政治改革3法案成立へ”意味と影響は”

今の臨時国会の焦点になっている政治資金規正法の再改正をめぐって、政党が幹部議員に支給している政策活動費を全面廃止にするなど3つの政治改革関連法案が衆議院で可決され、参議院へ送られた。今の国会で成立する見通しだ。

一方、最大の焦点になっていた企業団体献金については、与野党の主張が隔たったままで合意点を見いだすことはできず、来年3月末をメドに結論を出すことになった。

いずれも先の衆院選で大きな争点になった問題だが、こうした結果をどう見るか。「不十分な点は多いが、ようやく具体的な改善策が動き出し、一歩前進」との評価を個人的にはしている。なぜ、こうした評価になるのか、今後は何が問われているのか、さまざまな角度で考えてみたい。

政治改革3法案可決、企業献金は越年へ

まず、衆議院の特別委員会と本会議で17日に可決され、衆議院へ送られた法案を確認しておきたい。

1つは、政党から幹部議員などに渡される「政策活動費を全面廃止にする法案」だ。立憲民主党、維新、国民民主、共産など7党が共同で提出した。

2つ目は、「政治資金の支出を監視する第三者機関を国会に設置する法案」だ。公明党と国民民主党が共同で提出した。

3つ目は、「外国人によるパーテイー券の購入禁止や、収支報告書をデータベース化して検索しやすくする制度などを規定した法案」で、自民党が提出した。

このうち政策活動費の廃止をめぐっては、自民党は一部の支出先を非公開にできる「公開方法工夫支出」を設けることを主張したが、野党側の強い反発と与党・公明党からも賛同を得られず、撤回に追い込まれた。

結局、自民党は、野党7党が共同で提出した案を丸飲みする形で賛成に回った。こうした政治改革関連3法案は参議院へ送られ、今の国会で成立する見通しだ。

一方、立憲民主党などが提出した「企業団体献金の禁止を盛り込んだ法案」については、与野党の主張に大きな隔たりがあることから先送りし、来年3月末に結論を得ることを与野党で申し合わせた。リクルート事件以来「30年来の宿題」となっている企業団体献金は今回も年を越すことになった。

 政治改革前進、選挙の民意が後押し

政治とカネの問題をめぐっては、旧文通費=現在の「調査研究広報滞在費」の使い途の公開などを盛り込んだ法案も17日衆議院で可決され、参議院で成立する見通しになっている。3年以上も前からの懸案で、議員1人あたり月100万円・年間1200万円の使い途が来年8月から公開されることになる。

このように見ると企業団体献金は先送りになったものの、政治資金に関連する部分については、一定の範囲ながらも改善策を盛り込んだ法案が成立するメドがついた。

こうした背景には、先の衆院選挙で「裏金問題の実態解明と政治改革」が争点になり、政権与党が過半数を割り込むなど政治状況が大きく変わったことが影響している。選挙後の国会では、与野党双方ともに政治改革の実現を求めた民意を意識して法案成立へと動いた。

一方、国民にとっても選挙で大きな争点になった「103万円の壁」が引き上げられたり、「政治とカネの問題」も改善に向けて動き出したりするなど政治の変化を実感した方も多いのではないか。いずれにしても選挙結果が、政治を動かした数少ないケースだ。

 戦略なき対応、石破政権・自民党

それでは、政治とカネの問題をめぐって石破政権と自民党の対応は、どうだったのだろうか。衆院選挙の結果、30年ぶりの少数与党政権に転じ、石破首相にとっては全く別の世界に立たされた。

石破政権としては、政策面で主導権を発揮する立場にはなく、野党の主張を取り入れながら、譲るべきところは譲り、逆に守り抜く点は国民に訴えながら死守していくしかない難しい対応を迫られた。

その石破首相の対応だが、臨時国会冒頭の所信表明演説では、外交・安全保障政策や、経済対策と補正予算案などの説明に多くの時間を充てた。焦点の政治改革の問題は最後の方で「年内に必要な法整備も含めて、結論をお示しする必要があると考えています」と表明するのに止まった。これでは、政治改革は及び腰と受け取った国民が多かったのではないか。

一方、自民党は政治改革本部で、政治改革案をとりまとめたが、企業団体献金の扱いには踏み込まなかった。各党との協議でこだわったのは、政策活動費の廃止を認める代わりに、支出先を非公開にできる「公開方法工夫支出」の創設だった。

これに対して、野党各党はそろって強く反発し、与党の公明党からも賛同を得られずに孤立して、提案の撤回に追い込まれた。

この時期に行われた報道各社の世論調査ではいずれも、石破内閣の支持率と、自民党の政党支持率がそろって下落した。石破政権と自民党は、政治改革の取り組みが後ろ向きだと受け止められたことが影響したものとみられる。

石破政権は、丸飲みするところは最初から丸飲みする一方、主張すべき点は最後まで譲らないメリハリのとれた対応ができていれば、世論調査の評価も変わっていたかもしれない。

要は、この国会での石破政権と自民党の対応は、新たな政治状況の中でどのような姿勢で臨むのか、戦略が定まっていなかったことが国会で孤立することになった最大の要因ではなかったか。

今回、石破政権は企業団体献金を維持することはできたが、来年3月末に再び結論を出すことを迫られることになる。来年度予算案の成立と合わせて、企業団体献金などの政治改革が与野党の争点として浮上することが予想される。

 野党も責任、政治資金のあり方など

一方、野党側も今後の対応が問われる。特に野党第1党の立憲民主党は、企業団体献金禁止を強く主張し、そのための法案を4党派共同で提出したが、野党全体にまで賛同が広がらなかった。

国民民主党や維新からは「立憲民主党の案では『政治団体からの寄付』が除外されており、業界団体や労働組合からの献金が抜け穴として残されている」との批判が最後まで消えなかった。

この点について、立憲民主党から、明確な説明はなされていない。企業団体献金をめぐっては禁止論が根強くある一方で、政党によっては活動を支える政治資金の基盤に関わる問題でもある。また、政治資金集めのパーテイーの扱いも一定の範囲で認めるのかどうかを明確にしておく必要がある。

そこで、来年の春までに各党は「政治活動と、政治資金の関係の全体像」がわかる議論を行うべきだ。そして与野党が一定の考え方をとりまとめてはどうか。そのうえで、企業団体献金をはじめ、第三者機関の性格や権限など残された課題についても決着をつけてもらいたい。

与党過半数割れという新たな政治状況の中で、政治改革の取り組みでは、不十分な点も多いが、新しい与野党の対応として評価できる点もある。この国会では、「年収103万円の壁」の扱いが残されている。

いずれも先の衆院選挙で争点になったテーマであり、その後の国会で、具体的な対応策が動き出している。こうした前向きの動きが来年の通常国会でも続くのかどうか、そして来年夏の参議院選挙でさらに加速されるのかどうかみていきたいと考えている。(了)

 

 

”どこまで進むか”政治改革の年内決着

先月28日に召集された臨時国会は、9日から物価高対策や能登半島地震の復旧対策などを盛り込んだ補正予算案について、衆参両院の本会議で財政演説と各党代表質問が行われ、審議入りする。

もう一つの焦点である政治資金規正法の再改正は、与野党がそれぞれ提出した法案の審議が10日から始まる見通しだ。

さらに先の衆院選挙で国民民主党が訴えた「103万円の壁」の見直しについては、自民、公明、国民民主の3党が来年度税制改正の中で、引き上げ幅や財源などを中心に協議を続けている。

このように今の国会は、補正予算案、政治改革、税制改正の3つの問題が事実上、同時平行の形で進むことになる。

このうち、補正予算案の扱いと「103万円の壁」の協議は難航しているものの、自民党は政権維持のためには国民民主党との間で妥協案をまとめる以外に選択肢はない。このため、税制改正と補正予算案は最終的に合意に達するものとみられる。

