ヨーロッパ訪問に続いて中東3か国歴訪から帰国した岸田首相は、21日から全国各地へ足を運んで国民との対話を行う地方行脚をスタートさせる。
岸田政権の主要政策に国民の理解を得るとともに、秋の解散総選挙をにらんだ布石との見方もある。
華やかな首脳外交とは対照的に国内では、内閣支持率の急落と自民党支持率の低下傾向が表れているが、夏の地方行脚で政権浮揚は可能なのか、探ってみたい。
首相”原点に立ち返り、国民の声を伺う”
中東3か国歴訪から19日に帰国した岸田首相は、今度は21日から栃木県を訪問するのを手始めに鳥取、島根、福岡などの各地を訪れ、視察や対話集会などに出席する予定だ。
岸田首相は通常国会が閉会した先月21日の記者会見で「今年の夏は再度、政権発足の原点、政治家・岸田文雄の原点に立ち返って、全国津々浦々の現場にお邪魔して、皆さま方の声を伺うことに注力していく所存です」と語っていた。
岸田首相は一昨年10月の政権発足直後に始めた「車座対話」を重視しており、少子化対策など政権の重要課題をテーマに国民との対話を再開して、政権の態勢立て直しを図りたい考えだ。
内閣支持率急落、自民支持率も低下へ
その岸田首相を取り巻く情勢は、自ら「原点に立ち返る」といわざるを得ないほど厳しさを増している。それは、7月の報道各社の世論調査に表れている。
今月7日から9日に行われたNHK世論調査では、岸田内閣の支持率は38%で5か月ぶりに30%台に下落し、不支持率は41%に達した。自民党の支持率も34%で、他党に比べて高いものの、岸田政権発足以来最も低い水準となった。
今月15、16の両日行われた朝日新聞の世論調査では、岸田内閣の支持率は5ポイント減の38%、不支持率は4ポイント増の50%で半数に達した。自民党の支持率は28%まで低下し、安倍内閣がコロナ対応で苦しんだ2020年6月以来の低い水準だ。
このように報道各社の世論調査で岸田内閣の支持率は、いずれも不支持率が支持を上回る逆転状態となっている。自民党の支持率もこれまで堅調に推移してきたが、ここに来て岸田内閣の支持率低下が、自民党の支持率を押し下げる形になっているのも特徴だ。
こうした原因としては、マイナンバーカードをめぐる混乱が大きく影響している。政府の対応の評価について、NHKの調査では「適切だと思わない」が49%で、「適切だと思う」の33%を上回った。朝日の調査でも「評価しない」が68%を占め、「評価する」の25%を大きく上回った。
来年秋に健康保険証を廃止し、マイナンバーカードと一体化する政府の方針について、朝日の調査では「反対」が58%で、「賛成」の36%を上回った。
NHKの調査では「(保険証を)予定通り廃止すべき」は22%だったのに対し、「廃止を延期すべき」が36%、「廃止の方針を撤回すべき」が35%だった。「延期」と「撤回」を合わせると7割にも達した。
ここまでトラブルが発生しながら、岸田首相は河野デジタル担当相などに対応を事実上、丸投げし、その河野担当相は総点検の最中に2度にわたって外国訪問に出かける予定だ。
国民からすると、政府は真剣に取り組む気はあるのか、緊張感がなさ過ぎるとの受け止め方が読み取れる。内閣支持率の急落は、直接的にはマイナンバーをめぐる問題が大きく影響していると言って間違いないだろう。
看板政策の低い評価を打破できるか
岸田内閣の支持率急落や自民党支持率の低下の背景としては、マイナンバーの問題もあるが、もう少し踏み込んで考えると岸田政権の看板政策への評価の低さと対応の問題が影響しているとの見方をしている。むしろ、問題の本質は、後者にあるのではないかとみている。
例えば、岸田首相が今年1月に打ち出した「次元の異なる少子化対策」。この少子化対策の評価については、NHKの世論調査では「期待している」は33%しかなく、「期待していない」が62%と多数を占める。
これは、子ども予算を年間3兆円台半ばまで増やすことは評価するものの、肝心の財源確保の具体策が明らかにされていないことが影響しているものとみられる。将来、社会保険料などの負担増で自らの生活に跳ね返ることがあるからだ。
また、防衛費の増額についても、政府の説明は「十分だ」は16%に対し、「不十分だ」が66%を占めた。3月時点の調査結果だが、防衛増税の開始時期は未だに決まらず、年末の予算編成まで先送りになったままだ。
さらにマイナンバー制度の推進、これも岸田政権の看板政策だ。ところが、こうした政権の看板政策への対応については、いずれも国民の評価が低く、異例の状態といえる。
特に国民に不人気な増税や負担増の問題はとにかく避けたいという姿勢が目立つ。これに対して、今は、国民の賃金引き上げや投資の拡大を最優先にすべきだという擁護論もあるが、政権としてもそのように考えるのであれば、堂々と訴えるのが本来の姿だ。
岸田首相は「丁寧に説明する」「真摯に対応する」と繰り返すが、説明の中身はほとんど同じで、結論も変わらないことが多い。「糠に釘、暖簾に腕押し」などの受け止め方が広がり、国民の側に岸田政治に対する期待感の低下があるのではないか。
したがって、岸田首相が問われているのは、将来のあるべき姿を示して、国民に真正面から説明、不人気な政策でも国民を説得していく姿勢が求められているのではないか。今度の地方行脚では、そうした政治姿勢を打ち出せるかが問われていると考える。
政界では、岸田首相は秋の解散・総選挙に打って出るのではないかとの見方は根強くある。しかし、今のような内閣支持率の低迷が続いている状態では、とても衆院の解散は打てないのではないかとみている。
岸田首相のこの夏の地方行脚は、秋の解散風が本物になるかどうかの判断材料としても注視している。(了)