通常国会が1月20日に幕を開け、本格的な論戦が始まる。
今年は、半世紀ぶりに再び開かれる 東京オリンピック パラリンピック・イヤー。本来は、日本の将来社会をどのように築いていくのか、国会での建設的な議論が期待されていた。
ところが、昨年秋以降、政治とカネをめぐる不祥事や疑惑が相次ぎ、止まるところを知らない。通常国会を前に不祥事がこれだけ続くのは、極めて異例、異常な事態だ。端的に言えば、”不祥事山積 国会”と言わざるを得ない。
このため、一連の不祥事・疑惑をできるだけ早く総ざらいし、激動する内外情勢に対応できるよう政策論議を深めていく必要がある。
この”不祥事山積国会”、安倍政権、与野党双方がどのように対応していくのか、2020年の政局のゆくえを左右する大きな意味を持っている。
今国会の特徴と与野党の戦略
最初に今年の通常国会の特徴から見ておきたい。
召集日が1月20日で、会期は150日間、6月17日が会期末となる。首都東京の知事選挙の告示が翌18日で選挙戦がスタート、投票日が7月5日。続いて、7月24日から、いよいよ東京オリンピック開会へと重要日程が立て込んでいる。
このため、国会の会期延長は難しい。政府・与党は、事業規模26兆円の大型補正予算案を早期に成立させるとともに、過去最大規模の新年度予算案を年度内に成立させることを一番の目標にしている。
これに対して、野党側は、去年秋の臨時国会で取り上げた「桜を見る会」問題を引き続き追及するのをはじめ、カジノを含むIR汚職事件で、元内閣府の副大臣を務めた現職国会議員が逮捕された問題、さらには自衛隊を中東に派遣する問題を3点セットにして、徹底追及する構えだ。
予算案と 不祥事をめぐる攻防
そこで、私たち国民の側は、この国会、どこを見ていくとわかりやすいのか。
まず、補正予算案は台風19号や大雨被害の復旧対策が盛り込まれており、野党側も強く反対しづらい。
新年度予算案も与党が圧倒的多数を占めていることを考えると、年度内の成立がずれ込む事態は想定しにくい。年度内成立は、予定通りと見てよさそうだ。
そうすると次の焦点は、一連の不祥事にどうケジメをつけるかが問題になる。このところ、安倍政権をめぐる不祥事の多さには、驚かされる。
発端になった去年10月、新閣僚2人の連続辞任以降を整理してみると次のようになる。
不祥事 短期間に多発、説明なし
◇去年10月下旬 初入閣の菅原前経産相と河井前法相が連続辞任
◇10月 萩生田文科相「身の丈発言」大学共通テスト制度改革見送り
◇11月「桜を見る会」疑惑、国会で問題、公的行事を私物化批判など
◇12月 かんぽ生命問題、現職の総務省事務次官が情報漏らし更迭
◇12月 IR汚職事件、元内閣府副大臣の秋葉司衆院議員逮捕
◇今年1月 河井案里参院議員と夫の河井前法相の事務所 捜索
安倍政権では、これまでも森友問題と財務省の決裁文書の改ざん、自衛隊の日報問題、加計問題などが表面化したが、それぞれ個別、単発型だったと言える。
ところが、今回は去年10月下旬から2か月余りの短期間に、現職閣僚、首相、官僚トップ、元副大臣など政権関係者が関わる問題が、噴き出す形で起きている。
また、政権の看板政策のIR事業をめぐる汚職事件、大学入試制度改革の柱が先送りされるといった政策面にも影響が及んでいる。
さらに不祥事に対する説明が十分なされていない。例えば、発端の2閣僚の辞任でも当事者が姿を消したままで、説明責任を果たしていないと与党内からも批判が出ている。そして、ケジメがつかないうちに別の新たな問題が起きるといった悪循環が続いている。
不祥事の総ざらい、本質論も
国会論戦では、当面、こうした不祥事に対する安倍政権の対応が、焦点になる。但し、一部からは例えば「桜を見る会」について、“予算額”は1億円にも達していない。たかが桜の問題。国会は大きな問題を議論をすべきだ”といった政権擁護論も聞かれる。今後も同じような意見が出されることが予想される。
しかし、仮に小さな問題としても、放置していれば大きな問題に発展する恐れがある。特にこれからは社会保障制度改革で、国民に負担増・痛みを求める時代を迎える。スキャンダルには厳しいケジメ、公正な行政が必要不可欠だ。
まずは、安倍首相が相次ぐ不祥事に真正面から向きあい、事実関係をきちんと説明し、今後の対応策を打ち出すなど不祥事の総ざらいと信頼回復が急務だ。
施政方針演説などの国会冒頭から、率直に自らの考えを表明した方がいい。
一方、与野党双方とも不祥事の本質に踏み込んだ議論を行ってもらいたい。
例えば「桜を見る会」で、あきれるのは、なぜ、いつまでも公文書の廃棄が続くのか。森友問題で改善のガイドラインを打ち出したのに効果が全くない。官僚にどのように文書を残させるのかを具体的に示す必要がある。
「カジノを含むIR汚職事件」では、カジノ・IRは観光先進国にふさわしいのか。地域振興・地方創生に役立つのか国民の疑問に答える議論を注文しておきたい。
将来社会の姿、徹底論争を
通常国会の論戦では、当面、不祥事の問題に議論が集中するのはわかるが、それだけに終始しては困る。国民としても他に聞きたい課題、問題が多いからだ。幾つか、具体的な課題を挙げておきたい。
まず、自衛隊の中東派遣問題。わが国の原油輸入の重要な海域であることは理解するが、今回の派遣目的、法的な根拠、自衛隊員の安全確保は大丈夫なのか。
アメリカのトランプ政権の外交や北朝鮮の非核化問題も抱えており、国会で安全保障論争をもっと活発に行う必要がある。
次に、大学入学の共通テストのあり方。今回、民間英語試験や、数学と国語に記述式問題の導入が見送りになったが、なぜ、直前まで見直しができなかったのか。検証結果と今後の入学試験制度改革について、受験生や関係者の納得が得られる取り組みを強く求めておきたい。
さらに、この通常国会には、中小企業で働くパート労働者に厚生年金への加入を義務づける年金改革法案などが提出される。国民の側には、将来の社会保障制度は維持できるのか、将来不安は根強い。安倍政権が掲げる全世代型の社会保障制度改革の是非を含めて、議論を深めてもらいたい。
オリパラ後の政局を左右
ここまで通常国会が抱える課題を見てきたが、焦点は、安倍政権が「不祥事山積 国会」を乗り切ることができるかどうかだ。安倍政権の求心力・政権の体力、あるいは、東京オリパラ後の政局のゆくえを左右することになる。
具体的には、安倍政権が不祥事山積国会を乗り切り、求心力を高めることができれば、今年、衆議院解散・総選挙へ打って出る道が開けることになる。
逆に、求心力が低下してくると、いわゆる”オリンピック花道論”のような早期退陣論、そこまでいかなくても”政権末期のレーム・ダック”=死に体状態へつながっていく可能性が出てくることになる。
通常国会の与野党の論戦は、次の衆議院解散・総選挙をにらんだ攻防という意味合いを持っており、激しい駆け引きが展開される見通しだ。
また、通常国会が終わる頃、安倍内閣の支持率がどんな状態になっているのか。現状は、下降局面が続いており、今後、どんな推移をたどるのか。
まずは、”不祥事山積国会”、安倍政権の対応、それに与野党の攻防が、どのような展開になっていくのか、じっくり見ていきたい。