”無党派・政治不信旋風”首都決戦

過去最多の56人が立候補した東京都知事選挙は7日投開票が行われ、小池知事が大勝し3選を果たした。次点は、広島県安芸高田市・前市長の石丸伸二氏、3位は前参院議員の蓮舫氏という事前の予想とは異なる結果となった。

一方、同じ7日に投開票となった東京都議補欠選挙で自民党は、9選挙区中8人の候補者を擁立したが、当選は2人に止まり、裏金問題の逆風が収まっていないことがはっきりした。

今度の都知事選と都議補選の首都決戦から、何が読み取れるのか?結論を先に言えば”無党派層の投票者が増え、既成政党に対する不信と批判が現れた選挙”ではないか。なぜ、こうした見方をするのか、以下、説明したい。

多数の無党派層投票 選挙結果を左右

まず、東京都知事選挙の構図については当初、小池知事が先行し、蓮舫氏と、石丸氏が追う展開と予想していた。終盤、石丸氏が急速に追い上げているとの見方もあったが、立憲民主党や共産党などの支援を受ける蓮舫氏が逃げ切るのではないかと個人的にはみていた。

結果は、冒頭に触れたように小池氏、石丸氏、蓮舫氏という順番で、決着がついた。小池氏先行というのは現職の立場に加えて、自主支援を打ち出した自民、公明両党支持層からの分厚い支持が想定され、小池氏優勢は妥当な判断だろう。

一方、蓮舫氏と石丸氏の順位が入れ替わったのはなぜかという点だが、これは、投票者を対象にしたNHKの出口調査のデータをみると、理由がわかる。それが今回の選挙の大きな特徴でもある。

今回の都知事選で、投票した有権者の「ふだんの政党支持」をみると、自民支持は25%、立憲民主党支持は10%などと続いている。これに対して、特に支持している政党はない、いわゆる無党派層は48%だった。

大都市・東京は無党派層が多いといわれてきたが、今回は自民支持層の倍近い規模だ。立憲民主党支持層との比較では、5倍にも達する。投票者に占める無党派の比率がここまで伸びたことはなかったのではないか。

つまり、投票所に足を運んだ有権者のおよそ半数が、無党派層。この無党派層から最も多く獲得したのが石丸氏で30%余り、次いで小池氏30%余りだった。これに対し、蓮舫氏は20%に止まった。「無党派層の獲得率」の違いが、勝敗と順位を大きく左右する。これが今回選挙の第1の特徴だ。

 既成政党への不信、批判が鮮明に

次に、都議補選をみると今回は、品川区、中野区、八王子市など9つの選挙区で行われた。自民党は8つの選挙区で候補者を擁立したが、獲得議席は2つに止まった。2勝6敗、選挙前の5議席からは3議席を失ったことになる。

議席を獲得したのは、小池知事が率いる地域政党「都民ファースト」が3議席、無所属が3議席、立憲民主党1議席となった。立憲民主党以外いずれも小規模な政治団体、または個人だ。

自民党は都民ファーストや無所属候補らと競り合ったが、最終的に競り負けた。自民党の選挙関係者に聞くと「自民党に対する不信や批判は厳しかった。但し、それは自民党だけでなく、立憲民主党にも向かった。無党派層を中心に、既成政党に対する姿勢が強烈に現れた選挙だった」と語る。

「そうした批判票が、石丸氏に最も多く流れた。小池知事でもなく、蓮舫氏でもない、批判票の受け皿に石丸候補がなった」との見方を示す。石丸氏は、無党派層を主要ターゲットにSNSを徹底して活用したことが功を奏した。

さて、自民党の評価だが、都知事選では独自候補を擁立できなかったものの、小池知事を自主的に支援することで敗北は免れる形になった。しかし、重視していた都議補選で思うような結果は出せなかった。裏金問題に対する有権者の厳しい評価は、変わっていないことが明らかになったと言える。

一方、立憲民主党については、蓮舫氏が3位に沈んで党内に衝撃が走った。立憲民主党は、4月の衆院3補選で連勝、5月の静岡県知事選でも勝利を重ねた。今度の都知事選で勝利すれば、次の衆院選に向けて弾みになると期待していただけに打撃は大きい。

蓮舫氏の対応をみていると、準備不足やちぐはぐな対応が次々に露わになった。立候補表明時には「反自民、非小池都政」との立場を鮮明に打ち出したが、「都政に、国政の対立を持ち込むな」といった批判を浴び、トーンダウンした。

一方で、幅広い都民の支持を得るとして、立憲民主党を離党したが、選挙運動では共産党が前面に出て活動したことから、無党派層や保守層が警戒して引いてしまったとの指摘も聞く。

