“自民苦戦、与党過半数割れ攻防続く”衆院選情勢

短期決戦となった衆院選挙は、いよいよ27日に投開票が行われる。終盤の選挙情勢は、自民党が単独で過半数を維持するのは難しい情勢で、苦戦が続いている。

一方、自民、公明両党で過半数を維持できるかどうかは微妙な情勢で、このまま27日の投開票まで与野党の激しい攻防が続く見通しだ。

有権者にとっては投票に当たって、与野党の選挙情勢も念頭に置いて投票したいという方もいるので、最終盤の選挙情勢を分析、評価してみたい。

 自民、単独過半数維持は困難か

まず、自民党の選挙情勢について、党の関係者に聞いてみると「九州、四国、九州など西日本地域は堅実な戦いができているが、北海道、東北、東海などは厳しい戦いを迫られている。現状では、小選挙区で30議席程度減る情勢ではないか」と厳しい状況であることを認める。

衆院の総定数は465議席なので、その過半数は233議席、公示前の自民党の勢力は247議席だ。15議席以上減らすと自民党は単独過半数割れに追い込まれることになる。

先の自民党関係者が触れたように小選挙区で30程度も議席を減らせば、自民党は単独で過半数を維持することは困難だ。

自民党は過去4回、衆院選挙で単独過半数を維持してきた。仮に単独過半数を割り込む場合は、2009年麻生政権下で政権を失って以来、15年ぶりになる。それだけ今回の総選挙では、自民党は苦境に立たされていることを示すものだ。

 与党過半数割れは微妙、攻防続く

次に選挙情勢の大きな判断基準として、与党で過半数を維持できるかどうかの目安がある。石破首相と公明党の石井代表がそろって勝敗ラインとして掲げている「自公で、過半数を確保すること」と同じ内容だ。

自公で過半数が維持できるかどうかをめぐっては、選挙関係者の間でも見方が分かれている。立憲民主党の野田代表など野党関係者は「裏金問題を徹底的に追及していけば、自公両党を過半数割れに追い込むことは可能だ」と強気の見通しを示している。

これに対して、自民党の選挙関係者は「政治とカネの問題をめぐって自民党は、厳しい情勢にあるが、都市部の選挙区では野党候補が乱立したことで助かっているところもある」として、過半数割れを回避できるという見方を示している。

報道各社の情勢調査をみても、与党で単独過半数割れになるかどうかはっきりしない。仮に自民党が議席を大幅に減らしても210議席程度に止まると、公明党が20議席後半を維持できれば「ギリギリ、過半数を超えることも可能だ」と見られるためだ。

つまり与党の獲得議席の「下限」、最も厳しい場合は「与党過半数割れ」となる。逆に「上限」、「与党が過半数を確保」できる場合もあり、どちらに転ぶかわからないというのが今の状態だ。

立民は議席増か、自民追加公認も焦点

一方、野党側のうち、立憲民主党は公示前の98議席から大幅に議席を増やす勢いがある。国民民主党も公示前の7から議席を増やす見通しのほか、共産党も公示前の10議席を上回る勢いがある。れいわも公示前の3議席から増やす見通しだ。

一方、日本維新の会は、このところ党勢に広がりがみられず、公示前の44議席を減らす可能性が大きいとみられる。

衆院選挙の場合、過去の選挙でも与野党激戦の選挙区が60程度は残り、最後まで激しい戦いが続く。最終的な議席数は、こうした激戦区の結果で決まることになる。

与党の議席数に話を戻すと、自民党は与党で過半数の勢力を維持するためにも、無所属の当選者から「追加公認」を行うことを検討している。与党が過半数を維持できるかどうかは、こうした追加公認の扱いによっても変わることになる。

いずれにしても自公で過半数を維持できるのか、それとも野党が大幅に議席を伸ばし、与党過半数割れに追い込むことになるのかどうかが最大の焦点だ。

政権・与党の巻き返し、野党の動向は

このように石破政権と自民党は、政治とカネの問題などで厳しい状況に立たされているが、投開票日まで挽回の手段、方法はあるのだろうか?

NHKの世論調査(10月18~20日、投票日前1週前)を見てみると石破内閣の支持率は41%、不支持率は35%だった。その1週間前の調査に比べると、支持率は3ポイント下がり、不支持率は3ポイント上昇したことになる。

一方、各党の支持率は、自民党が31.3%、公明党4.4%、立憲民主党9.2%、日本維新の会3.4%、共産党2.9%、国民民主党2.3%、れいわ1.9%、社民党0.6%、参政党1.1%、みんなでつくる党0.1%、無党派34.8%だった。

このうち、自民党の支持率は先週の調査35.1%から、3.8ポイントも下落した。この数値は、小選挙区の勝敗に直接影響するものではないが、この1週間で自民党の下落幅が大きかったことがわかる。

こうした石破政権と自民党の支持率低下は、選挙の大きな争点となっている「政治とカネの問題」の逆風が今も続いていること示すものだとみられる。このため、石破政権が政策面で巻き返しにつながるような決定打を放つのは難しいものとみられる。

各党の取り組みに勢いがあるかどうかは、最終的な議席数にも影響を及ぼすので、最後まで見届ける必要がある。石破政権が発足直後に踏み切った衆院解散・総選挙は、27日の有権者の審判がどのような形になって現れるか、選挙後の政局は激しく揺れ動く予感がする。(了)

衆院短期決戦、選挙情勢をどう読むか?

第50回衆議院選挙が15日公示され、27日投開票に向けて12日間の選挙戦がスタートした。今回は、1日に石破茂・自民党総裁が新しい首相に選出されて新政権が発足、8日後に衆院解散、26日後に投開票という戦後最短の政治決戦となった。

衆院選挙の立候補届け出は15日午後5時に締め切られ、小選挙区(定数289)に1113人、比例代表(定数176)に単独で231人の合わせて1344人が立候補した。

立候補者数は、現行制度下で最少だった前回2021年の1051人から、293人増えた。野党の立憲民主党と共産党との候補者一本化が進まなかったことや、日本維新の会が積極的に候補者擁立を進めたことが影響したとみられる。

選挙戦では、自民党派閥の裏金事件を受けた政治改革のあり方、物価高騰対策をはじめとする経済政策、厳しい国際情勢に対応していくための外交・安全保障政策をめぐり、激しい論戦が行われる見通しだ。

一方、選挙の勝敗はどうなるのか。裏金事件の逆風が続く中で、自民・公明両党は過半数の議席を確保して政権を維持できるのか、それとも野党が勢力を伸ばして与党を過半数割れに追い込めるのかどうかが最大の焦点だ。選挙情勢の現状と勝敗のポイントを中心に探ってみたい。

カギとなる数字「233、47」の攻防

「衆院選挙の勝敗ライン」について、石破首相と公明党の石井新代表はそろって「自公で過半数を維持すること」を挙げている。「勝敗ライン」は選挙の勝敗の目安となると同時に、執行部の政治責任が生じる基準にもなる。

このため、与野党問わず、執行部はいずれも低目の目標を設定し、政治責任が自らに及ばないよう予防線を張るケースが多い。

「自公で過半数」は、衆院総定数465の過半数だから「233」、これが「勝敗ライン」ということになる。

今回は石破首相と自民党執行部は、不記載議員12人を非公認とした。このうち1人が立候補を取り止め、11人が無所属で立候補することになった。

自民党の公示前勢力は、非公認扱いとなった11人を差し引いた247人。公明党が32人なので、自公の勢力は合わせて279人となる。自公過半数割れは、279人-233人=46、これを1人下回る「47」となる。

以上を整理すると自公の過半数は「233」。この過半数割れは、与党勢力から「47」以上の議席が減るかどうかにかかる。したがって、今回の選挙でカギとなる数字は「233」と「47」。この数字をめぐる与野党の攻防ということになる。

自民単独過半数=「党内政局」分岐点

このカギになる数字「233」は、もう一つ「自民単独で過半数」を獲得できるかどうかという大きな意味も持っている。

自民党は、2012年から衆院選で4回連続、単独過半数を維持してる。ところが、今回は不記載議員を11人を非公認にしたため、党の公認候補は247人にまで減っている。

このため、「15人以上」が議席を失うと「自民単独過半数割れ」に陥ることになる。自民党政権下では、2009年麻生政権が政権から転落して以来の敗北を意味する。政権にとって大きな痛手となるのは間違いない。

