政府は21日、物価高対策や防衛力・経済力の強化などをめざす新たな総合経済対策を閣議決定した。対策の規模は減税を含めて21兆3000億円、裏付けとなる補正予算案の一般会計の歳出規模は17兆7000億円程度で、コロナ禍後では最大となる。
今度の対策は、自民・維新両党が連立合意したのを受けて発足した高市政権が初めて策定した総合経済対策だ。「強い経済」「責任ある積極財政」を掲げる高市政権は何をめざし、どのような分野でどこまでの効果を上げることができるのだろうか。
一方、高市政権がめざす政策は、物価高から国民生活を守ることができるのかどうか、副作用や危うさはないのかどうか、高市政権が決めた経済政策を点検してみる。
経済対策21兆円、補正予算規模17兆円
政府の新たな経済対策は、「物価高への対応」と「強い経済の実現」、それに「防衛力と外交力の強化」の3つの柱からなっている。
このうち、「物価高への対応」に11兆7000億円、「強い経済の実現」に7兆2000億円、「防衛力と外交力の強化」に1兆7000億円となっている。これにガソリン税などの暫定税率の廃止や「年収の壁」の見直しによる減税分などが加わることになる。
この結果、経済対策の規模は21兆3000億円、一般会計の歳出規模は17兆7000億円の規模になる。当初は、経済対策で17兆円程度、一般会計歳出で14兆円程度を想定していたが、政府・与党内から拡大を求める声が強く、大きく膨らんだ。
補正予算案はこれまで2兆円から4兆円程度で推移していたが、コロナ禍で72兆円から32兆円もの巨額予算が追加計上されるようになった。コロナ禍が落ち着いた後も2023年度の岸田政権では13.1兆円、2024年度の石破政権では13.9兆円と多額の予算計上が常態化し、高市政権ではさらに17兆円まで拡大することになった。
こうした背景には、高市首相が「何を実行するにしても『強い経済』をつくることが必要だ」として、「責任ある積極財政」を打ち出していることが影響している。
具体的には、物価高対策に加えて、強い経済の実現に向けて造船能力を強化するための基金創設、防衛費のGDP比2%目標の前倒しなどによって予算規模の拡大につながった。問題は、必要な財源をどのように確保するかが問われることになる。
物価高対策には野党取り込みのねらいも
次に、今の国会で最大の焦点になっている物価高対策の内容をみていきたい。まず、電気・ガス料金の支援については、来年1月から3月までの3か月間、一般家庭で合計7000円程度を補助する。今年7月から9月まで実施された3000円から大幅に引き上げ、当初検討されていた6000円からも引き上げることになった。
高市政権が重視しているのが、地方自治体が使い途を決められる「重点支援地方交付金」の拡充で、「お米券」やプレミアム商品券の発行などが行えるとしている。
さらに最終段階で新たに決まったのが、児童手当の上乗せ支給だ。1回限りの措置だが、18歳までの子ども1人当たり2万円を上乗せして支給する。このようにさまざまな具体策を盛り込んだ結果、物価高対策も膨らんだ。
こうした物価高対策の具体策は、連立与党の維新や野党が実施を求め、自民党が受け入れた項目が目立つ。例えば、電気・ガス料金の上積みは維新が強く要求したもので、児童手当の上乗せ支給は公明党の提案を受け入れて実施されることになった。
高市政権や自民党としては、国民生活に寄り添う姿勢をアピールできる一方、少数与党だけに補正予算案の成立に公明党や国民民主党の協力を得たいねらいがあるものとみられる。
一方、補正予算案が成立しても一連の支援策が国民の手元に届くのは、年明け以降になる見通しだ。また、国民からすれば「お米券」といわれても1人当たり3000円程度で、「食料品の大幅値上げを前に少額で、それよりもまとまった現金給付の方がありがたい」といった声も聞く。
それだけに政府の物価高対策は国民にどこまで評価されるのかどうか、物価高を抑える対策や経済政策が並行して打ち出されないと国民の納得を得るのは難しいのではないかと考える。
円安・債券安、財政拡張に懸念も
高市政権の経済対策をめぐっては、円安や国債の値下がりなどの影響が懸念されている。為替市場では、このところ1ドル=157円台後半まで円安が進んでいる。国債は代表的な指標である10年ものの利回りが一時1.775%まで上昇し、2008年6月以来の高い水準になった。
円相場については、高市氏が自民党総裁に就任する前日の10月3日は、1ドル=147円だったので、円安がかなり進んでいることがわかる。市場関係者の間では、高市政権や与党内で財政規模の拡充を求める意見が強まっているとして、財政悪化につながるのではないかという危機感が広がっている。
