“一山越えても続く難関”石破政権

新年度予算の修正案は衆議院本会議で、少数与党の自民・公明両党と日本維新の会の賛成多数で可決され、参議院へ送られた。政府の当初予算案が修正されるのは、橋本内閣以来29年ぶりだ。

予算案の衆院通過で予算案の成立が確実になり、石破政権にとっては通常国会の最初の難関を越えたことになる。但し、与党側がめざした野党側との協力関係は思うようには進まなかった。

”一山越えても二山、三山”とこの通常国会では多くの関門が待ち構えている。これまでの対応を点検したうえで、これからの関門や石破政権のゆくえを探ってみたい。

 予算修正は維新が協力、薄氷の合意

去年の衆院選で30年ぶりの少数与党の立場になった石破首相は1月24日、通常国会の施政方針演説で「党派を超えた合意形成を図る」として、国民民主党や日本維新の会を念頭に野党の協力を取りつけ、新年度予算案の早期成立をめざす考えを表明した。

これを受けて自民・公明の与党側は、国民民主とは「年収103万円の壁」の見直しを進める一方、維新とは「高校授業料の無償化」に向けて政策協議を重ねてきた。しかし、国民民主とは合意に至らず、最終的には維新との間で予算案の修正で合意するとともに予算案の可決にこぎ着けた。

国民民主との間では去年の11月から3か月も政策協議を続けながら、なぜ、合意できなかったのか。一方、維新との間では今後も安定した協力関係が見込めるかどうかがポイントになる。

まず、国民民主との「年収103万円の壁」の見直しが不調に終わったのは、財源の問題と夏の参院選戦略との関係が影響したのではないかとみている。

国民民主党は、所得税の課税最低限を178万円まで引き上げるよう求めたのに対し、与党は側は123万円への引き上げを決めたが、国民民主は納得しなかった。このため、自民党は年収500万円以下まで非課税枠を拡大する案を提案したが、一蹴された。

事態打開のため、公明党が主導する形で、非課税枠を上乗せする年収の範囲を850万円まで拡大するとともに課税最低限を160万円まで引き上げる新たな案を提案した。これに対し国民民主は受け入れず、予算修正協議は最終的に物別れに終わった。

国民民主からすると年収の上限の160万円までの引き上げは一定の評価ができる一方、上乗せする対象となる年収850万円までの範囲に4段階の差をつけているのは不公平だとして、受け入れなかった。

協議が不調に終わった原因だが、当初の与党案の財源はおよそ6000億円だったが、公明案ではさらに6000億円積み増し、計1兆2000億円まで増やした。それ以上の上積みとなると国債の新規発行が必要になるとして、国民民主の要求を受け入れなかった。

一方、国民民主としては夏の参院選を控えて、年収の差を設けると不公平だとして、有権者の支持を失うおそれがあるため、与党案を受け入れない判断をしたものとみられる。

一方、維新は党の執行部の交代もあり、国民民主より後から、与党との協議を始めたが、前原共同代表が同じ防衛関係議員で旧知の石破首相に協力を求めた。また、前原氏の要請で前執行部の遠藤敬・前国対委員長が与党側との調整に当たったことから、協議が急ピッチで進んだとされる。

維新内部では、高校授業料の無償化の進め方などをめぐって異論が出され、党内の合意が危ぶまれる場面もみられたが、高校授業料の無償化のための具体策と、政府予算案の修正に賛成することで党内合意をとりつけた。

与党の執行部としては、国民民主と維新とを両天秤にかけながら両党との協力取りつけをめざしたが、最終的には維新1党だけの協力に止まった。その維新は党内の足並みがそろっているわけではないので、薄氷の合意とも言えそうだ。

このほか、今回は与野党双方から「熟議の国会」を強調する声が高まり、予算案の修正をめぐって政策協議の過程が透明化されたのは一歩前進だろう。

一方で、政策協議というものの、予算修正の額高をめぐる駆け引きが延々と続き、社会保障の将来の姿や負担のあり方、教育の向上策など掘り下げた議論はほとんど見られなかった。

また、トランプ政権の再登場で国際情勢や、関税などの経済情勢が大きく揺らいでいる中で、日本の外交・安全保障、経済政策などをめぐる突っ込んだ議論がなされなかったのは極めて残念だ。「熟議の国会」を標榜するのであれば、問題の核心にまで踏み込んだ議論を展開してもらいたい。