一方、政治改革について、石破首相は「年内に必要な法整備を含めて、結論を出す」と表明しているが、自民党と野党側との主張には大きな隔たりがあり、年内決着が図られるのか見通しはついていない。会期末まで2週間を切った中で、政治改革はどうなるのか、何が問われているのか考えてみたい。

 自民案、企業団体献金には触れず

政治とカネ・政治資金規正法の再改正をめぐっては、自民党の呼びかけで、与野党は「政治改革に関する協議会」で協議を続けてきたが、意見の隔たりが大きく、合意点を見いだすことはできなかった。

このため、各党はそれぞれ独自の改正案を提出し、国会の特別委員会で審議を行うことになり、10日にも最初の委員会が開かれる見通しだ。

このうち、自民党がまとめた政治改革案では、◆政党が議員に渡す「政策活動費」を廃止する一方、外交上の秘密に関わるなど公開に特に配慮が必要な「要配慮支出」を設け、収支報告書に相手の氏名や住所、支出の目的などを記載しないことができるとしている。

そして、◆第三者機関として国会に「政治資金委員会」を設置し、「要配慮支出」を監査するとしている。

一方、立憲民主党などの野党側が求めている◆企業・団体献金の禁止については、触れていない。

こうした案をどのように評価するかだが、まず「要配慮支出」については、政治資金の透明化を進めようとする中で、「新たなブラックボックスを設ける案」などと批判が多く、国民の理解が得られるか疑問だ。

また、企業団体献金について、自民党は一貫して見直しの対象外としており、政治改革に前向きの姿勢が感じられないのは残念だ。これでは、先の衆院選挙で厳しい審判を受けたことに対して、反省と出直しの意思が国民につたわらないのではないかと思う。

 野党は攻勢、足並みに乱れも

野党側は、裏金問題の実態解明と政治資金規正法の再改正、旧文通費の見直しについては、今の国会で決着をつけるべきだとして、実現を強く迫る構えだ。

このうち、政策経費について野党側は、自民党の「要配慮支出」は「抜け穴」になるとして反対している。立民、維新、国民民主、共産、参政党、日本保守党、社民党の野党7党は4日、政策活動費を「完全禁止」とする法案を衆議院に共同提案した。

一方、企業団体献金の扱いについて、立憲民主党は「政治改革の本丸であり、今国会で結論を出すべきだ」として、企業団体献金を禁止する法案を他の野党と共同で提出する方針だ。

維新や共産などの各党も禁止する方針だが、国民民主党は「企業団体献金を禁止する場合、業界などの政治団体の扱いを明確にしないと抜け道となる可能性がある」として、慎重な姿勢を示している。

このように野党側には温度差がみられ、足並みは必ずしもそろっているとは言えない。このため、各党ともそれぞれ独自案を提出したうえで、特別委員会で審議を続けながら、多数派形成に向けて働きかけを行うことにしている。

政治改革、信頼回復の成果を示せるか

今の国会の会期末は21日までで、政府・与党は補正予算案は12日に衆院を通過させ、翌週の成立をめざしている。だが、与党は少数に転じ、予算委員会の委員長も立憲民主党議員に代わり、審議日程がどうなるか見通せない状態だ。

また、自民党と国民民主党の間では「103万円の壁」に関連した与党税制改正大綱の決定時期と、補正予算案の賛否の時期をどのように設定するかといった調整も残っている。

このため、法案の審議日程が足りず、国会の会期延長が浮上する可能性もある。特に政治資金規正法の再改正をめぐっては、審議日程と法案の出口がどのようになるのか、全くメドがついていない。

したがって、◆規正法の改正案などがすべて越年するケースをはじめ、◆与野党が合意した法案だけ年内に成立、それ以外は先送りといったさまざまなケースが想定される。与野党ともに年内決着を掲げているが、どこまで合意できるかは、これからの協議次第というのが実状だ。

但し、年内決着の成果が限られたものになれば、世論の政治不信はさらに強まることが予想される。与野党とも党の独自性を発揮したいとの思いはわかるが、政治全体の信頼回復に向けて踏み込んだ対応が必要ではないか。

政権を担う石破首相も、いつまでも政治とカネの問題を引きずっていれば、内外の懸案に取り組むことができなくなることは明らかだ。ここは、党内を説得しながら、長年の懸案に決着をつけられるか判断が問われることになる。

この1年は政治とカネの不祥事に明け暮れたが、国民としては、年の瀬の最後に「政治が一歩踏み出した成果」を見せてもらいたいところだ。年内に政治改革がどこまで進むのか、しっかり見届けたい。(了)

 

”少数与党国会”開会、3つの注目点

先の衆院選挙の後、初めての本格的な論戦の舞台となる臨時国会は29日、天皇陛下をお迎えして開会式と石破首相の所信表明演説が行われた。これを受けて、12月2日から各党の代表質問が始まり、政府・与党と野党側との間で活発な議論が戦わされる見通しだ。

この国会は、先の衆議院で自民、公明の両党が15年ぶりに過半数割れしたことで、国会の審議や与野党の攻防も大きく様変わりすることになりそうだ。そこで、この国会はどこをみておくとわかりやすいのか、注目点を3つに絞ってみていきたい。

①政治改革、年内決着つけられるか

最初に国会の日程を確認しておくと29日の石破首相の所信方針演説を受けて、12月2日から4日まで衆参両院で各党の代表質問が行われる。続いて、石破首相にとって就任以来初めての予算委員会が5日、6日の両日行われた後、9日から今年度の補正予算案が審議入りする。会期は21日までの24日間になる。

この臨時国会の注目点の第1は、先の衆院選挙でも大きな争点になった自民党派閥の裏金問題のけじめと政治改革について、国会の場で決着をつけることができるのかどうかだ。

石破首相は政府・与党連絡会議で、政治とカネの問題について「国民の多くが未だに納得していないという事実を重く受け止めている」とのべるとともに「責任政党として、各党との協議を率先して行っていく」とのべ、年内の政治資金規正法の再改正をめざして各党との協議を急ぐ考えを表明した。

自民党は21日の政治改革本部で、政策活動費の廃止などを盛り込んだ政治改革案をまとめ、これを基に各党協議に臨む方針だ。一方、焦点の企業団体献金の見直しについては触れていない。

これに対して、立憲民主党や日本維新の会、国民民主党、共産党など野党7党の国会対策委員長らは28日に会談し、政策活動費や企業団体献金の取り扱いを含む政治改革で成果を上げられるよう協力して取り組んでいく方針を確認した。

政治改革をめぐっては最大の焦点である企業団体献金について、野党側が廃止の方針を打ち出しているのに対し、自民党は存続の考えを変えておらず、双方の意見は対立したままだ。

また、野党間でも立民、維新、共産などの各党は廃止の方針を打ち出しているのに対し、国民民主党は慎重な姿勢をのぞかせるなど温度差があるのも事実だ。

このため、政治改革の具体的な内容や制度設計の問題のほか、企業団体献金の扱いが最後まで残る可能性がある。年内に政治資金規正法の再改正まで進むことができるかどうか見通しはついていないのが実状だ。

②「103万円の壁」引き上げ幅が焦点

注目点の2つ目は「年収103万円の壁」の問題だ。先の衆院選挙で国民民主党が訴え、国民の大きな関心を集めた。そして選挙後、与党側は野党の協力を得るねらいもあって、国民民主党との間で協議を続けてきた。

その結果、自民・公明の両党は20日、国民民主党との間で、政府の新たな経済対策に、所得税がかかる年収の最低額である「103万円の壁」の引き上げを盛り込むことで合意した。これを受けて3党は、税制会長などが引き上げ幅や、財源などについて協議を続けている。

この「年収103万円の壁」について、石破首相は29日に行った所信表明演説で「2025年度税制改正の中で議論し引き上げる」と表明した。政府・与党としては、こうした考えを示すことによって国民民主党が補正予算案に賛成することを期待している。