一方、自民党は「非公認の候補者でも当選すれば追加公認はありうる」としているので、追加公認で議席減少の穴埋めの措置が取られることが予想される。

あるいは、自民党は不記載議員のうち、小選挙区での公認を認めたものの、比例代表選挙との重複立候補を認めなかった候補者が33人に上る。小選挙区で議席を失えば、比例代表で救済される道は閉ざされる。比例代表の単独名簿の候補者が当選になる。

旧安倍派議員を中心に議席を失う議員は、相当な数に上るとの見方があるほか、選挙後の自民党議員の顔ぶれなどを注意深く見ていく必要がある。

話を元に戻すと、自民党が単独過半数割れになった場合の影響はどうか。前回2021年の衆院選結果は261議席で、この水準が続いてきた。過半数を割り込むということは、この水準から30議席近くも下回るので、その影響は極めて大きいことがわかる。

仮に「自公過半数」の目標は維持できたとしても、党内の反主流派や旧安倍派からは「大幅な議席減をもたらした」として、石破首相の政治責任を追及することが予想される。

したがって「党内政局」を引き起こすボーダーラインという意味合いを持っている。「自民単独で過半数233」維持できるかどうか、そのためには「15議席以上の議席減」を避けられるかどうかは、石破政権にとって大きな意味を持つ。

 議席予測、正確な調査・取材の詰め必要

それでは、今回の選挙情勢はどうなっているのか、見ていきたい。自公で過半数を維持できるか、自民単独で過半数を維持できるか、この2つが大きなポイントになる。

石破首相は14日午後、衆院選の見通しについて「非常に厳しいことは認識している。何とか全力を尽くし、自民、公明で過半数をいただければありがたい」と記者団に語った。

これに対し、立憲民主党の野田代表は「自公過半数割れに追い込む」と強調し、自公で過半数を獲得できるかどうかが最大の焦点になっている。

衆院選の公示前の段階でメデイアの世論調査や、自民党関係者の見方を総合すると比例代表選挙の投票先では、自民党が野党各党を引き離しており、「自公で、過半数割れの可能性は小さい」とみられる。

一方、「自民単独で過半数を割り込むケースは、起こりうるのではないか」との見方は自民党関係者からも聞かれる。

つまり、自公過半数割れ、47以上の大幅な議席減は、今の時点では想定しにくい。但し、自民単独過半数割れは15議席程度の減少で起きるので、可能性はあるとの見方が多いのが現状だ。

但し、こうした見方は、突き詰めると、いずれも選挙前の予想で、選挙戦突入後の情勢に基づくものではない。

選挙情勢に影響を及ぼすと見られる石破政権の評価をはじめ、不記載議員に対して執行部がとった対応措置などについて、国民がどのような受け止め方をして、選挙結果にどこまで影響するのか、まだ詰め切れていないのが現状だ。

したがって、これまで見てきた見通しは、当たっているのかどうか、これから投票日に向けて、有権者の意識を中心にトレンド・傾向を追跡していく必要があるというのが結論だ。

”予測の外れ”を生かせるかが重要

ところで、選挙の予測は、従来はかなり高い精度で結果を予測することが可能だった。ところが、今回は政権が交代し、直後に超短期の選挙戦に踏み切ったので、賭けの要素が極めて高いとも言える。国民が新政権や、選挙の主要争点をどのように評価しているのかといったデータが乏しいので、選挙の予測はかなり難しい。

既にさまざまな選挙の予測が出されているが、その根拠ははっきりしない。メデイアの「情勢調査」(世論調査)や取材記者の「票読み」、「データ分析」などに基づいて、全体情勢が明らかにならないと、根拠のある予測とは言えないのではないかと個人的には考える。

これから2週間あまり、情勢調査などを実施しながら、選挙情勢のトレンドを把握し、読み解いていくのが基本だと思う。

前回・2021年の衆院選挙の予測報道を思い起こすと、取材者として参考になる点が多い。3年前の衆院選では、ほとんどのメデイアの予測が外れた。多くのメデイアは自民党は議席を減らすと予測していたが、実際は単独で過半数を上回り、安定多数を獲得した。

前回は衆院議員の任期切れを間近に控え、短期決戦に持ち込まれたことと、激戦区が多数に上った。当選者と次点の差が1万票以内の激戦区は全国で58にも上り、議席の読みを狂わせる要因になった。

今回も前回と同じく、激戦区が相当な数に上ることが予想される。激戦区を絞り込み、情勢調査、記者の票読み、投票者を対象にした出口調査などを総動員して正確な予測報道を行う必要がある。

また、選挙で有権者は何を重視して1票を投じたか?単に選挙結果の予測だけでなく、選挙や政治の質を高めていく選挙報道の取り組みに期待しながら、メデイアの対応を見守っていきたいと考えている。(了)

 

 

衆院解散、戦後最短決戦へ 裏金問題カギ

衆議院が9日解散され、政府は臨時閣議で、15日公示、27日投開票とする日程を決めた。各党とも15日の公示に向けて、選挙体制づくりを加速させている。

石破内閣が発足したのが今月1日。8日後に衆院を解散、26日後の投開票となるのは、戦後最短だ。解散から投開票までの期間は18日間で、前回・2021年の17日間に次いで、2番目の短さになる。

さて、今回の衆院選の大きな争点は「裏金問題と政治改革」になるだろう。というのは、前任の岸田内閣が退陣に追い込まれたのは、裏金問題への対応が後手に回り、内閣支持率が長期にわたって低迷、退陣に追い込まれたからだ。

日本政治が取り組むべき課題は、日本経済の再生をはじめ、急激な人口減少社会への対応、内外の外交安全保障情勢など多岐にわたるが、政治の信頼が失墜しているので、議論自体が進まない隘路に陥っている。

本来の政策論争などを取り戻すためにも、裏金問題と政治改革について国民の信頼を回復し一定の前進を図られるようにすることが、事態改善の第一歩だと考える。

一方、石破首相と自民党執行部は衆院解散が間近に迫った段階で、派閥の裏金事件で政治資金を不記載にした議員について、一部、公認しない方針を打ち出した。また、不記載議員については、政治倫理審査会で弁明を行っていない場合は、比例代表への名簿登載を認めない方針も決めた。

こうした方針に対しては、自民党安倍派から猛烈な反発が出る一方、世論の逆風を抑えるためには「厳しい措置は当然」との声も聞かれる。自民党の新たな方針を含めて、政治とカネの問題を改めて考えてみたい。

 裏金問題、党首討論でも集中砲火

自民党の裏金問題は9日、衆院が解散される直前に行われた党首討論でも野党各党の多くが取り上げた。

立憲民主党の野田代表は「先月、安倍派元事務局長の有罪判決の中で、幹部間の協議で裏金処理の再開が決まったので、従わざるを得なかったことが裁判所で認定された。国会で弁明した安倍派幹部の発言は、虚偽だったことが明らかになった」として、事実関係を解明せず解散を急ぐのは「裏金隠し解散だ」と批判した。

続いて質問にた立った日本維新の会の馬場代表、国民民主党の玉木代表らも「党が幹部議員に渡す政策活動費の廃止を考えているなら、直ちに今回の衆院選から政策活動費を取り止めるべきだ」などと攻め立てた。

石破首相は「政治の信頼回復を第一に対応するのは、当然のことだ。政治資金については、法律で許された範囲内で適法に行う」とのべ、政策活動費の扱いなどについて、具体的に言及することを避けた。

このように裏金問題と政治改革は、今も与野党間の最大の争点になっている。問題は、選挙の際、国民の多くがどのように判断するかだ。

報道各社の世論調査によると実態解明などは継続すべきだという意見は多い。一方で、選挙戦に入って政治が取り組むべき主要課題の中で「政治とカネの問題」がどの程度上位に位置づけられるかが、大きなポイントなりそうだ。

裏金議員12人非公認、世論の評価は

石破首相と自民党執行部は9日、派閥からの政治資金を不記載にしていた議員など12人について、次の衆院選挙で非公認とする方針を決めた。

非公認になったのは「党員資格停止処分」を受けた下村元文科相、西村元経産相、高木元国対委員長。1年間の「党の役職停止」の処分が継続し、政治倫理審査会で説明をしていない萩生田元政調会長、平沢元復興相、三ツ林裕巳・元内閣府副大臣の6人。

それに半年間の「党の役職停止」処分を受け、その期間が終わった菅家一郎元復興副大臣ら3人、「戒告」処分を受けた細田健一・元復興副大臣ら3人の合わせて12人だ。

自民党内では、旧安倍派議員などから「一度、処分をしながら再び処分するようなやり方は認められない」「旧安倍派を狙い撃ちにした措置だ」など強い反発の意見が相次いだ。選挙後の挙党態勢を危ぶむ声もきかれる。

