“2つの危機対応”問われる岸田首相

新しい年・2024年は、厳しい年明けになった。1日夕方4時過ぎ、能登半島を震源とする最大震度7の強い地震が観測され、石川県では1週間たった8日時点で、亡くなった人は168人に増え、安否がわからない人が320人余りに上っている。

一方、昨年末に東京地検特捜部が着手した自民党の派閥の裏金事件は7日、高額なキックバックを受けていたとされる安倍派の池田佳隆・衆議院議員が、会計責任者の秘書とともに逮捕された。裏金事件で、国会議員が逮捕されたのは初めてだ。

支持率の低迷が続く岸田政権にとっては、裏金事件に加えて、新たに地震災害対応が重なることになった。この2つの危機を乗り切ることができるかどうか、今年の政治を大きく左右することになりそうだ。

令和で最大級の災害、問われる危機対応

能登半島地震の被災状況は、冒頭触れたように死者は8日午後2時時点で、168人に上る。100人を超す犠牲者が出た地震は、2016年4月の熊本地震以来で、令和に入って最大級の災害だ。

熊本地震では、大分県を含め死者は276人に上ったが、災害関連死が8割以上を占め、災害による直接的な死者数は55人だった。直接的な死者数では、今回が既に上回っている。

岸田首相は8日のNHK日曜討論で「中小の道路も寸断され、物資の搬入1つとってもたいへん困難な状況が続いているが、自衛隊、警察、消防関係者が最大限の努力をしている」と災害対応の現状を説明した。

これに対して、野党第1党・立憲民主党の泉代表は「自衛隊の派遣が最初は1千人、次いで2千人、5千人と逐次投入となっており、対応が遅い」と批判した。

今回の地震では家屋の倒壊が多く、余震も頻繁に続いていることから、各地に孤立した集落が残されるなど災害全体の状況が把握できない状態が続いている。

政府は、当面、家屋の倒壊などで閉じ込められている人の救出や、孤立地域の救援に最優先で当たっているほか、避難の長期化に伴う生活環境の整備や、被災者の健康管理、さらには被災地域の復旧・復興などの取り組みが求められている。

災害などの危機管理は、政権にとって最優先の課題で、対応を間違うと政権は一気に求心力を失う。阪神・淡路大震災の際の村山政権、東日本大震災時の菅直人政権などは、災害対応に政権のエネルギーを奪われ、退陣へとつながった。

岸田政権は、政権発足直後の新型コロナ感染に続いて、今度は地震災害という異なる分野だが、2度目の危機対応になる。コロナ対応の時は、地域の感染状況の把握や医療提供態勢づくりに対応の遅れが目立った。

今回の能登半島地震では、石川県の避難者は2万8000人を超えている。厳しい寒さが続く中で、犠牲者や行方不明者を最小限に抑えて、被災者の救援と地域の復旧のめどをつけられるかどうか、岸田政権の危機対応力が問われている。

 捜査の本丸は?派閥幹部に伸びるか

もう1つの焦点である「政治とカネ」、自民党の派閥の裏金事件については、年明けに東京地検特捜部が、二階派会長を務める二階俊博・元幹事長から任意で事情を聴いたことが明らかになった。

8日には、安倍派に所属する池田佳隆・衆議院議員が4800万円余りのキックバックを受けたにもかかわらず、政治資金収支報告書に記載せず、政治資金規正法違反の容疑で逮捕された。この事件で、国会議員が逮捕されたのは初めてだ。

池田議員が逮捕されたのは、検察の捜索の前に関係先にあったデータを保存する媒体が壊されていたことがわかり、罪証隠滅のおそれが大きいと判断したためとみられている。

政界では、池田議員と同じく高額なキックバックを受けていたとされる大野泰正・参議院議員、谷川弥一・衆議院議員についても立件されるのではないかとの見方が広がっている。

今回の事件の核心は、派閥が組織的、意図的に裏金作りを続けてきた点にある。東京地検特捜部は、最大派閥の安倍派、二階派の事務総長や経験者など派閥幹部の立件も視野に捜査を進めているものとみられる。