これに対して、国民民主党の幹部は「一番の問題は非課税枠の引き上げ幅で、178万円までの引き上げを強く求めている。引き上げ幅が不十分な場合は、税制協議などから離脱することもありうる」と強気の姿勢をみせている。

自民、公明両党と国民民主党との協議が最終的に整うのかどうかは、個別の政策面だけでなく、補正予算案の賛否、さらには石破政権の存続そのものにも影響を及ぼすことになる。

一方、立憲民主党は「130万円の壁」、社会保険料の負担の軽減策を求める法案を提出しており、こうした社会保障制度のあり方も含めて活発な議論が交わされる見通しだ。

③ 少数与党国会、新たな政治の模索を

注目点の3つ目は「少数与党政権に転じた石破政権と国会のあり方」の問題だ。まず、石破政権は衆議院では与党過半数の勢力を失ったので、野党の協力を取りつけながら国会や政権を運営せざるをえない。

所信表明演説でも石破首相は「他党にも丁寧に意見を聞き、可能な限り幅広い合意形成が図られるよう真摯に、謙虚に取り組んでいく」との考えを示した。

問題は、こうした姿勢で懸案の処理が進むかどうかだ。これまでの石破首相の政権運営をみていると、自民党内の反応を伺いながら対応していく局面が多かった。

自民党のベテランは「党内基盤が弱く、少数与党政権という厳しい状況はわかるが、政権のトップとして自らの考えを整理して打ち出し、国民に直接訴えていく姿勢が必要ではないか」と指摘する。

懸案の政治改革や「103万円の壁」などで石破首相が自らの考えを示し、党内や国民を説得しながらやり抜く覚悟が必要だというわけだ。

自民党の支持率もNHK世論調査では、衆院選挙後も30%程度に止まり低迷が続いている。衆院選大敗の原因になった「政治とカネの問題」について、未だに自浄能力が発揮できていないと国民に見透かされているからではないか。政権、自民党ともにこうした点の自覚がないと、党の再生は難しいと思う。

一方、国民は野党に対しても今の政治を変えていく意欲や能力があるのか見極めようとしているように見える。先の衆院選で国民は「与党を過半数割れ。但し、比較第1党は自民党」との判断を示した。

与党、自民党に厳しい評価を示す一方で、野党に対しても比較第1党の座を与えなかった。野党の主要な役割は政権をチェックすることだが、それに止まらず、形骸化が目立つ国会審議のあり方などを変えていく意欲や力を持っているのか試そうとしているのではないか。

これまでのところ野党の中では、国民民主党のように与党に接近し、個別の問題で前進を図る動きが出ている。これに対し立憲民主党は、国会の開かれた場で与野党が議論し合意を形成していく道をめざしているようにみえる。

与党が過半数を割り込み、どの党も単独で過半数を獲得する政党がないという新たな政治状況の中で、予算案や重要な政策をどのような形で決定していくのか、その最初の取り組みが今度の臨時国会だ。

少数与党政権自体30年ぶりの事態なので、政権や国会が多少の停滞や混乱を来すのはやむをえないのでないか。試行錯誤を重ねながら、政権与党と野党が国会を舞台に議論を尽くし、できるだけ早期に「新しい政治の仕組みとルール」をつくり出すことが最も必要ではないかと考える。(了)              ★追記(12月1日午後1時半)石破首相の所信表明演説部分は既に終了したので、過去形に表現を手直しした。

 

 

 

“低い期待度”第2次石破政権の危うさ

先の衆議院選挙を受けて、第2次石破政権が11日に発足した。衆議院選挙で自民、公明両党は過半数を下回り、石破政権は15年ぶりに少数与党政権として再スタートを切った。

国民は、先の衆院選挙の結果や石破政権をどのようにみているのか。NHKの世論調査がまとまったので、そのデータを分析しながら石破政権の課題や問題点、それに衆院選後の与野党の対応などを考えてみたい。

 与党過半数割れ「よかった」61%

まず、先の衆院選挙で自民、公明両党の議席が15年ぶりに過半数を割り込んだが、この結果について国民の受け止め方から、みていきたい。

NHKの11月世論調査(15日~17日)によると「よかった」が32%、「どちらかといえばよかった」が29%で、合わせて肯定的な評価が61%に上った。これに対して「どちらかといえばよくなかった」は18%、「よくなかった」は12%で、否定的な評価の30%を大幅に上回った。

これを党派別にみると与党支持層では「よかった」が40%に対し、「よくなかった」が58%だった。野党支持層では「よかったが」が86%、無党派層でも「よかった」が70%に達した。

年代別にみると「よかった」は、すべての年代で半数を超えた。80歳以上が53%、70代が60%、60代が66%など年代が若くなるほど多くなる傾向がみられ、40代は75%で最も多く、30代から18歳までは69%だった。

 政策・実行力への低い期待度

石破内閣の支持率は41%で、10月の衆院選1週間前調査(10月18日~20日)と変わらなかったのに対し、不支持率は37%で2ポイント増えた。

支持する理由では「他の内閣より良さそうだから」が37%、「人柄が信頼できるから」が21%など消極的な理由が多数を占めた。一方、「政策に期待が持てるから」は6%、「実行力があるから」は5%で、いずれも1けた台に止まった。

支持しない理由では、逆に「政策に期待が持てないから」が34%で最も多く、次いで「実行力がないから」も18%に上った。

石破首相が第1次政権を発足させたのが10月1日で、発足時の支持率は44%と比較的低い水準からスタートとなった。それでも支持する理由として「政策に期待が持てるから」は10%、「実行力があるから」は9%あったが、わずか1か月半でほぼ半減したことになる。

衆院選挙で大敗を喫したとはいえ、国民の「政策」と「実行力」への期待度は政権維持には不可欠で、石破政権として早急な対応を迫られているのは明らかだ。

 物価・経済対策と政治改革がカギ

その「石破政権が、いま最も優先して取り組むべき課題は何か」を世論調査で尋ねている(1つだけ選択)。◆最も多いのが、景気・物価高対策で41%、◆次いで「政治とカネ」などの政治改革16%、◆社会保障制度の見直し13%、◆外交・安全保障11%などと続いている。

こうした課題や優先順位については、同じ考えの方は多いのではないかと思う。今月28日から石破政権発足後、初めて本格的な論戦の舞台となる臨時国会が始まる。野党側は、物価・経済対策として「年収の103万円の壁」の解消をはじめ、裏金問題のケジメと政治改革の具体策の実現を迫るものとみられる。

石破首相としては自民党内の調整を抱えているものの、こうした野党の要求のうち、国民生活や政治の信頼回復のために必要な対応策については、積極的に受け入れ実現をめざさなければ政権運営は困難になるだろう。

特に衆院選で争点になった政治改革の具体策の多くと「103万円の壁」については、年内の決着に向けて踏み込んだ対応を迫られものとみられる。

また、石破首相は就任以来、自らの考えをはっきりさせず、党内の流れに合わせる対応が目立ったが、うまく運ばなかった。まずは自らの考えを整理し、野党の主張なども踏まえたうえで、政策を打ち出し国民に説明・説得していく姿勢が求められているのではないかと考える。

 政党支持率に変化、政治の動きは

今回の世論調査では「政党の支持率」に変化がみられたのも特徴だ。前回の衆院選投票日1週間前調査と比較しながらみていきたい。

◆自民党の政党支持率は30.1%で、前回調査から1.2ポイント減少した。岸田政権や安倍政権当時は30%台後半が多かったことを考えると低い水準に止まっている。石破内閣の支持率と同じく、対応を間違うとさらなる下落の可能性もある。

◆立憲民主党は11.4%で、前回より2.2ポイント伸ばした。立憲民主党が支持率10%を超えるのは、2020年9月に今の党の体制になって初めてだ。こうした動きが続くのか、それとも一時的な現象で終わるのかが試されている。

