新型コロナウイルスのパンデミックが、世界を震撼させている。日本もこの危機をどのように乗り切っていくか正念場を迎えている。
緊急経済対策を実施していくための補正予算が、ようやく4月30日に成立にこぎつけた。事業規模は117兆円で過去最大、歳出は25兆円という大規模な経済対策、国民1人に10万円一律給付という異例の対応策も盛り込まれている。
但し、安倍首相が緊急経済対策のとりまとめを表明したのが3月28日、迷走のすえ、1か月もかかってしまった。迅速果敢な対応とはいかなかった。
一方、緊急事態宣言の期限が5月6日に期限を迎えるが、全国一律に1か月程度延長される見通しだ。
本予算に続いて、4月に補正予算も成立という異例の展開。これからの安倍政権、日本の政治は何が問われているのか、課題と対応策を考えてみたい。
3つのハードル 補正予算成立後
最初に結論を明らかにしておいた方がわかりやすい。安倍政権としては、当面「3つのハードル」が待ち構えている。
▲1つは「感染収束のメド」をつけること。そのためには、緊急事態宣言を延長する場合、延長期間に何を最重点に取り組むのか、「重点目標と、安心・納得のいく政策とメッセージ」を国民に打ち出す必要があるのではないか。
▲2つ目は「学校再開のメド」をつけること。9月入学制の導入を含めて、子どもたちの教育、家庭や地域の安定のためにも、できるだけ早く方向性を出す必要がある。
▲3つ目は「暮らしと経済の追加対策と将来社会の構想」の議論を深めること。新型感染症の拡大は事実上、戦後初めての経験で、事態の変化に即して追加の対策を随時、打ち出してもらいたい。
同時に、大恐慌以来の経済危機との指摘もある。危機の位置づけや、日本の将来社会の構想を関係づけて、今後の全体の方向・道筋を示してもらいたい。
なぜ、こうした結論になるのか、その理由と今後のあり方を以下、説明したい。
感染収束へ医療の点検・整備を
さっそく、第1のハードル、今回の危機の根本「感染の収束」にメドをつけられるか。特別措置法に基づく緊急事態宣言が5月6日に期限を迎える。政府は、感染拡大は依然、厳しい状況が続いているとして、全国を対象に1か月程度、延長する方針だ。
今の時点で、解除できる状況にはないことは理解できるが、延長の理由、今後の見通しなどについては、専門家の意見を含めて、丁寧に説明してもらいたい。
同時に政府のこれまでの対応は、”外出自粛などの要請ばかり”という印象を受ける。政府や都道府県知事はどんな取り組みを行い、効果はあったのか分析、説明をする必要があるが、説明はほとんどない。家庭用マスク、消毒液、医療現場の防護器材の不足、PCR検査の実施件数の少なさなどを見れば明らかだ。
今回、政府がやるべきことは何か。宣言を延長する場合、「延長期間の具体的な目標と、安心・納得のいく政策・メッセージ」を打ち出してもらいたい。
具体的な目標とは「医療提供体制の点検・整備と財政投入」。国民が中々、安心、納得感が得られないのは、政府・自治体は医療崩壊にどこまで本気で取り組もうとしているのか伝わって来ない点にある。
国会での審議を聞くと、民間病院が感染者受け入れると特別な病床の確保などで月に億単位の費用がかかり、減収になるという。補正予算での医療関係の交付金が1500億円では足りないことは、私のような素人でもわかる。
例えば、田中角栄元総理だったら「医療整備に1兆円の予算を投入する」とか、国民に安心感を与える政策を打ち出したのではないか。危機の時こそ、政治主導が必要だ。安倍政権は事業規模は大きく見せるが、肝心の所への財政投入が弱く、不十分と言わざるを得ない。
医療提供体制を確保できていれば、感染が長期化した場合、収束後に第2波が襲ってきた場合も、感染症との戦いを継続できる。生命線なのである。
学校の再開と9月入学問題
第2のハードルとして「学校の再開」問題がある。これに合わせて、都道府県の一部の知事や野党などから、入学や新学期の開始の時期を9月に変更する「9月入学制」を求める意見が出ている。安倍首相も「前広にさまざまな検討をしたい」との考えを示している。
学校再開の問題は、基本は地方自治体の教育委員会に最終的な決定権がある。感染の収束の時期がどうなるか、地域によっても違いがある。子どもたちの学ぶ機会の保障、健康面への影響の両面から検討してもらいたい。
早い時期の再開をめざすか、思い切って夏休みまで休校して秋の再開をめざすのか、具体的な方法などに知恵を絞ってもらいたい。「地域の実状に合わせた自主的な取り組み」に委ねるのがいいのではないか。
次に9月入学制は、休校に伴う学習の遅れを取り戻せることが期待できるほか、秋の入学が多い海外への留学がしやすくなるなどの利点が考えられる。
一方、幼稚園の入園や学校の入学までの期間が5か月延びることになる。家庭の経済的な負担増といった意見のほか、今年からの導入は拙速すぎるといった声も聞く。
この問題、入学試験、企業の採用時期など社会全体に幅広く影響を及ぼす。まずは、論点整理から始めてはどうか。また、日本の将来社会のあり方とも関係してくる。文部科学省と全国の教育関係者が中心になって、今後の選択肢をできるだけ早く示してもらい、社会全体で議論を深めていきたい。
追加対策と将来社会構想
第3のハードルは「追加対策と将来構想」の論議だ。政治は、現実の問題を解決するのが仕事だ。感染症の影響は見極めが難しい。追加対策は事態の変化に即して随時、打ち出していくことが必要だ。例えば、家賃の支払いが困難な事業者への支援、アルバイト収入が減って生活が困難な大学生に対する授業料の減免なども与野党が協力して、実現してもらいたい。
その上で、国会でもっと議論を深めてもらいたいのが、「感染症の危機の認識」と「将来社会の構想」をめぐる議論だ。
IMF=国際通貨基金は「今年の世界経済は、マイナス成長だったリーマンショックを下回り、1929年に発生した大恐慌以来、最悪の景気後退」になる見通しを示している。日本は、今年・2020年はマイナス5.2%、2009年のマイナス5.4%に迫る低い水準を予測している。
安倍首相は補正予算案審議の中で「今回は、リーマンショックや、大恐慌より厳しい」との認識を示すとともに、第1のフェーズは感染を抑え、雇用と事業を継続する。第2のフェーズで経済のV字回復をめざす構想を示している。
これに対し、立憲民主党の枝野代表は「危機の時代は、弱者にしわ寄せがいかないみんなで支え合う社会、負担能力に応じた分かち合いの社会」を訴えている。
国民が知りたいのは「感染危機収束後の日本社会の将来像と柱となる政策」だ。政権を担当している安倍首相、”ポスト安倍”をめざす候補者、さらには野党各党のリーダーを中心に国会で活発な論戦を戦わせてもらいたい。
合わせて、今の国会議員の任期も残り1年半となった。しかし、党利党略の解散・総選挙の時期をめぐる駆け引きを行う時間的余裕はない。
与野党双方とも、この1年は、日本経済・社会の立て直しと将来社会の構想づくりに専念してはどうか。その上で、来年、時期を見て国民の審判を仰ぐのが、政治の王道ではないか。
私たち国民の側も政権、政党の対応をじっくり見極め、次の選挙で日本の将来構想とリーダーを選ぶのがいいのではないか。その前提、いずれにしても、まずは、感染危機の収束に全力を挙げたい。