お盆休みの期間に入ったが、新型コロナウイルスの感染拡大が収まらない。7日の全国の感染者数は1600人を超え、過去最多を更新している。感染急増の地方では危機感を強め、愛知、岐阜、三重、沖縄の各県などでは独自の緊急事態や警戒宣言を出すなどの対応に追われている。
政府の分科会は7日、感染状況を判断するため、新たに6つの指標を示した。医療のひっ迫状況などの具体的な指標を示すことで、国や都道府県に感染の深刻度を判断する目安にしてもらうのがねらいだ。
そこで、この指標を活用してどのような対策が打ち出されるのかだが、政府は指標に縛られて、再び緊急事態宣言を出すような事態は避けたいのが本音だ。それでは、政府の感染防止対策は順調に進んでいるかといえば、そのようには見えない。
今の安倍政権の対応を見ていると感染拡大を前に”打つ手なし、思考停止、手詰まり状態”に陥っているようにみえる。安倍政権のコロナ対策はどこに問題があり、どんな対策が必要なのか探ってみる。
安倍政権 実態把握に弱点
安倍政権のコロナ対策をみていると問題点の1つは「実態把握に弱点」があることだ。
具体的な例を挙げると「感染者情報の収集・分析」。全国の感染者数をはじめ、PCR検査の実施件数、陽性者の割合、入退院者、死亡者などの情報を正確に収集・把握できなければ、効果的な対策は打てない。
東京をはじめ全国各地の感染者数が毎日発表されるが、日によって大きな違いがある。これは、なぜか。PCR検査で陽性とされた人の情報は、保健所に集められ、都道府県、厚生労働省へ報告・集計される。このうち、PCR検査の結果判明には数日かかる。加えて、報告はFAXや電話などを使ったアナログ対応だ。報告漏れや重複計上などミスも多い。東京都の場合、これまで123人分を訂正しているという。はっきり言えば、これまでのデータは必ずしも正確ではないということだ。
このため、厚生労働省は感染者の情報を一元的に管理するシステムづくりを始め、ようやく8月に入って運用を開始した。「ハーシス・HER-SYS」という新しいシステムで、厚生労働省と、保健所が設置されている全国155の自治体や医療機関などをインターネットで結び、感染者情報を共有する仕組みだ。
多忙な保健所のデータの入力体制や個人情報の取り扱いなどの問題を抱えているが、ともかく、ようやく基本情報の収集体制は整ったことになる。
国内で最初の感染者が確認されたのが1月16日。政府の対策本部の設置が1月30日、基本情報の収集体制づくりに半年もかかったことになる。政府は骨太方針に「デジタル社会の加速」を打ち出したが、足下では情報の収集態勢すらできていないのが実状だ。コロナ情報の収集・管理システムの整備を急ぐ必要がある。
PCR検査 目標設定し加速を
次に、各地の知事や市長などの話を聞くと、困っているのが、PCR検査の問題だ。当初、日本は医療従事者や試薬などの準備が十分でなかったこともあり、PCR検査の対象を絞ってきた。しかし、その後、感染者数が急増しているのに、検査の拡充が遅れ、検査能力に比べて実際の検査件数が増えないと批判は強い。
これに対して、厚生労働省は7日、PCR検査能力は1日あたり5万200件まで可能になったと説明。4月時点では1万件、5月2万200件、7月3万1000件だったので、かなり改善されている。9月末までには、最大7万2000件余りを確保できるという見通しだという。
知事や有識者の側は、こうした取り組みは評価しながらも、自粛や休業要請の繰り返しや国民の不安が強く残ったままでは、経済の本格的な回復は見込めないとして、政府は「積極的な感染防止戦略」を明確に打ち出すように求めている。
具体的には、PCR検査は「9月末までに1日10万件」、インフルエンザの流行にも備えるため「11月末までに20万件」の検査能力を確保することなどを求めている。政府は検査能力の整備も進んでいるので、こうした数値目標を採用してはどうか。その際、簡便な抗原検査などを含めて検査体制の拡充計画を示してもらいたい。
対策の全体像と工程表、説明が必要
政府のコロナ対応をみていると、7月末から感染者が全国で1000人を突破するようになり、地方の側は危機感を募らせ、独自の緊急事態宣言や警戒宣言などを出しているのに対して、政府側の取り組みは極めて鈍い。
菅官房長官や西村担当相も連日、記者会見を行っているが、「感染防止と経済活動の両立をめざす」「Go Toトラベルは予定通り」「緊急事態宣言を再び出す状況にはない」などと規定方針の繰り返しが続く。
国民の側が知りたいのは、感染防止と経済活動の両立を目指す方針は理解するが、それなら、感染防止と経済活動再開に向けて具体的に何をするのか、それぞれ「対策の中身と全体像」を明らかにして欲しいということだ。
また、冬場のインフルエンザの流行期まで残された時間はあまりない。PCR検査の拡充をどのようなペースで進めるのか。医療提供機関の準備や経営悪化にどう対応するのか。中小事業者の事業継続や、休業中の労働者の雇用対策をどのように進めるのか。時期のメドと合わせた「工程表」の形で打ち出すべきではないか。
さらに、安倍政権の対応、国民への説明が極めて不十分だ。安倍首相がまとまった記者会見を行ったのは6月18日、それ以降は行っていない。8月6日、広島原爆の日に現地で記者会見を行ったが、15分という限られた会見だった。
国会は既に6月から夏休み状態、霞が関もお盆休みに入る。野党は臨時国会を早期に召集するよう求めているが、与党側は10月まで応じない構えだ。
国民の側は、お盆の帰省や旅行を取り止めたり、子どもの短い夏休みが終わった後の新学期の準備などにも思いをめぐらせている。
新型コロナウイルスの感染状況や医療・検査現場の態勢も日々変化している。安倍政権はこの夏以降、コロナ危機をどのように乗り切る考えなのか。できるだけ早く国民に向けた記者会見を行い、対策を明らかにする責任があると考える。