「2月は逃げる」と言われるように、今月の政治をめぐる動きは驚くほど早い。五輪組織委員会の森会長辞任と後任選びは混乱の末、橋本聖子氏に決まった。総務省幹部が菅首相の長男から接待を受けていた疑惑は、国会で与野党の攻防が続いている。
菅政権は発足からちょうど5か月が経った。これからの政治はどう動くのか。結論から先に言えば、カギは”ワクチン、不祥事、首相の力量”の3つになるのではないか。なぜ、こうした結論になるのか、さっそく見ていきたい。
ワクチン成否 菅政権の命運を左右
新型コロナウイルスのワクチン接種が17日から国内で初めて、医療従事者およそ4万人を対象に先行して始まった。ワクチン接種に国民の期待は大きい。菅首相も「感染拡大防止の決め手で、何としても収束に向かわせたい」と決意を表明した。
ワクチン接種が成功するか、失敗するかは、政権のゆくえにも大きな影響を及ぼす。菅内閣の支持率が急落したのも「政府のコロナ対応」を評価しない意見が大幅に増えたからだ。
逆に言えば、感染防止に成功すれば、菅政権は意気を吹き返す可能性はある。はっきり言えば「コロナ次第。押さえ込めば菅再選もあるし、失敗すればお終いだ」(自民党長老)。ワクチン接種の成否は、菅政権の命運を左右するカギだ。
そのワクチン接種、2つの難問を抱えている。1つは、ワクチン確保の量と時期のメドが未だについていないこと。ファイザー社からの輸入にはEUの規制がかかっており、順調に契約量が入ってくるか不透明だ。
もう1つは、4月から本格化するワクチン接種の体制づくりだ。全国の市区町村ごとに実施されるが、大都市圏から過疎、離島まで全国1700市区町村。人口、交通の便、医療など条件は実に様々だ。集団接種か、個別接種かにはじまり1700通りのやり方で、国民のほぼ全員を対象にした例のない接種大作戦が始まる。
その大作戦も実施スケジュールもメドがついていない。順調に進むのかどうか、自治体、菅政権にとっても手探りの準備が続く。
但し、1つだけ明確になったこともある。衆院解散・総選挙の時期だ。一部に4月解散、あるいは通常国会会期末の6月解散説も取り沙汰されてきた。しかし、ワクチン接種大作戦が軌道に乗るまで、解散・総選挙はとてもムリだ。国民から総反発を食らう。10月任期満了か、その前の秋の解散・総選挙が確実になったとみていいだろう。
不祥事続発、調査進まず ”滞留”も
2つ目のカギは、不祥事が続発していることだ。特に2月に入り、日替わりのように失言、不祥事が相次いでいる。
◆緊急事態宣言が出されている深夜に自民党の議員と、公明党議員がそれぞれ東京銀座の高級クラブに出入りしていたことが明らかになり、2月1日に自民党議員3人は離党、公明党議員は辞職に追い込まれた。
ところが、自民党の当選3回、白須賀貴樹衆議院議員が同じく緊急事態宣言下の2月10日夜遅く東京麻布十番の高級ラウンジを訪れていたことが明るみになり、17日に離党した。国民に宣言に基づく自粛を求めながら、自らは宣言破り、この規範意識のなさには唖然とさせられる。
◆東京五輪組織委員会・森会長の女性蔑視発言も内外から厳しい批判を浴びた。森会長は辞任に追い込まれ、後任選びも迷走、日本の五輪組織や日本社会のジェンダー意識の後進性などが浮き彫りになった。
この問題は、組織委員会の候補者検討委員会が18日、後継会長候補に橋本聖子・五輪担当相に1本化して要請、橋本氏が受諾して新しい会長に就任した。
政治の側の対応をめぐっては、森会長の発言が表面化した時に、菅首相が見解などを表明していれば、ここまで混迷しなかったとの見方もある。ただ、森氏は、安倍前首相の要請で会長に就任、菅氏との関係は深くはない。菅氏も森氏の進退に関与することには躊躇・逡巡があり、腰の引けた対応になったとみられる。
東京五輪は、2013年安倍前首相が長期政権戦略に位置づけ、水面下で猛烈な誘致活動を繰り広げ、実現にこぎ着けた。その組織委員会のトップに自らの派閥の重鎮をすえた政治色の濃い人事だ。既に安倍退陣で”たが”が外れており、後継人事が混迷するのは避けられなかったと言えるのではないか。
橋本聖子・新会長は、アスリート経験に加えて、国会議員歴も長い。政界には表現は悪いが、”爺殺し”という言葉もある。菅、森両元首相を操りながら、組織委員会トップとしてのリーダーシップの発揮を期待したい。
◆菅政権下の不祥事のうち、衛星放送会社に勤める首相の長男が、総務省幹部4人を接待し、国家公務員の倫理規定違反疑惑。あるいは、吉川前農相の汚職事件で農林行政が影響を受けていたかどうかを検証する調査会の調査結果も未だに報告がなされていない。野党側は引き延ばしと批判し、早く報告を行うよう求めている。
菅政権では不祥事が続発するだけでなく、その実態調査や是正策が進まず、滞留状態が続いている。
首相の力量 激変時代のリーダー像
3つ目のカギは「首相の力量」の評価。これから政治の主要な論点の1つになる。というのは、世論の関心が政府のコロナ対応にあり、その方針決定権を首相が握っているからだ。また、相次ぐ不祥事に対して、首相が指導力を発揮しようとしているのかどうか、世論の側の注目が集まるからだ。
さらに今年は、衆院決戦を控え、特に自民党の中堅・若手議員にとっては、自らの選挙の当落が、首相の評価で影響を受けるからだ。
菅内閣の支持率は報道各社の世論調査で、いずれも支持を不支持が上回る逆転状態が続いている。また、支持しない理由の中で「指導力がない」という評価が、大幅に増えている。例えば、NHK世論調査では、政権発足時の9月は8%だったのが、2月は34%で最も多くなっている。
このため、今後、コロナ対策が思うような成果を上げられず、内閣支持率も好転しない場合は、総裁選や衆院選挙に向けて、菅首相の交代を求める意見が出てくるとの見方が、自民党内からも聞こえる。
一方、政党支持率で自民党は減少傾向が現れ始めたものの、減少分は野党に向かわず、無党派層に回っている。このため、特に政権交代をめざす野党第1党の立憲民主党は、枝野代表のリーダーシップも問われる形になっている。
今年は、秋に自民党総裁と衆議院議員の任期が満了になる。その前に4月は、衆参3つの再選挙と補欠選挙、7月は首都東京の都議会議院選挙も行われる選挙の年だ。
有権者の側からみると、特に政権を担う首相をどのように評価するかがポイントになる。◇菅首相の再選を支持するか。◇あるいは、自民党内の別のリーダーに交代を求めるか。◇さらには、与党から野党への政権交代が必要だと考えるか。これから、秋までに行われる選挙に向けて、どのケースを選択するか。
以上、みてきたように今年は選挙の年。政治の動きを注視しながら「コロナ激変時代のリーダー像」を考えていく必要があるのではないか。