◆衆院選挙で選挙前の4倍に議席を増やした国民民主党は7.4%を記録した。前回より5.1ポイントも増やし、維新を抜いて野党第2党に躍進した。国民民主党もこうした勢いが維持できるのかどうかが問われる。

◆このほかの政党は、公明党3.8%、維新3.6%、共産2.4%、れいわ1.4%、参政党1.2%、社民党0.5%、日本保守党0.3%となっている。無党派は31.6%にまで減っている。

こうしたデータから今回の衆院選で、国民は今の政治に何を求めているのだろうか。石破政権に対しては大敗させたものの、支持率41%を維持させたほか、野党第1党の立憲民主党に対しては、支持率を2ケタに乗せ、自民党との競い合いの政治を期待しているのではないか。

さらに国民民主党に対しては、与党との連立などよりも、政策を前進させる取り組みを求めているようにみえる。世論調査でも「与党との連携を深めるべきだ」14%、「野党との連携を深めるべきだ」17%よりも「政策ごとに態度を決めるべきだ」が58%で最も多かった。

つまり、国民の多くは与野党の勢力を伯仲させたうえで、山積する懸案や難題について、与野党が議論し一定の結論を出していく新しい政治の実現を求めていることが読み取れるようにみえる。

そして今は”様子見の段階”、年末に向けての臨時国会、年明けの通常国会で与野党の競い合いをみたうえで、夏の参院選で各党の評価をしたいと考えているのではないか。まもなく始まる臨時国会の与野党の対応をみていきたい。(了)

”綱渡りの政権運営”第2次石破政権

先の衆院選挙を受けて11日に召集された特別国会は首相指名選挙が行われ、衆議院では自民・公明両党が過半数を割り込んだことから30年ぶりの決選投票に持ち込まれた。その結果、石破首相が、立憲民主党の野田代表を破って新しい首相に選出された。

参議院では与党が多数を占めることから1回目の投票で石破首相が選出され、第103代の首相に就任した。石破首相は直ちに新しい内閣の組閣人事を行い、衆院選で落選した2人の閣僚と公明党の代表就任に伴う後任の閣僚を決定し、第2次石破内閣を発足させた。

この後、石破首相は記者会見し、先の衆院選に関連して「厳しい結果を受け、あるべき国民政党として生まれ変わらなければならない」とのべ、政策活動費の廃止や旧文通費の使途の公開などについて早期に結論を出す考えを表明した。

第2次石破内閣は衆院選挙での過半数割れで、1994年の羽田内閣以来30年ぶりの少数与党政権となる。石破政権のこれからの政権運営はどのようになるのか、今後の政治のあり方を含めて考えてみたい。

 首相指名選挙 ひとまず乗り切り

先の衆院選で大敗を喫した石破首相にとって政権を維持していくためには、特別国会での首相指名選挙を勝ち抜くことが最優先の案件になっていた。

また、選挙の敗因となった裏金問題と政治改革、それに国民の関心が高い「年収103万円の壁」などの経済対策についても早急に対応策を打ち出す必要に迫られていた。

このうち、首相指名選挙については決選投票になった場合でも、国民民主党や日本維新の会が自らの党首に投票することから、野党側が候補者の一本化ができないことがはっきりしてきた。

また、自民党内でも石破首相や執行部の対応に強い不満を持つ議員やグループはいるものの、直ちに辞任を求める意見はほとんどみられず、首相指名選挙でも自民党内から無効票が投じられるなどの造反はなかった。

こうしたこともあって石破首相は、最初の難関である首相指名選挙をひとまず乗り越えることができた。

もう1つの難問である政治改革や「年収103万円の壁」などの政策について、石破首相は召集日当日の11日午前、立憲民主党の野田代表、国民民主党の玉木代表とそれぞれ個別に首脳会談を行った。維新の馬場代表とは10日に会談を行った。

こうした会談で、石破首相は「野党の皆さんの意見を誠実、謙虚に承りながら、国民に見える形であらゆることを決定していきたい」とのべ、政治改革をはじめ、政策の実現に向けて野党の協力を要請した。

石破首相と自民党執行部は、既に政策面で考え方の近い国民民主党との間で政策協議を行うことで合意しており、政調会長レベルの協議も始まっている。

選挙の大敗で動揺が続いていた石破政権は、野党各党の党首会談にもこぎつけ、ひとまず落ち着きを取り戻すことができたとみていいのではないか。

 綱渡りの政権運営、3つの節目

さて、第2次石破政権は少数与党政権だけに「綱渡りの政権運営」が続くのは確実な情勢だ。野党側の協力がなければ、法案や予算案は成立しないし、野党側が内閣不信任案を提出し可決すれば、内閣総辞職に追い込まれる公算が大きい。

これからの石破政権を展望すると政権運営が難しい局面を迎える「3つの節目」が予想される。第1の節目は、年末の時点で、焦点の裏金問題と政治改革、それに経済政策で野党との協議が一定の成果を生み出せるかどうかだ。

このうち、政治改革については、野党側が政策活動費の廃止、旧文通費の公開、第三者機関の設置、企業団体献金の廃止などを要求しており、石破政権がどこまで受け入れるかが焦点だ。

一方、経済政策では、自民党と国民民主党との間で進められている「年収103万円の壁」をはじめ、ガソリン税の見直しなどで進展がみられるか。今年度の補正予算案や、新年度予算案の内容をめぐっても協議が行われる見通しだ。

こうした協議の結果、国民民主党は、石破政権との政策協議を継続するのかどうか。また、日本維新の会が馬場代表から新たな代表に変わった後、石破政権との関係や政策協議にどのような方針で臨むのかも注目される。

2つ目の節目は、来年1月に召集される通常国会で、新年度予算案の審議をめぐる与野党の攻防だ。今回、衆院の予算委員長ポストは野党が握り、立憲民主党の安住・前国対委員長が務める。特に来年2月下旬以降、予算案の衆院通過をめぐって、予算案の修正が大きな問題になる可能性もある。

3つ目の節目は、新年度予算案が成立する見込みの来年3月末以降、石破政権の求心力がどのようになっているかだ。夏には参議院選挙が控え、内閣支持率が低迷していると自民党内から「石破降ろし」の動きが出てくることも予想される。

このほか、アメリカ大統領選挙でトランプ前大統領が復帰することになったことで、国際情勢が激しく揺れ動くことも予想される。石破首相はトランプ次期大統領と早期の会談を希望しており、今後の日米関係をどのように築いていけるか、国内政治にも影響を及ぼすことになる。

 新しい政治へ与野党の合意形成を

ここまでみてきたように石破政権の今後は、波乱・混乱の道に陥るおそれがある一方、新しい政治を切り開いていける可能性もある。そのためには、先の選挙で示された民意を踏まえて、与野党双方が政策の決定や、国会運営面で合意の形成に向けて踏み出せるかどうかにかかっている。

具体的には、衆院選挙の最大の焦点になった裏金問題と政治改革について、与野党が歩み寄り、年内に政治資金規正法の再改正を実現することができるかどうか。また、年収の壁などの政策についても、与野党が一定の方向性を打ち出すことができるかどうかが試金石だ。

国民の中には「政治に期待しても何も変わらない」「国会議員は自分たちの利益のことしか考えていない」など不信の声が根強くあるのも事実だ。こうした政治不信や民主主義に対する冷笑主義を克服するためにも、次の臨時国会で具体的な成果を挙げることが重要になる。

それだけに石破首相は政権の延命ではなく、懸案の解決に向けて思い切って踏み出すことが必要だ。少数与党政権は国会では少数派なので、国民に訴え、支持を広げていくしか有効な対応策はないのではないか。

一方、野党第1党の立憲民主党や国民民主党は大幅に議席を増やしたが、それだけ大きな責任を負ったことになる。野党が政権交代をめざすのであれば、将来社会の姿や、重点政策の柱を明確に打ち出す必要がある。

