“前途多難”石破新政権発足、27日衆院決戦へ

臨時国会が1日召集され、岸田首相の後継を選ぶ首相指名選挙が行われ、自民党の石破新総裁が、第102代の総理大臣に選出された。石破首相は直ちに組閣作業に入り、19人の閣僚のすべてを決定、石破新内閣が発足した。

岸田首相が事実上の退陣表明したのが8月14日、後継選びの総裁選には過去最多の9人が立候補し、大混戦が続いた。最後は決選投票にまでもつれ込み、逆転勝利を収めたのが石破氏だった。

決選投票で敗れた高市早苗氏は、石破氏から総務会長ポストの打診を受けたが、固辞し、政権と距離を置く姿勢を鮮明にした。石破氏と高市氏とのせめぎ合いは今後も続くことになりそうだ。

石破首相はできるだけ早く国民の信を問いたいとして、10月9日に衆議院を解散し、10月27日に投開票を行う考えだ。首相就任から衆院解散までわずか8日間の日程は、過去最短となる。

これに対して野党側は、国会論戦を避けて衆院解散に踏み切るのは認められないとして強く反発し、1日召集の国会は冒頭から対決色が強まった。

激しい総裁選を終えたばかりの自民党内は一枚岩になっておらず、政治とカネの問題で逆風が続く中で、衆院決戦は大きなリスクも抱えている。石破政権の前途は多難で、まずは衆院決戦を乗り切ることができるかどうかがカギを握る。発足した石破政権の特徴や、政権運営のポイントなどを展望してみたい。

 政権基盤弱く、森山氏、菅氏らに依存

さっそく1日に発足した閣僚の顔ぶれから、見ておきたい。◇外務大臣に岩屋毅・元防衛相、◇防衛相に中谷元・元防衛相、◇総務相に村上誠一郎・元行革担当相など石破首相と個人的に親しい顔ぶれが目につく。

また、総裁選で石破氏の推薦人なった関係者を多数、起用したのも特徴だ。先ほど触れた岩屋氏、村上氏のほか、経済再生担当相に赤沢亮正・財務副大臣、農水相に小里泰弘・首相補佐官、デジタル担当相に平将明・広報本部長代理、沖縄・北方担当相に伊東良孝・元農水副大臣だ。

さらに◇内閣の要の官房長官は林芳正官房長官が続投するほか、◇財務相は加藤勝信・元官房長官が就任。女性閣僚は◇文部科学相に阿部俊子氏、◇子ども政策担当相には、参議院議員の三原じゅん子氏を起用した。

自民党の派閥からの政治資金を不記載にしていた裏金議員と、安倍派からは閣僚に起用しなかった。

一方、自民党役員人事では、◇党の要の幹事長にベテランの森山裕・総務会長をすえた。◇総務会長に鈴木俊一・財務相、◇政調会長に小野寺五典・元防衛相、◇選対委員長に総裁選を戦った小泉進次郎氏を起用した。

このように今回の人事は、党の運営全般と選挙を仕切る幹事長に森山氏、副総裁に菅元首相がそれぞれ就任して柱の役割を果たし、さらに内閣と党の主要ポストを岸田前首相とそのグループと菅グループなどが支援する構図になっている。

岸田政権は麻生、茂木、岸田の3派が主流の政権だったが、今回は高市支持の麻生氏を党の最高顧問に棚上げ、代わって「森山、菅、それに岸田の3氏を軸にした体制」へと変化している。

特に森山氏は小派閥の出身ながら、国対委員長と選対委員長の両方を長い間、担当して調整能力の優れた老練な政治家だ。石破政権は実質的に、森山氏が切り盛りすることになるのではないかとみている。

同時にこのことは、石破氏の政権基盤の弱さを補う効果が期待できる反面、石破氏が政権運営の主導権をどこまで発揮できるかどうかわからない両刃の剣ともいえそうだ。

 早期解散、首相の政治姿勢も問われる

さて、石破総裁は国会で新しい首相指名を受ける前日の30日、記者会見で「国会で新しい首相に選出されれば、できるだけ早期に国民の審判を受けることが重要だ。10月27日に解散・総選挙を行いたい」とのべ、10月9日に衆院解散、15日公示、27日投開票の日程で解散総選挙を行う方針を明らかにした。

この問題が与野党の新たな火種になっている。自民党の新総裁が、国会で首相の指名を受けてもいないのに、衆院の解散時期に言及することは異常な事態だ。指摘を受けた石破氏は「全国の選管が選挙の準備を行えるようにするためだ」と釈明した。

だが、憲法7条は「天皇は内閣の助言と証人により、国事行為を行う」と規定しており、その1つが「衆議院の解散」だ。新たな内閣が発足していないのに”衆院解散を事前予告”するような越権行為は認められない。なぜ、そこまで焦る必要があるのか理解に苦しむ。

もう1つ、この問題は、石破首相の政治姿勢にも関係してくる。というのは、総裁選での論戦で小泉氏が「できる限り早く解散総選挙を行いたい」と主張したのに対し、石破氏は「なってもいないものが言及すべきではない」と慎重な姿勢を打ち出した。

また、石破氏は「国民に判断していただける材料を提供するのが、新しい首相の責任だ。本当のやりとりは予算委員会だと思う」とまで予算委員会で与野党が議論を戦わせることの意義を強調していた。

ところが、新総裁に選ばれると、それまで発言を一転、早期解散にカジを切った。野党側は「自民党を変える前に、石破首相自身が変節してしまった。言ってきたこととやっていることが違う」などと強く反発している。

石破政権としては4日に初めての所信表明演説を行ったうえで、7日と8日に衆参の本会議で代表質問、9日に党首討論を行ったあと、その日のうちに衆院解散を行う方針で、野党側と折衝を続ける方針だ。

それでは、なぜ石破首相は解散時期の方針を転換せざるをえなくなったのか。自民党関係者は「石破首相の解散論は、あるべき論の筋論。党の重鎮や幹部はそろって選挙に勝つことが第1。新政権発足直後は、内閣支持率の上昇が期待できる。森山幹事長が短期決戦を強く進言し、石破氏も受け入れたのだろう」と解説する。

石破首相にとって、森山氏は誠実な人柄と調整能力に秀でており、幹事長候補として考えていたとされる。但し、森山氏に引きずられるようになると今度は、国民から首相の見識、能力を厳しく問うことになる。短期決戦方針が、吉と出るか、凶と出るか注目している。

 早期解散論、国民の支持得られるか?

組閣を終えた石破首相は1日夜、最初の記者会見を行い「『国民の納得と共感を得られる内閣』をめざしたい」とのべるとともに「政治資金の監視にあたる第三者機関の設置など令和の政治改革を断行する」と強調した。

これに対し、記者団からは「衆議院の早期解散について、総裁選の最中は慎重な発言を繰り返していたのに、総裁・総理になると早期解散を唱えるなど違っていることについて、国民は戸惑っている。なぜ、変わったのか」という質問が繰り返し出された。

これに対し、石破首相は「新しい内閣ができたので、国民の判断を早急に求めることになった。国民への判断材料の提供と両立できるよう誠心誠意務めていく」と釈明に追われた。

石破政権は内外に多くの難問を抱え、多難な政権運営予想される。そうした中で、政権運営の主導権を確保するために早期解散を打ち出したが、総選挙に打って出る大義や政治姿勢に国民の理解が得られるかどうか、当面の焦点の1つに浮上してきたようにみえる。(了)

“薄氷の勝利”石破氏 自民新総裁に選出

大混戦が続いていた自民党総裁選挙は27日、投開票が行われ、5回目の挑戦となる石破元幹事長が、決選投票で高市早苗経済安保相を逆転し、新しい総裁に選出された。決選投票の票差はわずか21票、薄氷の勝利だった。

今回の総裁選は、過去最多の9人が立候補して混戦となった。当初は、党員や国民の人気の高い小泉進次郎元環境相と、石破元幹事長の2人の戦いになるとみていたが、選挙戦に入ると高市氏が急速に勢いを増して3つ巴の構図となり、勝敗のゆくえは見通せなくなった。

最終的には、石破氏が勝利を収めることになったが、舞台裏で何が起きていたのか、今回の総裁選全体をどのようにみたらいいのか。さらに来週、発足する石破政権にとってのハードルは何かを見ておきたい。

 石破氏逆転勝利の事情、舞台裏は?

