新型コロナ対策の緊急事態宣言は23日から沖縄が追加され、10都道府県に拡大した。このうち、沖縄を除く地域では今月31日が期限になっている。延長されるのか、解除はあるのか。
一方、東京オリンピック・パラリンピックは開幕まで2か月を切ったが、中止はあるのか。高齢者向けのワクチン接種は7月に完了するのか。さらに菅政権はどうなるのかといった質問を多く受ける。
そこで、こうした相次ぐ難問に対して、菅政権はどのように対応しようとしているのか、探ってみたい。
結論を先に言えば、個別の問題は激しい動きがあるが、政治のゆくえに大きな影響を及ぼすのは、来月25日に告示される東京都議会議員選挙。この結果が、秋の政局を大きく左右するとみる。
以下、その理由を解説したい。
緊急事態宣言 延長の公算大
まず、先月25日に東京、大阪などに出された緊急事態宣言の扱いだが、大型連休明けに宣言延長を決めた際に、政府関係者の間ではオリンピックも近づいており、期限の31日までには余裕をもって解除できるのではないかとの見方をする人が多かった。
ところが、その後は完全に逆の展開で、感染は地方に拡大。愛知、福岡に続いて、北海道、岡山、広島、さらには沖縄まで3週連続で追加され、10都道府県に拡大した。「まん延防止等重点措置」も8県になった。
政府の専門家の間では「大阪、東京は新規感染者の減少傾向がみられるが、なお見極める必要がある。北海道や沖縄、福岡などでは感染急拡大が続いており、変異株の急激な置き換わりも考慮に入れると、解除できる状況にはない」と緊急宣言の延長論が大勢だ。
これに対して、菅首相は「今月末に判断する」と態度を明らかにしていないが、専門家の意見を最終的には受け入れるのではないかとみる。というのは菅内閣の支持率は政権発足以来最低で、専門家の意見を覆すだけの力はない。
また、菅首相自身も今、最も力を入れているのは、ワクチン接種と、東京五輪・パラリンピック開催の2つだ。五輪開催のためには、大会直前の感染拡大を抑え込む必要があり、宣言延長を容認する可能性が強いとみる。
菅首相 五輪中止の選択はあるか
次に東京オリンピック・パラリンピックの開催中止はあるか。この問題は、国内だけでなく、海外の感染状況など多くの変動要因があり、断定的に言えるだけの判断材料や能力はない。
但し、国内政治を取材している立場からすると、菅首相が自ら中止の選択をする確率は極めて低いとみる。
その理由は、東京五輪・パラリンピックの招致に大きな力を発揮したのは安倍前首相だった。同じように、東京オリパラの開催問題で、影響力を持っているのは時の政権、菅首相だ。
その菅首相の政権運営、特に解散・総選挙戦略に、東京オリパラ開催は事実上、組み込まれている。夏に大会を開催し、その成果を秋の解散・総選挙につなげていく戦略なので、中止の公算は極めて乏しいとみる。
政界の一部などには、小池都知事や菅首相が土壇場で大会中止を打ち出し、政局をリードするのではないかといった見方もある。しかし、首相が大会中止を打ち出せば、その政治責任を問われ、退陣表明に追い込まれる公算の方が大きいのではないか。
一方、大会開催に踏み切った場合、世論の側は、コロナ禍での大会は中止すべきとの意見も強いので、政権に対する批判が強まる可能性も大きい。
結局、未だに具体的な説明がない、大会の国内観客数や感染対策、国内の医療提供体制への影響、さらにはコロナ禍で五輪を開催する意義などを国民に訴え、理解を得られるのかどうかが問われることになるのではないか。
ワクチン接種 7月完了は可能か
菅首相は先月下旬、高齢者のワクチン接種について「1日100万回、7月末完了」を打ち上げた後、自衛隊による大規模接種が決まった。また、総務省と厚生労働省がタッグを組んで、接種に当たる地方自治体に接種を急ぐよう猛烈な働きかけを続けている。
両省が全国1741市区町村を対象に聞き取り調査を行った結果、21日時点で「7月末完了」の見通しを伝えたのは、1616市区町村、93%に達している。
但し、この回答の中には、医療従事者の確保ができた場合という留保条件をつけている自治体もある。自治体側は、打ち手の医師や看護師の確保に四苦八苦しているところが多い。7月完了は流動的な要素が残っていると見た方がよさそうだ。
ワクチン開発や海外での獲得競争の話は横に置くとして、日本のワクチン接種の対応はどうか。イギリスでは、去年夏の時点で、いち早く打ち手の要員について、医師だけでなく医学生、理学療法士など資格を持たない人にも広げる検討を始め、法改正を実現するなど準備を着実に進めてきたという。
これに対して、日本の取り組みは、高齢者接種は事実上、地方に丸投げ。突如、自衛隊による大規模接種構想が浮上したりと”場当たり、突貫工事”の連続だ。高齢者に続いて、一般国民の接種まで順調に進むのかどうか不確定要素は多い。
菅政権と政局 都議選がカギ
それでは、菅政権はどうなるのか。これまで見てきた緊急事態宣言の扱いを含めた感染の抑え込み、東京オリパラ開催問題、ワクチン接種の問題を乗り切ることができるかどうか。
但し、こうした難題への対応について、与党内から強い批判や責任追及が直ちに出てくる可能性は小さい。菅政権の評価や批判などが出てくる可能性があるのは、東京都議会議員選挙ではないか。
都議選は来月25日告示、7月4日の日程で行われる。各党とも国政選挙並みに力を入れる。国政のテーマが選挙の争点になるケースが多い。次の国政選挙、秋までに行われる衆議院選挙の先行指標になる。
この都議選で、政権与党である自民党の議席がどうなるか。その結果によって、菅政権や秋の政局に影響が出てくる。自民党は前回の都議選では、歴史的大敗を喫したが、今度の選挙では公明党との選挙協力が復活し、議席の回復が見込まれる。
一方、このところ報道各社の世論調査では、菅内閣の支持率だけでなく、自民党の支持率の低下傾向が現れ始めた。政府のコロナ対応に対する有権者の批判が、自民党の支持率にも影響が出始めたのではないか。このため、自民党は議席は回復するが、その程度、勝ち方が焦点の1つになる。
以上、見てきたように菅政権にとっては、まずは相次ぐ難題を乗り切れるかどうか。その対応を有権者がどのように評価しているかが、都議選に現れる。
その都議選の結果は、菅政権の今後と秋の政局の行方を左右する。”政局の本番は、都議選から始まる”ということになるのではないか。