終盤国会と解散風で問われる点

G7広島サミットが21日閉幕し、政治の焦点は、終盤国会の与野党の攻防に焦点が移った。同時にサミット効果などで岸田内閣の支持率が上昇し、自民党内では衆議院の早期解散に踏み切るべきだという声が強まっている。

こうした解散風は本物になるのか。終盤国会では何が問われているのか、みていきたい。本論に入る前にG7広島サミットについて、手短に触れておきたい。

結論を先に言えば、これまで日本で開催されたサミット7回の中では、内外の関心を最も集めた首脳会議と言っていいのではないか。

被爆地・広島でのサミットという点もあるが、やはり、世界が一挙手一投足を注視しているウクライナのゼレンスキー大統領が電撃的に来日し、G7首脳や新興国首脳との会合に参加した効果が大きい。

G7はウクライナへの支援を強化するとともに、ロシアへの制裁継続を確認した。また、核保有国を含めて各国首脳が原爆資料館を視察し、展示資料を通じて被爆の実態に触れた点も評価していいのではないか。

但し、問題は、全てこれからだ。ウクライナの反転攻勢もこれからであり、欧米の軍事支援が強化されつつあるとはいえ、戦況が好転するか予断を許さない。

専門家によるとこれから数か月、場合によっては半年、大きな山場を迎えるとの見方もある。日本のG7議長国としての役割は、年末まで続く。国内の一部にある早期解散論で浮き足立つような状況には全くないと思うが、どうだろうか。

 終盤国会、防衛・少子化財源問題が焦点

それでは、本論に入って終盤国会はどうなるか。国会の会期は会期末の6月21日まで1か月を切ったが、与野党の論戦の焦点としては、2点ある。

1つは、防衛費の増額に伴う財源確保法案の扱い。2つ目は、岸田政権が最重要課題と位置づける異次元の少子化対策の財源をどのような仕組みで確保するかだ。

このうち、防衛費の財源確保法案は23日、衆院本会議で与党の賛成多数で可決され、参議院に送られた。参議院で審議が始まるが、野党の立憲民主党、日本維新の会、共産党、国民民主党がそろって反対しており、激しい議論がかわされる見通しだ。

少子化対策の財源については、政府は、来年度から3年間で集中的に取り組みを強化するとして、新たに3兆円程度の財源を確保する方向で調整を進めている。

この財源としては、消費増税などの増税ではなく、医療・介護など社会保障費の歳出改革と、社会保険料の上乗せなどで確保することを検討している。

具体的には、健康保険の仕組みを使うことを検討している。これに対して、野党側は「医療や介護など社会保障分野での歳出改革はありえず、社会保険料への上乗せではなく、税で確保するのが筋だ」として、厳しく批判している。

経済界や労働界からも「社会保険料を上乗せすれば、せっかくの賃上げの機運に水を差すことになる」などの異論も出ている。

今月24日と26日には、衆院と参院でそれぞれ予算委員会の集中審議が予定されており、防衛と少子化対策の財源をめぐっては、政府・与党と野党側で激しい議論が戦わされることになりそうだ。

こうした財源問題については、世論の関心も高く、報道各社の世論調査によると政府の防衛増税の方針については、反対の意見が多数を占めている。少子化対策の財源についても社会保険料の活用への賛成は少なく、今後、岸田内閣の支持率にも影響が出てくることも予想される。

今の国会は終始、与党ペースで進んできたこともあって、論戦は極めて低調だった。終盤国会では、防衛と少子化対策の財源問題などを軸に与野党が徹底した議論を尽くすよう強く求めておきたい。

 強まる解散風、勝てる条件・大義名分は

次に衆議院の解散・総選挙をめぐる動きについて、みておきたい。G7広島サミットを受けて、自民党内からは「サミットは大きな成功を納め、世論調査で内閣支持率も上昇している」として、衆議院の早期解散を求める意見が相次いでいる。