まず、第1回投票で高市氏がトップとなりながら、決選投票で石破氏が逆転することができたのは、どのような事情があったのかという点からみていきたい。

選挙なので、多少数字が多くなるが、お付き合い願いたい。第1回投票では、高市氏は議員票72票、党員票109票、計181票だった。党員票では、1票ながらも石破氏を上回った。同時に驚いたのは議員票の増加ぶりだ。40~50票程度と見ていたので、72票、相当な議員票の上積みが目を引いた。

これに対して、石破氏は議員票46票、党員票108票、計154票だった。石破氏は、党員票では強みを発揮するとみていたが、今回は高市氏の追い上げを許した。一方、議員票は限界があり、得票を大幅に増やすことはできなかった。

これを受けて、決選投票(368党員票から、47都道府県票に縮小)では、石破氏が議員票189票、都道府県票26票、合計215票を獲得。対する高市氏は議員票173票、都道府県票21票、計194票。石破氏が21票上回って、逆転勝利した。

この理由は何か?石破氏の議員票は、第1回投票が46票→決選投票189票へ143票も上積みした。高市氏は、第1回投票72票→決選投票173票、101票増に止まった。議員票で大差がついたのが大きな要因だ。

議員投票の詳細な流れはまだ不明だが、決選投票に進まなかった他陣営の議員票の多くが、石破氏へ流れたことが考えられる。麻生副総裁が高市氏支持に動いた一方で、岸田首相をはじめ、林官房長官、上川外相ら旧岸田派のグループ、小泉氏を支持した無派閥議員の多くは、逆に石破氏支持に回ったとみられる。

首相経験者でみると、岸田首相と菅元首相は石破氏を支持して勝利したのに対し、麻生副総裁は高市氏支持に回り敗北を喫し、明暗が分かれた。

また、自民党関係者によると「決選投票で高市氏が伸びなかったのは、高市氏の政治信条や政策などに対する警戒感が働いたのではないか」との見方をする。「保守の論客で、安倍元首相の後継者を自認する高市氏がトップに就任すると、外交・安全保障や経済・金融政策面で混乱を招く恐れがある」として、ブレーキが働いたのではないかというわけだ。

 小泉氏失速、高市旋風で構図が変化

もう1つ、今回の総裁選では、次の首相候補として人気の高かった小泉進次郎氏の評価が低下したことが、総裁選の構図を大きく変える要因になったのではないか。

小泉氏は、議員票では最多の75票を集めた。一方、党員投票は61票に止まり、100票台の高市氏や石破氏に大きな差をつけられた。

小泉氏は最初の立候補表明の記者会見は、準備や演出も周到で順調な滑り出しかに見えた。しかし、選挙戦が始まり、日本記者クラブの候補者討論会や記者会見などで、主張や政策の説明に説得力が感じられず、世論調査でも自民支持層や党員の支持に勢いが見られなくなった。

地方の党員に聞いてみたところ「はっきり言えば、総裁選に出るのは10年早い。政治家として能力は十分あるのだから、政策面などの力を磨いた上で再挑戦した方がいい」など手厳しい意見が多かった。

一方、高市氏については「政治信条や主張がはっきりしており、支持したい」といった声が多く聞かれた。総裁選挙の有権者は、自民党の党員・党友の105万人余りに限定されているが、こうした党員の受け止め方の差がそのまま得票数に現れる形になった。

今回の総裁選挙には、現職の閣僚、党の幹事長、元閣僚など主要幹部が名乗りを上げたが、党員の得票率はいずれも1ケタ台に止まった。人数だけは賑やかだが、議論がほとんど掘り下げられず、肝心な点がわからなかったとの声も聞く。

最終盤では、各候補者が重鎮詣でを繰り返したほか、特定の候補への投票の働きかけがあったとの声も聞く。総裁選のあり方も再検討する必要があるのではないかと思う。

石破新総裁、難問は新体制づくり

石破新総裁の選出を受けて、国会は10月1日に召集され、新しい首相に石破新総裁が指名される運びだ。その日のうちに石破新内閣が発足する見通しだ。

石破首相にとって最初の難問は、新しい内閣、政権の体制づくりだ。石破氏は自らの派閥を解散して無派閥を続けてきたことから、石破氏を一体となって支える人材が周囲に少ないのではないかとの声を聞く。

一方、総裁選で高市氏は、議員票のおよそ半数の支持を得た。高市氏を含め総裁選を戦った8人の候補者の処遇も問題になる。まずは、30日までに党の幹事長などの役員人事をどのような顔ぶれにするのか。また、内閣の要の官房長官候補を内定する必要がある。

総裁選出後、石破氏は最初の記者会見で「新政権が発足するので、なるべく早く国民の審判を仰がなければならない」とのべた。そのうえで、「人事はまだ白紙だ。総裁選で争った8人の議員は、最もふさわしい役職にお願いする。高市氏や小泉氏も考え方は同様だ」とのべた。

石破政権の新しい人事がどのような布陣になるのか、そして政府と自民党一体となった体制をつくれるのかどうか最初の試金石になる。そして、この新しい体制を国民がどのように評価をするのか、大きなポイントになる。

私たち国民としては、臨時国会で与野党が論戦を戦わせ、政治とカネの問題や、経済政策などの論点を明確にしたうえで、国民に判断を求める取り組みを行うよう注文しておきたい。(了)

立民新代表に野田元首相“対立軸がカギ”

立憲民主党の代表選挙の投開票が23日に行われ、新しい代表に野田佳彦元首相が選ばれた。元首相が、野党第1党の党首に返り咲くのは、2012年9月に安倍元首相が自民党総裁選に勝利して就任して以来のことになる。

当選が決まった直後の挨拶で野田元首相は「私は、本気で政権を取りに行く覚悟だ。衆院解散・総選挙は間違いなく早い段階で実施されるだろうから、その戦いの準備は、今日から始まる。明日午前中に人事の骨格を決める」と党の体制作りを急ぐ考えを明らかにした。

野田新代表にとって最大の目標は、次の衆院選を勝利に導き、政権交代を実現することだが、その道は容易ではない。何が問われているのか、探ってみたい。

 野田元首相の経験と安定感に期待か

まず、代表選の結果を確認しておきたい。第1回投票で、野田氏は4人の候補者の中で最も多くのポイントを獲得したが、過半数に達しなかったため、上位2人の決選投票に持ち込まれた。

その結果、国会議員票(136人、1人2ポイント)、国政選挙の公認候補予定者(98人、1人1ポイント)、47都道府県連代表(各代表1ポイント)を合わせて、◇野田氏が232P、◇枝野氏が180ポイントで、野田氏が新代表に選出された。

野田氏への支持が広がったのは、次の衆院解散・総選挙に向けて、野田氏の豊富な政治経験や安定感への期待が強いためとみられる。党内からは「元総理が新代表に就任したことで、自民党の新総裁とがっぷり四つに戦える」と歓迎の声が聞かれる。

こうした一方で、党内には「野田政権当時、公約にはなかった消費税率引き上げを飲んで党を分裂させ、政権を失った責任は大きい」との厳しい評価は未だに残っているのも事実だ。

裏金問題、政治改革の抜本案を提出へ

さて、野田新代表が問われるのは、最大の政治決戦となる次の衆院選挙に勝ち抜けるかどうかだ。そのためには、自民党との政治姿勢や政策面の違い「対立軸」を鮮明に打ち出し、国民の支持を得られるかどうかがカギを握っている。

自民党の裏金事件をめぐって国民の側は「実態解明は進まず、不記載議員は説明責任からも逃げ、ケジメもついていない」との批判は強い。先の通常国会で成立した改正政治資金規正法についても「評価しない」という受け止め方が世論調査では多い。

野田代表は「徹底した政治改革でウミを出し切る必要がある」として、秋の臨時国会に政策活動費の廃止や、企業団体献金の禁止など政治資金規正法の抜本改革案を提出する考えを表明している。

このため、政治とカネの問題をめぐっては、自公政権との対立軸は明確に打ち出せるものとみられる。立憲民主党は、他の野党各党と共同で抜本改革案を国会に提出することも検討しており、実現するかどうか注目している。

 経済政策、分厚い中間層の具体化は?

