臨時国会が1日召集され、岸田首相の後継を選ぶ首相指名選挙が行われ、自民党の石破新総裁が、第102代の総理大臣に選出された。石破首相は直ちに組閣作業に入り、19人の閣僚のすべてを決定、石破新内閣が発足した。
岸田首相が事実上の退陣表明したのが8月14日、後継選びの総裁選には過去最多の9人が立候補し、大混戦が続いた。最後は決選投票にまでもつれ込み、逆転勝利を収めたのが石破氏だった。
決選投票で敗れた高市早苗氏は、石破氏から総務会長ポストの打診を受けたが、固辞し、政権と距離を置く姿勢を鮮明にした。石破氏と高市氏とのせめぎ合いは今後も続くことになりそうだ。
石破首相はできるだけ早く国民の信を問いたいとして、10月9日に衆議院を解散し、10月27日に投開票を行う考えだ。首相就任から衆院解散までわずか8日間の日程は、過去最短となる。
これに対して野党側は、国会論戦を避けて衆院解散に踏み切るのは認められないとして強く反発し、1日召集の国会は冒頭から対決色が強まった。
激しい総裁選を終えたばかりの自民党内は一枚岩になっておらず、政治とカネの問題で逆風が続く中で、衆院決戦は大きなリスクも抱えている。石破政権の前途は多難で、まずは衆院決戦を乗り切ることができるかどうかがカギを握る。発足した石破政権の特徴や、政権運営のポイントなどを展望してみたい。
政権基盤弱く、森山氏、菅氏らに依存
さっそく1日に発足した閣僚の顔ぶれから、見ておきたい。◇外務大臣に岩屋毅・元防衛相、◇防衛相に中谷元・元防衛相、◇総務相に村上誠一郎・元行革担当相など石破首相と個人的に親しい顔ぶれが目につく。
また、総裁選で石破氏の推薦人なった関係者を多数、起用したのも特徴だ。先ほど触れた岩屋氏、村上氏のほか、経済再生担当相に赤沢亮正・財務副大臣、農水相に小里泰弘・首相補佐官、デジタル担当相に平将明・広報本部長代理、沖縄・北方担当相に伊東良孝・元農水副大臣だ。
さらに◇内閣の要の官房長官は林芳正官房長官が続投するほか、◇財務相は加藤勝信・元官房長官が就任。女性閣僚は◇文部科学相に阿部俊子氏、◇子ども政策担当相には、参議院議員の三原じゅん子氏を起用した。
自民党の派閥からの政治資金を不記載にしていた裏金議員と、安倍派からは閣僚に起用しなかった。
一方、自民党役員人事では、◇党の要の幹事長にベテランの森山裕・総務会長をすえた。◇総務会長に鈴木俊一・財務相、◇政調会長に小野寺五典・元防衛相、◇選対委員長に総裁選を戦った小泉進次郎氏を起用した。
このように今回の人事は、党の運営全般と選挙を仕切る幹事長に森山氏、副総裁に菅元首相がそれぞれ就任して柱の役割を果たし、さらに内閣と党の主要ポストを岸田前首相とそのグループと菅グループなどが支援する構図になっている。
岸田政権は麻生、茂木、岸田の3派が主流の政権だったが、今回は高市支持の麻生氏を党の最高顧問に棚上げ、代わって「森山、菅、それに岸田の3氏を軸にした体制」へと変化している。
特に森山氏は小派閥の出身ながら、国対委員長と選対委員長の両方を長い間、担当して調整能力の優れた老練な政治家だ。石破政権は実質的に、森山氏が切り盛りすることになるのではないかとみている。
同時にこのことは、石破氏の政権基盤の弱さを補う効果が期待できる反面、石破氏が政権運営の主導権をどこまで発揮できるかどうかわからない両刃の剣ともいえそうだ。
早期解散、首相の政治姿勢も問われる
さて、石破総裁は国会で新しい首相指名を受ける前日の30日、記者会見で「国会で新しい首相に選出されれば、できるだけ早期に国民の審判を受けることが重要だ。10月27日に解散・総選挙を行いたい」とのべ、10月9日に衆院解散、15日公示、27日投開票の日程で解散総選挙を行う方針を明らかにした。
この問題が与野党の新たな火種になっている。自民党の新総裁が、国会で首相の指名を受けてもいないのに、衆院の解散時期に言及することは異常な事態だ。指摘を受けた石破氏は「全国の選管が選挙の準備を行えるようにするためだ」と釈明した。
だが、憲法7条は「天皇は内閣の助言と証人により、国事行為を行う」と規定しており、その1つが「衆議院の解散」だ。新たな内閣が発足していないのに”衆院解散を事前予告”するような越権行為は認められない。なぜ、そこまで焦る必要があるのか理解に苦しむ。
もう1つ、この問題は、石破首相の政治姿勢にも関係してくる。というのは、総裁選での論戦で小泉氏が「できる限り早く解散総選挙を行いたい」と主張したのに対し、石破氏は「なってもいないものが言及すべきではない」と慎重な姿勢を打ち出した。
また、石破氏は「国民に判断していただける材料を提供するのが、新しい首相の責任だ。本当のやりとりは予算委員会だと思う」とまで予算委員会で与野党が議論を戦わせることの意義を強調していた。
ところが、新総裁に選ばれると、それまで発言を一転、早期解散にカジを切った。野党側は「自民党を変える前に、石破首相自身が変節してしまった。言ってきたこととやっていることが違う」などと強く反発している。
石破政権としては4日に初めての所信表明演説を行ったうえで、7日と8日に衆参の本会議で代表質問、9日に党首討論を行ったあと、その日のうちに衆院解散を行う方針で、野党側と折衝を続ける方針だ。
それでは、なぜ石破首相は解散時期の方針を転換せざるをえなくなったのか。自民党関係者は「石破首相の解散論は、あるべき論の筋論。党の重鎮や幹部はそろって選挙に勝つことが第1。新政権発足直後は、内閣支持率の上昇が期待できる。森山幹事長が短期決戦を強く進言し、石破氏も受け入れたのだろう」と解説する。
石破首相にとって、森山氏は誠実な人柄と調整能力に秀でており、幹事長候補として考えていたとされる。但し、森山氏に引きずられるようになると今度は、国民から首相の見識、能力を厳しく問うことになる。短期決戦方針が、吉と出るか、凶と出るか注目している。
早期解散論、国民の支持得られるか?
組閣を終えた石破首相は1日夜、最初の記者会見を行い「『国民の納得と共感を得られる内閣』をめざしたい」とのべるとともに「政治資金の監視にあたる第三者機関の設置など令和の政治改革を断行する」と強調した。
これに対し、記者団からは「衆議院の早期解散について、総裁選の最中は慎重な発言を繰り返していたのに、総裁・総理になると早期解散を唱えるなど違っていることについて、国民は戸惑っている。なぜ、変わったのか」という質問が繰り返し出された。
これに対し、石破首相は「新しい内閣ができたので、国民の判断を早急に求めることになった。国民への判断材料の提供と両立できるよう誠心誠意務めていく」と釈明に追われた。
石破政権は内外に多くの難問を抱え、多難な政権運営予想される。そうした中で、政権運営の主導権を確保するために早期解散を打ち出したが、総選挙に打って出る大義や政治姿勢に国民の理解が得られるかどうか、当面の焦点の1つに浮上してきたようにみえる。(了)