”選ぶ側”から見た衆院短期決戦

衆議院が14日解散され、19日公示、31日投開票の日程で、総選挙が行われることになった。前回2017年から4年ぶりで、衆議院議員の任期満了(10月21日)を越えての衆院選挙は、現行憲法の下で初めてのケースになる。

岸田新政権が発足したのが4日で、10日後に解散。解散から投開票までの期間は17日間でいずれも戦後最短、あわただしい選挙になる。

岸田首相は14日夜、記者会見し、今回の選挙を「未来選択選挙」と位置づけ、「コロナ後の新しい経済社会を作り上げていく」考えを強調した。各党の党首もさっそく街頭などで演説し、支持を訴えた。

戦後最短の衆院決戦。私たち有権者はどのように受け止め、どんな基準で判断していけばいいのか、”選ぶ側の視点”で考えてみたい。

 世論最多は思案中、結果は流動的

まず、最近の政治状況を有権者はどのようにみているか。11日にまとまったNHK世論調査(10月8~10日)では、岸田内閣を支持する人は49%、支持しない人は24%だが、わからないと答えた人が27%にも上ったことが大きな特徴だ。ふだんの月の調査では20%未満なので、7ポイント以上も多い。

朝日新聞の世論調査(10月4、5日)でも支持率41%、不支持20%だが、その他・答えないが35%にも達している。

NHK調査では、今回の衆院選で与党と野党の議席がどのようになればよいと思うかも聞いている。与党の議席が増えた方がよい25%、野党の議席が増えた方がよい28%、どちらともいえないが41%となった。

4割の人たちは、どんな投票行動を取るか決めておらず、思案中というわけだ。菅前首相の突然の辞意表明から、総裁選を経て、岸田政権誕生と思ったら、国会での与野党論戦はわずか3日で打ち切り、解散時期も早めた。

選ぶ側からすると「少しは考える余裕をくれ」ということだろう。岸田内閣発足時の支持率49%は、麻生内閣並み(48%)の低空飛行だ。

一方、自民党の支持率は上昇しているので、議席はあまり減らないとの見方もあるが、思案中の人が4割もいるので、結果は流動的とみた方がよさそうだ。

 コロナ対策 反省・総括はあるか

それでは、短期決戦、何を基準に候補者や政党を選ぶか。多くの国民にとって第1は、「コロナ対策」が大きな判断基準になるだろう。

政党の側も選挙公約の第1の柱として、コロナ対策、ワクチン接種の促進や、治療薬の開発・実用化などこれからの対策の充実、強化を掲げている。

問題は1年9か月にわたって4回も緊急事態宣言を出しながら、政府はまとまった検証、総括を一度も行っていない。これまでの対策の検証、反省もないまま、これから対策を強化すると言っても説得力は乏しい。

これまでの対策の問題点や失敗の原因などを率直に語る方が、むしろ誠実な対応で信頼がおけるかもしれない。この夏、入院できずに自宅待機を余儀なくされた感染者が13万5千人に達し、自宅で亡くなられた方も多かった。

病床だけでなく、医療人材の確保、入院・転院などの仕組みを誰が、どのように改善していくのか。都道府県知事と厚生労働大臣の権限の調整、首相官邸が司令塔として機能するための体制づくりが具体的に問われている。

ロックダウン・都市封鎖ができる法整備など勇ましい案よりも、政治・行政の仕組みの具体的な改善策と、期限も明示させて実行できるようにすることの方が重要だと考える。

 生活・経済立て直しの具体案

第2の判断基準は、コロナ感染拡大で大きな影響を受けた人たちや、事業者の救済など「生活・経済の立て直し」をどのように進めるかだ。

日本経済は、コロナ前から長期にわたって停滞が続いており、かつて1位だった国際競争力ランキングは今や34位。実質賃金指数も1996年をピークに下がり続けている。日本経済をどのように立て直していくのかが問われている。

岸田首相は「新しい資本主義」で、分厚い中間層を再構築し、賃上げに積極的な企業に対する税制支援や、看護師や介護士などの所得向上のため、報酬や賃金のあり方を抜本的に見直していく考えを表明している。

これに対し、野党第1党・立憲民主党の枝野代表は、格差を是正し「1億総中流社会」の復活を目指して、消費税の税率を時限的に引き下げる一方、富裕層の金融所得への課税を強化し、分配を最優先に取り組んでいく考えを示している。

いずれも格差是正に「分配」を重視しているが、自民党は企業支援を通じた「経済成長の果実」を賃金に振り向ける仕組みを考えている。これに対し、立憲民主党は「富裕層への増税」で実現するとしており、「方法論」や「成長と配分の重点の置き方」に大きな違いがある。

このほかの各党も「消費税率の引き下げ」や「規制改革」、「労働市場の流動化による賃金引上げ」などの提案を打ち出している。

どの提案が妥当と考えるか、方法論を含め実現可能性はどうか、各党の主張や論争をじっくり聞いて見極めていきたい。

 「負の遺産」の是正 公正な政治へ

第3の判断基準として、「政治・行政の信頼回復」の問題がある。岸田政権でも、業者からの金銭授受疑惑が報じられた甘利氏を幹事長に起用した人事に対して、世論の評価は厳しい。

一方、一昨年の参院選挙をめぐる買収事件で、有罪判決を受けた河井案里元参院議員側に、自民党本部が1億5千万円を提供していた問題についても、事実関係の調査や詳しい説明を尽くすべきだといった声が出されている。

前回2017年の衆院選挙以降を振り返っても安倍政権と菅政権下で、政治とカネをめぐって多くの不祥事が噴出し、国民の強い批判を浴びてきた。また、官僚の政権への忖度や委縮が進んでいるのではないかと懸念する声も強い。

したがって、こうした長期政権の「負の遺産」を是正し、公正な政治・行政をどのように取り戻していくか、今回の選挙で問われている大きな問題だ。

具体的な方法としては、政治や行政のあり方の見直し、情報公開の徹底や、内閣人事局の運用の改善などが考えられる。

一方、政治の構造を考える必要があるとの指摘もある。具体的には、特定の政党が強い1強体制では、権力の驕りや腐敗が生じるので、与野党の勢力バランスを均衡させ、政治に緊張感を持たすことが必要だという考え方だ。

コロナ禍の難問を解決するためには、国民の協力は不可欠で、そのためにも幅広い国民の声を吸収できる政治の構造や、国会の勢力バランスを考えていく必要があると思う。

以上、私なりの3つの判断基準を取り上げた。今回は、外交・安全保障の課題に触れなかったが、この課題を含め、さまざまな判断基準が考えられる。自らが重視したい判断基準・物差しを決めて、選挙で選択を考えていただきたい。

コロナ・パンデミックを何としても乗り越え、多くの国民、特に次代を担う若い人たちが、将来に希望を持てる社会をどのように築いていけるのか、今回の衆院選に多くの国民が参加して、第1歩を踏み出していくことを願っています。

 

 

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