私たち国民の側は、与野党双方が政策や構想を競い合うと同時に、国会を舞台に与野党が協議を尽くして結論を出す「新しい政治」を期待している。来月上旬にも予想される次の臨時国会で、その第1歩をみせてもらいたい。(了)

どうなる首相指名選挙と石破政権

衆議院選挙で15年ぶりの与党過半数割れを受けて、特別国会で行われる首相指名選挙や政権の枠組みをめぐって、与野党の動きが激しくなっている。

長い間続いてきた「自民1強・野党多弱体制」が崩れ、どの党派も過半数に達しない新たな政治状況が生まれている。

こうした中で、特別国会で行われる首相指名選挙や、これからの政権の枠組みをめぐる協議はどのようになっていくのか、自民党、立憲民主党、それにキャスティングボートを握っている国民民主党の対応やねらいを探ってみたい。

石破首相、政権維持へ部分連合に意欲

衆議院選挙で国民の審判が示されてから4日目の31日、自民党の森山幹事長は、国民民主党の榛葉幹事長と会談した。この中で森山氏は、衆議院の与党過半数割れを受けて、今年度の補正予算案や来年度予算案の編成や審議に向けた協力を要請した。

これに対し、榛葉幹事長は「政策案件ごとに対応していきたい」と応じ、新たな経済対策の内容を含め、政策の案件ごとに両党間で協議を進めていくことで一致した。

また、石破首相と玉木代表との党首会談を11日に召集される特別国会までに行うことを確認した。

さらに榛葉幹事長は、特別国会での首相指名選挙では、決選投票になった場合も含めて国民民主党としては、玉木代表に投票する方針であることを伝えた。

自民党は先の衆院選で56議席を失う大敗を喫したが、石破首相は開票翌日の記者会見で、自ら続投する考えを表明した。そして過半数の勢力を回復するため、政策が近い野党との間で、政策や法案などの個別案件ごとに協力する「部分連合」に踏み切る方針を固め、国民民主党などへの働きかけを続けてきた。

自民、公明両党の議席は215議席で、過半数の233議席まで18議席下回っている。石破首相としては、28議席を確保した国民民主党の協力を得られれば、少数与党政権ながらも今後の政権運営に一定の展望が開けることになる。

石破首相としては、自民・公明両党との連立政権を維持したうえで、国民民主党との部分連合を視野に、自民・公明・国民の枠組みで予算案や法案などの成立をめざしていく方針だ。

 立民、首相指名選挙へ野党の協力難航

立憲民主党の野田代表は30日、日本維新の会の馬場代表、共産党の田村委員長と相次いで会談し「政権交代を実現するため、首相指名選挙の決選投票が行われる場合、『野田』と書いて欲しい」と協力を要請した。

これに対して、馬場代表は「党に持ち帰って検討する」と返答したが、首相指名選挙で野田代表に協力することには消極的だ。田村代表は「前向きに検討する」との考えを伝えた。国民民主党は、決選投票でも「玉木代表」に投票する方針を決めている。このように首相指名選挙で野党が足並みをそろえて対応するのは困難な情勢だ。

こうした状況を踏まえて、立憲民主党としては今後、衆院選挙で大きな争点になった自民党の裏金問題と具体的な政治改革の実現に焦点をあてて、野党側の結束と自民党との対決姿勢を強めていく方針だ。

 首相指名選挙、石破首相選出の公算

こうしたなかで、自民党は衆院選後の特別国会を11日に召集する方針を野党側に伝えた。衆院選挙が終わって、政治が最優先に取り組む必要があるのが、特別国会で首相指名選挙を行い、新しい首相を選出することだ。組閣人事や党、国会の体制を整え、内外の課題に早急に対応していく必要がある。

その首相指名選挙はどうなるか。指名選挙は1回目の投票で、過半数を得た議員がいない場合、上位2人の決選投票が行われる。決選投票の当選者は過半数ではなく、有効投票の多数を獲得した議員が当選となる。

今回決選投票には、与党第1党の石破首相と、野党第1党の野田代表が進むものとみられる。国民民主党は決選投票でも「玉木代表」と書くため、無効票の扱いになり、石破首相が多数の支持を得る見通しだ。

このため、自民党内から大量の造反票が出ない限り、石破首相が新しい首相に選出される公算が大きくなっている。

 国民民主 政策・政治を変えられるか

ここまでみてきたように衆院選挙後の政局では、28議席を確保して第4党に躍進した国民民主党がキャスティングボートを握り、存在感を発揮している。

政界の一部には当初、国民民主党は閣僚ポストを獲得して連立入りをめざしているのではないかとの見方が出ていた。これに対し、玉木代表は「連立入りは考えていない。ポストよりも政策の実現をめざしている」と繰り返してきた。

国民民主党は、何をめざしているのか。玉木代表の記者会見を聞いていると、政府与党との政策協議をテコに、国民民主党が衆院選で打ち出した『103万円の壁』、所得税の課税最低限などの引き上げや、ガソリン課税の引き下げなどを実現し、党勢のさらなる拡大をめざしているものとみられる。

また、玉木代表は「与党の過半数割れを受けて日本政治は、新たな意思決定のルールづくりに取り組むべきだ」と主張している。政府や霞ヶ関は、与党の意見を聞くだけでなく、野党も含めた幅広い意見に耳を傾け、新たな合意形成のあり方を探るよう求めている。

国民民主党のこうした考え方については、国民としても賛成する点が多い。一方で、国民民主党はこれまでも政権との政策協議を進めてきたが、十分な成果を上げたかと言えば、疑問だ。自民党はしたたかで、連携した中小政党はいつの間にか取り込まれ埋没するケースも多かった。

それだけに国民としては、国民民主党の新たな取り組みは一定の評価をする一方、政策協議で具体的な成果を上げているのか、政治のあり方などを変えていくなどの姿勢を堅持しているのかといった点を厳しく見極めていく必要がある。

 内外に難題、政権運営は茨の道

ここまでみてきたように11日に召集される特別国会では、石破首相が新しい首相に選出され、第2次石破政権が発足する公算が大きい。但し、新たな政権は少数与党政権という大きな制約を担っての政権運営となる。

日本を取り巻く国際環境は、5日投開票のアメリカの大統領選挙の結果がどのようになるか、中旬からはAPECやG20サミットなども予定され、息の抜けない状況が続く。内政では、物価高騰対策や能登半島地震の復旧など早急に手を打つべき懸案が待ち受けている。

但し、補正予算案1つをとってみても野党の主張をかなり取り入れなければ、成立にこぎ着けることは難しい。石破政権の今後の運営は、茨の道が続くことになる。

一方、足元の自民党内では、大量の落選者を出したのは石破首相や森山幹事長の責任が大きいとして、政治責任を追及する声もくすぶっている。自民党は7日にも両院議員懇談会を開き、選挙結果を総括することにしているが、執行部への不満や批判が噴きだす事態も予想される。

石破政権は、年末の予算編成をはじめ、年明けの通常国会、さらには来年夏の参議院選挙を控え、綱渡りの政権運営が続くことになる。いつ、政権が危機に見舞われるか予断を許さない政局が続くことになるのではないかとみている。(了)

 

 

 

 

 

 

 

自公過半数割れ、裏金問題が政権与党を直撃

第50回衆議院選挙は27日投開票が行われ、自民党は議席を大幅に減らし、単独で過半数に届かないことが確実になった。また、自民、公明両党でも過半数を割り込むことが確実になり、石破政権は大きな打撃を受けるのは必至の情勢だ。

衆院選挙は27日午後8時で投票が締め切られ、開票作業が進められた。自民党は議席が伸び悩んでおり、単独で過半数の233議席に届かないことが確実になった。

自民党は、28日午前1時半時点で186議席に止まっているほか、公明党も22議席で伸び悩んでいる。このため、自民、公明両党でも過半数の233議席に達するのは難しく、過半数割れをすることが確実になった。

