岸田 新総裁選出の読み方 自民総裁選

菅首相の後継を選ぶ自民党総裁選挙は、決選投票の結果、岸田文雄前政務調査会長が、河野太郎規制改革担当相を抑えて、新しい総裁に選ばれた。

今回の総裁選挙は、「自民党の異端児」などと言われ、国民の人気の高い河野氏が党員投票で大量得票するのではないかという見方も出されていた。

これに対して、岸田氏は「真面目で普通の人」でアピール力も弱いとされてきたが、なぜ、勝利を収めることができたのか。

岸田新総裁は、来月4日に国会の首相指名選挙を経て、第100代の首相に就任する。首相就任に向けて、何が問われているのか探ってみたい。

 ”本命岸田、対抗河野、大穴高市”

まず、今回の総裁選挙の勝敗の予測はどうだったか。投開票日の29日朝の時点で、全国紙、NHK、民放の主なメディアで、岸田氏が決選投票で勝つとの見通しを報道した社はなかったのではないか。

それだけ、読みにくい総裁選だった。派閥の対応も、総裁候補として派閥の会長を擁立した岸田派を除いて、支持を1本化することは見送り、自主投票としたからだ。

また、派閥が一定の票を動かして、特定の候補者を外すといった権謀術数、怪情報が投開票日直前まで飛び交ったことなども影響したかもしれない。

自民党総裁選挙で投票できるのは、全国の党員・党友110万人余りと衆参両院の国会議員に限られ、独自のルールで行われる。それだけに党員の投票行動の本音がわかるのは、党の関係者だ。

そこで、告示前に党の長老に勝敗見通しを聞いたところ、「わかりやすく言えば、本命・岸田、対抗・河野、大穴・高市ではないか」との見方を示していた。

個人的には、そこまで言い切れるのか半信半疑だったが、見通しが当たったので、さっそく電話で、改めて真意を聞いてみた。

「岸田勝利は、確信していた。但し、第1回投票で、わずか1票だが、岸田がトップには驚いた。おそらく、ここまで予測できた人はいなかったのではないか。議員や党員の多くが、河野に”危うさ”を感じたのに対し、岸田には、政策や人間的に”安定感”を感じたのではないか」と指摘する。

私なりに解釈すると、河野氏については発信力はあるが、ワクチン接種の地方への配分が混乱したほか、最低保証年金など政策の詰めの甘さが目立ち、リーダーとしての危うさを感じたのではないかというわけだ。

これに対し、岸田氏は4人の候補者の中で唯一の派閥の領袖であり、人との付き合いや、組織を運営する経験もある。政策面についても、コロナ感染収束後の経済政策などを仲間と練り上げてきたことがうかがえたとの見方だ。

当事者の見方として、個人的には、納得できる点も多い。

 世代交代進まず、実力者の影響力大

これに対して、別の見方もできる。国民に近い党員票に着目すると、河野氏が44%を獲得し、岸田氏の29%を大きく上回った。岸田氏は、逆に議員票で大きくリードした。

河野氏を支持した党員の側には「党の役員や閣僚に長老が長期間、居座っており、なんとか世代交代を進めてほしい」「派閥や、実力者が政権運営を支配するような体質を変えてほしい」といった期待がうかがえる。

このうち、派閥の関与については、若手議員が自主投票を強く要求したこともあり、派閥で支持を1本化しない異例の形になった。ところが、決選投票の段階になると派閥として、まとまって対応しようという動きも出てきた。

例えば、決選投票で岸田氏は議員票が100票程度増えたが、この増加分は高市氏の得票分のかなりが回ったのではないか。派閥の対応の仕方を変えるのは、中々、難しい。

党内実力者の影響もかなりみられた。具体的には、安倍前首相は、高市氏支援で若手議員などに頻繁に電話をかけ、ヒートアップしていたとの話を聞いた。高市氏票のかなりの部分は、安倍氏の働きかけによるとの見方が強い。

二階幹事長については、当初、菅首相再選支持で動き、派内の反発を招いたことなどから、影響力は低下しているのではないかといった声も聞く。

全体としてみると、自民党の派閥の存在や機能は中々、変わらない印象を受ける。安倍氏や麻生氏などの実力者の影響力も依然として強い。派閥、党内実力者影響力は依然として残り、世代交代、党風刷新への道のりは長いと言えそうだ。

 問われるコロナ対応、政権の信頼性

そこで、岸田新総裁が問われる点は何か。党員や国民の期待に応えられる政策を打ち出し、政権の体制づくりが進むかどうかだ。

まず、政権の最優先課題は、コロナ対策。コロナ対応は既に1年9か月、自民党は、安倍政権、菅政権の2代にわたって感染の抑え込みに失敗して、退陣に追い込まれた。

ワクチン接種の加速で、幸い今は、感染が大幅に減少している。政権の交代期だが、政治・行政の対応の空白にならないよう全力で取り組む責任がある。

特に肝心の医療提供体制については、総裁選の論戦でも、菅政権のどこを変えるのか、掘り下げた議論は乏しかった。コロナ対策に遅れが出れば、直ちに政権は失速するだろう。

もう1つは、政権の信頼性の問題だ。岸田氏は、総裁選の議論の中で、安倍長期政権の負の遺産とも言える、森友・加計問題や、財務省の公文書の改ざん問題などについての再調査や政治責任について、及び腰とも見える発言がみられた。

党員や国民の側は、総理・総裁は一部の実力者の存在を気にすることなく、国民のための政策を強力に進めてほしいという期待を抱いている。幸い、岸田氏は、若手中堅を大胆に起用する考えを表明しており、どこまで実行するのかを注目している人は多いと思われる。

岸田新総裁が、国民が期待できるような体制を組むことができるのか、自民党役員人事と組閣の布陣が大きなカギを握っている。

国民の多くは、自民党の総裁選挙の投票権を持っていないので、選挙の本番は、衆院選挙だ。自民党の総裁選後の政権の体制や方針、それに対する野党の政策や構想などをしっかり見比べて、熟慮の1票を投じたいと考えている。

 

 

 

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