ウクライナ危機と日本防衛力整備の考え方

ロシア軍によるウクライナへの侵攻は、東部地域でロシア側の攻撃が激しさを増しているが、ウクライナ側の抵抗も強く一進一退の状況が続いている。

こうした中で、節目とみられる「5月9日」が近づいている。旧ソ連の対独戦勝記念日で、プーチン大統領がこれまでの侵攻をどのように評価し、どんな戦い方を打ち出してくるかが、大きな焦点だ。

これに対して、アメリカとヨーロッパ諸国は、ウクライナ側に軍事面の支援を強化しており、ウクライナでの攻防は長期化を予想する見方が強い。

ウクライナ情勢を日本から見て感じるのは、ウクライの大統領をはじめとする政治家、軍人、国民が、ロシア軍の激しい攻撃と甚大な被害を受けながらも、強い意思で自国の独立と尊厳を守り抜こうとしている姿勢だ。

そこで、ウクライナ危機からの教訓として、日本は何を学ぶべきか。外交・安全保障、特に日本の防衛力整備のあり方について、考えてみたい。

 日本外交・安全保障 幅広い考え混在

まず、ロシアのウクライナへの侵攻を受けて、日本の外交・安全保障のあり方について、政治家・政党はどのような考え方をしているのか整理しておきたい。

積極的な発言を続けているのは、安倍元首相だ。プーチン大統領が核使用にも言及したことを受けて、NATOのようにアメリカとの間で核の使用をめぐる「核共有」の議論を行うよう問題提起をしたほか、日本の防衛費を6兆円まで増強するよう提案している。

これに対し、岸田首相は非核三原則は堅持するとして「核共有の議論は行わない」との考えを示した。そのうえで、ロシアに対する経済制裁をG7と連携して実施するとともに「憲法、平和安全法制、専守防衛の枠内で、抜本的な防衛力を強化したい」という考えを表明している。

与党・公明党の山口代表は、専守防衛、非核三原則、国際協調の基本原則を堅持するとともに「中国なども含めたアジアの安全保障の対話ができる枠組みを設置すべきだ」と提唱する。

これに対して、野党第1党・立憲民主党の泉代表は「日本が強い攻撃兵器を持てば、周辺国も保有し軍備拡張競争となる。防衛費は着実な積み上げで対応すべきで、抑制的な安全保障政策であるべきだ」との考えを明らかにしている。

国民民主党の玉木代表は、非核三原則のうち「持ち込ませず」については、アメリカ原潜の日本寄港なども想定して、アメリカや日本国民との議論が必要だとの立場だ。

共産党の志位委員長は「日本の強みは、軍事に頼らず平和を追求する国としての信頼力だ。憲法9条を生かした外交に知恵と力を尽くすべきだ」と強調する。

これに対し、日本維新の会の馬場共同代表は、日本独自の防衛力を整備するとともに防衛費をGDP2%まで早期に引き上げるべきだと増強路線を提唱している。

このように与野党の外交・安全保障の考え方には、相当な開きがある。自民党内でも核共有を含む軍備大幅増強路線と、堅実な防衛力整備を図るべきだとする2つの流れがある。与党の公明党は大幅な増強路線には慎重だ。

野党側は、非軍事路線から、抑制的な防衛力の整備、さらには自民党並みの防衛力増強論まで、混在状態というのが現状だ。

 国民、国力、防衛力の中身がカギ

それでは、日本の防衛力の整備のあり方や進め方をどのように考えるか。ウクライナ国民は、大勢の犠牲者を出し、猛烈な攻撃を受けながらも徹底した抗戦を続けている。度重なる侵略の歴史や、自由な社会への渇望、政治リーダーの求心力なども影響しているものと思われる。

日本の場合は、先の太平洋戦争を引き起こした責任も影響して、野党第1党の社会党は非武装中立を掲げ、軍事・防衛の各論には踏み込まない傾向があった。また、自民党の保守政権も軽武装・経済重視路線を取ったことも影響している。

一方、日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増している。北朝鮮による相次ぐ弾道ミサイルの発射をはじめ、中国の軍事力の急拡大、それに今回のロシアの侵略などを合わせると日本の防衛力のあり方を見直す時期を迎えていると考える。

但し、短兵急に結論を出すのではなく、戦後日本の平和外交や安全保障の基本原則なども踏まえて、慎重で徹底した検討を行ってもらいたい。

具体的には、まず、国民世論の理解と支持が不可欠だ。いくら防衛費を増強し最新の防衛装備をそろえても、国民の支持がなければ何の意味もない。国のリーダーが、基本的な考え方を説明し、国民の理解と協力を得ることが大前提だ。

また、防衛力整備は5年、10年と長い期間がかかる。国力、国の経済や財政が安定していなければ、持続的に進められない。ドイツは今回、防衛費のGDP2%引き上げる方針を打ち出したが、ドイツの公的債務はGDPの70%程度に抑えてきた強みがある。

これに対し、日本のGDPは伸び悩む一方、国債残高は1000兆円を超え、政府の債務はGDPの2.5倍にも達している。防衛費をどの程度増やせるのか、国力・経済力を高める政策とセットで考える必要がある。

さらに防衛力のどの分野を重点的に整備するのか。武器などの正面装備に目が行きがちだが、日本は弾薬の備蓄など継戦能力が弱いといわれ、防衛力整備の中身が問われる。

一方、外交・安全保障をめぐっては、冒頭に見たように与野党の考え方に相当な開きがある。岸田政権は、4月末に自民党の安全保障調査会がとりまとめた提言に沿って、防衛力の整備を進める方針だとみられる。

この提言では、従来の「敵基地攻撃能力」という表現から「反撃能力」という名称に変えて、弾道ミサイル攻撃に対処するほか、NATO諸国の国防予算のGDP2%を念頭に5年以内に必要な予算水準の達成をめざす方針を求めている。

この提言を受けて、岸田政権は、年末の国家安全保障戦略の改定時期まで先送りするのではなく、外交・安全保障の基本的な考え方を明らかすべきだ。その際、日米の役割分担を踏まえて、日米同盟の強化につながる取り組みが必要だ。

5月の大型連休が明けると今の通常国会は会期末まで1か月程度しかなく、その後は直ちに参院選挙に突入する。5月下旬には、ウクライナ情勢などに伴う物価高対策の補正予算案も提出される。経済運営と防衛力整備の両面について、与野党が突っ込んだ議論を見せてもらいたい。(了)

 

 

 

 

 

 

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です