今月下旬に通常国会が召集されるのをにらんで、検察の捜査はヤマ場を迎えている。捜査の本丸が、派閥の幹部にまで伸びるのかどうかが、最大の焦点だ。

 政治改革案、問われる首相の指導力

一方、政治の側の動きとして注目されるのは、岸田首相が近く立ち上げる「政治刷新本部」と、首相の指導力だ。

この組織は、4日に行われた年頭の記者会見で岸田首相が打ち出した構想だ。自民党総裁の直属の機関として党に設置し、再発防止策や派閥のあり方などを検討し、今月中に中間的なとりまとめを行う方針だ。

岸田首相は、再発防止の具体策として「パーティーの収支について党の監査を行うとか、現金でなく振り込みに変えるとかが考えられる」とのべたが、いずれも政治資金パーティーの存続を前提にした内容だ。

また、刷新本部の本部長は岸田首相自らが就任するほか、最高顧問には、麻生副総裁と、菅前首相の首相経験者が就任する見通しだ。

リクルート事件当時、竹下首相は自民党に「政治改革委員会」を設け、トップに後藤田正晴・元副総理の就任を要請した。続く宇野首相時代に「政治改革本部」と変わり、本部長に伊東正義・元官房長官、代理に後藤田氏の重鎮2人が就任し、党内論議と党改革の推進役を果たした。

今回は、党内第2派閥を率いる麻生副総裁と、派閥解消論者の菅前首相という正反対の立場にいる2人が最高顧問に座る。果たして、派閥のあり方なども含めて思い切った政治改革案をまとめることができるのか、危惧する見方が強い。

さらに、野党側からは「自民党は、まずは事件の実態を説明し、不正を行った議員にケジメをつけさせるのが先だ」といった指摘が出されている。

また、与党の公明党や、野党各党からは、政治資金規正法の抜本的な改正を行い、パーティー券購入者の公開基準の引き下げや、違法行為に対しては、国会議員の責任を問える罰則の強化を求めていく方向で一致している。

自民党は、果たして党内の意見を取りまとめができるのかどうか、最終的には、岸田首相の決断と指導力にかかってくるのではないか。その結果によっては、今年の政局は、さらに大きく揺れ動くことになる。(了)

★追記①(9日16時30分)能登半島地震による石川県内の死者は、9日午後2時・時点で、202人に上った。昨日に比べて34人も増えた。一方、安否不明者は102人となり、昨日より121人減った。                     ★追記②(10日17時40分)能登半島地震による石川県内の死者は、10日午後2時・時点で206人。安否不明者は52人。                  ★追記③(11日21時)能登半島地震による死者は、11日午後2時・時点で213人、安否不明者は37人。2500人余りが孤立状態にある。

 

““2つの危機対応”問われる岸田首相” への1件の返信

  1. 能登地方の大地震そして羽田空港の飛行機の衝突炎上事故と
    2024年の年明けは苦難極まるものとなり、全ての国民
    が、今年の行く末に大きな不安を抱えることとなりました。
    一方、昨年来から政界を大きく揺るがしている派閥主導で
    行われてきた「裏金」問題は、かろうじて現職国会議員の
    逮捕までこぎつけたものの、自民党総裁である岸田首相の
    本件に対する問題意識は「鈍感」そのものを呈しています。
    「裏金」は犯罪であり、その金の取得・支出は「脱税」に
    ほかなりません!
    自民党の組織をあげての「裏金つくり」はやくざの「資金
    つくり」と何がちがうというのですか!
    国民の税金から拠出することになった「政党助成金」は
    何のためだったのでしょうか。
    派閥の解消、および政治資金パーテイの禁止は当然決めら
    れるべきであると思います。
    法律を制定する国会議員が、自らを規制する法律を制定
    できない、いやする気のないことは、これまでの事実が
    如実に示しているではありませんか。
    自民党で立ち上げたという「政治刷新本部」なるものは
    「抜け道」をどのように策略するか、そのための知恵を
    絞ることでしょう。
    社内不祥事を起こしてしまった一般社会での対応は「外部の
    第三者」による再発防止策の策定が常識となっています。
    このことも政治の世界は非常識を地で行っています。
    最後になりましたが、いつもながら貴殿の問題意識とその
    解説および論理の展開は非常にわかり易く、納得しかりです。
    今回は文章について気づいた点はありませんでした。
     1月9日  妹尾 博史

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