高市首相と野党4党首による初めての党首討論が26日行われ、日中関係や経済対策などについて、意見を交わした。
このうち、焦点の「台湾有事」をめぐる国会答弁の真意を問われたのに対し、高市首相は「存立危機事態の認識は、個別具体的な状況に即し、政府が全ての情報を総合して判断する」という考えを繰り返し、従来の政府見解を維持していると強調した。
この問題をめぐって中国政府は強く反発する姿勢を変えておらず、日本への渡航自粛や日本産水産物の輸入を停止する措置を続けている。一方、アメリカのトランプ大統領は高市首相との電話会談で、対中姿勢を抑えるよう助言したとの米側の報道もあるが、木原官房長官は否定している。
発足から1か月余りが経過した高市内閣の支持率は高く、滑り出しは順調だが、ここにきて日中関係悪化という新たな火種を抱え込んだ形になっている。高市政権の外交・安全保障分野の対応で、何が問われているのかを点検してみたい。
台湾有事答弁「聞かれたので」と釈明
26日の党首討論では立憲民主党の野田代表が、高市首相の「台湾有事」をめぐる国会答弁後の日中関係を取り上げ「経済や人的交流の面で影響が出始めている。事前に政府内などで調整したうえでの発言ではなく、独断専行だったのではないか」と首相の責任を質した。
これに対し、高市首相は「先の日中首脳会談で戦略的互恵関係を確認しており、中国との対話には建設的でオープンだ。今後も対話を通じて、より包括的な良い関係をつくり、国益を最大化するのが私の責任だ」とのべた。
また、野田代表は「日本のトップが、台湾有事の際の考えをめぐらせることは大事だが、一議員の頃から考えていたことを、総理大臣になり自衛隊の最高指揮官として言葉にしていいかは別問題であり、軽率だ」と発言の真意と政府の見解を迫った。
これに対し、高市首相は「具体的なことに言及したいとは思わなかったが、予算委員会なので、政府のこれまでの答弁を繰り返すだけでは委員会を止められてしまう可能性もある。具体的な事例を挙げて聞かれたので、その範囲で誠実に答えた」と釈明した。
そのうえで、「政府の見解は、事態の個別具体的な状況に即して、全ての情報を総合して判断すると答えている。それ以上でも、それ以下でもない」とのべた。
このように高市氏の答弁は「聞かれたので、答えた」と質問者側に責任があると受け取られるような発言で、最高責任者としての自覚や責任の重さが感じられない答弁ぶりだった。
日中関係の対立を今後、どのように打開していくのか知りたいところだが、野田代表は質問を別のテーマに移した。野田代表と高市首相はともに松下政経塾の出身で、野田氏が県議選に立候補した際に選挙運動を手伝ってもらった関係にあるせいか、議論は深まらないまま終わった。
歴代首相答弁から踏み越えた発言
それでは、今回の高市首相の発言は、本当に従来の政府見解と違いはないのだろうか。もう一度、7日の衆議院予算委員会で立憲民主党の岡田元外相の質問に対する答弁を確認すると、高市首相の答弁は次のようになっている。
「戦艦を使って、武力行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になりうるケースだと私は考える」と発言している。
この発言について、高市首相は次の予算委員会での質疑で「最悪のケースを想定して答弁した」としたうえで、「反省点としては、特定のケースを想定して明言することは今後、慎もうと思う」とのべた。
歴代首相は「いかなる事態が存立危機事態に該当するかは、個別具体的な状況に即し情報を総合して判断することとなるため、一概に述べることは困難だ」(2024年2月、当時の岸田首相)と答弁してきた。これと比較すると高市首相の答弁は、政府見解を踏み越えた発言とみることができる。
それでは、なぜ踏み越えた発言になったのだろうか。高市首相の場合も官僚が事前に作成した答弁書が用意されたとみられるが、高市首相は官僚の説明を受けずに答弁書を一人で読み込み、場合によっては筆を入れたりすることが多いと聞く。
このため、高市氏は元々、新台湾派で保守色の強い議員として知られることから一定の思いを込めて発言したのか、それとも質疑の流れの中で口にしたのかはわからないが、従来の政府見解から外れたのは事実だ。
その結果が中国の強い反発を招き、日本への渡航自粛や日本産水産物の輸入停止につながるなど状況は悪化しつつある。中国側が一方的に、威圧的な対応に出ること自体、極めて大きな問題があると思うが、日本側もスキを見せない対応が必要だ。
