第49回衆院選挙が19日公示され、31日の投開票日に向けて、選挙戦に入った。明治23年・1890年に第1回総選挙が行われた後、131年、49回目の選挙になる。
今回はコロナ禍、直前に菅前政権が退陣して岸田新政権に交代した。新政権発足から解散まで、解散から公示までいずれも戦後最短。衆議院議員の任期満了日を越えた選挙は今の憲法下で初めて、異例ずくめの衆院選だ。
有権者の反応はどうか。NHKの世論調査では、投票に「必ず行く」と答えた人は56%。前回4年前の衆院選時と同じ水準で、投票意欲は必ずしも高くはない。短期決戦のあわただしい選挙のせいか、それとも争点が不明なのか、有権者が投票所に足を運びたくなるような選挙にはなっていないようだ。
そこで、今回の選挙は、何が問われる選挙なのか。また、選挙の構図や情勢はどうなっているのか、有権者側の視点で考えてみたい。
選挙の構図 与野党対決色 強まる
まず、選挙の構図と情勢からみていきたい。各党の候補者擁立状況だが、全国で289ある小選挙区についてみてみると◇自民党は277人、公明党は9人で、与党側はほとんどの選挙区に候補者を擁立している。
これに対して、◇野党第1党の立憲民主党、共産党、国民民主党などは、およそ210の選挙区で候補者を1本化しており、与野党対決の構図が鮮明になっている。
一方、こうした野党と距離を置く日本維新の会は94人を擁立し、地盤の関西だけでなく、全国的に勢力の拡大をめざしている。
過去3回の衆院選では、野党陣営の分裂や選挙対応の遅れで、与党圧勝が続いてきたが、今回は小選挙区の7割以上で、野党の候補者1本化が実現した。与野党の一騎打ちで、激戦選挙区が増えている。
それでは、比例代表176も合わせた総定数465の選挙全体の情勢は、どうなっているか。与野党関係者の見方や報道各社の世論調査を基に判断すると、次のような情勢になっている。
◆まず、自民党は議席を減らすものの、与野党の勢力が逆転するまでには至らないのではないかという見方が強い。
◆次に、自民党の勝敗ラインは、事実上、「単独で過半数の233」を維持できるかどうか。自民党の解散時の勢力は276なので、減少幅が43以内に収まるかどうかが焦点だ。減少幅が20程度か、40程度で収まるか、50以上か見方が分かれる。
◆自民党の選挙関係者によると、選挙地盤が固まっていない若手を中心に与野党が激しく競り合っている接戦区が40~50か所あり、こうした接戦区がどうなるかを見極める必要があると話している。
◆野党側については、基本的に解散時の勢力が勝敗の基準になる。例えば、野党第1党の立憲民主党は、解散時勢力110からどれだけ上積みできるか。党内には150程度が獲得できれば、今後の政権交代への足掛かりになるという見方もある。
以上、見てきたように選挙情勢については、与野党の勢力逆転の確率は低いとみている。但し、これまでのような1強状態から、与野党の勢力が接近ないし、伯仲する可能性が大きいのではないかと見ている。
政策、説得力と具体性はあるか
次に政策面の争点について、与野党の議論はどこまで深まっているか。各党の選挙公約や各党の党首討論、公示日の各党首の第1声などを基にみておきたい。
◆第1は、コロナ対策だ。岸田首相をはじめ自民党は、3回目のワクチン接種をはじめ、経口治療薬の実用化、さらには、病床確保のため、行政がより強い権限を持てるように法改正を行うことなどを訴えている。
但し、これまでの政府対応のどこに問題があり、国と地方の連携のあり方などをどのように改善していくのかといった点について、踏み込んだ説明は聞かれない。
これに対し、立憲民主党の枝野代表など野党側の方が、水際対策をはじめ、PCR検査の拡充、患者の入院調整を地域の開業医で分担する取り組み、さらには、政権の司令塔機能の強化に向けた体制づくりなどなど内容が具体的で、説得力があると感じる。
◆第2は、格差是正のために、分配のあり方を含む経済政策だ。岸田首相は「新しい資本主義構想を掲げ、成長と分配の好循環で、国民の所得を上げる」と訴えている。但し、分配に必要な成長の果実をどう生み出すのか、好循環にどのようにつなげていくのか、納得のいくような説明はない。
野党側は「分配なくして成長なし」と分配最優先を掲げ、財源は大企業や富裕層に対する課税を強化すると強調している。但し、こうしたやり方で、持続性があるのかどうか疑問視する声も根強い。
このほか、野党によっては「改革を通じて成長につなげる」「雇用の流動化で所得を増やす」「消費税の引き下げ」など様々な提案が出されている。
有権者の側が知りたいのは、コロナ感染の再拡大を抑えながら、どのようにすれば日本経済・社会を立て直していけるのかという点だ。与野党双方とも、具体的な方法と道筋を示して議論を深めてもらいたい。
◆さらに、外交・安全保障分野では、北朝鮮のミサイル発射が繰り返されている。また、米中対立が激化するなかで、中国とどのように向き合うのか、防衛・軍事だけでなく、外交・安全保障の基本的な構想も問われている。
このほか、エネルギーや原発政策、長期政権の下でこれまで相次いだ政治とカネの問題、さらには、選択的夫婦別姓など多くの問題を抱えている。
報道各社の世論調査をみると、有権者の側は、与野党のどちらに投票するかわからないと答える人の割合が4割近くもいる。このことは、各党の政策論争などを聞いても、1票を入れようというところまで納得していない現れではないか。
今回の衆院選は異例の短期決戦だ。政党、候補者の側には、有権者が知りたい点に応える政策論争をさらに深めてもらいたい。
一方、有権者の側も、1票を投じなければ政治・行政は変わらない。衆院選の投票率は、このところ50%前半の低い投票率が続いている。コロナ禍の衆院選、より良い社会をめざして1票を投じたい。