さらに根本的な問題としては「小池知事との争点の設定」が明確ではなかったのではないか。小池知事側が候補者同士の討論を避けたとの情報も耳にしたが、都政のどこを変えていくのか、都民に強く訴えることができなかった。

その結果、無党派層へ浸透していく迫力がなく、既成政党批判の波に飲み込まれてしまったようにみえる。

 岸田政権、今後の政治への影響は

それでは、都知事選や都議補選が、岸田首相の今後の政権運営や、政治の動きにどんな影響を及ぼすだろうか。

都知事選の結果は、小池氏自身が現職の強みを発揮したことが大きい。自民党が自主的な支援に回ったからといって、党の評価が好転するといったことはないだろう。したがって、都知事選の国政への影響はほとんどないとみている。

一方、都議補選の敗北をめぐっては、さっそく東京選出の議員から「このままでは次の衆院選は勝てない」として、岸田首相の辞任を求める声が公然と出された。9月の自民党総裁選に向けて、今後、尾を引くことなりそうだ。

これに対して、岸田首相は、外交日程などをこなす一方、「先送りできない課題に1つずつ、結論を出していく」として、政権継続に強い意欲をにじませている。総裁選の選挙日程が固まる8月下旬頃には、首相の去就を含め総裁選の対応が大きなヤマ場を迎える見通しだ。

一方、立憲民主党は、都知事選の敗因などの分析を進めるとしている。党内から、共産党との連携のあり方を見直すべきだという意見も聞く。9月の代表選挙とも絡んで、党の路線問題も議論になりそうだ。

立憲民主党は前身の民主党時代から、党の足腰の弱さが課題になってきた。また、政権交代で何を重点的に取り組むのか、旗印を明確に打ち出すべきだといった意見も聞かれる。このため、路線問題だけでなく、政権構想を具体的に打ち出したりしなければ国民の支持は広がらないだろう。

自民党総裁選挙の後、年内に次の衆院選挙が行われる可能性が高いという見方が広がりつつある。衆院選は、都知事選挙のような首長1人を選ぶ選挙と違い、政党本位の選挙だ。自民・公明対、非自民・野党各党の戦いが基本になる。首都決戦で変化を巻き起こした「無党派・政党不信旋風」はどこに向かうかのか、注目していきたい。(了)

 

 

 

自民総裁選”地殻変動に対応できるか”

通常国会の閉会に伴って、9月に行われる自民党総裁選をにらんだ動きが始まった。先月23日には、菅前総理が事実上の岸田首相の退陣を求める発言が党内に波紋を広げている。

一方、岸田首相が続投に意欲をにじませていることもあって、ポスト岸田の候補とみられる幹部は、いずれも自らの立候補に言及することを避けている。しばらくは、各候補とも水面下で準備体制を整えていくものとみられる。

総裁選の注目点は、1つは岸田首相の進退で、続投をめざすのか、退陣もありうるのか。2つ目は、候補者として「石破、河野、高市、茂木の各氏にプラスα」(党関係者)との見方もあるが、最終的にどんな顔ぶれになるのかだ。

3つ目に派閥解散の下での総裁選びのプロセスがどうなるか。キングメーカーとして麻生、菅両氏が力を発揮するのか。それとも党員、議員の自主的な判断が強まったり、中堅議員グループから新たな候補者が出たりするのかが注目される。

候補者が態度を表明するまでには、時間がかかりそうだ。総裁選の選挙管理委員会が設置され、選挙日程の協議が始まる8月に入ってからになるとみられる。

そこで、今回は兼ねてから気になっていた点、具体的には、岸田政権の支持率や、自民党の政党支持率がそろって大幅に下落している現象をどのようにみたらいいのか、掘り下げて考えてみたい。

内閣・自民党も支持者激減の地殻変動

さっそく、国民が岸田政権や今の自民党をどのようにみているのか、6月のNHK世論調査(7~9日実施)のデータを基にみてみたい。

◆岸田内閣の支持率は21%まで下がり、不支持は60%にまで増えた。岸田内閣が発足した2021年10月以降で最も低く、自民党が政権復帰した2012年以降でも最低の水準だ。

◆自民党の支持率も25.5%まで下落した。内閣支持率が下落しても、これまでは自民党支持率は比較的高い水準を維持してきたが、岸田政権では、内閣支持率、自民党支持率がそろって下落が続く異例の状態が続いている。

自民党の支持率が30%ラインを割り込んだのは、自民党政権下では麻生政権以来だ。2009年8月に衆院解散・総選挙に踏み切る直前の支持率は26.6%だった。今回は、この時の水準も下回っている。

当時の野党第1党・民主党には勢いがあり、支持率も20%台後半まで伸ばしていたので、今とは大きな違いがある。直ちに政権交代が起きる状況にあるわけではないが、危機的状況にあることは間違いない。