一方で「原則公認となれば、今度は自民党全体が国民から厳しい批判を浴び、選挙どころではなくなる」として、処分やむなしとの意見も聞かれた。

この問題は、党首討論でも取り上げられ、立憲民主党の野田代表は「相当程度が非公認だと言っていたが、大半は公認されている。また、非公認で立候補した人も当選したら、追加公認するのではないか」と質した。

これに対して、石破首相は「公認しない人が少ないというが、それぞれの人にとってどれほどつらいものか、よくよく判断した上でのことだ。最終的な判断は、主権者たる国民に任せたい。追加で公認することはありうる」との考えを示した。

一方、不記載議員については、小選挙区で公認しても、比例代表選挙の名簿登載を認めない方針を決めた。小選挙区で当選できない場合、比例代表で救済される道が閉ざされることになる。

重複立候補が認められなかった議員は30人余りとなった。自民党は、比例代表単独の候補者を増やすなど新たな対応を迫られることになるだろう。

今回の方針について、自民党の選挙対策関係者に聞いてみると「自民党という組織で考えると、従来の方針を大きく転換、最も厳しい措置と言える。それなりの結果を出せれば、石破総裁の評価は高まる」。

「但し、国民からすると大半は公認されているとして、厳しい視線は変わらないかもしれない」として、新たな方針の意味や姿勢をどこまで理解してもらえるかにかかっているとの見方だ。今後、議席を予測する際のポイントになる。

 首相 勝敗ライン「自公で過半数」

衆議院解散を受けて石破首相は9日夜、記者会見し「国民の納得と共感がなければ政治を前に進めることはできない。新政権の掲げる政策に力強い後押しをお願いしたい」とのべた。

そのうえで、今回の解散を「日本創生解散」と位置づけた。「日本社会のあり方を根本から変えていきたいと考えている」と説明した。

また、衆院選挙の勝敗ラインと下回った場合の対応を問われたのに対し「自民党と公明党で過半数をめざしたい。勝敗ラインを割り込んだ場合の対応については、コメントを差し控えたい」とのべた。

報道各社の世論調査によると、発足した石破内閣の支持率は46%から51%程度に上昇した。自民党の支持率も、岸田政権当時に比べて上昇している。但し、3年前の選挙時の支持率に比べると、勢いが乏しいとのデータもある。

石破首相と自民党にとっては、次の選挙は楽観できる状況にはない。党の選対関係者も「前回より増やせる要素はなく、どこまで目減りを減らせるかだ」との見方をしている。

そのためには、最大の争点になるとみられる裏金問題と政治改革から逃げずに、具体策を打ち出せるかどうかが問われることになるだろう。

また、多くの国民にとっては、物価高騰と国民生活、日本経済の運営に大きな関心を寄せている。実質賃金の目減り、物価高を上回る賃上げ、円安政策など納得させるだけの対応策を打ち出せるかにかかっているのではないか。

これは、野党各党にとっても同様だ。政治とカネの問題、経済と暮らしの分野で国民の支持を広げられるような政策を打ち出せるかどうかが問われることになる。

今回も、前回に続いて、短期の政治決戦になる。内外の多くの難題の解決に向けて、かじ取りを任せられる政党・政治勢力や候補者は誰か、私たち有権者も重い選択を行うことになる。(了)

“前途多難”石破新政権発足、27日衆院決戦へ

臨時国会が1日召集され、岸田首相の後継を選ぶ首相指名選挙が行われ、自民党の石破新総裁が、第102代の総理大臣に選出された。石破首相は直ちに組閣作業に入り、19人の閣僚のすべてを決定、石破新内閣が発足した。

岸田首相が事実上の退陣表明したのが8月14日、後継選びの総裁選には過去最多の9人が立候補し、大混戦が続いた。最後は決選投票にまでもつれ込み、逆転勝利を収めたのが石破氏だった。

決選投票で敗れた高市早苗氏は、石破氏から総務会長ポストの打診を受けたが、固辞し、政権と距離を置く姿勢を鮮明にした。石破氏と高市氏とのせめぎ合いは今後も続くことになりそうだ。

石破首相はできるだけ早く国民の信を問いたいとして、10月9日に衆議院を解散し、10月27日に投開票を行う考えだ。首相就任から衆院解散までわずか8日間の日程は、過去最短となる。

これに対して野党側は、国会論戦を避けて衆院解散に踏み切るのは認められないとして強く反発し、1日召集の国会は冒頭から対決色が強まった。

激しい総裁選を終えたばかりの自民党内は一枚岩になっておらず、政治とカネの問題で逆風が続く中で、衆院決戦は大きなリスクも抱えている。石破政権の前途は多難で、まずは衆院決戦を乗り切ることができるかどうかがカギを握る。発足した石破政権の特徴や、政権運営のポイントなどを展望してみたい。

 政権基盤弱く、森山氏、菅氏らに依存

さっそく1日に発足した閣僚の顔ぶれから、見ておきたい。◇外務大臣に岩屋毅・元防衛相、◇防衛相に中谷元・元防衛相、◇総務相に村上誠一郎・元行革担当相など石破首相と個人的に親しい顔ぶれが目につく。

また、総裁選で石破氏の推薦人なった関係者を多数、起用したのも特徴だ。先ほど触れた岩屋氏、村上氏のほか、経済再生担当相に赤沢亮正・財務副大臣、農水相に小里泰弘・首相補佐官、デジタル担当相に平将明・広報本部長代理、沖縄・北方担当相に伊東良孝・元農水副大臣だ。

さらに◇内閣の要の官房長官は林芳正官房長官が続投するほか、◇財務相は加藤勝信・元官房長官が就任。女性閣僚は◇文部科学相に阿部俊子氏、◇子ども政策担当相には、参議院議員の三原じゅん子氏を起用した。

自民党の派閥からの政治資金を不記載にしていた裏金議員と、安倍派からは閣僚に起用しなかった。

一方、自民党役員人事では、◇党の要の幹事長にベテランの森山裕・総務会長をすえた。◇総務会長に鈴木俊一・財務相、◇政調会長に小野寺五典・元防衛相、◇選対委員長に総裁選を戦った小泉進次郎氏を起用した。

このように今回の人事は、党の運営全般と選挙を仕切る幹事長に森山氏、副総裁に菅元首相がそれぞれ就任して柱の役割を果たし、さらに内閣と党の主要ポストを岸田前首相とそのグループと菅グループなどが支援する構図になっている。

岸田政権は麻生、茂木、岸田の3派が主流の政権だったが、今回は高市支持の麻生氏を党の最高顧問に棚上げ、代わって「森山、菅、それに岸田の3氏を軸にした体制」へと変化している。

特に森山氏は小派閥の出身ながら、国対委員長と選対委員長の両方を長い間、担当して調整能力の優れた老練な政治家だ。石破政権は実質的に、森山氏が切り盛りすることになるのではないかとみている。

同時にこのことは、石破氏の政権基盤の弱さを補う効果が期待できる反面、石破氏が政権運営の主導権をどこまで発揮できるかどうかわからない両刃の剣ともいえそうだ。

 早期解散、首相の政治姿勢も問われる

さて、石破総裁は国会で新しい首相指名を受ける前日の30日、記者会見で「国会で新しい首相に選出されれば、できるだけ早期に国民の審判を受けることが重要だ。10月27日に解散・総選挙を行いたい」とのべ、10月9日に衆院解散、15日公示、27日投開票の日程で解散総選挙を行う方針を明らかにした。

この問題が与野党の新たな火種になっている。自民党の新総裁が、国会で首相の指名を受けてもいないのに、衆院の解散時期に言及することは異常な事態だ。指摘を受けた石破氏は「全国の選管が選挙の準備を行えるようにするためだ」と釈明した。

だが、憲法7条は「天皇は内閣の助言と証人により、国事行為を行う」と規定しており、その1つが「衆議院の解散」だ。新たな内閣が発足していないのに”衆院解散を事前予告”するような越権行為は認められない。なぜ、そこまで焦る必要があるのか理解に苦しむ。

もう1つ、この問題は、石破首相の政治姿勢にも関係してくる。というのは、総裁選での論戦で小泉氏が「できる限り早く解散総選挙を行いたい」と主張したのに対し、石破氏は「なってもいないものが言及すべきではない」と慎重な姿勢を打ち出した。

また、石破氏は「国民に判断していただける材料を提供するのが、新しい首相の責任だ。本当のやりとりは予算委員会だと思う」とまで予算委員会で与野党が議論を戦わせることの意義を強調していた。

ところが、新総裁に選ばれると、それまで発言を一転、早期解散にカジを切った。野党側は「自民党を変える前に、石破首相自身が変節してしまった。言ってきたこととやっていることが違う」などと強く反発している。

石破政権としては4日に初めての所信表明演説を行ったうえで、7日と8日に衆参の本会議で代表質問、9日に党首討論を行ったあと、その日のうちに衆院解散を行う方針で、野党側と折衝を続ける方針だ。

それでは、なぜ石破首相は解散時期の方針を転換せざるをえなくなったのか。自民党関係者は「石破首相の解散論は、あるべき論の筋論。党の重鎮や幹部はそろって選挙に勝つことが第1。新政権発足直後は、内閣支持率の上昇が期待できる。森山幹事長が短期決戦を強く進言し、石破氏も受け入れたのだろう」と解説する。

石破首相にとって、森山氏は誠実な人柄と調整能力に秀でており、幹事長候補として考えていたとされる。但し、森山氏に引きずられるようになると今度は、国民から首相の見識、能力を厳しく問うことになる。短期決戦方針が、吉と出るか、凶と出るか注目している。

 早期解散論、国民の支持得られるか?