もう1つ、国民の多くが関心が高いのが、物価高騰対策と経済・金融政策のかじ取りをどのように行っていくかという問題だ。

野田代表は「分厚い中間層の復活」という構想を示している。かつての日本は、分厚い中間所得層の存在が安定成長と活力の源泉だったことから、格差を是正し、消費を活性化させることで「強い経済」を取り込みたいとしている。

そうした考え方は理解できるが、具体的に何を実施していくのか、よくわからない。「給付付き税額控除」なども柱に掲げているが、具体的な制度設計や、必要な財源確保策などについても詳しい説明が必要だ。

自民党総裁選挙の候補者も「経済成長」を掲げているが、どのような政策の組み合わせで実現するのかがはっきりしない。次の衆院選挙に向けて「経済・金融政策の基本方針」を与野党がそれぞれ明確に示して、議論を深めてもらいたい。

 衆院選に向け野党の連携は進むか?

3つ目に、野党第1党の立憲民主党は、次の衆院選に向けて他の野党との連携をどのように進めていくかという問題を抱えている。野田氏は、政権交代は立憲民主党だけでは限界があり、無党派層や国民民主党、さらには日本維新の会との連携を広げていく必要があるとの考え方だ。

これに対して、維新の側は、連携には否定的な考えを示しているほか、国民民主党は、立憲民主党が原発などの基本政策をはっきりさせる必要があるとして慎重な姿勢だ。共産党は、連携の対象には入っていないことに反発を強めている。

立憲民主党は、次の衆院選で自公政権を過半数割れに追い込んだ場合、どのような勢力が協力して政権を担うのか、具体的な構想を明らかにする必要がある。

野田代表は就任後、最初の記者会見で「あす24日の午前中までに党役員の骨格となる人事を決める。私にない刷新感をどうやって作っていくかは1つの重要な観点だ」とのべた。

野田代表にとっては、刷新感とともに挙党体制もカギになる。決選投票の得票率をみてみると野田氏が56%に対し、2位の枝野氏は43%と余り差がついてないことがわかる。

枝野前代表は立憲民主党を立ち上げた有力幹部で、議員や党員の間で支持者が多いとされる。野田代表としても、枝野氏を含め党内各グループをとりまとめて挙党体制を構築できるかどうか、党役員人事が最初の試金石になる。

今月27日には、過去最多9人が立候補している自民党総裁選で、新しい代表が選出される。これによって自民、立民両党のトップが決まり、来月1日に召集される臨時国会でそれぞれ新たな体制で激突する。政治に緊張感が生まれることを期待したい。(了)

★追記(24日23時)立憲民主党の野田代表は24日、新たな執行部人事案を提案し、両院議員総会で承認された。幹事長に小川淳也氏、政務調査会長に重徳和彦氏、国対委員長に笠浩史。いずれも50代で、執行部の若返りを図り刷新感をアピールするねらいがあるものとみられる。一方、党内からは、いずれも代表選で野田氏を支持したばかりで、挙党態勢になっていないと批判する声も出ている。

”情勢は混沌”自民総裁選後半戦へ

岸田首相の後継を選ぶ自民党総裁選は19日が折り返し点で、20日から後半戦に入った。情勢は当初、石破、小泉両氏の争いと見られていたが、高市氏が勢いを増し、石破、小泉、高市3氏の三つ巴の戦いになっているようだ。

総裁選の予測は中々、難しい。個人的な経験でも2012年の総裁選は当時、最多の5人が立候補し、私はNHK日曜討論、日本記者クラブの討論会の司会を担当したので鮮明に覚えているが、多くのメデイアの事前の予想は外れることになった。

総裁選が幕を開ける前は、幹事長の石原伸晃氏がトップとの予想が多かったが、選挙戦に入ると失速。最終的には、3位か4位と見られていた安倍元首相が決選投票に残り石破氏を逆転、新総裁に返り咲いた。現職の総理・総裁が立候補を断念し、新人候補などが名乗りを上げる総裁選は波乱が起きやすい。

そこで、今回はなぜ、三つ巴になっているのか。最後に誰が抜け出しそうなのか、そのカギは何かといった点を中心に選挙情勢を探ってみたい。

 2強から3強、三つ巴へ情勢変化

総裁選の第1回投票では、議員票368票(離党した堀井学議員の後任の繰り上げ当選が決まったため、議員票、党員票ともに1票ずつ増えた。党員票も368票になる)については、立候補者が過去最多の9人になったため、大きな差がつきにくく、代わって党員票の比重が高くなった。

その党員票は、報道各社の世論調査で「次の総裁としてふさわしいのは誰か」という質問に対して、告示前の時点では石破茂元幹事長と小泉進次郎氏の2人が他の候補を大きくリードしていた。

ところが、選挙戦が始まり、論戦が本格化した以降の調査では、石破氏、小泉氏、高市氏の3人がリードする形へと変化している。告示前は2強だったのが、選挙戦突入後は3強へと変わったのが大きな特徴だ。

但し、3人の強弱については、報道各社の調査でもバラツキがみられる。今の時点では「誰が最終的に勝ち抜くのか、わからない混沌とした情勢にある」というのが現時点の結論だ。

報道各社の調査結果をみてみたい。◆朝日新聞が行った調査(9月14~15日)のうち、自民支持層では①石破32%、②小泉24%、③高市17%となっている。◆共同通信の自民支持層の調査(9月15~16日)では、①高市27.7%、②石破23.7%、③小泉19.1%と順位も異なる。

読売新聞の調査(9月14~15日)では「党員を対象に絞った調査」をしているので、その結果を最も注目していた。①石破26%、②高市25%、③小泉16%。高市氏の伸びが大きく、小泉氏は3位に後退している。

こうした調査結果について、自民党の関係者に見方を聞いた。「石破、高市、小泉3氏が優位」との見方は妥当だ。但し、「3人の順位については、優劣をつけるまで至っていないのではないか」との見方をしている。

また、この関係者は「これまでの総裁選では、自民支持層と、自民党員を対象にした調査ともに、ほぼ同じ傾向が現れていた。今回は、その関係も異なりバラツキがみられる」「選挙情勢は、固まっていないのではないか」との見方だ。

一方、別の自民党の閣僚経験者に聞いてみると「高市氏に勢いが見られる一方、小泉氏には当初の勢いに陰りが生じつつある」との見方を示す。

その理由として「小泉氏は、選択的夫婦別姓の容認や解雇規制緩和などの政策を打ち出したが、党員の支持離れを引き起こしている。逆に高市氏の主張や政策に支持が広がった。論戦の影響が反映しているのではないか」と指摘する。

以上のような点から党員票については、上位3位の順位をつけるのは難しく、今後の動きを見極める必要があると考える。投開票まで、まだ1週間もある”長期戦”だ。

 議員票も投票行動を読み切れず

次に議員票について見ていきた。368票のうち、◆40票余りを固め、先行しているのが小泉氏と小林氏だ。◆30票余りが林氏、茂木氏。◆20票台が高市氏、石破氏、河野氏、上川氏、加藤氏と続いているものとみられる。残りの90票余りをめぐって、9つの陣営が獲得にしのぎを削っているとみられる。

以上の議員票、党員票を合わせても過半数に達する候補者はいない見通しだ。このため、第1回投票では決まらず、上位2人の決選投票に持ち込まれる公算が大きい。その決選投票では、党員票は47都道府県の47票に縮小するため、今度は議員票の368票の方が大きなウエイトを占めることになる。