企業献金など続く難関、最後は参院選か

さて、今後の国会はどのような展開になるだろうか。当面の焦点は、企業団体献金の扱いについて、与野党は3月末までに結論を出すことになっており、近く衆議院の特別委員会で、法案の審議が始まる見通しだ。

企業団体献金をめぐっては、自民党は「献金の禁止よりも公開が重要だ」として企業献金の透明性を高める法案を提出している。これに対して、立憲民主党など野党側は、自民党案は透明性が極めて低いと批判するとともに、企業団体献金の禁止を求める法案を提出している。

そして野党側のうち、維新は企業献金の禁止を強く求めていく方針なのに対し、国民民主は全面禁止に慎重な立場だ。自民党は国民民主の協力に期待を寄せているが、予算修正の時と比べると維新と国民民主の立ち位置が逆になっている。

一方、野党第1党の立憲民主党は、自民党旧安倍派の会計責任者の参考人聴取を受けて、旧安倍派幹部の塩谷、下村、西村、世耕4氏の参考人招致を求めている。会計責任者は、安倍派の資金還流は「元幹部議員からの要請があり、幹部議員の会合で再開が決まった」と説明、幹部議員の政倫審での発言と食い違っている。

与党の公明党は、企業・団体献金の扱いをめぐっては自民党と距離を置いているほか、旧安倍派議員の参考人招致にも前向きな姿勢を示している。参議院選挙を控えて「政治とカネの問題」をめぐって、与野党の対応が再び焦点になる。

次に選択的夫婦別姓制度については、4月から衆議院法務委員会で議論が始まる見通しだ。自民党内では、保守系議員から「旧姓の通称使用の拡大を実現すれば問題点を解決できる」として選択的夫婦別姓に反対しており、党内の意見集約がどこまで進むか不透明な状況だ。

選択的夫婦別姓問題を扱う衆院法務委員会の委員長は、立憲民主党が握っているため、野党ペースで議論が進むことも予想される。会期末が近づくにつれ、この問題は、内閣不信任決議案とも絡んで与野党攻防の争点になりそうだ。

以上、見てきたように新年度予算案の衆院通過で、石破政権にとっては一山越えたのは事実だが、「政治とカネの問題」、選択的夫婦別姓と内閣不信任決議案をめぐる会期末の攻防という難関が待ち受けている。

少数与党の石破政権は、政治課題によって協力相手の野党を変えながら通常国会を乗り越え、夏の参院決戦に臨む方針だ。

これに対して、野党側は与党との個別戦で成果を引き出す対応を取ってきたが、野党が連携して自民党と対峙する場面を作ることができるかどうか、後半国会の見所の一つになりそうだ。(了)

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““一山越えても続く難関”石破政権” への1件の返信

  1. 少数与党となった石破政権が、来年度予算の成立のために如何に
    紆余曲折な過程を経て、たどり着いたかを分かり易く解説されて
    おり、大変良く理解できました。
    何としても年度内に予算成立を実現したい与党の自民党および
    何とかその存在意義を見出したい公明党が、各野党と行ってきた
    協議の過程および各党の思惑等についても考察が展開されており
    過去にあまり例のない予算成立に向けて国会議論が行われたこと
    が良くわかります。
    とはいえ、予算成立案件は一国内の課題に過ぎず、世界情勢は
    目まぐるしく流動しており、日本政府が真剣に取り組むべき
    課題は放置されたままであり、まさに貴殿が指摘している下記
    主張のとおりだと思います。
    「トランプ政権の再登場で国際情勢や、関税などの経済情勢が
    大きく揺らいでいる中で、日本の外交・安全保障、経済政策など
    をめぐる突っ込んだ議論がなされなかったのは極めて残念だ。
    『熟議の国会』を標榜するのであれば、問題の核心にまで踏み
    込んだ議論を展開してもらいたい。」
    さらに高校の授業料無償化については、公立高校の地盤沈下
    および私立高校の授業料の天井知らずの高額化の懸念がぬぐ
    得ません。このあたりの扱いはどうなるのか国民への説明が
    されていないように思います。

    文章について
    「予算修正は維新が協力、薄氷の合意」の項
    下から8行目
     予算修正の金額額をめぐる駆け引きが
     →予算修正の額高をめぐる駆け引きが
     (金額額 という表現があるのか、ただ重複したのか不明)
     3月7日  妹尾 博史

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