組閣を終えた石破首相は1日夜、最初の記者会見を行い「『国民の納得と共感を得られる内閣』をめざしたい」とのべるとともに「政治資金の監視にあたる第三者機関の設置など令和の政治改革を断行する」と強調した。

これに対し、記者団からは「衆議院の早期解散について、総裁選の最中は慎重な発言を繰り返していたのに、総裁・総理になると早期解散を唱えるなど違っていることについて、国民は戸惑っている。なぜ、変わったのか」という質問が繰り返し出された。

これに対し、石破首相は「新しい内閣ができたので、国民の判断を早急に求めることになった。国民への判断材料の提供と両立できるよう誠心誠意務めていく」と釈明に追われた。

石破政権は内外に多くの難問を抱え、多難な政権運営予想される。そうした中で、政権運営の主導権を確保するために早期解散を打ち出したが、総選挙に打って出る大義や政治姿勢に国民の理解が得られるかどうか、当面の焦点の1つに浮上してきたようにみえる。(了)

“薄氷の勝利”石破氏 自民新総裁に選出

大混戦が続いていた自民党総裁選挙は27日、投開票が行われ、5回目の挑戦となる石破元幹事長が、決選投票で高市早苗経済安保相を逆転し、新しい総裁に選出された。決選投票の票差はわずか21票、薄氷の勝利だった。

今回の総裁選は、過去最多の9人が立候補して混戦となった。当初は、党員や国民の人気の高い小泉進次郎元環境相と、石破元幹事長の2人の戦いになるとみていたが、選挙戦に入ると高市氏が急速に勢いを増して3つ巴の構図となり、勝敗のゆくえは見通せなくなった。

最終的には、石破氏が勝利を収めることになったが、舞台裏で何が起きていたのか、今回の総裁選全体をどのようにみたらいいのか。さらに来週、発足する石破政権にとってのハードルは何かを見ておきたい。

 石破氏逆転勝利の事情、舞台裏は?

まず、第1回投票で高市氏がトップとなりながら、決選投票で石破氏が逆転することができたのは、どのような事情があったのかという点からみていきたい。

選挙なので、多少数字が多くなるが、お付き合い願いたい。第1回投票では、高市氏は議員票72票、党員票109票、計181票だった。党員票では、1票ながらも石破氏を上回った。同時に驚いたのは議員票の増加ぶりだ。40~50票程度と見ていたので、72票、相当な議員票の上積みが目を引いた。

これに対して、石破氏は議員票46票、党員票108票、計154票だった。石破氏は、党員票では強みを発揮するとみていたが、今回は高市氏の追い上げを許した。一方、議員票は限界があり、得票を大幅に増やすことはできなかった。

これを受けて、決選投票(368党員票から、47都道府県票に縮小)では、石破氏が議員票189票、都道府県票26票、合計215票を獲得。対する高市氏は議員票173票、都道府県票21票、計194票。石破氏が21票上回って、逆転勝利した。

この理由は何か?石破氏の議員票は、第1回投票が46票→決選投票189票へ143票も上積みした。高市氏は、第1回投票72票→決選投票173票、101票増に止まった。議員票で大差がついたのが大きな要因だ。

議員投票の詳細な流れはまだ不明だが、決選投票に進まなかった他陣営の議員票の多くが、石破氏へ流れたことが考えられる。麻生副総裁が高市氏支持に動いた一方で、岸田首相をはじめ、林官房長官、上川外相ら旧岸田派のグループ、小泉氏を支持した無派閥議員の多くは、逆に石破氏支持に回ったとみられる。

首相経験者でみると、岸田首相と菅元首相は石破氏を支持して勝利したのに対し、麻生副総裁は高市氏支持に回り敗北を喫し、明暗が分かれた。

また、自民党関係者によると「決選投票で高市氏が伸びなかったのは、高市氏の政治信条や政策などに対する警戒感が働いたのではないか」との見方をする。「保守の論客で、安倍元首相の後継者を自認する高市氏がトップに就任すると、外交・安全保障や経済・金融政策面で混乱を招く恐れがある」として、ブレーキが働いたのではないかというわけだ。

 小泉氏失速、高市旋風で構図が変化

もう1つ、今回の総裁選では、次の首相候補として人気の高かった小泉進次郎氏の評価が低下したことが、総裁選の構図を大きく変える要因になったのではないか。

小泉氏は、議員票では最多の75票を集めた。一方、党員投票は61票に止まり、100票台の高市氏や石破氏に大きな差をつけられた。

小泉氏は最初の立候補表明の記者会見は、準備や演出も周到で順調な滑り出しかに見えた。しかし、選挙戦が始まり、日本記者クラブの候補者討論会や記者会見などで、主張や政策の説明に説得力が感じられず、世論調査でも自民支持層や党員の支持に勢いが見られなくなった。

地方の党員に聞いてみたところ「はっきり言えば、総裁選に出るのは10年早い。政治家として能力は十分あるのだから、政策面などの力を磨いた上で再挑戦した方がいい」など手厳しい意見が多かった。

一方、高市氏については「政治信条や主張がはっきりしており、支持したい」といった声が多く聞かれた。総裁選挙の有権者は、自民党の党員・党友の105万人余りに限定されているが、こうした党員の受け止め方の差がそのまま得票数に現れる形になった。

今回の総裁選挙には、現職の閣僚、党の幹事長、元閣僚など主要幹部が名乗りを上げたが、党員の得票率はいずれも1ケタ台に止まった。人数だけは賑やかだが、議論がほとんど掘り下げられず、肝心な点がわからなかったとの声も聞く。

最終盤では、各候補者が重鎮詣でを繰り返したほか、特定の候補への投票の働きかけがあったとの声も聞く。総裁選のあり方も再検討する必要があるのではないかと思う。

石破新総裁、難問は新体制づくり

石破新総裁の選出を受けて、国会は10月1日に召集され、新しい首相に石破新総裁が指名される運びだ。その日のうちに石破新内閣が発足する見通しだ。

石破首相にとって最初の難問は、新しい内閣、政権の体制づくりだ。石破氏は自らの派閥を解散して無派閥を続けてきたことから、石破氏を一体となって支える人材が周囲に少ないのではないかとの声を聞く。

一方、総裁選で高市氏は、議員票のおよそ半数の支持を得た。高市氏を含め総裁選を戦った8人の候補者の処遇も問題になる。まずは、30日までに党の幹事長などの役員人事をどのような顔ぶれにするのか。また、内閣の要の官房長官候補を内定する必要がある。

総裁選出後、石破氏は最初の記者会見で「新政権が発足するので、なるべく早く国民の審判を仰がなければならない」とのべた。そのうえで、「人事はまだ白紙だ。総裁選で争った8人の議員は、最もふさわしい役職にお願いする。高市氏や小泉氏も考え方は同様だ」とのべた。

石破政権の新しい人事がどのような布陣になるのか、そして政府と自民党一体となった体制をつくれるのかどうか最初の試金石になる。そして、この新しい体制を国民がどのように評価をするのか、大きなポイントになる。

私たち国民としては、臨時国会で与野党が論戦を戦わせ、政治とカネの問題や、経済政策などの論点を明確にしたうえで、国民に判断を求める取り組みを行うよう注文しておきたい。(了)

立民新代表に野田元首相“対立軸がカギ”