さて、その議員票がどのようになるか。立候補者9人のうち、3人は順番は別にして石破、高市、小泉の3氏だろう。この中から、決選投票に進出する2人に絞り込み、さらに最後の総裁の座を獲得するのは誰かとなると今の時点では、読み切るのは困難だ。

それに各候補ともにそれぞれ弱点を抱えている。小泉氏は党内で最も高い人気を保っているが、論戦の際の即応力、説明能力の危うさを指摘する声が多い。加えて「憲政史上最も若い43歳の総理・総裁の誕生を想像すると、経験や修行をもう少し積んだ後がふさわしい」といった評価を聞く。

高市氏については、前回総裁選で後ろ盾になった安倍元首相が亡くなっても、立候補にこぎ着けた力を評価する見方は多い。反面、「総理・総裁として、多くの議員を束ねていくだけの力量、指導力があるとは思えない」。「超保守の岩盤支持層が支えるのは強みかもしれないが、右寄りの姿勢が前面に出すぎると特に対米、対中関係などが危うくなるのではないか」と懸念する見方は根強い。

石破氏については、安倍首相の政敵として辛酸をなめながらも5回目の挑戦にこぎ着けたことと、「裏金問題をめぐる国民の政治不信が頂点に達している中で、信頼回復に取り組むリーダーとして適任」との声は根強いものがある。一方で、「何年経っても党内で仲間が増えず、政権を安定的に運営できる体制を作れるか大きな課題を抱えている」と危惧する声も聞く。

今回は、岸田首相が派閥解散を宣言した後、初めて行われる総裁選挙だ。派閥が全面的に復活するような動きはないにしても、決選投票では旧派閥の意向が働くのではないかとの見方は残る。具体的には、麻生派、旧岸田派、旧茂木派について、指摘されるような動きがないか、注視していく必要がある。

一方、高市氏の陣営が「国政レポート」という文書を党員に郵送した問題が明るみになり、他の陣営から「カネのかからない選挙にするため、党員向け文書の配布は行わない申し合わせに反する」と強い批判が出された。逢沢一郎選管委員長が口答で高市氏を注意したが、高市氏陣営が反発するといった動きが続いている。

このほか、朝日新聞が17日、安倍元首相と旧統一教会会長が2013年の参議院選挙直前に自民党本部の総裁応接室で面談していたとみられる写真を報道した。一昨年、この問題が表面化した際、自民党は個別議員の問題とは別に「一切の組織的関係は無い」という見解を示した。

朝日新聞の報道が事実であれば、この見解に反する可能性があり、説明が必要だ。党関係者に聞くと「安倍元総理の問題であり、総裁選に直接影響する可能性は小さい」との見方を示すが、次の衆院選挙などへの影響は出てくるのではないかとみている。

立民、野田氏先行、枝野氏追う展開

立憲民主党の代表選挙は、報道各社の世論調査でも野田元首相が先行、枝野前代表が追う展開で、泉代表、吉田晴美氏は支持の広がりが見られないという構図だ。

立憲民主党関係者に聞いても「議員票、党員・サポーター票ともに野田氏が、枝野氏を上回るのではないか」との見方している。最終的には、野田氏が新代表に選出される公算が大きいものとみられる。

自民党総裁選の投開票日は27日なので、野党第1党の新代表が決まったのを受けて、新しい総理・総裁を選ぶことになる。まず、決選投票に残る2人はどうなるのか。順位は別にして「石破、小泉」「石破、高市」「小泉、高市」の組み合わせが想定され、さらに最終的に誰を選ぶのかを決めることになる。

自民党長老に総裁選びはどこがポイントになるかを聞いてみた。「自民党議員の多く、特に中堅・若手は、旧派閥との関係よりも自分の選挙を考え、『選挙の顔』を意識するだろう。その際には、単に人気というよりも、第1回投票で示された党員票1位の候補を選ぶ議員が多くなるのではないか」との見方だ。

折り返し点を過ぎて終盤戦に向かうが、投票日まで1週間もある。選挙情勢もまだ動く可能性がある。当面の選挙乗り切りの発想ではなく、総理・総裁としてふさわしい候補は誰かを基準に選出してもらいたい。ほとんどの国民は、この後、予想される衆院解散・総選挙で適否を判断することになる。(了)

“中身は変わるか?”自民総裁選スタート

岸田首相の後任を選ぶ自民党総裁選挙が12日告示され、過去最多の9人が立候補を届け出た。9氏は党本部で立ち会い演説会に臨み、経済政策や党改革、外交・安全保障政策などをめぐり、それぞれ意見を表明した。

9氏は13日に党本部で共同記者会見、14日に日本記者クラブで候補者同士の討論会に臨む。その後、全国8か所の演説会などを経て27日に投開票が行われ、新しい総裁が選出される運びだ。

自民党内では、派閥の裏金問題を受けて「自民党が生まれ変わった姿を見せないと次の選挙は戦えない」との受け止め方がある一方で、「首相の顔を変えて戦えば、選挙を乗り越えることはできる」として、早期の衆院解散・総選挙論が急速に広がりつつある。

一方、選挙情勢は、報道各社の世論調査や自民党関係者の見方を総合すると「石破元幹事長と小泉進次郎元環境相の2人が先行している」との見方が強いが、決選投票にまで持ち込まれる公算が大きく、最終結果を見通せるまでには至っていない。

そこで、今回のブログでは、今度の総裁選の特徴と、総裁という「表紙」が変わって「中身も本当に変わるのか?」「何が問われているのか」といった点を中心に考えてみたい。

 混戦の背景、人材枯渇現象の裏返し

最初に、総裁選の立候補者9人を分類してみると◆岸田政権の中枢にいる林芳正官房長官(63)と茂木敏充幹事長(68)。◆閣僚は、高市早苗経済安保相(63)、上川陽子外相(71)、河野太郎デジタル担当相(61)。◆党幹部として、ベテランの石破茂元幹事長(67)、加藤勝信元官房長官(68)、中堅・若手が小泉進次郎元環境相(43)小林鷹之前経済安保相(49)となる。

つまり、政権与党の中枢と閣僚が5人を占める。岸田政権の当事者なので、主要政策の責任の一端を背負っている立場にあることを頭に入れておく必要がある。

そのうえで、今回の立候補者がこれまで最も多かった5人を大幅に上回り、過去最多の9人、大混戦となった理由・背景としては何があるのだろうか。

まず、自民党は裏金問題を受けて派閥の解散を決めており、従来のように派閥のタガ、締め付けが効きにくくなったことがある。同じ旧岸田派にいた林氏と上川氏、旧茂木派の茂木氏と加藤氏のように、同じ派閥から2人が立候補したのは派閥の締め付けががなくなったことが大きい。

また、閣僚経験者の1人は「推薦人20人を集めることができれば、立候補できるようになったので、総理・総裁をねらう人たちが名乗りを上げ、総裁選立候補の足跡を残しておきたいという思惑が働いているのではないか」と解説する。

さらに、党の長老に聞くと「次の政権は政治とカネの問題が響いて、衆院選挙は苦戦も予想され、短命政権となるおそれもある。政権の先行きを見越した思惑もあるのではないか」との見方を示す。

一方で、「かつては『三角大福中』『安竹宮』『麻垣康三』といった次の総裁候補の面々が控えていたが、今や衆目一致する有力なリーダー候補がいなくなったともいえる」と語る。この発言の意味は混戦というが、実態は有力なリーダー候補がいない”人材枯渇現象”の裏返しではないかとの厳しい見方だ。

 中身は変わるか、2つの視点がカギ

さて、今回の総裁選の選挙権は、自民党所属の衆参両院の議員376人と105万人党員に限られ、ほとんどの国民は選挙権はない。選挙権はないが、国民の多くは、岸田首相が退陣表明の際に強調した「自民党は変わらなければならない」との訴えが、本物になるのかどうかを注目しているのではないか。

