新年度予算案が2日衆議院本会議で、自民、公明両党などの賛成多数で可決され参議院へ送られた。これによって、新年度予算案は年度内に成立する。
通常国会前半の焦点である本予算の成立にメドがつき、例年であれば政府・与党内に安堵感が広がるが、今の菅政権にはそうした余裕は全く感じられない。
菅首相の長男が勤める放送関連会社の接待問題などが尾を引いており、予算審議の大詰めの段階に内閣広報官が辞職するという失態も招いてしまったからだ。
菅政権は特にこの1か月、相次ぐ失言・不祥事に振り回されている。加えて、事態収拾に当たる菅首相の判断に「国民感覚とのズレ」が目立つ。
政府・与党内からも「菅政権は、フラフラの状態で揺らいでいる。果たして、コロナ危機を乗り切れるかどうか」と政権の先行きを危ぶむ声も聞かれる。予算案の衆院通過という節目に菅政権が抱える問題点を探ってみる。
抜擢 内閣広報官 辞任の衝撃
菅政権に衝撃を与えたのが、山田真貴子・内閣広報官の辞職だ。山田氏は、菅首相の長男が勤務する放送会社「東北新社」から、総務審議官時代に1回1人7万円の接待を受けていたことが明らかになり、世論の厳しい批判を浴びた。
その山田氏は、第2次安倍政権で女性として初めての首相秘書官に起用され、退職後も去年9月菅内閣発足とともに初の女性内閣広報官に抜擢された。総務相時代から菅首相の強い後押しがあったとされる。
野党側は、山田氏を接待問題の参考人として衆院予算委員会に出席するよう求めていた。予算審議が大詰めの段階で、山田氏が辞職するといった事態は、政権幹部も想定していなかったのではないか。
菅首相は2月26日の時点でも山田氏を続投させる意向を示していたが、わずか3日で方針変更に追い込まれた。与野党からも「山田氏は早く辞めさせた方がいい」との声が出されていた。
菅政権の対応をめぐって「後手」という批判が強いが、判断の遅れというよりもむしろ「国民感覚とのズレ」と「判断の誤り」が多い。山田氏の問題についても衛星放送の許認可権を持つ総務省の総務審議官時代、利害関係者から高額な接待を受けていた以上、直ちに交代させるのが国民の普通の感覚・判断だ。
”不祥事・危機管理対応”に失敗
この問題は、元をたどると菅首相の長男に行き当たる。2月3日夜「文春オンライン」が緊急事態宣言が出されていた時期に総務省幹部4人を接待していたと報じた。当初、総務省幹部は、放送事業は話題にならなかったと否定していたが、音声データを突きつけられて、ようやく事実関係と相手が利害関係者にあたることを認めた。
その後、総務省の調査で、幹部13人が延べ39回にわたり接待を受けていたことが明らかになり、24日に11人が処分された。調査と処分が決まるまで3週間もかかったことになる。
一方、贈収賄事件で起訴された吉川元農相と鶏卵生産業者との会食に同席、接待を受けていた農水省の枝元事務次官ら幹部6人は、25日に処分を受けた。吉川元農相が起訴されたのは1月15日だから、こちらは1か月以上も経過している。
このように菅政権の対応をみていると事実関係の確認、処分、再発防止策などの危機管理対応に時間がかかる。これでは政治・行政への信頼回復は期待できない。危機管理対応は十分機能しておらず、失敗と言わざるえない。
菅首相の姿勢、政権の対応は
総務省の接待問題で、菅政権の危機管理対応がなぜ、機能しないのか。1つは、菅首相の姿勢、対応の仕方に問題がある。
菅首相は「私の家族が関係して、結果として、公務員が倫理法に違反する行為をすることになって心からおわびする」と陳謝するが、長男とは「別人格」だとして、自らの考え方や具体的な対応策には一切示さない。
しかし、菅首相は長男を総務大臣当時、政治任用の大臣秘書官に起用し、その後、総務省と関係の深い「東北新社」に就職している。会食に応じた官僚の中には、長男とは秘書官当時に知り合いになった幹部もいる。さらに菅首相は、官房長官時代も内閣人事局などを通じて、総務省に強い影響力を維持しているとみられている。
そうすると菅首相は、今一度、長男が関与した今回の問題をどのように考えているのか。また、公正な電波行政、電波の許認可などの進め方などについても明らかにすべきだと考える。
首相に直言する側近、幹部の不在
もう1つの問題としては、首相に直言できる側近や、幹部がいない点がある。政界関係者の1人は「菅氏は、安倍政権では官房長官として危機管理に優れた能力を発揮した。しかし、菅政権にはそうした人材が見当たらない」と指摘する。
加藤官房長官はどうか。堅実さはあるが、政府全体を引っ張って行くタイプではない。一方、菅首相もどこまで加藤氏を信頼しているのかわからない。無派閥の首相と官房長官との関係、「政権の軸の弱さ」を指摘する声も聞く。
菅首相は、この間のさまざまな不祥事について、引き続き参議院の予算審議の中で野党側の追及を受けることになる。
一方、コロナ対策については、緊急事態宣言が続く1都3県の扱いと、大規模なワクチン接種の準備体制。さらには延期された東京五輪・パラリンピック開催問題が大きな課題として待ち受けている。
このため、今後の政治をみていく上では、当面、コロナ感染の抑制とワクチン接種の準備体制が順調に進むのかどうかが、菅政権の先行きを左右する大きなポイントになるとみている。