立憲民主党の代表選挙の投開票が23日に行われ、新しい代表に野田佳彦元首相が選ばれた。元首相が、野党第1党の党首に返り咲くのは、2012年9月に安倍元首相が自民党総裁選に勝利して就任して以来のことになる。

当選が決まった直後の挨拶で野田元首相は「私は、本気で政権を取りに行く覚悟だ。衆院解散・総選挙は間違いなく早い段階で実施されるだろうから、その戦いの準備は、今日から始まる。明日午前中に人事の骨格を決める」と党の体制作りを急ぐ考えを明らかにした。

野田新代表にとって最大の目標は、次の衆院選を勝利に導き、政権交代を実現することだが、その道は容易ではない。何が問われているのか、探ってみたい。

 野田元首相の経験と安定感に期待か

まず、代表選の結果を確認しておきたい。第1回投票で、野田氏は4人の候補者の中で最も多くのポイントを獲得したが、過半数に達しなかったため、上位2人の決選投票に持ち込まれた。

その結果、国会議員票(136人、1人2ポイント)、国政選挙の公認候補予定者(98人、1人1ポイント)、47都道府県連代表(各代表1ポイント)を合わせて、◇野田氏が232P、◇枝野氏が180ポイントで、野田氏が新代表に選出された。

野田氏への支持が広がったのは、次の衆院解散・総選挙に向けて、野田氏の豊富な政治経験や安定感への期待が強いためとみられる。党内からは「元総理が新代表に就任したことで、自民党の新総裁とがっぷり四つに戦える」と歓迎の声が聞かれる。

こうした一方で、党内には「野田政権当時、公約にはなかった消費税率引き上げを飲んで党を分裂させ、政権を失った責任は大きい」との厳しい評価は未だに残っているのも事実だ。

裏金問題、政治改革の抜本案を提出へ

さて、野田新代表が問われるのは、最大の政治決戦となる次の衆院選挙に勝ち抜けるかどうかだ。そのためには、自民党との政治姿勢や政策面の違い「対立軸」を鮮明に打ち出し、国民の支持を得られるかどうかがカギを握っている。

自民党の裏金事件をめぐって国民の側は「実態解明は進まず、不記載議員は説明責任からも逃げ、ケジメもついていない」との批判は強い。先の通常国会で成立した改正政治資金規正法についても「評価しない」という受け止め方が世論調査では多い。

野田代表は「徹底した政治改革でウミを出し切る必要がある」として、秋の臨時国会に政策活動費の廃止や、企業団体献金の禁止など政治資金規正法の抜本改革案を提出する考えを表明している。

このため、政治とカネの問題をめぐっては、自公政権との対立軸は明確に打ち出せるものとみられる。立憲民主党は、他の野党各党と共同で抜本改革案を国会に提出することも検討しており、実現するかどうか注目している。

 経済政策、分厚い中間層の具体化は?

もう1つ、国民の多くが関心が高いのが、物価高騰対策と経済・金融政策のかじ取りをどのように行っていくかという問題だ。

野田代表は「分厚い中間層の復活」という構想を示している。かつての日本は、分厚い中間所得層の存在が安定成長と活力の源泉だったことから、格差を是正し、消費を活性化させることで「強い経済」を取り込みたいとしている。

そうした考え方は理解できるが、具体的に何を実施していくのか、よくわからない。「給付付き税額控除」なども柱に掲げているが、具体的な制度設計や、必要な財源確保策などについても詳しい説明が必要だ。

自民党総裁選挙の候補者も「経済成長」を掲げているが、どのような政策の組み合わせで実現するのかがはっきりしない。次の衆院選挙に向けて「経済・金融政策の基本方針」を与野党がそれぞれ明確に示して、議論を深めてもらいたい。

 衆院選に向け野党の連携は進むか?

3つ目に、野党第1党の立憲民主党は、次の衆院選に向けて他の野党との連携をどのように進めていくかという問題を抱えている。野田氏は、政権交代は立憲民主党だけでは限界があり、無党派層や国民民主党、さらには日本維新の会との連携を広げていく必要があるとの考え方だ。

これに対して、維新の側は、連携には否定的な考えを示しているほか、国民民主党は、立憲民主党が原発などの基本政策をはっきりさせる必要があるとして慎重な姿勢だ。共産党は、連携の対象には入っていないことに反発を強めている。

立憲民主党は、次の衆院選で自公政権を過半数割れに追い込んだ場合、どのような勢力が協力して政権を担うのか、具体的な構想を明らかにする必要がある。

野田代表は就任後、最初の記者会見で「あす24日の午前中までに党役員の骨格となる人事を決める。私にない刷新感をどうやって作っていくかは1つの重要な観点だ」とのべた。

野田代表にとっては、刷新感とともに挙党体制もカギになる。決選投票の得票率をみてみると野田氏が56%に対し、2位の枝野氏は43%と余り差がついてないことがわかる。

枝野前代表は立憲民主党を立ち上げた有力幹部で、議員や党員の間で支持者が多いとされる。野田代表としても、枝野氏を含め党内各グループをとりまとめて挙党体制を構築できるかどうか、党役員人事が最初の試金石になる。

今月27日には、過去最多9人が立候補している自民党総裁選で、新しい代表が選出される。これによって自民、立民両党のトップが決まり、来月1日に召集される臨時国会でそれぞれ新たな体制で激突する。政治に緊張感が生まれることを期待したい。(了)

★追記(24日23時)立憲民主党の野田代表は24日、新たな執行部人事案を提案し、両院議員総会で承認された。幹事長に小川淳也氏、政務調査会長に重徳和彦氏、国対委員長に笠浩史。いずれも50代で、執行部の若返りを図り刷新感をアピールするねらいがあるものとみられる。一方、党内からは、いずれも代表選で野田氏を支持したばかりで、挙党態勢になっていないと批判する声も出ている。

”情勢は混沌”自民総裁選後半戦へ

岸田首相の後継を選ぶ自民党総裁選は19日が折り返し点で、20日から後半戦に入った。情勢は当初、石破、小泉両氏の争いと見られていたが、高市氏が勢いを増し、石破、小泉、高市3氏の三つ巴の戦いになっているようだ。

総裁選の予測は中々、難しい。個人的な経験でも2012年の総裁選は当時、最多の5人が立候補し、私はNHK日曜討論、日本記者クラブの討論会の司会を担当したので鮮明に覚えているが、多くのメデイアの事前の予想は外れることになった。

総裁選が幕を開ける前は、幹事長の石原伸晃氏がトップとの予想が多かったが、選挙戦に入ると失速。最終的には、3位か4位と見られていた安倍元首相が決選投票に残り石破氏を逆転、新総裁に返り咲いた。現職の総理・総裁が立候補を断念し、新人候補などが名乗りを上げる総裁選は波乱が起きやすい。

そこで、今回はなぜ、三つ巴になっているのか。最後に誰が抜け出しそうなのか、そのカギは何かといった点を中心に選挙情勢を探ってみたい。

 2強から3強、三つ巴へ情勢変化

総裁選の第1回投票では、議員票368票(離党した堀井学議員の後任の繰り上げ当選が決まったため、議員票、党員票ともに1票ずつ増えた。党員票も368票になる)については、立候補者が過去最多の9人になったため、大きな差がつきにくく、代わって党員票の比重が高くなった。

その党員票は、報道各社の世論調査で「次の総裁としてふさわしいのは誰か」という質問に対して、告示前の時点では石破茂元幹事長と小泉進次郎氏の2人が他の候補を大きくリードしていた。

ところが、選挙戦が始まり、論戦が本格化した以降の調査では、石破氏、小泉氏、高市氏の3人がリードする形へと変化している。告示前は2強だったのが、選挙戦突入後は3強へと変わったのが大きな特徴だ。

但し、3人の強弱については、報道各社の調査でもバラツキがみられる。今の時点では「誰が最終的に勝ち抜くのか、わからない混沌とした情勢にある」というのが現時点の結論だ。

報道各社の調査結果をみてみたい。◆朝日新聞が行った調査(9月14~15日)のうち、自民支持層では①石破32%、②小泉24%、③高市17%となっている。◆共同通信の自民支持層の調査(9月15~16日)では、①高市27.7%、②石破23.7%、③小泉19.1%と順位も異なる。

読売新聞の調査(9月14~15日)では「党員を対象に絞った調査」をしているので、その結果を最も注目していた。①石破26%、②高市25%、③小泉16%。高市氏の伸びが大きく、小泉氏は3位に後退している。

こうした調査結果について、自民党の関係者に見方を聞いた。「石破、高市、小泉3氏が優位」との見方は妥当だ。但し、「3人の順位については、優劣をつけるまで至っていないのではないか」との見方をしている。