これに対して、野党第1党の立憲民主党は公示前の98議席から、大幅に議席を増やし、28日午前0時半の時点で134議席を確保し、さらに議席を伸ばす勢いだ。

日本維新の会は35議席を確保したほか、国民民主党は27議席、れいわ新選組も8議席と公示前から議席を増やし、共産党も8議席を確保している。

自民、公明両党が衆議院で過半数を割り込むのは、2009年の衆議院選挙で民主党政権が誕生した時以来、15年ぶりのことになる。これによって、発足したばかりの石破政権は大きな打撃を受けるのは必至の情勢だ。

今回、自民党が議席を大幅に減らしたのは、自民党派閥の裏金事件について、実態の解明や説明などが不十分で、国民の不信感が逆風となって大きく影響したことが挙げられる。

これに加えて、自民党は不記載議員の一部を選挙で公認しないなどの厳しい措置を打ち出す一方で、非公認の候補者が支部長を務める政党支部に2000万円の活動費を支給していたことが選挙戦の最終盤に明るみになった。

自民党の関係者は「この問題が報じられた後、国民の自民党に対する視線が一段と厳しくなり、最終盤の巻き返しができなくなった」とのべ、この問題の選挙戦への影響の大きさを認めた。

執行部の政治責任浮上、政局流動化へ

今回の選挙結果について、石破首相は開票速報でのインタビューに答えて「非常に厳しい審判をいただいた。謙虚に厳粛に受け止めなければならない」とのべた。

こうした一方で、石破首相が引き続き政権を担当する意欲をにじませた。しかし、石破首相は、衆議院を解散するのに当たって勝敗ラインを「自民、公明両党で過半数を確保すること」を挙げていた。

自公過半数割れがどの程度で収まるのか、まだはっきりしないが、勝敗ラインを割り込んだことで、自民党内からは石破首相や党執行部の政治責任を明確にするよう求める意見が出されることが予想される。

また、選挙後の特別国会で首相指名選挙をどのように乗り切るのか、衆院選挙を受けての組閣人事、政権の安定に向けて連立の枠組みを拡大するのかどうかが大きな問題になる。

さらに、公明党の石井代表は小選挙区の埼玉14区で敗れ、比例代表との重複立候補をしていないため、議席を失うことが確実になった。

このほか、来月5日にはアメリカの新大統領が決まるのをはじめ、11月中旬にはAPECやG20サミットが控えている。来月下旬以降には、臨時国会を召集し、能登半島地震対策や物価高騰対策などを柱とする補正予算案の審議を行う必要がある。

このように内外に大きな懸案を抱えている中で、石破首相は選挙敗北の政治責任をどのような形で取るのか、今後の政権運営をどのような方針で行うか、早急に明らかにする必要がある。選挙後の政局は、大きく揺れることになる見通しだ。(了)

★追伸(28日午前11時)以上の原稿は、28日午前1時半時点のデータで執筆。 各党の最終確定議席と、公示前勢力との増減は以下の通りです。       ◇自民191議席-56。◇公明24議席-8 → 与党215議席、-64      ◇立憲民主148議席+50 ◇維新38議席-6 ◇国民民主28+21 4倍    ◇れいわ9議席+6 3倍 ◇共産8議席-2 ◇参政 3議席+2       ◇日本保守3議席+3 ◇社民1議席 ±0 ◇無所属(小選挙区)12議席-2   以上です。

 

“自民苦戦、与党過半数割れ攻防続く”衆院選情勢

短期決戦となった衆院選挙は、いよいよ27日に投開票が行われる。終盤の選挙情勢は、自民党が単独で過半数を維持するのは難しい情勢で、苦戦が続いている。

一方、自民、公明両党で過半数を維持できるかどうかは微妙な情勢で、このまま27日の投開票まで与野党の激しい攻防が続く見通しだ。

有権者にとっては投票に当たって、与野党の選挙情勢も念頭に置いて投票したいという方もいるので、最終盤の選挙情勢を分析、評価してみたい。

 自民、単独過半数維持は困難か

まず、自民党の選挙情勢について、党の関係者に聞いてみると「九州、四国、九州など西日本地域は堅実な戦いができているが、北海道、東北、東海などは厳しい戦いを迫られている。現状では、小選挙区で30議席程度減る情勢ではないか」と厳しい状況であることを認める。

衆院の総定数は465議席なので、その過半数は233議席、公示前の自民党の勢力は247議席だ。15議席以上減らすと自民党は単独過半数割れに追い込まれることになる。

先の自民党関係者が触れたように小選挙区で30程度も議席を減らせば、自民党は単独で過半数を維持することは困難だ。

自民党は過去4回、衆院選挙で単独過半数を維持してきた。仮に単独過半数を割り込む場合は、2009年麻生政権下で政権を失って以来、15年ぶりになる。それだけ今回の総選挙では、自民党は苦境に立たされていることを示すものだ。

 与党過半数割れは微妙、攻防続く

次に選挙情勢の大きな判断基準として、与党で過半数を維持できるかどうかの目安がある。石破首相と公明党の石井代表がそろって勝敗ラインとして掲げている「自公で、過半数を確保すること」と同じ内容だ。

自公で過半数が維持できるかどうかをめぐっては、選挙関係者の間でも見方が分かれている。立憲民主党の野田代表など野党関係者は「裏金問題を徹底的に追及していけば、自公両党を過半数割れに追い込むことは可能だ」と強気の見通しを示している。

これに対して、自民党の選挙関係者は「政治とカネの問題をめぐって自民党は、厳しい情勢にあるが、都市部の選挙区では野党候補が乱立したことで助かっているところもある」として、過半数割れを回避できるという見方を示している。

報道各社の情勢調査をみても、与党で単独過半数割れになるかどうかはっきりしない。仮に自民党が議席を大幅に減らしても210議席程度に止まると、公明党が20議席後半を維持できれば「ギリギリ、過半数を超えることも可能だ」と見られるためだ。

つまり与党の獲得議席の「下限」、最も厳しい場合は「与党過半数割れ」となる。逆に「上限」、「与党が過半数を確保」できる場合もあり、どちらに転ぶかわからないというのが今の状態だ。

立民は議席増か、自民追加公認も焦点

一方、野党側のうち、立憲民主党は公示前の98議席から大幅に議席を増やす勢いがある。国民民主党も公示前の7から議席を増やす見通しのほか、共産党も公示前の10議席を上回る勢いがある。れいわも公示前の3議席から増やす見通しだ。

一方、日本維新の会は、このところ党勢に広がりがみられず、公示前の44議席を減らす可能性が大きいとみられる。

衆院選挙の場合、過去の選挙でも与野党激戦の選挙区が60程度は残り、最後まで激しい戦いが続く。最終的な議席数は、こうした激戦区の結果で決まることになる。

与党の議席数に話を戻すと、自民党は与党で過半数の勢力を維持するためにも、無所属の当選者から「追加公認」を行うことを検討している。与党が過半数を維持できるかどうかは、こうした追加公認の扱いによっても変わることになる。

いずれにしても自公で過半数を維持できるのか、それとも野党が大幅に議席を伸ばし、与党過半数割れに追い込むことになるのかどうかが最大の焦点だ。

政権・与党の巻き返し、野党の動向は

このように石破政権と自民党は、政治とカネの問題などで厳しい状況に立たされているが、投開票日まで挽回の手段、方法はあるのだろうか?

