新型コロナ感染に歯止めがかからない中で、政府は10日、東京など13都県に出している「まん延防止等重点措置」を3月6日まで延長する方針を決めた。また、新たに高知県を対象に加え、合わせて36都道府県で重点措置が続くことになる。
岸田政権は、これまで安倍、菅両政権を反面教師に”先手、先手の対応”をアピールしてきたが、年が明けて3回目のワクチン接種の遅れや抗原検査キット不足などの”誤算”が続いている。
まん延防止等重点措置の長期化も予想される中で、岸田政権は感染危機を抑え込めるのか、オミクロン対策では具体的に何が問われているのか、岸田政権の対応を点検してみたい。
”後追い”目立つ コロナ対策3本柱
岸田首相は9日夜、コロナ対策で関係閣僚と協議した後、記者団に対し「これまでと異なったオミクロン株との戦いは、今、正に正念場を迎えている。私の責任で、迅速で機動的な判断と実行を進めていきたい」と決意をのべた。
そのうえで、政府の基本的対処方針に感染速度が速いオミクロン株に対応するため、臨時の医療施設の整備や、学校、保育所、高齢者施設などの感染対策を強化することなどを盛り込んだ。
こうした内容はいずれも必要な対策と思うが、問題の核心は、岸田政権が発足以降、3本柱として打ち出してきたワクチンの追加接種、検査体制の強化、それに経口治療薬の迅速な提供がどこまで実行できたかという点にある。
年明け以降の政府対応をみていると、ワクチン対策では3回目接種の間隔について、一般の人では原則8か月以上から、7か月、6か月へと短縮するなどの方針変更に追われた。
また、感染した人との濃厚接触者が、自宅や宿泊所で求められる待機期間についても当初の14日間から10日間、1月末には7日間に短縮するなど”後追いの対応”が続いている。
一方、3回目のワクチン接種を終えた人は、8日時点のデータで914万人、接種率7.2%に止まり、思うように進んでいない。
抗原検査キットについても、爆発的な感染急拡大で、自ら検査したい人たちの急増に供給が追い付かず、薬局や医療機関でも入手が困難な状況が続いている。
さらに飲める治療薬の供給量が十分ではないと国会で野党側が追及したのに対し、政府側はいつ頃、必要な人に届けられる状態になるのか見通しを示すことができなかった。
オミクロン新対策と実行態勢の強化
それでは、岸田政権のコロナ対策では何が必要なのか。国会での論戦を基に考えるとオミクロン株の特性の分析に基づいた「新たな総合的な感染対策」を早急に打ち出す必要があるのではないか。
今回のオミクロン株は、感染力は極めて強く、今も感染者数が全国で1日9万人前後も確認される一方で、重症化率は低いなどの特性が指摘されている。
また、感染しても症状が現れない軽症者や濃厚接触者になったために仕事を休まざるを得ない人も増えている。その結果、医療機関、保育所、高齢者施設、ごみ収集などの社会機能をどのように維持していくか新たな問題も起きている。
これに対して、政府は、濃厚接触者の待機期間を短くするなど対応策を次々に出しているが、細切れでわかりにくい。そこで、検査から、陽性者などの隔離や待機、治療などの対策全体を盛り込んだ「新たな総合的な対策」が必要だと考える。
全国知事会も政府に対し、「オミクロン株の特性等を踏まえた感染対策」を早急に確立、実行するように求める提言を出している。また、政府が11月にまとめた対策の全体像を見直すことを求めており、こうした提言に賛成だ。
▲岸田政権が問われる2点目は「検査体制の拡充」だ。感染第1波の時から、専門家や、メディア、野党が繰り返し主張している論点だが、政府・厚生労働省の危機感は乏しく、対応も鈍かった。
岸田首相も11月段階で「検査も抜本的に拡充する。感染拡大時には、無症状者でも無料で検査を受けられるようにする」と強調していた。ところが、抗原検査キットは品薄、政府は「検査は自分で」と勧めながら、薬局では手に入らない。
日本はキットの多くを輸入に頼っており、政府は、国内メーカーに1日80万回分まで増産するよう要請した。但し、要請したのは1月14日という遅さだ。
自民党の閣僚経験者に聞くと「経済・社会を回すためにも検査が重要だ。検査キットは数千万キットくらい保有すべきで、国が買い取りを保証、増産させるべきだ。PCR検査も38万件まで検査能力を増やしてきたが、100万件くらいまで拡大した方がいい。大胆に舵を切るべきだ」と指摘している。
▲第3は「ワクチン接種の加速」だ。3回目のワクチン接種が進んでいない現状は、先に触れた。
その背景だが、与野党の関係者とも「去年秋、感染が急減していた時の対応がなっていない。自治体の中には、年末早めの接種ができたのに、厚生労働省がすべての自治体がそろうまでブレーキをかけたことが大きい」と指摘。岸田政権の指導力を問題視する声を聞く。
岸田首相は、ワクチン接種の目標設定に消極的な姿勢を続けてきたが、7日、「1日100万回」を目標に2月後半の達成をめざす考えを明らかにした。国会で野党からの批判、報道機関の世論調査で内閣支持率に陰りが出始めたことを懸念したのかもしれない。
ワクチン接種の目標設定は遅きに失した感じもするが、切り札であるのは間違いないので、猛スピードで追加接種を進めてもらいたい。
対策の実行力、政権の行方を左右
ここまで岸田政権の対応を見てきたが、安倍政権や菅政権のコロナ対策の失敗を教訓に対策をまとめており、方向性は間違っていないと思う。
問題は、首相官邸が中心になって、対策を実行に移していく実務能力、具体的には、厚生労働省を指示したり、全国の自治体と連携・調整を進めたりする力が弱い点ではないか。
また、岸田首相の姿勢も水際対策として、11月末に外国人の新規入国の停止を打ち出すといった時期までは意欲的な姿勢が感じられた。
ところが、年明け以降は安全運転、守りの姿勢が目立つ。まとまった記者会見は去年12月21日に行って以降、行われていない。
国会の答弁でも、オミクロン株対策をまとめて説明したりする場面もほとんど見られない。トップリーダーとして、国民に向けた対策の説明・説得、それに強い決意と攻めの姿勢は不可欠だ。発信力も不足している。
オミクロン株感染のピークは近いとの説もあるが、高止まり状態が続くとの見方も根強い。今月20日には、一度延長した沖縄など3県と、北海道や大阪府など18道府県の重点措置の期限が近い。
岸田政権がオミクロン危機の出口を見いだせるか、それとも混迷のトンネルで試行錯誤を続けることになるのか、分かれ道に差しかかりつつあるように見える。夏の参院選や岸田政権のゆくえも、オミクロン感染対策が大きく左右する図式は、変わっていない。(了)