また、この関係者は「これまでの総裁選では、自民支持層と、自民党員を対象にした調査ともに、ほぼ同じ傾向が現れていた。今回は、その関係も異なりバラツキがみられる」「選挙情勢は、固まっていないのではないか」との見方だ。

一方、別の自民党の閣僚経験者に聞いてみると「高市氏に勢いが見られる一方、小泉氏には当初の勢いに陰りが生じつつある」との見方を示す。

その理由として「小泉氏は、選択的夫婦別姓の容認や解雇規制緩和などの政策を打ち出したが、党員の支持離れを引き起こしている。逆に高市氏の主張や政策に支持が広がった。論戦の影響が反映しているのではないか」と指摘する。

以上のような点から党員票については、上位3位の順位をつけるのは難しく、今後の動きを見極める必要があると考える。投開票まで、まだ1週間もある”長期戦”だ。

 議員票も投票行動を読み切れず

次に議員票について見ていきた。368票のうち、◆40票余りを固め、先行しているのが小泉氏と小林氏だ。◆30票余りが林氏、茂木氏。◆20票台が高市氏、石破氏、河野氏、上川氏、加藤氏と続いているものとみられる。残りの90票余りをめぐって、9つの陣営が獲得にしのぎを削っているとみられる。

以上の議員票、党員票を合わせても過半数に達する候補者はいない見通しだ。このため、第1回投票では決まらず、上位2人の決選投票に持ち込まれる公算が大きい。その決選投票では、党員票は47都道府県の47票に縮小するため、今度は議員票の368票の方が大きなウエイトを占めることになる。

さて、その議員票がどのようになるか。立候補者9人のうち、3人は順番は別にして石破、高市、小泉の3氏だろう。この中から、決選投票に進出する2人に絞り込み、さらに最後の総裁の座を獲得するのは誰かとなると今の時点では、読み切るのは困難だ。

それに各候補ともにそれぞれ弱点を抱えている。小泉氏は党内で最も高い人気を保っているが、論戦の際の即応力、説明能力の危うさを指摘する声が多い。加えて「憲政史上最も若い43歳の総理・総裁の誕生を想像すると、経験や修行をもう少し積んだ後がふさわしい」といった評価を聞く。

高市氏については、前回総裁選で後ろ盾になった安倍元首相が亡くなっても、立候補にこぎ着けた力を評価する見方は多い。反面、「総理・総裁として、多くの議員を束ねていくだけの力量、指導力があるとは思えない」。「超保守の岩盤支持層が支えるのは強みかもしれないが、右寄りの姿勢が前面に出すぎると特に対米、対中関係などが危うくなるのではないか」と懸念する見方は根強い。

石破氏については、安倍首相の政敵として辛酸をなめながらも5回目の挑戦にこぎ着けたことと、「裏金問題をめぐる国民の政治不信が頂点に達している中で、信頼回復に取り組むリーダーとして適任」との声は根強いものがある。一方で、「何年経っても党内で仲間が増えず、政権を安定的に運営できる体制を作れるか大きな課題を抱えている」と危惧する声も聞く。

今回は、岸田首相が派閥解散を宣言した後、初めて行われる総裁選挙だ。派閥が全面的に復活するような動きはないにしても、決選投票では旧派閥の意向が働くのではないかとの見方は残る。具体的には、麻生派、旧岸田派、旧茂木派について、指摘されるような動きがないか、注視していく必要がある。

一方、高市氏の陣営が「国政レポート」という文書を党員に郵送した問題が明るみになり、他の陣営から「カネのかからない選挙にするため、党員向け文書の配布は行わない申し合わせに反する」と強い批判が出された。逢沢一郎選管委員長が口答で高市氏を注意したが、高市氏陣営が反発するといった動きが続いている。

このほか、朝日新聞が17日、安倍元首相と旧統一教会会長が2013年の参議院選挙直前に自民党本部の総裁応接室で面談していたとみられる写真を報道した。一昨年、この問題が表面化した際、自民党は個別議員の問題とは別に「一切の組織的関係は無い」という見解を示した。

朝日新聞の報道が事実であれば、この見解に反する可能性があり、説明が必要だ。党関係者に聞くと「安倍元総理の問題であり、総裁選に直接影響する可能性は小さい」との見方を示すが、次の衆院選挙などへの影響は出てくるのではないかとみている。

立民、野田氏先行、枝野氏追う展開

立憲民主党の代表選挙は、報道各社の世論調査でも野田元首相が先行、枝野前代表が追う展開で、泉代表、吉田晴美氏は支持の広がりが見られないという構図だ。

立憲民主党関係者に聞いても「議員票、党員・サポーター票ともに野田氏が、枝野氏を上回るのではないか」との見方している。最終的には、野田氏が新代表に選出される公算が大きいものとみられる。

自民党総裁選の投開票日は27日なので、野党第1党の新代表が決まったのを受けて、新しい総理・総裁を選ぶことになる。まず、決選投票に残る2人はどうなるのか。順位は別にして「石破、小泉」「石破、高市」「小泉、高市」の組み合わせが想定され、さらに最終的に誰を選ぶのかを決めることになる。

自民党長老に総裁選びはどこがポイントになるかを聞いてみた。「自民党議員の多く、特に中堅・若手は、旧派閥との関係よりも自分の選挙を考え、『選挙の顔』を意識するだろう。その際には、単に人気というよりも、第1回投票で示された党員票1位の候補を選ぶ議員が多くなるのではないか」との見方だ。

折り返し点を過ぎて終盤戦に向かうが、投票日まで1週間もある。選挙情勢もまだ動く可能性がある。当面の選挙乗り切りの発想ではなく、総理・総裁としてふさわしい候補は誰かを基準に選出してもらいたい。ほとんどの国民は、この後、予想される衆院解散・総選挙で適否を判断することになる。(了)

“中身は変わるか?”自民総裁選スタート

岸田首相の後任を選ぶ自民党総裁選挙が12日告示され、過去最多の9人が立候補を届け出た。9氏は党本部で立ち会い演説会に臨み、経済政策や党改革、外交・安全保障政策などをめぐり、それぞれ意見を表明した。

9氏は13日に党本部で共同記者会見、14日に日本記者クラブで候補者同士の討論会に臨む。その後、全国8か所の演説会などを経て27日に投開票が行われ、新しい総裁が選出される運びだ。

自民党内では、派閥の裏金問題を受けて「自民党が生まれ変わった姿を見せないと次の選挙は戦えない」との受け止め方がある一方で、「首相の顔を変えて戦えば、選挙を乗り越えることはできる」として、早期の衆院解散・総選挙論が急速に広がりつつある。

一方、選挙情勢は、報道各社の世論調査や自民党関係者の見方を総合すると「石破元幹事長と小泉進次郎元環境相の2人が先行している」との見方が強いが、決選投票にまで持ち込まれる公算が大きく、最終結果を見通せるまでには至っていない。

そこで、今回のブログでは、今度の総裁選の特徴と、総裁という「表紙」が変わって「中身も本当に変わるのか?」「何が問われているのか」といった点を中心に考えてみたい。

 混戦の背景、人材枯渇現象の裏返し

最初に、総裁選の立候補者9人を分類してみると◆岸田政権の中枢にいる林芳正官房長官(63)と茂木敏充幹事長(68)。◆閣僚は、高市早苗経済安保相(63)、上川陽子外相(71)、河野太郎デジタル担当相(61)。◆党幹部として、ベテランの石破茂元幹事長(67)、加藤勝信元官房長官(68)、中堅・若手が小泉進次郎元環境相(43)小林鷹之前経済安保相(49)となる。

つまり、政権与党の中枢と閣僚が5人を占める。岸田政権の当事者なので、主要政策の責任の一端を背負っている立場にあることを頭に入れておく必要がある。

そのうえで、今回の立候補者がこれまで最も多かった5人を大幅に上回り、過去最多の9人、大混戦となった理由・背景としては何があるのだろうか。

まず、自民党は裏金問題を受けて派閥の解散を決めており、従来のように派閥のタガ、締め付けが効きにくくなったことがある。同じ旧岸田派にいた林氏と上川氏、旧茂木派の茂木氏と加藤氏のように、同じ派閥から2人が立候補したのは派閥の締め付けががなくなったことが大きい。

また、閣僚経験者の1人は「推薦人20人を集めることができれば、立候補できるようになったので、総理・総裁をねらう人たちが名乗りを上げ、総裁選立候補の足跡を残しておきたいという思惑が働いているのではないか」と解説する。