NHKの世論調査(10月18~20日、投票日前1週前)を見てみると石破内閣の支持率は41%、不支持率は35%だった。その1週間前の調査に比べると、支持率は3ポイント下がり、不支持率は3ポイント上昇したことになる。

一方、各党の支持率は、自民党が31.3%、公明党4.4%、立憲民主党9.2%、日本維新の会3.4%、共産党2.9%、国民民主党2.3%、れいわ1.9%、社民党0.6%、参政党1.1%、みんなでつくる党0.1%、無党派34.8%だった。

このうち、自民党の支持率は先週の調査35.1%から、3.8ポイントも下落した。この数値は、小選挙区の勝敗に直接影響するものではないが、この1週間で自民党の下落幅が大きかったことがわかる。

こうした石破政権と自民党の支持率低下は、選挙の大きな争点となっている「政治とカネの問題」の逆風が今も続いていること示すものだとみられる。このため、石破政権が政策面で巻き返しにつながるような決定打を放つのは難しいものとみられる。

各党の取り組みに勢いがあるかどうかは、最終的な議席数にも影響を及ぼすので、最後まで見届ける必要がある。石破政権が発足直後に踏み切った衆院解散・総選挙は、27日の有権者の審判がどのような形になって現れるか、選挙後の政局は激しく揺れ動く予感がする。(了)

衆院短期決戦、選挙情勢をどう読むか?

第50回衆議院選挙が15日公示され、27日投開票に向けて12日間の選挙戦がスタートした。今回は、1日に石破茂・自民党総裁が新しい首相に選出されて新政権が発足、8日後に衆院解散、26日後に投開票という戦後最短の政治決戦となった。

衆院選挙の立候補届け出は15日午後5時に締め切られ、小選挙区(定数289)に1113人、比例代表(定数176)に単独で231人の合わせて1344人が立候補した。

立候補者数は、現行制度下で最少だった前回2021年の1051人から、293人増えた。野党の立憲民主党と共産党との候補者一本化が進まなかったことや、日本維新の会が積極的に候補者擁立を進めたことが影響したとみられる。

選挙戦では、自民党派閥の裏金事件を受けた政治改革のあり方、物価高騰対策をはじめとする経済政策、厳しい国際情勢に対応していくための外交・安全保障政策をめぐり、激しい論戦が行われる見通しだ。

一方、選挙の勝敗はどうなるのか。裏金事件の逆風が続く中で、自民・公明両党は過半数の議席を確保して政権を維持できるのか、それとも野党が勢力を伸ばして与党を過半数割れに追い込めるのかどうかが最大の焦点だ。選挙情勢の現状と勝敗のポイントを中心に探ってみたい。

カギとなる数字「233、47」の攻防

「衆院選挙の勝敗ライン」について、石破首相と公明党の石井新代表はそろって「自公で過半数を維持すること」を挙げている。「勝敗ライン」は選挙の勝敗の目安となると同時に、執行部の政治責任が生じる基準にもなる。

このため、与野党問わず、執行部はいずれも低目の目標を設定し、政治責任が自らに及ばないよう予防線を張るケースが多い。

「自公で過半数」は、衆院総定数465の過半数だから「233」、これが「勝敗ライン」ということになる。

今回は石破首相と自民党執行部は、不記載議員12人を非公認とした。このうち1人が立候補を取り止め、11人が無所属で立候補することになった。

自民党の公示前勢力は、非公認扱いとなった11人を差し引いた247人。公明党が32人なので、自公の勢力は合わせて279人となる。自公過半数割れは、279人-233人=46、これを1人下回る「47」となる。

以上を整理すると自公の過半数は「233」。この過半数割れは、与党勢力から「47」以上の議席が減るかどうかにかかる。したがって、今回の選挙でカギとなる数字は「233」と「47」。この数字をめぐる与野党の攻防ということになる。

自民単独過半数=「党内政局」分岐点

このカギになる数字「233」は、もう一つ「自民単独で過半数」を獲得できるかどうかという大きな意味も持っている。

自民党は、2012年から衆院選で4回連続、単独過半数を維持してる。ところが、今回は不記載議員を11人を非公認にしたため、党の公認候補は247人にまで減っている。

このため、「15人以上」が議席を失うと「自民単独過半数割れ」に陥ることになる。自民党政権下では、2009年麻生政権が政権から転落して以来の敗北を意味する。政権にとって大きな痛手となるのは間違いない。

一方、自民党は「非公認の候補者でも当選すれば追加公認はありうる」としているので、追加公認で議席減少の穴埋めの措置が取られることが予想される。

あるいは、自民党は不記載議員のうち、小選挙区での公認を認めたものの、比例代表選挙との重複立候補を認めなかった候補者が33人に上る。小選挙区で議席を失えば、比例代表で救済される道は閉ざされる。比例代表の単独名簿の候補者が当選になる。

旧安倍派議員を中心に議席を失う議員は、相当な数に上るとの見方があるほか、選挙後の自民党議員の顔ぶれなどを注意深く見ていく必要がある。

話を元に戻すと、自民党が単独過半数割れになった場合の影響はどうか。前回2021年の衆院選結果は261議席で、この水準が続いてきた。過半数を割り込むということは、この水準から30議席近くも下回るので、その影響は極めて大きいことがわかる。

仮に「自公過半数」の目標は維持できたとしても、党内の反主流派や旧安倍派からは「大幅な議席減をもたらした」として、石破首相の政治責任を追及することが予想される。

したがって「党内政局」を引き起こすボーダーラインという意味合いを持っている。「自民単独で過半数233」維持できるかどうか、そのためには「15議席以上の議席減」を避けられるかどうかは、石破政権にとって大きな意味を持つ。

 議席予測、正確な調査・取材の詰め必要

それでは、今回の選挙情勢はどうなっているのか、見ていきたい。自公で過半数を維持できるか、自民単独で過半数を維持できるか、この2つが大きなポイントになる。

石破首相は14日午後、衆院選の見通しについて「非常に厳しいことは認識している。何とか全力を尽くし、自民、公明で過半数をいただければありがたい」と記者団に語った。

これに対し、立憲民主党の野田代表は「自公過半数割れに追い込む」と強調し、自公で過半数を獲得できるかどうかが最大の焦点になっている。

衆院選の公示前の段階でメデイアの世論調査や、自民党関係者の見方を総合すると比例代表選挙の投票先では、自民党が野党各党を引き離しており、「自公で、過半数割れの可能性は小さい」とみられる。

一方、「自民単独で過半数を割り込むケースは、起こりうるのではないか」との見方は自民党関係者からも聞かれる。

つまり、自公過半数割れ、47以上の大幅な議席減は、今の時点では想定しにくい。但し、自民単独過半数割れは15議席程度の減少で起きるので、可能性はあるとの見方が多いのが現状だ。

但し、こうした見方は、突き詰めると、いずれも選挙前の予想で、選挙戦突入後の情勢に基づくものではない。

選挙情勢に影響を及ぼすと見られる石破政権の評価をはじめ、不記載議員に対して執行部がとった対応措置などについて、国民がどのような受け止め方をして、選挙結果にどこまで影響するのか、まだ詰め切れていないのが現状だ。

したがって、これまで見てきた見通しは、当たっているのかどうか、これから投票日に向けて、有権者の意識を中心にトレンド・傾向を追跡していく必要があるというのが結論だ。

”予測の外れ”を生かせるかが重要

ところで、選挙の予測は、従来はかなり高い精度で結果を予測することが可能だった。ところが、今回は政権が交代し、直後に超短期の選挙戦に踏み切ったので、賭けの要素が極めて高いとも言える。国民が新政権や、選挙の主要争点をどのように評価しているのかといったデータが乏しいので、選挙の予測はかなり難しい。

既にさまざまな選挙の予測が出されているが、その根拠ははっきりしない。メデイアの「情勢調査」(世論調査)や取材記者の「票読み」、「データ分析」などに基づいて、全体情勢が明らかにならないと、根拠のある予測とは言えないのではないかと個人的には考える。

これから2週間あまり、情勢調査などを実施しながら、選挙情勢のトレンドを把握し、読み解いていくのが基本だと思う。

前回・2021年の衆院選挙の予測報道を思い起こすと、取材者として参考になる点が多い。3年前の衆院選では、ほとんどのメデイアの予測が外れた。多くのメデイアは自民党は議席を減らすと予測していたが、実際は単独で過半数を上回り、安定多数を獲得した。