円安が続くと輸入物価が上昇し、インフレが加速するほか、賃金引き上げが物価上昇に追いつかない状態が続くことになる。実質賃金のマイナスは9か月連続だ。
高市首相は経済対策を閣議決定した後、記者団に「今回の対策は、国民生活を守り、強い経済をつくるため、戦略的な財政出動を行うものだ」と説明するとともに「補正予算案を編成した後の国債発行額は、昨年度の補正後の規模を下回る見込みだ」とのべ、財政状況に十分配慮しているとの考えを強調した。
これに対し、野党側は「国債の発行額が去年を下回るといっても去年の発行額は42兆円にも上る。加えて国と地方の借金は1200兆円にも達し、市場の信頼を失えば、日本経済は決定的なダメージを受ける」と批判する。
高市首相は、半導体やAIなど17分野を挙げて戦略的投資を行う方針を決定したり、財政健全化の目標であるプライマリーバランスの単年度ごとの黒字化を見直したりするなど個別の政策は次々に打ち出している。
ところが、日本経済をどのように運営していくのか、全体像の説明は乏しい。経済成長の目標をはじめ、長期金利や消費者物価の目安、実質賃金が恒常的にプラスに転じる時期などがはっきりしないまま、個別政策が先行する点に危うさを感じる。
また、高市首相が掲げている防衛力の強化や「責任ある積極財政」などについても必要な財源をどのように確保するのか、国債発行のあり方などの方針は明らかにされていない。経済運営全体の考え方や財源確保に向けた方針が問われることになる。
政権発足1か月、首相の危うさ指摘も
高市政権が発足して21日で、1か月が経過した。報道各社の世論調査では高市内閣の支持率は60%台後半を記録するなど順調な滑り出しをみせている。憲政史上初の女性首相であることや、就任直後の外交デビューの効果が大きいためとみられる。
一方、内政では今回の新たな経済対策をはじめ、評価が分かれる課題は多い。外交面では、高市首相の台湾有事をめぐる国会答弁に中国側が猛反発する事態を招き、沈静化のメドがついていない。
高市首相は保守派の立場から、従来の政府方針と異なる見解を示す一方、新たな対応について整理してまとまった説明をすることが少ないことから、政権の最高責任者としての危うさを指摘する声は、野党だけでなく与党からも聞かれる。
26日には高市政権になって初めての党首討論が行われるのに続いて、来月上旬には補正予算案が提出され、衆参両院の予算委員会で審議が行われる見通しだ。内外に多くの懸案が山積しているので、国民が知りたい点に応えられるような議論をみせてもらいたい。(了)
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高市政権が21日、総合経済対策を閣議決定したのを受けてその内
容の具体的な説明とそれに至った経過・背景を含めて、分かり易く
論理が展開されており、大変良く理解できました。
ひとことで言えば、補正予算を成立させんがため、連立の維新や各
野党の主張を丸のみして、その計上額がかつてないほど大きな金額
に膨れ上がったということでしょうか。
ということは大局に立った経済政策の提示は示されず、対処対策で
しかないということになります。
また、各対策を行うに当たってのその財源たるや曖昧なままで、為替をはじめ各経済指標にも不安要因を及ぼしている実態となっており「危うさ」が表面化してきていると言えます。
次に、保守思想の強い高市首相事態の「危うさ」も台湾有事における発言をはじめ、各はしばしに感じることができます。
また、高市首相を生んだのは自分だとそのフイクサーぶりを明らか
にしている老醜の麻生氏の存在も本政権の「危うさ」の一因といえ
るのかも知れません!
各野党も、自党の主張を言い募るだけでなく我が国の今後の責任あ
る政権運営に結び付くような前向きな議論を期待したいものです。
文章について
①大見出し
「”高市 総合経済対策”の効果と危うさ」
→言わんとすることはよくわかりますが、
”高市 総合経済対策”の効果と危うさを問う
もしくは2行に分けて
”高市 総合経済対策”の効果は?
懸念される危うさ
の方がよくありませんか?
②小見出し
「物価高対策、野党取り込みのねらいも」
→物価高対策には、野党取り込みのねらいも
( の方が よくありませんか? )
③同じ項
下から4行目
それよりもまとまった現金給付の方がありがたたい」
→それよりもまとまった現金給付の方がありがたい」
( ありがたたい → ありがたい )
11月22日 妹尾 博史