9人の候補者は立候補の届け出を済ませた後、党本部で行われた立ち会い演説会でそれぞれの意見を明らかにした。

各候補は◆政治とカネの問題を受けて、信頼回復のための党改革や政治改革のあり方、◆経済・財政政策や物価高対策、◆人口減少対策と社会保障、◆外交・安全保障、◆憲法改正などについて、それぞれの立場から対応策を訴えた。

驚いたのは、政権幹部である茂木幹事長が「増税ゼロ」を訴え、防衛増税と子育て支援金の追加負担、各1兆円を停止する考えを打ち出したことだ。また、茂木氏は政治とカネの問題では「政策活動費」の廃止も表明した。いずれも岸田政権の方針とは正反対の考え方だ。

また、小泉進次郎氏は「総理・総裁になったら、できるだけ早期に衆議院を解散し国民に信を問う」考えを表明するとともに規制改革・解雇規制緩和などに取り組む考えを示した。解雇規制の緩和は、政府内や国民の間でも意見が分かれている問題だ。党内の合意形成はできるのだろうか。

総裁選なので、それぞれの候補が自らの考えを表明するのは自由だが、政権与党なので、政権の掲げる政策と異なる場合、その理由や内容などについて、詳しい説明を行う必要がある。

以上を確認した上で、本論である「自民党の中身は、本当に変わるのかどうか」に話を移したい。2つの視点が重要だと考える。

まず、国民の関心が高い「政治とカネの問題」については、国民の疑念に真正面から取り組むことが必要だ。立ち会い演説会を聞いた限りでは、各候補の主張はほとんどが一般論で、取り上げても部分的で、具体性が極めて乏しい。これでは、国民の政治不信を払拭し、信頼を回復するのは難しいだろう。

求められているのは、◆裏金問題の説明責任と処分の扱いをどのようにするのか。◆先の国会で成立した改正政治資金規正法の中で、「検討項目」として盛り込まれた第三者機関の設置などの改革をどのように実現していくのか明らかにする必要がある。

2つ目は、国民の多くが知りたいのは、端的に言えば、これからの「経済・社会のかじ取り」をどうするのかだ。国内では人口急減社会が急ピッチで進む一方、GDPの規模は円安政策もあってドイツに抜かれて4位に後退するなど国際社会での日本の地位低下に歯止めがかからない。

これに対して、各候補の主張は「強い日本列島をつくる」「世界をリードする日本をつくる」「所得倍増を成し遂げる」など威勢のいい目標は盛んに語られるが、目標はどのような政策を組み合わせると実現するのか、説得力のある説明は聞かれなかった。これでは、国民の将来不安は中々、消えない。

この10年余り続いたアベノミクスを総括し、これからの経済・社会の基本方針をどのように設定するかを明確に打ち出す時期ではないか。こうした基本方針と実現への道筋を示すことこそ、政権与党の自民党が問われている点だと考える。

自民党内には「総裁選で新総裁が誕生すれば、政権の支持率が上がり、その勢いに乗って早期の衆院解散に踏み切れば、選挙に勝てる」との見方が広がっている。

一方、政治とカネの問題への対応は曖昧なまま、将来の暮らしや経済の展望も開けないとなれば、次の衆院選では有権者からしっぺ返しを受けるというのが、これまでの教訓だ。

私たち国民は、総裁選での論戦を通じて「政治のカネの問題」と「経済・社会の基本方針」の議論が進むのかどうかを見極め、次の衆院選挙の投票する際に生かしていくことが必要ではないかと考える。(了)

 

“政権との対立軸を示せるか?”立民代表選

立憲民主党の代表選挙は7日告示され、野田元首相、枝野前代表、泉代表、吉田晴美衆院議員の4人で争われることが決まった。4氏は、共同記者会見や候補者同士の討論、地方遊説、テレビ番組に出演し、議論を交わしている。

メデイアの多くは、今回の代表選について「政権交代に向けた野党の共闘や連携が焦点」とのとらえ方をしているが、国民の多くは「今の自公政権との違いは何か?」に関心があるのではないか。

自民党の総裁選もまもなく12日に始まり、新総裁が決まれば、早期の衆院解散・総選挙に踏み切るとの観測も強まっている。今回の代表選をどのようにみたらいいのか、何が問われているかを考えてみたい。

 立民代表選の顔ぶれ、関心度は?

まず、候補者の顔ぶれだが、枝野前代表と野田元首相の立候補は早い段階で固まった。一方、泉代表の立候補表明は告示日の前日、吉田晴美議員は告示日当日、締め切り直前に立候補を届け出た。20人の推薦人集めがいかにたいへんだったかが、わかる。

吉田晴美議員は当選1回、初めての挑戦だが、残り3人はいずれも民主党時代を含めて、代表経験者と現代表だ。”変わり映えがしない”、”刷新感に乏しい”などの批判も聞かれる。

そうした批判は当たっているが、野田氏は67歳、枝野氏60歳、泉氏50歳で、自民党と比べると必ずしも高齢とは言えない。野党が政権交代をめざす場合、むしろ安定感を与えるとみることもできそうだ。

そうした顔ぶれの印象よりも、立憲民主党にとっての難問は、国民に代表選への関心を持ってもらえるかどうかだ。メデイアの報道は、既に自民党の総裁選の方に集中しているようにみえる。総裁選本番となると、代表選の方は埋没してしまう可能性もある。

メデイアの扱いは、野党か、政権与党かで、政策などの報道で差が出るケースもある。それだけに代表選の候補者は、国民を引きつけるメッセージや政策を打ち出せるか力量が問われることになる。

 政権との違い・対立軸を打ち出せるか

次に、各候補の主張について、ポイントを絞って見ておきたい。4人の候補とも次の衆院選で政権交代をめざすことでは一致している。

◆野田氏は「政権交代こそ最大の政治改革」だとして、自民党の裏金問題と政治改革を最大の争点として位置づけ、世論の支持拡大をめざす考えだ。

◆枝野氏は「人間中心の経済」を掲げ、失われた30年を教訓にアベノミクスに代わる、人を大事にする新たな経済政策を訴えている。

◆泉氏は「日本を伸ばす」をキャッチフレーズに地域の産業の振興、教育無償化などを推し進めていくと強調している。

◆吉田氏は「教育と経済で、国民生活の底上げ」を訴え、教育の無償化や消費税の食料品ゼロ税率などをアピールしている。

◆こうした主張をどのようにみるか。1つは、自民党の派閥の裏金事件を受けた政治改革については、報道各社の世論調査でも、岸田政権が成立させた改正政治資金規正法を「評価しない」という受け止め方が圧倒的に多い。

また、自民党総裁選に立候補を表明した候補の中からも、岸田政権の方針とは反対の「政策活動費の廃止」や「旧文通費の公開」を打ち出す意見が出されるようになった。

こうした動きを受けて、野党第1党である立憲民主党は、改正政治資金規正法の抜本改革に向けた具体案をまとめ、早期実現に道筋をつける必要があるのではないか。今後の具体的な取り組み方を注目したい。

◆2つ目は、立憲民主党が政権交代をめざすのにあたって、どのような構想・政策を掲げるかが問われている。枝野氏の「人間を中心にした経済」も構想の1つになると思うが、具体的な政策の内容がまだ、よくわからない。

一方、自民党の総裁選に名乗りを上げた小泉進次郎氏は「聖域なき構造改革、解雇規制の緩和」を打ち出した。こうした自民党候補の政策との違いを含めて、自公政権との違いを鮮明に打ち出してもらいたい。端的に言えば「自公政権との対立軸」を明確に示すことも注文しておきたい。

◆3つ目は、次の衆議院選に向けて、野党各党との共闘・連携の路線問題がある。メデイアは、共産党と維新のどちらと連携を図るのかと判断を求める論調が多い。

この問題の立憲民主党の本音は「共産党支持者の票は欲しいが、連立政権の話し合いの対象にはしたくない」というところだろう。

一方、維新は「立憲民主党との連立は考えていない」とみられる。共産党は「選挙協力を行う場合は、政権のあり方についても協議するのは当然」という考えとみられる。

つまり、3者の考え方は方向性が一致していないので、事前に話を詰めようとしても限界がある。また、次の選挙で自公両党が過半数割れに落ち込むかどうかもわからない。

このように見てくると連立政権の枠組みの問題よりも、自公過半数割れに追い込むための取り組み方を協議する方が、野党側にとっては意味があるように思われる。例えば、野党共通の主要政策をまとめ、政権に迫るといった取り組みだ。