前回は衆院議員の任期切れを間近に控え、短期決戦に持ち込まれたことと、激戦区が多数に上った。当選者と次点の差が1万票以内の激戦区は全国で58にも上り、議席の読みを狂わせる要因になった。

今回も前回と同じく、激戦区が相当な数に上ることが予想される。激戦区を絞り込み、情勢調査、記者の票読み、投票者を対象にした出口調査などを総動員して正確な予測報道を行う必要がある。

また、選挙で有権者は何を重視して1票を投じたか?単に選挙結果の予測だけでなく、選挙や政治の質を高めていく選挙報道の取り組みに期待しながら、メデイアの対応を見守っていきたいと考えている。(了)

 

 

衆院解散、戦後最短決戦へ 裏金問題カギ

衆議院が9日解散され、政府は臨時閣議で、15日公示、27日投開票とする日程を決めた。各党とも15日の公示に向けて、選挙体制づくりを加速させている。

石破内閣が発足したのが今月1日。8日後に衆院を解散、26日後の投開票となるのは、戦後最短だ。解散から投開票までの期間は18日間で、前回・2021年の17日間に次いで、2番目の短さになる。

さて、今回の衆院選の大きな争点は「裏金問題と政治改革」になるだろう。というのは、前任の岸田内閣が退陣に追い込まれたのは、裏金問題への対応が後手に回り、内閣支持率が長期にわたって低迷、退陣に追い込まれたからだ。

日本政治が取り組むべき課題は、日本経済の再生をはじめ、急激な人口減少社会への対応、内外の外交安全保障情勢など多岐にわたるが、政治の信頼が失墜しているので、議論自体が進まない隘路に陥っている。

本来の政策論争などを取り戻すためにも、裏金問題と政治改革について国民の信頼を回復し一定の前進を図られるようにすることが、事態改善の第一歩だと考える。

一方、石破首相と自民党執行部は衆院解散が間近に迫った段階で、派閥の裏金事件で政治資金を不記載にした議員について、一部、公認しない方針を打ち出した。また、不記載議員については、政治倫理審査会で弁明を行っていない場合は、比例代表への名簿登載を認めない方針も決めた。

こうした方針に対しては、自民党安倍派から猛烈な反発が出る一方、世論の逆風を抑えるためには「厳しい措置は当然」との声も聞かれる。自民党の新たな方針を含めて、政治とカネの問題を改めて考えてみたい。

 裏金問題、党首討論でも集中砲火

自民党の裏金問題は9日、衆院が解散される直前に行われた党首討論でも野党各党の多くが取り上げた。

立憲民主党の野田代表は「先月、安倍派元事務局長の有罪判決の中で、幹部間の協議で裏金処理の再開が決まったので、従わざるを得なかったことが裁判所で認定された。国会で弁明した安倍派幹部の発言は、虚偽だったことが明らかになった」として、事実関係を解明せず解散を急ぐのは「裏金隠し解散だ」と批判した。

続いて質問にた立った日本維新の会の馬場代表、国民民主党の玉木代表らも「党が幹部議員に渡す政策活動費の廃止を考えているなら、直ちに今回の衆院選から政策活動費を取り止めるべきだ」などと攻め立てた。

石破首相は「政治の信頼回復を第一に対応するのは、当然のことだ。政治資金については、法律で許された範囲内で適法に行う」とのべ、政策活動費の扱いなどについて、具体的に言及することを避けた。

このように裏金問題と政治改革は、今も与野党間の最大の争点になっている。問題は、選挙の際、国民の多くがどのように判断するかだ。

報道各社の世論調査によると実態解明などは継続すべきだという意見は多い。一方で、選挙戦に入って政治が取り組むべき主要課題の中で「政治とカネの問題」がどの程度上位に位置づけられるかが、大きなポイントなりそうだ。

裏金議員12人非公認、世論の評価は

石破首相と自民党執行部は9日、派閥からの政治資金を不記載にしていた議員など12人について、次の衆院選挙で非公認とする方針を決めた。

非公認になったのは「党員資格停止処分」を受けた下村元文科相、西村元経産相、高木元国対委員長。1年間の「党の役職停止」の処分が継続し、政治倫理審査会で説明をしていない萩生田元政調会長、平沢元復興相、三ツ林裕巳・元内閣府副大臣の6人。

それに半年間の「党の役職停止」処分を受け、その期間が終わった菅家一郎元復興副大臣ら3人、「戒告」処分を受けた細田健一・元復興副大臣ら3人の合わせて12人だ。

自民党内では、旧安倍派議員などから「一度、処分をしながら再び処分するようなやり方は認められない」「旧安倍派を狙い撃ちにした措置だ」など強い反発の意見が相次いだ。選挙後の挙党態勢を危ぶむ声もきかれる。

一方で「原則公認となれば、今度は自民党全体が国民から厳しい批判を浴び、選挙どころではなくなる」として、処分やむなしとの意見も聞かれた。

この問題は、党首討論でも取り上げられ、立憲民主党の野田代表は「相当程度が非公認だと言っていたが、大半は公認されている。また、非公認で立候補した人も当選したら、追加公認するのではないか」と質した。

これに対して、石破首相は「公認しない人が少ないというが、それぞれの人にとってどれほどつらいものか、よくよく判断した上でのことだ。最終的な判断は、主権者たる国民に任せたい。追加で公認することはありうる」との考えを示した。

一方、不記載議員については、小選挙区で公認しても、比例代表選挙の名簿登載を認めない方針を決めた。小選挙区で当選できない場合、比例代表で救済される道が閉ざされることになる。

重複立候補が認められなかった議員は30人余りとなった。自民党は、比例代表単独の候補者を増やすなど新たな対応を迫られることになるだろう。

今回の方針について、自民党の選挙対策関係者に聞いてみると「自民党という組織で考えると、従来の方針を大きく転換、最も厳しい措置と言える。それなりの結果を出せれば、石破総裁の評価は高まる」。

「但し、国民からすると大半は公認されているとして、厳しい視線は変わらないかもしれない」として、新たな方針の意味や姿勢をどこまで理解してもらえるかにかかっているとの見方だ。今後、議席を予測する際のポイントになる。

 首相 勝敗ライン「自公で過半数」

衆議院解散を受けて石破首相は9日夜、記者会見し「国民の納得と共感がなければ政治を前に進めることはできない。新政権の掲げる政策に力強い後押しをお願いしたい」とのべた。

そのうえで、今回の解散を「日本創生解散」と位置づけた。「日本社会のあり方を根本から変えていきたいと考えている」と説明した。

また、衆院選挙の勝敗ラインと下回った場合の対応を問われたのに対し「自民党と公明党で過半数をめざしたい。勝敗ラインを割り込んだ場合の対応については、コメントを差し控えたい」とのべた。

報道各社の世論調査によると、発足した石破内閣の支持率は46%から51%程度に上昇した。自民党の支持率も、岸田政権当時に比べて上昇している。但し、3年前の選挙時の支持率に比べると、勢いが乏しいとのデータもある。

石破首相と自民党にとっては、次の選挙は楽観できる状況にはない。党の選対関係者も「前回より増やせる要素はなく、どこまで目減りを減らせるかだ」との見方をしている。

そのためには、最大の争点になるとみられる裏金問題と政治改革から逃げずに、具体策を打ち出せるかどうかが問われることになるだろう。

また、多くの国民にとっては、物価高騰と国民生活、日本経済の運営に大きな関心を寄せている。実質賃金の目減り、物価高を上回る賃上げ、円安政策など納得させるだけの対応策を打ち出せるかにかかっているのではないか。

これは、野党各党にとっても同様だ。政治とカネの問題、経済と暮らしの分野で国民の支持を広げられるような政策を打ち出せるかどうかが問われることになる。

今回も、前回に続いて、短期の政治決戦になる。内外の多くの難題の解決に向けて、かじ取りを任せられる政党・政治勢力や候補者は誰か、私たち有権者も重い選択を行うことになる。(了)