令和元年も後わずかになったが、国会は首相主催の「桜を見る会」問題一色だ。厳しい財政難にもかかわらず、招待客や予算は膨張し、参加者も政治家の後援会員が多数招かれたりしていたことなどが次々に報じられている。
世論の批判を気にしてか、首相官邸は早々と来年の開催取り止めを発表したが、どこに問題があり、どのように改めていくのか明確ではない。
政権与党側は会期末とともに幕引きをはかり、野党は引き続き追及と叫ぶだけで終わってしまうのではないか。
長年、国会取材を続けてきた1人として言わせてもらうと今回の問題の核心は、証拠=公文書の管理と、ケジメ=官僚、政治家の規律が根本の問題ではないか。同じことを繰り返さないためには、地味だが、こうした取り組みが欠かせないと考える。
次々に問題、疑惑、事実は不明・説明不足
今回の「桜を見る会」は、先月8日に参議院予算委員会で取り上げられたのが、直接のきっかけで1か月以上経った今も、新聞、テレビで報道が続いている。
昭和27年からの政府行事だが、様々な問題、疑惑が吹き出し、話が具体的でわかりやすいことが、世論の関心を集めているのだと思う。
具体的な問題として、安倍政権の下で招待客が年々増え、開催経費も2014年の3000万円から、19年には5500万円にも膨らんでいる。招待者1万5000人のうち、安倍首相の招待枠は昭恵夫人分をふくめ1000人、自民党関係者枠は6000人にも上っている。本来の「功労者」、各省庁の推薦枠は6000人程度で、全体の半数にも達っしていなかったことなどが明らかになった。
また、野党側は、首相の後援会が前夜祭を都心の有名ホテルで開催し「桜を見る会」とセットで勧誘していたのではないか。前夜祭の会費が1人当たり5000円は安すぎ、公私混同、公職選挙違反の疑いもあると追及してきた。
これに対して、安倍首相は、安倍事務所が後援会員に会費の補填をしたことなどはないとした上で、当初はこの問題に関与していないと述べながら、後に自らの意見を述べたことはある旨の答弁に修正したりしている。
一方、菅官房長官は、桜を見る会については来年の開催を取り止めることを早々に発表したが、どこに問題があり、どのように見直していくのか説明は十分でない。
但し、この問題、政府・与党側はこれまで以上の説明をする考えはなく、今月9日の会期末で、事実上の幕引きを図る方針だ。これに対して、野党側は、引き続き閉会中審査や、来年の通常国会で追及する構えだ。
こうした与野党の攻防だけでいいのか、与野党と別の視点、取り組みも必要ではないかと個人的には考える。
ずさんな文書管理、”証拠保全”が大事
今回の問題、与野党の議論がかみ合わない原因は「事実関係」がきちんと把握されていない点にある。そもそも今回の問題については、首相や自民党の推薦枠を管理する内閣府は、招待された人たちの名簿は、保存期間が1年未満で廃棄処分にしたので、詳細はわからないと釈明している。
一方で、各省庁側は、招待者名簿を保存してあり、プライバシーの観点から黒塗りにされながらも国会の資料要求に応じて提出されている。
また、国会図書館などには、昭和30年代の「桜を見る会」の詳細な開催資料なども保存されている。
平たく言えば、招待者名簿という「証拠資料」が内閣府分だけが、廃棄処分にされており、なぜ、このような判断をしたのかをはっきりさせることがポイントだ。
繰り返される”愚行”、公文書のずさん管理
こうした公文書のずさん管理、つい最近2018年にも大きな問題になったばかりだ。自衛隊の日報問題、森友学園、加計学園の問題。森友問題では、国有地が安値で売却されていた経緯を記した文書は当初はないとされ、その後、存在が明らかになり、さらに決済文書が改ざんされていたことも判明した。
国会は、与野党ともにウソの資料に基づいて延々、議論をしてきたわけで、こうしたことがきっかけで、公文書管理のガイドラインも見直され、是正されたと個人的には理解していた。それだけに、繰り返される”愚行”に唖然とさせられた。
こうした廃棄処分の対応、首相、官房長官は「公文書の管理・保全」に万全を尽くすよう改めて指示すべきだ。一方、国会は与野党双方ともに党派を超えて、政府に対して是正を強く要求すべきだ。
公文書管理の実態は?
こうした公文書の管理の問題・あり方は、今回の問題だけに止まらない。公文書に詳しい関係者に話を聞くと、特に最近の首相官邸で開催される会議については、議事録が公開されず、出席者もはっきりしないなどの問題が多いという。
政府の会議については、重要な政策決定のプロセスであり、どのような議論がなされたのか議事録などを通じて公開するのは当然だ。特に政府・与党の責任者は国民に対する説明責任と具体的な対応を果たしてもらいたい。
事実解明型の国会審議に改善を!
最後に国会審議のあり方についても触れておきたい。これまで、政治とカネの問題をはじめ、様々な不祥事・スキャンダルが国会で取り上げられてきたが、実態はどうだったのか、最後まで曖昧なまま幕引きとなるケースが多かった。
この理由として、日本の国会は「事実解明型の審議」になっていないことが大きな要因ではないか。つまり、欧米のように事実関係について、各省庁、国会事務局なども動員して調べ上げ、そのデータを基に追及する事実解明型になっていない。
日本の国会審議では、多くは各委員会で各党の委員が個別に質問に立ち、疑問点を質し、追及ぶりを世論に訴える「アピール型の審議」が主流だと言わざるをえない。これを「事実解明型の審議・追及」に変えていく時期ではないかと考える。
そのためにも、まずは、国会審議の材料にもなる「公文書の管理と保全」を徹底すべきだ。その上で、国政調査権に基づく強制力のある調査も検討すべきだ。
一方、首相、閣僚は高い見識に基づく指導力の発揮。官僚は公正な行政の執行・運用をめざし、後世の評価・検証に絶えられる国政の運営を期待したい。国会、行政のトップ、官僚が相互にチェック機能を発揮しながら、公正な政治・行政に少しでも近づけてもらいたい。また、国民の側も関心を持って、きちんと評価・判断していく地道な取り組みが重要だ。