こうした背景としては、低迷が続いていた岸田内閣の支持率が回復傾向にあることに加えて、今後は、防衛増税や少子化対策の負担増が具体化してくるので、その前の解散が有利だとの判断が働いているものとみられる。

また、先の統一地方選と衆参補欠選挙で、維新が勢力を大幅に拡大したことから、維新の選挙態勢が整わないうちに解散に打って出るべきだという思惑もある。

一方、与党・公明党の山口代表は、内閣支持率の上昇を理由に解散を考えることは望ましくないとして、早期解散に否定的な考えを表明している。

自民党は小選挙区で議席を獲得するうえでは、公明・創価学会支持層の上乗せで当選した議員も多く、自公の足並みがそろわない中で、与党が勝てる条件を整えられるのか、疑問だ。

また、先の衆院選挙から1年8か月しか経っていない中で、早期解散に踏み切る大義名分は何かという点が問われる。政権与党にとって、今が有利だからというのでは党利党略そのもので、国民の支持はえられないだろう。

 問われる岸田首相の構想と実現力

衆議院の解散・総選挙について、岸田首相は記者団からの質問に対して「先送りできない課題で、結果を出すことに集中しなければならない。今は考えていない」と繰り返し強調している。

一方、自民党内からの早期解散を求める声は強まっており、岸田首相としては最終的にどのように判断するか、今後の焦点だ。

その解散時期について、国民の見方は「今の国会ですぐ」は8%と極めて少なく、「夏以降の年内」18%、「来年」19%、「再来年10月の任期満了まで」が41%で最も多い(NHK世論調査5月)。

要は「解散を急ぐ必要はない」と考えている国民が多い。別の表現をすれば「解散よりも前に、やるべきことがある」と考えている国民が多いということだろう。

岸田首相は、防衛政策の転換で日本の防衛力整備の姿をどのように考えているか。異次元の少子化対策では、何を最重点に実現したいのか。新しい資本主義で何をやりたいのか、いつまでに実行できるのか。

国民は、以上のような岸田政権がめざす政権の具体的な構想を求めているのではないか。その上で、構想を実現していく力を備えているのかどうかを見極めようとしているのではないかと考える。

終盤国会では、大きな論点として残されている防衛と少子化対策の財源問題について、政府・与党と野党側との間で徹底した論戦を尽くしてもらいたい。

そのうえで、国民の側は、岸田首相が解散・総選挙に踏み切るのかどうか。解散の大義名分をはじめ、焦点のウクライナ情勢、政策の争点設定など必要な条件が整っているかどうかで、解散の是非を判断して対応すればいいのではないか。

会期末まで目が離せない緊張した展開が続くことになりそうだ。(了)

★(追記25日22時)次の衆議院選挙に向けた自民・公明両党の候補者調整で、双方の意見の対立が深まり、公明党は25日、東京28区の擁立を断念した上で、東京では自民党の候補者に推薦を出さない方針を決定し、自民党に伝えた。与党の足並みの乱れは、衆院解散・総選挙の時期にも影響を与えることになりそうだ。

 

 

“終盤国会と解散風で問われる点” への1件の返信

  1. 現時点での岸田内閣および政権与党の問題点そして
    やるべきことについて、まことに論理的にしかも
    分かり易く主張が展開されており、納得しかりです。
    G7の評価についても、全く貴殿のまとめられたとおり
    だと思います。
    今回の論旨の軸は、貴殿が終盤にまとめられている
    この文章に尽きると思います。
    「岸田首相は、防衛政策の転換で日本の防衛力整備の
    姿をどのように考えているか。異次元の少子化対策では、
    何を最重点に実現したいのか。新しい資本主義で何を
    やりたいのか、いつまでに実行できるのか。」
    世論調査により、解散の是非やタイミングについて
    国民がまっとうな判断をしていることがうかがえて
    安堵しているところです。
    「解散権」を政争の道具にしてはならないと
    強く強く思います。
    文章について
    最初から2行目
     支持率上昇し、
     →支持率が上昇し、(が あった方が良いと思います)

     5月26日  妹尾 博史
    判断を

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