さらに、党の長老に聞くと「次の政権は政治とカネの問題が響いて、衆院選挙は苦戦も予想され、短命政権となるおそれもある。政権の先行きを見越した思惑もあるのではないか」との見方を示す。

一方で、「かつては『三角大福中』『安竹宮』『麻垣康三』といった次の総裁候補の面々が控えていたが、今や衆目一致する有力なリーダー候補がいなくなったともいえる」と語る。この発言の意味は混戦というが、実態は有力なリーダー候補がいない”人材枯渇現象”の裏返しではないかとの厳しい見方だ。

 中身は変わるか、2つの視点がカギ

さて、今回の総裁選の選挙権は、自民党所属の衆参両院の議員376人と105万人党員に限られ、ほとんどの国民は選挙権はない。選挙権はないが、国民の多くは、岸田首相が退陣表明の際に強調した「自民党は変わらなければならない」との訴えが、本物になるのかどうかを注目しているのではないか。

9人の候補者は立候補の届け出を済ませた後、党本部で行われた立ち会い演説会でそれぞれの意見を明らかにした。

各候補は◆政治とカネの問題を受けて、信頼回復のための党改革や政治改革のあり方、◆経済・財政政策や物価高対策、◆人口減少対策と社会保障、◆外交・安全保障、◆憲法改正などについて、それぞれの立場から対応策を訴えた。

驚いたのは、政権幹部である茂木幹事長が「増税ゼロ」を訴え、防衛増税と子育て支援金の追加負担、各1兆円を停止する考えを打ち出したことだ。また、茂木氏は政治とカネの問題では「政策活動費」の廃止も表明した。いずれも岸田政権の方針とは正反対の考え方だ。

また、小泉進次郎氏は「総理・総裁になったら、できるだけ早期に衆議院を解散し国民に信を問う」考えを表明するとともに規制改革・解雇規制緩和などに取り組む考えを示した。解雇規制の緩和は、政府内や国民の間でも意見が分かれている問題だ。党内の合意形成はできるのだろうか。

総裁選なので、それぞれの候補が自らの考えを表明するのは自由だが、政権与党なので、政権の掲げる政策と異なる場合、その理由や内容などについて、詳しい説明を行う必要がある。

以上を確認した上で、本論である「自民党の中身は、本当に変わるのかどうか」に話を移したい。2つの視点が重要だと考える。

まず、国民の関心が高い「政治とカネの問題」については、国民の疑念に真正面から取り組むことが必要だ。立ち会い演説会を聞いた限りでは、各候補の主張はほとんどが一般論で、取り上げても部分的で、具体性が極めて乏しい。これでは、国民の政治不信を払拭し、信頼を回復するのは難しいだろう。

求められているのは、◆裏金問題の説明責任と処分の扱いをどのようにするのか。◆先の国会で成立した改正政治資金規正法の中で、「検討項目」として盛り込まれた第三者機関の設置などの改革をどのように実現していくのか明らかにする必要がある。

2つ目は、国民の多くが知りたいのは、端的に言えば、これからの「経済・社会のかじ取り」をどうするのかだ。国内では人口急減社会が急ピッチで進む一方、GDPの規模は円安政策もあってドイツに抜かれて4位に後退するなど国際社会での日本の地位低下に歯止めがかからない。

これに対して、各候補の主張は「強い日本列島をつくる」「世界をリードする日本をつくる」「所得倍増を成し遂げる」など威勢のいい目標は盛んに語られるが、目標はどのような政策を組み合わせると実現するのか、説得力のある説明は聞かれなかった。これでは、国民の将来不安は中々、消えない。

この10年余り続いたアベノミクスを総括し、これからの経済・社会の基本方針をどのように設定するかを明確に打ち出す時期ではないか。こうした基本方針と実現への道筋を示すことこそ、政権与党の自民党が問われている点だと考える。

自民党内には「総裁選で新総裁が誕生すれば、政権の支持率が上がり、その勢いに乗って早期の衆院解散に踏み切れば、選挙に勝てる」との見方が広がっている。

一方、政治とカネの問題への対応は曖昧なまま、将来の暮らしや経済の展望も開けないとなれば、次の衆院選では有権者からしっぺ返しを受けるというのが、これまでの教訓だ。

私たち国民は、総裁選での論戦を通じて「政治のカネの問題」と「経済・社会の基本方針」の議論が進むのかどうかを見極め、次の衆院選挙の投票する際に生かしていくことが必要ではないかと考える。(了)

 

“政権との対立軸を示せるか?”立民代表選

立憲民主党の代表選挙は7日告示され、野田元首相、枝野前代表、泉代表、吉田晴美衆院議員の4人で争われることが決まった。4氏は、共同記者会見や候補者同士の討論、地方遊説、テレビ番組に出演し、議論を交わしている。

メデイアの多くは、今回の代表選について「政権交代に向けた野党の共闘や連携が焦点」とのとらえ方をしているが、国民の多くは「今の自公政権との違いは何か?」に関心があるのではないか。

自民党の総裁選もまもなく12日に始まり、新総裁が決まれば、早期の衆院解散・総選挙に踏み切るとの観測も強まっている。今回の代表選をどのようにみたらいいのか、何が問われているかを考えてみたい。

 立民代表選の顔ぶれ、関心度は?

まず、候補者の顔ぶれだが、枝野前代表と野田元首相の立候補は早い段階で固まった。一方、泉代表の立候補表明は告示日の前日、吉田晴美議員は告示日当日、締め切り直前に立候補を届け出た。20人の推薦人集めがいかにたいへんだったかが、わかる。

吉田晴美議員は当選1回、初めての挑戦だが、残り3人はいずれも民主党時代を含めて、代表経験者と現代表だ。”変わり映えがしない”、”刷新感に乏しい”などの批判も聞かれる。

そうした批判は当たっているが、野田氏は67歳、枝野氏60歳、泉氏50歳で、自民党と比べると必ずしも高齢とは言えない。野党が政権交代をめざす場合、むしろ安定感を与えるとみることもできそうだ。

そうした顔ぶれの印象よりも、立憲民主党にとっての難問は、国民に代表選への関心を持ってもらえるかどうかだ。メデイアの報道は、既に自民党の総裁選の方に集中しているようにみえる。総裁選本番となると、代表選の方は埋没してしまう可能性もある。

メデイアの扱いは、野党か、政権与党かで、政策などの報道で差が出るケースもある。それだけに代表選の候補者は、国民を引きつけるメッセージや政策を打ち出せるか力量が問われることになる。

 政権との違い・対立軸を打ち出せるか

次に、各候補の主張について、ポイントを絞って見ておきたい。4人の候補とも次の衆院選で政権交代をめざすことでは一致している。

◆野田氏は「政権交代こそ最大の政治改革」だとして、自民党の裏金問題と政治改革を最大の争点として位置づけ、世論の支持拡大をめざす考えだ。

◆枝野氏は「人間中心の経済」を掲げ、失われた30年を教訓にアベノミクスに代わる、人を大事にする新たな経済政策を訴えている。

◆泉氏は「日本を伸ばす」をキャッチフレーズに地域の産業の振興、教育無償化などを推し進めていくと強調している。

◆吉田氏は「教育と経済で、国民生活の底上げ」を訴え、教育の無償化や消費税の食料品ゼロ税率などをアピールしている。

◆こうした主張をどのようにみるか。1つは、自民党の派閥の裏金事件を受けた政治改革については、報道各社の世論調査でも、岸田政権が成立させた改正政治資金規正法を「評価しない」という受け止め方が圧倒的に多い。

また、自民党総裁選に立候補を表明した候補の中からも、岸田政権の方針とは反対の「政策活動費の廃止」や「旧文通費の公開」を打ち出す意見が出されるようになった。

こうした動きを受けて、野党第1党である立憲民主党は、改正政治資金規正法の抜本改革に向けた具体案をまとめ、早期実現に道筋をつける必要があるのではないか。今後の具体的な取り組み方を注目したい。

◆2つ目は、立憲民主党が政権交代をめざすのにあたって、どのような構想・政策を掲げるかが問われている。枝野氏の「人間を中心にした経済」も構想の1つになると思うが、具体的な政策の内容がまだ、よくわからない。

一方、自民党の総裁選に名乗りを上げた小泉進次郎氏は「聖域なき構造改革、解雇規制の緩和」を打ち出した。こうした自民党候補の政策との違いを含めて、自公政権との違いを鮮明に打ち出してもらいたい。端的に言えば「自公政権との対立軸」を明確に示すことも注文しておきたい。

