揺れる東京五輪と日本政治 コロナ危機

中国・武漢で発生した新型コロナウイルスの勢いは止まらず、WHO=世界保健機関は12日、「新型コロナウイルスは、パンデミックと言える」と世界的な大流行になっているとの認識を表明した。

日本国内では、異例の小中高校の一斉休校、大相撲は無観客で開催、春の選抜は中止に追い込まれた。13日、株価はバブル崩壊以来の大幅下落。国会では、首相の非常事態宣言が可能になる特別措置法が成立と急展開が続いている。

さて、気になるのは、東京オリンピック・パラリンピックのゆくえだ。アメリカのトランプ大統領は1年延期の可能性に言及。安倍、トランプ電話会談で、安倍首相は「開催に向け、全力で頑張っている」と巻き返し。

万一、中止、延期になると日本政治はたいへんだ。安倍政権のダメージはもちろんのこと、来年秋にタイムリミットの衆議院の解散・総選挙はいつやるのか。

今回の新型コロナウイルス危機は、東京五輪をはじめ、日本政治にどんな影響をもたらすのか探ってみる。

 五輪の開催判断は、IOCにあり

最初に話の前提して、確認しておきたいのは、オリンピックの開催、中止などの判断は誰にあるのかという点。残念ながら、日本政府にはない。IOC=国際オリンピック委員会にある。

2020年のオリンピック・パラリンピック大会の開催都市を決定した際に、東京都、JOC=日本オリンピック委員会、IOC=国際オリンピック委員会の3者で契約を締結している。それによると大会中止の権限は、日本政府や東京都にあるのではなく、IOCが単独の裁量で、中止する権利を有すると書いてある。

マラソンの開催場所が、東京から札幌に変更になった時と同じようにIOCに権限がある。このことを頭に入れておいていただきたい。

 米大統領「1年延期発言」の波紋

さて、驚いたのは、アメリカのトランプ大統領が12日、ホワイトハウスで記者団の質問に答えた発言だ。東京五輪について「無観客など想像できない。あくまでも私の意見だが、1年間延長した方がよいかもしれない」。

さっそく、翌13日に行われた日米首脳の電話会談。安倍首相は「オリンピック開催に向けて、日本として全力で頑張っている」とアピール。トランプ大統領は「日本が透明性のある努力を示していることを評価する」と応えたとされる。

トランプ大統領から、開催延期やむなし発言に関連した言及はなかったというが、延期発言の重さと波紋の大きさを個人的には感じる。

 与党幹部 ”4月中旬押さえ込み”論

安倍総理大臣や、橋本五輪担当大臣ら政府関係者は、いずれも大会の延期や中止は一切検討してないとして、予定通りの開催を強調。東京オリンピックの聖火の採火式が12日ギリシアで行われ、20日には日本に到着する予定だ。

一方、与党幹部に見通しを聞くと「予定通り開催するためには、4月中旬には国内の感染押さえ込みができないといけない。IOCの一部委員が、5月末に判断すると言っているようだが、遅すぎる。また、”風評被害”もなくすることが重要だ。”風評被害”とは、海外の著名選手が、感染の広がりを理由に日本行きを拒否するような発言をする事態だ」。

別の医療分野に精通している自民党議員も「3月下旬から4月上旬にかけて、ウイルスを押さえ込み、4月中旬には、出口戦略を打ち出す必要がある」と同じような考えを示している。

今後の注目点は、専門家会議が3月19日に国内の感染状況や、今後の対応の仕方などについてどんな方向性を打ち出すか。また、4月中旬から5月末にかけて、感染押さえ込みが成功するのか、出口戦略を打ち出せるのかが焦点だ。

 今後の政治シナリオへの影響

それでは、今回のコロナウイルス危機は、今後の日本政治どんな影響を及ぼすのだろうか?

今回のウイルス危機の震源地は中国は、世界のGDPの19%も占めている。武漢はチャイナ7の一つで、イノベーションの中核都市だ。サプライチェーンの混乱、訪日観光客の大幅減少も避けられないので、日本経済への打撃は深刻だ。

つまり、景気と雇用に影響が出ると、アベノミクス、安倍政権へのダメージも予想以上に大きくなることが想定される。

政治への影響はどうか。今年1月のブログで、政治シナリオを3つ予測した。
①東京オリパラ後の年内解散断行。②”オリンピック花道論”。安倍首相が影響力を残して退陣。③ポスト安倍、衆院解散・総選挙とも来年へ持ち越し。

コロナウイルス危機は、一旦、収まってもぶり返しあるということで、専門家は半年から1年程度警戒が必要と指摘。また、日本経済立て直しへ大胆な取り組みが必要になる。

そうすると、最長政権といえども、シナリオ①、②のような余裕はとてもない。③の可能性が大きくなるのではないか。つまり、総裁選び、解散・総選挙といった重要政治日程は「後ろへずれ込む」というのが、私の今の時点での見立てだ。

 WHOからの求めで開催断念も

IOCのバッハ会長は12日、ドイツのテレビ局のインタビューの中で、東京オリンピックの予定通りの開催をめざしていると強調した。一方で、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、WHOから大会の中止を求められた場合は、開催を断念せざるをえないという考えを示した。

冒頭に申し上げたようにオリンピック開催の是非の判断は、東京都、日本政府にはない。IOCが権限を持っている。そのIOCの会長が、WHOの判断に従わざるを得ないと語っているのである。

そうすると日本が大会を予定通り開催するためには、まずは、国内の感染を押さえ込むことは、最低限の条件だ。
次に、日本は押さえ込みに成功したとしても、海外諸国での感染が収まらないことも十分ありうる。WHOが開催に難色を示し、開催の条件が整わないこともありうる。ハードルはかなり高い印象を受ける。

日本としては、やるべきことをやるしかない。まずは、3月19日の専門家会議がどんな方向性を打ち出すか。4月中旬以降の日本の感染押さえ込み状況がどうなるか。日本の危機管理能力、取り組み方が問われている。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です