また、自民党関係者によると「高市氏はたいへんな勉強家で、部屋に一人こもって膨大な資料に目を通すのはいいのだが、政権のチームが役割分担しながら取り組まないと政権は機能しない」と指摘する。現実を踏まえた堅実な答弁と外交力が問われている。
外交・安保政策へ3つの注文
以上は党首討論での主な論点を中心にみてきたが、ここからは高市政権が今後、外交・安全保障分野でどのような取り組みが求められているのかを考えてみたい。当面、3つの点を注文しておきたい。
1つは、外交・安全保障分野については「正確で、バランスの取れた説明」を徹底してもらいたい。今回問題になった安全保障の法制、台湾有事の際の「存立危機事態」について高市首相の答弁は荒っぽい説明で、肝心な要素が抜けていた。
台湾有事での存立危機事態とは、一つは中国と台湾の統一の問題だ。もう一つ、日本にとっては、出動したアメリカ軍と自衛隊の日米安保協力の問題がある。新たな安全保障法制では、日本と密接な関係にある米軍が攻撃された場合、日本が直接攻撃されていなくても日本が必要最小限の範囲で後方支援などが行えることになっている。
ところが、高市首相の答弁では、米軍の出動と攻撃を受けた事態が説明されておらず、加えて、日本国民の生命、自由などの権利が根底から覆される明白な危険があることなどの条件が必要だ。つまり、台湾有事といっても直ちに存立危機事態になるとは限らず、幾つもの条件が必要であることを丁寧に説明して追うことが大事な点だ。
2つ目は、高市政権は防衛力の強化を打ち出し、国家安全保障戦略など「防衛三文書」の改訂を来年末までに行うことにしているが、「国民との対話と理解を得ること」が極めて重要だ。
2022年の岸田政権当時にも防衛三文書の改訂を行い、新たに反撃能力を保有するとともに防衛費を大幅に増やすこと決定した。だが、国民への説明は十分に行われたとは言えず、防衛財源として所得税増税が決まったものの、いまだに増税は実施できていない。
高市政権では、防衛関係経費のGDP比2%引き上げを2年前倒しを年内に実現する方針だ。加えて来年以降、さらに防衛費を増すためには、防衛力整備の必要性や中身を国民に理解してもらうことが避けて通れない。
3つ目には、高市政権として「中国、韓国などの近隣諸国外交を軌道に乗せること」ができるかどうかだ。高市首相は韓国のイ・ジェミョン大統領とはシャトル外交を継続することになったが、中国の習近平国家主席とは首脳会談を一度行っただけだ。
来年4月にはトランプ大統領は、中国を訪問する計画が進められている。一方、日本が議長国として開催することにしている日中韓の首脳会談は、今回の問題が影響して開催のメドがついていない。
東アジア情勢を安定させていくためにも日中関係の改善は避けて通れない。日本にとって最大の貿易相手国でもある。政府レベルでの関係改善が難しければ、自民党などのパイプを生かして関係修復を模索する必要がある。
報道各社の世論調査を見ると、高市首相については実行力や政策に期待が強い一方で、保守的な立場から強引な政治を推し進めるのではないかという警戒感を持つ国民が多いのも事実だ。
国際情勢が激しく動く中で、高市首相は日米同盟関係を強化するだけでなく、中国などとの間でも安定した関係を構築できるのかどうか、高市政権の安定度を占ううえでも大きなポイントになる。(了)
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高市首相と4党首間で26日に行われた党首討論を受けて、高市政
権の外交姿勢について踏み込んだ分析およびその問題点また求めら
れる外交姿勢について分かり易く説明がされており、大変良く理解
できました。
高市首相の信念とする「強行保守思想」の本音部分が国会討論の席
で具体的発言となって表面化し、これに対し中国政府が食いつき、
異常とも思える対日姿勢で我が国に脅威をもたらせる事態を招いて
います。
このことはひとえに高市首相の重大責任であり、可及的速やかに
中国との事態改善に取り組まねばならないにもかかわらず、従来
の政府の考えに何ら変わるものではないと繰り返すばかりで、事
態改善への取り組みがなされてないのは問題であると考えます。
防衛費のGDP比2%への増額についても、いきなり2年前倒し
実施を明言し、さらなる増額を意図していることが伺われます。
高市首相は就任直後に行ったトランプ大統領との首脳会談や
APEC首脳会談で思いのほか事なきデビューが行えたことに
「浮足だっている」としか思えません!
貴殿が主張している「外交・安保政策へ3つの注文」はまさに
その通りであると強く思います。
今回は文章について気づいた点はありませんでした。
11月28日 妹尾 博史