多い若い世代に焦点を絞り、強い政治メッセージを発しながらSNSやYouTubeを駆使して、支持を拡大していく戦略が功を奏した。
蓮舫氏は60代、70代以上では一定の支持を得たが、、若い世代や、特に女性有権者で支持が広がらなかったことが響いた。
蓮舫氏をめぐっては、選挙後も議論が続いているので、少し触れておきたい。敗因について「立憲民主党と共産党の支援が前面に出すぎて無党派層の支持が離れた」との見方が、今回も提起されている。
一方、「若い世代の知名度、親近度が弱いのが影響した」との見方があるほか、「現職の知事に対して、説得力のある争点設定ができなかった」との指摘を聞く。選挙の敗因については、複数の要因が重なるケースも多く、掘り下げた分析が必要だ。
いずれにしても、今回の首都決戦では、無党派層の存在感と影響力が目立った。一方で、政権与党の自民党は裏金問題の逆風が大きく響き、候補者すら擁立できなかった。
野党第1党の立憲民主党も、自民党に代わる政権の受け皿としては、有権者の評価を得るまでに至らなかった。こうした既成政党に対する有権者の根深い不信が強く現れた選挙だったと言えそうだ。
無党派急増・第1党、秋の政局を左右
7月の政治の動きの中で、もう1つの大きな特徴として、全国規模の世論調査で、支持政党なしの無党派層が急増していることが挙げられる。具体的には、NHKの7月世論調査(5~7日)のデータで、無党派層は47.2%まで上昇した。
無党派層の割合は、岸田内閣が発足した2021年10月の時点で36.1%、その後も30%台前半で推移していた。今回の水準は、内閣発足から2年10か月で11ポイントも急増した。自民党が2012年に政権復帰して以降を調べても、最も大きな規模に膨れあがった。
自民党支持率を無党派が上回り、”第1党”に代わるようになったのは、去年5月だ。当時、自民党支持率は36.5%、無党派は38.9%でわずかに上回った。この時を境に1年3か月連続で第1党は無党派、特に去年12月以降は、その差が大きく拡大している。
こうした原因、背景は何があるのか。政権が混乱したり、短命政権が続いたりした時期に、無党派層が増加した。古くは1990年、海部内閣当時「支持なし層」は14%に過ぎなかった。その後、自民党の1党優位体制が崩れ、連立政権が次々に入れ替わるのに伴って90年代半ばに30%台、90年末には52%まで増加した。
世論調査の方法も異なっているので、単純には比較できないが、政権与党の支持率低下に伴って、無党派層が急増し第1党を占めて有権者全体の主流を占めるようになった。
岸田政権に話を戻すと、7月の内閣支持率は25%で、9か月連続で20%台で低迷している。自民党の政党支持率も28.4%、5か月連続で30%割れの状態が続いている。裏金問題の影響が大きく、政権離れ、自民離れがともに進んでいる。
問題はこれからどのように推移し、政権や政局にどう影響するかだ。岸田首相は、秋の自民党総裁選挙での再選をめざして立候補をめざしているが、内閣支持率、自民党支持率ともに低迷が続くようだと、前途は厳しいのではないか。
ポスト岸田をめぐっては多くの候補の名前が取り沙汰されているが、まだ正式に名乗りを上げる候補は出ていない。来月には総裁選の日程も決まり、最終的な候補の顔ぶれが一気に決まる見通しだ。
一方、野党第1党・立憲民主党も9月代表選に向けて、党内の動きが始まりつつある。今月のNHKの世論調査では党の支持率が6月の9.5%から、5.2%へ4.3ポイントも急落した。都知事選の対応が影響したのではないかとみられるが、次の衆院選に向けた党の体制づくりが、代表選の大きな争点になりそうだ。
自民党内では、9月の総裁選で新たな総裁が決まれば、年内に衆院解散・総選挙が行われる可能性が大きいとの見方が広がっている。来年夏には、東京都議選、参院選挙も行われる。
自民、立民のトップ選びを経て、次の衆院選挙の争点はどんな課題が浮かび上がることになるのか。あるいは、新たな政権が求心力を回復することになるのかどうかも焦点になる。
こうした政権、与野党の対応によって、無党派層が次第に縮小に向かうのか、逆に高止まりするのかが決まってくる。いずれにしても、有権者の主流を占める無党派層がどのような判断・対応を取ることになるのか、秋以降の政治の流れを左右することになる。(了)
これからの政治を左右するのはいわゆる「無党派層」で
あるということを、都知事選の投票結果や内閣支持率や
各政党の支持率のデータを基に、分かり易く論理的に解説
されており、大変よく理解できました。
さて、このような事態は今後の日本政治にとって良いこと
なのか憂うべきことなのかどちらなんでしょうか?
議会民主政治の理想とされる2大政党の実現はもはや
望めないのでしょうか。
あるいはもう2大政党は望むような時代ではなくなったと
いうことなのでしょうか。
個人的な感想でいえば、どうしても無党派=無思想につな
がる感じがぬぐえなく、ある意味この風潮を危惧するところ
があります。
さらには、無党派層が主導権を握ってしまうと、どうしても
その時代時代の風潮にながされる結果となり、まともな政治
が期待できないようになると思います。
あは!今も、まともな政治はなされていないか!
今後の動向を注視していきたいと思います。(政府や政治家の
「無責任」な姿勢と同じになってしまいました。)
文章について
①最後から13~14行目
9.5%→5.2%、 4.7ポイントも急落
(算式が合いません! どの数字が間違っているのですか)
②最後から9行目
見方広がっている。
→見方が広がっている。( が が抜けています)
7月19日 妹尾 博史