以上、見てきたように国民の多くは、野党の共闘・連携のあり方よりも、野党第1党として、自公政権との違い・対立軸は何か、国民にわかりやすい政治課題を幾つか示すことが求められているのではないかと考える。

 代表選の情勢、地方票など流動的

最後に「代表選挙の情勢はどうか?」といった質問が予想される。民主党の関係者に聞くと「野田氏と枝野氏が先行しているのではないか」といった見方を聞くが、根拠のあるデータや情報に基づくものではなく、情勢はまだわからない。

その理由は、投票全体の半数を占める「地方議員と党員・サポーター」の地方票が、まだ読めないことが大きい。今回は、選挙期間が17日間と長いこともあって、4氏の論戦の評価なども含め情勢は、流動的だ。

一方、立憲民主党にとっては、新代表に誰が選ばれるかという問題と並んで、党の存在感や政策について、無党派層を中心に世論の評価や支持が広がるかがカギとなる。次の衆院選で、政権交代が実現するか最大の焦点になるからだ。

立憲民主党の代表選は23日、自民党の総裁選は27日にそれぞれ投開票が行われ、新しいリーダーが決まる。私たち有権者も両党の論戦に耳を傾けながら、これからの日本社会は何が必要か、次の衆院選挙に向けて準備を始めたい。(了)

 

混戦総裁選と”総理・総裁の条件”

自民党の総裁選挙は、立候補を表明したり意欲を示したりしている候補が10人以上に上るなど異例の混戦状態になっている。

既に立候補を表明したのは、小林鷹之・前経済安保相と、石破茂・元幹事長、河野太郎・デジタル担当相の3人だ。続いて林芳正・官房長官、小泉進次郎・元環境相、高市早苗・経済安保相、茂木幹事長らが続々と記者会見して立候補を表明する見通しだ。

メデイアは連日、誰が立候補に必要な推薦人20人を確保できるのかといった予想を伝えている。ただ、選挙の告示日は9月7日なので、最終的な顔ぶれが確定し、政策を打ち出すまでには、なお、かなりの時間がかかりそうだ。

一方、自民党の総裁選で新しい総裁に選出され、国会で指名を受けると直ちに新しい首相に就任する。国民のほとんどは総裁選の投票権は持っていないので、自ら関与しないところで、新首相が事実上、決まってしまうことになる。

そこで、せめて真っ当なリーダーを選んでもらいたいというのが国民多数の願うところだろう。「総理・総裁にふさわしい資格・条件」とは何か?この条件を考えてみたい。いずれ衆議院解散・総選挙になると今度は国民が、今の総理・総裁はふさわしいか、どの政治勢力・候補者に政権を委ねるかを判断することになり、その際の基準にもなる。

元首相の格言、体系的リーダー論も

さっそく、「総理・総裁にふさわしい条件」とは何か。政界で有名なのは、田中角栄元首相の格言だ。「党三役のうち幹事長を含む二つと、大蔵、外務、通産の大臣のうち二つ」が必要だいうものだ。一国の宰相は、主要ポストを歴任しておかないと、とても務まらないという考え方だ。

私は、70年代後半の「大福決戦」(当時の福田赳夫首相と大平幹事長との対決)の時が駆け出しの政治記者時代で、それ以降、総裁選挙を取材してきた。担当した竹下元首相や後藤田元官房長官は「調整力」を重視していたのが印象に残っている。

総理・総裁の条件を最も体系的に捉えていたのは、中曽根元首相ではなかったかと思う。中曽根氏は、4つの条件を挙げていた。1つは「目測力」、2番目は「結合力」、3番目は「説得力」、4番目が「人間的魅力」だ。

勝手に解釈をさせてもらうと目測力とは「事態の推移を予測し、問題点を提起し、最終的に決着させる力」。結合力は「智恵と人材を集め、政策を遂行する総合力」。説得力は「大衆社会では、政治家は国民との対話と説得力が不可欠」との考え方で、最終的には「人間的魅力」が重要とする体験的なリーダー論だ。

このリーダー論は今も通用すると私個人は考えているが、80年代までの話だ。93年に自民1党優位時代が崩れて以降、連立時代へと変わり、派閥の領袖や主要ポストを経験しない首相も誕生している。

一方、今回のように総理・総裁候補が10人以上も名乗りを挙げる事態をどのように考えたらいいのか。また、「選挙の顔として誰がふさわしいか」といった次元の意見がまかり通るようなリーダー選びでいいのか、今一度「総理・総裁の条件」を考えておくことが必要だと感じさせられる。

 リーダー選び 3つの判断基準

それでは「総理・総裁の条件」、もっとわかりやすく言えば「私たち一人ひとりが判断する基準」としては、どのような物差しがあるだろうか。最近の政治の動きを基に考えると、個人的には、次のような3つの基準を挙げたい。

1つは「目標と道筋」。内外ともに激動の時代、何を目標に設定して国政を運営するのかの基本方針。この基本方針が、明確かどうか。同時に目標を実現するための方法、達成時期がはっきり示されているか。

目標としては、この30年間賃金が上がらず停滞した日本経済の立て直し、人口急減社会と社会保障の整備、外交・防衛力の強化などさまざまな目標が打ち出されるだろう。その際、どのような方法で実現するのか、具体的な道筋を示すことができているかどうかがポイントだ。

2つ目は「経験と刷新」。多くの候補者の中から、リーダーとしての資質・能力をどのように判断するか。田中角栄元首相が指摘したように政府・党の主要ポストの経験も1つの物差しにはなると思う。

一方で、世代交代の促進。中堅議員でも突破力があれば、古い党の体質を刷新、大きな改革ができる可能性もある。但し、刷新を掲げながら、舞台裏で古い勢力の支援や重鎮とのつながりがあったりすれば、国民の失望を買う。経験と刷新をどう折り合いをつけるか、具体的な人物を対象に判断するしかないと考える。

3つ目が、各候補が打ち出す多くの目標や政治課題などの中から「優先順位」をつけることも重要な点だ。総理・総裁として中長期の目標と同時に、総裁任期3年の間に何を最優先に取り組むのかをはっきりさせる必要がある。

その際、報道各社の世論調査をみると国民の多くは「裏金問題を受けて、自民党は政治不信の払拭にどこまで真剣に向き合うのか」を重視している。このため、政治改革は最重要の案件として、各候補は具体的な対応策を示してもらいたい。そのうえで、その他の政治課題の中から、何を最重点に取り組むのかを明確に打ち出してもらいたい。

今回の総裁選は、多くの候補者が名乗りを上げ、それぞれ選挙の公約を打ち出す見通しだ。先に触れた「3つの基準」に基づいて整理をすれば、各候補について、一定の評価を行うことができると思う。

一方、今回の総裁選挙をめぐって自民党内では、次の衆院選挙を意識して「選挙の顔」を選ぼうとする動きがうかがえる。だが、新しい総裁は、国会で指名を受けると即、新しい総理として国のかじ取りを担う。行政全体を指揮する能力、与党との調整力、見識などを兼ね備えたリーダーを選ぶのが、責任政党の役割だ。

各候補者が出そろい、候補者同士による例年より長い論戦を経て、自民党は100万人余りの党員と所属する衆参国会議員の選挙で、誰を最終的に選出することになるのか。また、派閥を解消して、新しい自民党に生まれ変わるとした約束が守られるのかどうかも大きな注目点だ。

ほとんどの国民は、今回の総裁選では投票権は持っていないが、今の衆議院議員の任期が満了となる来年10月末までには、衆議院選挙が行われる。そこで、来月行われる自民党と、野党第1党・立憲民主党のリーダー選びを注視しながら、次の衆院選挙での判断に活かしてはどうだろうか。(了)