◆3つ目は、次の衆議院選に向けて、野党各党との共闘・連携の路線問題がある。メデイアは、共産党と維新のどちらと連携を図るのかと判断を求める論調が多い。

この問題の立憲民主党の本音は「共産党支持者の票は欲しいが、連立政権の話し合いの対象にはしたくない」というところだろう。

一方、維新は「立憲民主党との連立は考えていない」とみられる。共産党は「選挙協力を行う場合は、政権のあり方についても協議するのは当然」という考えとみられる。

つまり、3者の考え方は方向性が一致していないので、事前に話を詰めようとしても限界がある。また、次の選挙で自公両党が過半数割れに落ち込むかどうかもわからない。

このように見てくると連立政権の枠組みの問題よりも、自公過半数割れに追い込むための取り組み方を協議する方が、野党側にとっては意味があるように思われる。例えば、野党共通の主要政策をまとめ、政権に迫るといった取り組みだ。

以上、見てきたように国民の多くは、野党の共闘・連携のあり方よりも、野党第1党として、自公政権との違い・対立軸は何か、国民にわかりやすい政治課題を幾つか示すことが求められているのではないかと考える。

 代表選の情勢、地方票など流動的

最後に「代表選挙の情勢はどうか?」といった質問が予想される。民主党の関係者に聞くと「野田氏と枝野氏が先行しているのではないか」といった見方を聞くが、根拠のあるデータや情報に基づくものではなく、情勢はまだわからない。

その理由は、投票全体の半数を占める「地方議員と党員・サポーター」の地方票が、まだ読めないことが大きい。今回は、選挙期間が17日間と長いこともあって、4氏の論戦の評価なども含め情勢は、流動的だ。

一方、立憲民主党にとっては、新代表に誰が選ばれるかという問題と並んで、党の存在感や政策について、無党派層を中心に世論の評価や支持が広がるかがカギとなる。次の衆院選で、政権交代が実現するか最大の焦点になるからだ。

立憲民主党の代表選は23日、自民党の総裁選は27日にそれぞれ投開票が行われ、新しいリーダーが決まる。私たち有権者も両党の論戦に耳を傾けながら、これからの日本社会は何が必要か、次の衆院選挙に向けて準備を始めたい。(了)

 

混戦総裁選と”総理・総裁の条件”

自民党の総裁選挙は、立候補を表明したり意欲を示したりしている候補が10人以上に上るなど異例の混戦状態になっている。

既に立候補を表明したのは、小林鷹之・前経済安保相と、石破茂・元幹事長、河野太郎・デジタル担当相の3人だ。続いて林芳正・官房長官、小泉進次郎・元環境相、高市早苗・経済安保相、茂木幹事長らが続々と記者会見して立候補を表明する見通しだ。

メデイアは連日、誰が立候補に必要な推薦人20人を確保できるのかといった予想を伝えている。ただ、選挙の告示日は9月7日なので、最終的な顔ぶれが確定し、政策を打ち出すまでには、なお、かなりの時間がかかりそうだ。

一方、自民党の総裁選で新しい総裁に選出され、国会で指名を受けると直ちに新しい首相に就任する。国民のほとんどは総裁選の投票権は持っていないので、自ら関与しないところで、新首相が事実上、決まってしまうことになる。

そこで、せめて真っ当なリーダーを選んでもらいたいというのが国民多数の願うところだろう。「総理・総裁にふさわしい資格・条件」とは何か?この条件を考えてみたい。いずれ衆議院解散・総選挙になると今度は国民が、今の総理・総裁はふさわしいか、どの政治勢力・候補者に政権を委ねるかを判断することになり、その際の基準にもなる。

元首相の格言、体系的リーダー論も

さっそく、「総理・総裁にふさわしい条件」とは何か。政界で有名なのは、田中角栄元首相の格言だ。「党三役のうち幹事長を含む二つと、大蔵、外務、通産の大臣のうち二つ」が必要だいうものだ。一国の宰相は、主要ポストを歴任しておかないと、とても務まらないという考え方だ。

私は、70年代後半の「大福決戦」(当時の福田赳夫首相と大平幹事長との対決)の時が駆け出しの政治記者時代で、それ以降、総裁選挙を取材してきた。担当した竹下元首相や後藤田元官房長官は「調整力」を重視していたのが印象に残っている。

総理・総裁の条件を最も体系的に捉えていたのは、中曽根元首相ではなかったかと思う。中曽根氏は、4つの条件を挙げていた。1つは「目測力」、2番目は「結合力」、3番目は「説得力」、4番目が「人間的魅力」だ。

勝手に解釈をさせてもらうと目測力とは「事態の推移を予測し、問題点を提起し、最終的に決着させる力」。結合力は「智恵と人材を集め、政策を遂行する総合力」。説得力は「大衆社会では、政治家は国民との対話と説得力が不可欠」との考え方で、最終的には「人間的魅力」が重要とする体験的なリーダー論だ。

このリーダー論は今も通用すると私個人は考えているが、80年代までの話だ。93年に自民1党優位時代が崩れて以降、連立時代へと変わり、派閥の領袖や主要ポストを経験しない首相も誕生している。

一方、今回のように総理・総裁候補が10人以上も名乗りを挙げる事態をどのように考えたらいいのか。また、「選挙の顔として誰がふさわしいか」といった次元の意見がまかり通るようなリーダー選びでいいのか、今一度「総理・総裁の条件」を考えておくことが必要だと感じさせられる。

 リーダー選び 3つの判断基準

それでは「総理・総裁の条件」、もっとわかりやすく言えば「私たち一人ひとりが判断する基準」としては、どのような物差しがあるだろうか。最近の政治の動きを基に考えると、個人的には、次のような3つの基準を挙げたい。

1つは「目標と道筋」。内外ともに激動の時代、何を目標に設定して国政を運営するのかの基本方針。この基本方針が、明確かどうか。同時に目標を実現するための方法、達成時期がはっきり示されているか。

目標としては、この30年間賃金が上がらず停滞した日本経済の立て直し、人口急減社会と社会保障の整備、外交・防衛力の強化などさまざまな目標が打ち出されるだろう。その際、どのような方法で実現するのか、具体的な道筋を示すことができているかどうかがポイントだ。

2つ目は「経験と刷新」。多くの候補者の中から、リーダーとしての資質・能力をどのように判断するか。田中角栄元首相が指摘したように政府・党の主要ポストの経験も1つの物差しにはなると思う。

一方で、世代交代の促進。中堅議員でも突破力があれば、古い党の体質を刷新、大きな改革ができる可能性もある。但し、刷新を掲げながら、舞台裏で古い勢力の支援や重鎮とのつながりがあったりすれば、国民の失望を買う。経験と刷新をどう折り合いをつけるか、具体的な人物を対象に判断するしかないと考える。

3つ目が、各候補が打ち出す多くの目標や政治課題などの中から「優先順位」をつけることも重要な点だ。総理・総裁として中長期の目標と同時に、総裁任期3年の間に何を最優先に取り組むのかをはっきりさせる必要がある。

その際、報道各社の世論調査をみると国民の多くは「裏金問題を受けて、自民党は政治不信の払拭にどこまで真剣に向き合うのか」を重視している。このため、政治改革は最重要の案件として、各候補は具体的な対応策を示してもらいたい。そのうえで、その他の政治課題の中から、何を最重点に取り組むのかを明確に打ち出してもらいたい。

今回の総裁選は、多くの候補者が名乗りを上げ、それぞれ選挙の公約を打ち出す見通しだ。先に触れた「3つの基準」に基づいて整理をすれば、各候補について、一定の評価を行うことができると思う。

一方、今回の総裁選挙をめぐって自民党内では、次の衆院選挙を意識して「選挙の顔」を選ぼうとする動きがうかがえる。だが、新しい総裁は、国会で指名を受けると即、新しい総理として国のかじ取りを担う。行政全体を指揮する能力、与党との調整力、見識などを兼ね備えたリーダーを選ぶのが、責任政党の役割だ。

各候補者が出そろい、候補者同士による例年より長い論戦を経て、自民党は100万人余りの党員と所属する衆参国会議員の選挙で、誰を最終的に選出することになるのか。また、派閥を解消して、新しい自民党に生まれ変わるとした約束が守られるのかどうかも大きな注目点だ。

ほとんどの国民は、今回の総裁選では投票権は持っていないが、今の衆議院議員の任期が満了となる来年10月末までには、衆議院選挙が行われる。そこで、来月行われる自民党と、野党第1党・立憲民主党のリーダー選びを注視しながら、次の衆院選挙での判断に活かしてはどうだろうか。(了)