 

 

”政権不信 払拭できるか” 混戦自民総裁選

岸田首相の後任を選ぶ自民党の総裁選挙は、9月12日告示、27日投開票とする日程が20日、党の総裁選挙管理委員会で決まった。

一方、立候補に意欲を示す候補者は異例の11人にも上っている。党員投票が導入されて以降、立候補者が最も多かったのは5人だった。候補者数は推薦人20人が確保できるかどうかで絞られるが、混戦の総裁選になるのは確実な情勢だ。

総裁選の日程については、告示日から投票日前日までの期間は15日間となり、今の規定となった1995年以降、最も長くなる。また、告示日まで3週間もあり、これから投開票日まで1か月半近くに及ぶ長期戦になる。

こうした背景には、自民党としては「テレビなどメデイアの露出を増すことができる。また、低迷が続く内閣と自民党の支持率を回復させ、新総裁誕生の勢いに乗って衆院選の勝利にもつなげられる」との思惑があるものとみられる。

だが、世の中、それほど甘くはないのではないか。「総裁選を長期にすることで、議論がだらけないか。今の顔ぶれでは、国民を引きつける議論や討論を成り立たせるのは難しいではないか」とも思える。

総裁選をめぐっては、中堅・若手議員が推す小林鷹之・前経済安保担当相が19日、いち早く立候補を表明した。今週、石破幹事長も名乗りを上げる見通しだが、候補者の顔ぶれがそろうまでには、なお、時間がかかりそうだ。

これから、メデイアが総裁選の論点・争点にどこまで切り込めるか。また、ほぼ同時期に行われる立憲民主党の代表選で、どこまで自民党との対立軸を鮮明に打ち出せるかも大きなポイントになる。

自民総裁選は、私たち国民にとって、どのような意味があり、何が問われているのか考えてみたい。

退陣の最大要因は、裏金問題への対応

今回の総裁選挙は、岸田首相の総裁任期満了に伴うものだが、首相は再選を目指しながらも立候補断念に追い込まれた。

その結果、総裁選の構図が一変し多数の候補が乱立することになったので、岸田政権の3年間、何が最も大きな問題だったのかを手短に確認しておきたい。

岸田政権は2021年10月にスタートしたが、当時は急拡大するコロナ対応に追われた。翌22年にロシアのウクライナ侵攻、安倍元首相が銃撃事件、この事件を契機に旧統一教会と自民党との接点が発覚するなど事件、戦争、パンデミックなどに翻弄された政権でもあった。

こうした中で、退陣へ追い込まれた最大の要因は、自民党派閥の裏金事件への対応で、実態の解明や再発防止策への対応が後手に回った。

これによって国民の政治不信、政権への不信が深まった。内閣支持率は長期にわたって低迷状態が続き、自民党の政党支持率も下落するようになった。今度の総裁選挙や次の衆院選挙で勝てる展望が開けず、退陣に追い込まれたのが実態だった。

したがって、今回の総裁選では「政治不信、政権不信」を本当に払拭できるかのどうかが、最も問われる点だ。

もう1つ、岸田政権が問われる点を挙げると、重要政策の決定にあたって「国民に説明し、説得する姿勢」が乏しかったことだ。

具体的には、国家安全保障戦略など防衛3文書の決定に当たって、敵基地攻撃能力の保有と専守防衛との関係などについて、国会での議論があまりにも少なかった。

防衛予算についても5年間で43兆円、1.6倍に拡大することを決定したが、首相主導で、国民への説明は極めて不十分だった。その財源確保のための防衛増税の実施時期については、未だに先送りしたままだ。

岸田政権は、こうした防衛力の抜本強化などの方針転換にあたって、政府と党の連携が十分とれておらず、首相が独走する形が目立った。政権中枢と自民党、与党との方針決定のあり方も、今後の大きな課題として残された。

政治改革の具体化、実現の道筋が焦点

それでは、今度の総裁選では、具体的に何が問われるか。1つは、政治不信の払拭に向けて何をするかということになる。岸田政権は、改正政治資金規正法を成立させたが、報道各社の調査では、国民の多数は評価していない。

また、改正法の付則には、政治資金を監督する第三者機関の設置や、政策活動費の10年後の領収書公開のあり方をなど検討していくことが盛り込まれているが、自民党内ではその後、検討を行っている動きはない。

今度の総裁選挙でも各候補は、政治の信頼回復に向けて努力する考え方を示すものとみられる。その際、検討項目の結論をいつまでに出して、実現していくのか、具体的な方針を示さないと国民の理解は得られないだろう。政治改革の具体化と、いつまでに実現するのか、その道筋を明らかにできるかどうかが焦点になりそうだ。

2つ目は、物価高騰が続く中で、国民生活の向上と日本経済再生の道筋をどのようにつけるかも問われている。岸田政権は経済政策「新しい資本主義」を掲げ、経済成長と「分配」重視を打ち出し、「アベノミクス」の修正を図ろうとしたが、道半ばで終わってしまった。

円相場や株式市場が大きく変動する中で、大規模な金融緩和策を変更し、どのような金融・経済のかじ取りを行っていくのかも大きな論点になる見通しだ。

3つ目は、自民党はどのような政党をめざすのか、統治の形や運営方法などを具体的に示していく責任がある。裏金問題に関連して派閥の解散を決定したが、今回の総裁選で守られるのかどうか、試される。

また、今後は、派閥解散後の人事、政策の調整、若手議員の育成などをどのように行っていくのか、新生自民党の姿・内容も議論になりそうだ。

ここまで、自民党総裁選で問われる点をみてきたが、最終的に候補者の顔ぶれはどのようになるのか。政策論争は深まるのかどうか、その結果は、新しい総理・総裁の評価に直結する。

私たち国民も、ほぼ同時並行で進められる立憲民主党の代表選と比較しながら、次の時代を担うリーダーや、望ましい政権担当勢力、重点的に取り組むべき政策課題などを考える機会にしたい。(了)

 

 

 

 

 

岸田首相 退陣表明、自民総裁選びは混迷か

岸田首相は14日昼前、首相官邸で記者会見し、自民党総裁選に立候補せず、退陣する考えを正式に表明した。

この中で、岸田首相は来月の総裁選について「自民党が変わる姿、新生自民党を示すことが必要だ。変わることを示す最もわかりやすい最初の一歩は、私が身をひくことだ」とのべ、総裁選に立候補せず、新総裁選出後に退陣する考えを明らかにした。

自民党内では、岸田首相が「先送りできない課題に1つずつ、結果を出す」と繰り返し表明してきたことから、総裁選で再選をめざす可能性が大きいとの見方が強かった。それだけに、お盆休み中の突然の立候補断念表明は大きな驚きをもって受け止められている。

なぜ、岸田首相は総裁選への立候補を断念することになったのか。また、自民党総裁選の今後の展開はどうなっていくのか、探ってみたい。

 首相、総裁選乗り切り困難と判断か

岸田首相の総裁選への対応をめぐっては「首相が立候補を断念することはあり得ない」との情報が首相周辺から盛んに流される一方で、自民党内では「最終的には、断念に追い込まれる可能性もあるのではないか」との見方もあった。

自民党長老に首相の退陣表明の感想を聞いてみると「自民党議員の多くは、首相には交代してもらいたいというのが本音ではなかったか。総裁選での党員投票を考えると、岸田首相が多数を得るのは難しく、総裁選乗り切りは困難と判断したのではないか」と見方を示している。

こうした自民党内の見方に加えて、岸田内閣の支持率は今月も20%台半ばの低い水準で、これで10か月連続となる。一方、裏金問題をきっかけに自民党の政党支持率も下落し、30%ライン割れが6か月連続となる。いずれも2012年に自民党が政権復帰以降、初めての異例の状態が続いている。

また、岸田政権政治資金規正法の改正についても「評価しない」が多数を占め、その後も政権の支持率が回復する兆しはみられなかった。

さらに、岸田首相を支持してきた旧派閥内でも「岸田首相が立候補した場合、推薦人にはなりたくない」との声が聞かれた。

こうしたことから、岸田首相としても自民党総裁選に立候補しても、勝てないと判断し、最終的に立候補断念を決断したものとみられる。

取材する側からみても、政治とカネをめぐって、世論の政権不信は一向に収まらない。自民党内も「首相が最終的に責任を取るべきだ」として退任を求める意見が根強かった。さらに、世論の記録的な低支持率が改善されない以上、いずれ総裁選からの撤退は避けられないだろうとみていた。したがって、ここまでは想定内の展開と受け止めている。

自民総裁選、後継選びは混戦・混迷か

それでは、自民党の総裁選びは、どのような展開になるだろうか。総裁選の日程は、20日に開かれる総裁選選挙管理委員会の日程で、来月の告示と投開票の日程が決まる運びになっている。

当面の焦点は、まず、誰が立候補するかだ。これまで意欲をにじませる候補は多かったが、立候補を表明した候補は誰もいない。石破元幹事長は14日、「立候補に必要な推薦人20人が整えば、責任を果たしたい」とのべ、立候補する考えを示した。

自民党関係者に聞くと、岸田首相が立候補しない考えを表明したので、茂木幹事長は立候補する可能性が大きいとの見方を示す。小泉元環境相、河野デジタル担当相、高市早苗・経済安保担当相、野田聖子・元子ども政策担当相、中堅・若手の小林鷹之・元経済安保相など多くの候補が名乗りを上げようとするのではないか。

但し、立候補には推薦人20人が必要で、この条件は意外と厳しい。告示直前まで、推薦人確保の動きが続き、最終的に候補者が絞り込まれることになる。

そのうえで、誰が総裁選を勝ち抜くのか?この見通しは、残念ながら今の時点で難しい。自民党が派閥解散を決めたことから、議員票の読みが難しいからだ。

さらに、党内の一部では、麻生副総裁や、菅元首相らが影響力を行使して、総裁選に影響力を及ぼすのではないかとの見方も聞く。一方、自民党ベテラン議員は「派閥の領袖や元首相がキングメーカー然として振る舞ったり、派閥復活とみられるような動きが出たりすると世論の猛烈な反発を招く」と懸念を示している。

自民党の総裁選びは、従来の総裁選とどこまで変わるのか、実際の動きを見てみないと情勢の判断は難しい。従来より多くの立候補者が予想される一方、初めての派閥なき総裁選になるので、情勢がつかみにくく、混戦・混迷の総裁選びになるのではないか。

自民党の長老に聞いてみると「総裁選は各候補が、総理・総裁になったら何をやるかを打ち出すことが一番大事な点だ。今は、そうした動きが全くないのが一番の問題だ。議員も、誰が総裁になれば自分の選挙は有利になるかといった発想が強すぎる」と党の現状に強い危機感を抱いている。

私たち国民も総裁選の勝敗だけでなく、各候補の政権構想や主要政策、国民の信頼回復のための具体的な取り組み方などについて、しっかりみていく必要がある。(了)

 

 

 

 

 

 

 

株価乱高下、岸田首相の再選戦略に影響も

自民党の総裁選挙は、今月20日に開かれる総裁選管理委員会の会合で、来月の選挙日程が決定されることになった。9月20日投票か、27日投票を軸に選挙日程の調整が進む見通しだ。

こうした中で、NHKの8月の世論調査が5日にまとまり、岸田内閣の支持率と自民党の支持率は低い水準に止まっていることが明らかになった。

加えて、5日の東京株式市場で日経平均株価の終値が、4451円と過去最大の下落幅を記録した。翌6日は、一転して買い戻しの動きが広がり、終値で3217円値上がりし、終値として過去最大の上げ幅になった。

こうした株価の大きな乱高下は、経済政策を強くアピールしてきた岸田政権を直撃する形になった。総裁選での再選をめざす岸田首相にとって、大幅賃上げと株高は政権の大きな成果としてきただけに、今回の株価の異常な乱高下は再選戦略に影響を及ぼすことになりそうだ。

 内閣、自民支持率ともに低迷続く

まず、NHKの今月の世論調査(2日から4日実施)は、自民党総裁選を1か月後に控えた調査になるので、内閣支持率と自民党支持率がどの程度の水準になるのか、注目していた。

岸田内閣の支持率は25%で、先月と同じ水準に止まった。一方、不支持率は55%で先月より2ポイント減少したものの、依然として高い水準だ。岸田内閣の支持率は、10か月連続で20%台という低迷状態が続いている。

一方、自民党の政党支持率は今月は1.5ポイント伸ばして29.9%となったが、6か月連続で30%割れとなった。自民党政権下で30%ラインを割り込むのは、2009年の麻生政権以来となる。

岸田政権は通常国会閉会を契機に、定額減税の実施や電気ガス料金の補助金支給、それに得意の外交活動を展開して、総裁選前の政権の浮揚をめざしてきた。ところが、内閣支持率、自民党支持率ともに改善はみられず、厳しい状況に追い込まれている。

株価乱高下、首相の再選戦略に影響も

こうした中で東京株式市場は5日、取引開始直後から全面安の展開となり、日経平均株価の終値は4451円安い3万1458円、過去最大の下落幅を記録した。アメリカの景気減速の懸念が強まったことや、円高が急速に進んだことが影響したものとみられる。

翌6日は一転して買い戻しが広がり、株価は一時、3400円以上値上がりし、上げ幅は取引時間中としては過去最大となった。株価大暴落に歯止めがかかったことで市場は警戒感が和らいでいるが、当面不安定な値動きがつづきそうだ。

岸田政権は支持率低迷が続く中で、高い賃上げの実現や、NISA(少額投資非課税制度)の拡充など「貯蓄から投資へ」などの経済政策を強くアピールしてきた。それだけに今回の株価大暴落は、政権にとって大きな痛手だ。

また、自民党総裁選に向けても外交と並んで、経済に強い政権を訴えて再選を図る戦略を描いてきただけに、再選戦略に影響が出ることは避けられそうにない。

株価乱高下について、岸田首相は6日広島市の記者会見で「引き続き緊張感を持って注視するとともに、日銀と密接に連携しつつ、経済運営を進めていきたい」とのべるに止まった。

日銀は、先に政策金利を0.25%程度引き上げる追加乗り上げを決めるとともに、植田総裁はさらなる金利の引き上げもありうるとの考えを示した。岸田首相としてはどのような金融・経済政策を行っていくのか説得力のある説明が必要だ。首相の対応は、内閣の支持率にも跳ね返ってくる。

 自民総裁選、岸田首相の去就が焦点

さて、自民党総裁選挙をめぐっては、未だに誰も立候補の名乗りを上げていない。今月20日に総裁選の日程が正式に決まるのを待って、一気に動き出すものとみられている。

総裁選の動きが本格化しないのは、現職の岸田首相が自らの去就について、態度を表明しないことが影響している。首相周辺は「首相が再選を断念することはない」との見方を示す。これに対し、自民党内には「次の衆院選を戦う顔としては適任ではない」と交代を求める声も根強い。

自民党内では「岸田首相は9日から12日までの日程で、中央アジア・モンゴルを歴訪する。その区切りがつけば、最終的な判断をするのではないか」との見方もある。

岸田首相は今月、鈴木財務相、麻生副総裁、林官房長官、森山総務会長らと相次いで、個別に会談を続けている。総裁選の情勢をめぐって、さまざまなケースを想定して意見を交わしているものとみられる。

現職の首相が総裁選に立候補して敗北したのは、73年に当時の福田赳夫元首相が、大平幹事長に敗れた一度だけだ。一方で、現職の首相・総裁が立候補を断念したケースもある。最近では菅元首相、谷垣総裁、河野洋平総裁らだ。

岸田首相はどちらの道を選択するのだろうか。現職の首相が去就を明らかにしないと総裁選の構図は固まらない。今月中旬以降、来月初めにかけてさまざまな動きが表面化してくる見通しだ。(了)