この原因としては、岸田政権と自民党の裏金問題への対応について、国民の多くが強い不満や不信を抱いていることが影響しているものとみられる。裏金問題をきっかけに「世論の政権離れ、自民党離れ」が急速に進んでいるわけだ。

この「支持離れ」は、岸田内閣の発足時の2021年10月と、今年6月とを比較するとわかりやすい。◆内閣支持率は49%から21%へ実に半分以下に急落。自民支持層だけに限っても岸田内閣の支持割合は7割から5割に下がっている。

◆自民党支持率も41.2%から25.5%へ16ポイント、割合にして4割も減少している。このように内閣、自民党ともに支持者離れが劇的に起きているので、「地殻変動」と表現しても言い過ぎではないだろう。

総裁選による復活論は通用するか?

それでは、岸田首相や自民党執行部は、こうした支持者離れの地殻変動をどのように受け止め、対応しようとしているのか。

岸田首相は6月21日の記者会見で「政治資金パーテイー券購入者の公開基準の引き下げなど政治資金規正法改正が実現できた」と成果を強調するとともに「国民の最大の関心事項は、経済・物価・賃金にある」として、物価や経済対策に全力を上げる考えを表明した。

自民党の閣僚経験者に聞いてみると「党の基本戦略は、秋の総裁選を華々しく展開し、人材が豊富にいることと政策立案能力を示すこと。そのうえで新総裁の下、時間を置かずに衆院解散・総選挙に打って出て勝利することに尽きる」と語る。別の幹部からも同様の考えを聞く。

岸田首相や自民党幹部は「支持率減少は、政治資金問題による一時的な現象で、総裁選を盛り上げていけば、国民の支持と、以前のような強い自民党への復活は可能だ」という認識に立っているように見える。

確かに従来はそのような対応で状況を打開できたが、今回も同じようにいくとは限らない。というのは、岸田政権に対する世論の批判は「裏金問題への対応ができていない」として、未だに強い怒りや不信を抱いているからだ。

その後の新聞各社の世論調査の結果をみれば一目瞭然だ。成立した改正政治資金規正法について「効果がない」が77%(朝日、15・16日調査)、「評価しない」56%(読売21~23日調査)。

一連の政治資金問題については、岸田首相は「指導力を発揮していない」78%(読売調査)となっており、国民の厳しい評価は以前と変わっていない。

このように裏金問題の評価をめぐっては国民と、岸田首相や自民党執行部との間に「大きな認識のズレ」があることが読み取れる。こうした国民の認識、政権に対する不信感などに真正面から向き合い、対応策を打ち出していかない限り、支持率の回復は極めて困難だろう。

総裁選、衆院選ワンセットの政治決戦

ここまで岸田政権と自民党の支持者離れ現象をみてきたが、「総裁選で新しい総裁が選出されれば、事態は変わるのではないか」といった指摘が予想されるので、この点についても触れておきたい。

確かに、その可能性はないとはいえない。但し、今回の支持率減少は、一過性の現象とはみえないので、新総裁誕生で直ちに事態改善へとは進まないのではないかというのが私の見方だ。

というのは、支持者離れは一時的ではないからだ。NHK世論調査で見ると岸田内閣の支持率を不支持率が上回る「逆転現象」は去年7月以降、12か月続いている。自民党の支持率も30%ラインを割り込むのは今年3月以降、4か月連続になる。

また、安倍政権当時も内閣支持率が低下したこともあったが、2,3か月程度で早期に回復し、復元力の強い政権だった。その後の菅政権、岸田政権ともに支持率低迷が続き、回復力の弱い政権と言えそうだ。

さらに、先に触れたように支持率減少の原因に踏み込んだ対応策を打ち出していないので、状況は改善されないままだ。このため、総裁選で仮に「政権・政党の表紙」を変えたとしても、支持率回復に結びつかない公算が大きいという見方をしている。

さて、今度の自民党総裁選は、新総裁が選ばれると時間を置かずに衆院解散・総選挙が行われる可能性が大きい。総裁選と衆院選とが、事実上、ワンセットの政治決戦ということになる。

そうすると衆院選で勝てなかった場合は、その責任を問われ短命政権として終わる可能性もある。こうした事態を避けるためにも「支持基盤の地殻変動」に真正面から向き合い的確に対応できるかどうかが大きなカギを握っている。

具体的には、国民が選挙の争点の1つに想定するとみられる「政治とカネの問題」に対応策を打ち出せたか。そのうえで、何を最重点課題として打ち出していくのか、さらには新総裁の能力や力量などが問われることになる。

一方、国民としては、同じ9月に行われる野党第1党・立憲民主党の代表選挙も注目していく必要がある。世論調査では、次の選挙後の政権として、自公政権の継続と、野党中心の政権交代を望む意見とが接近しつつある。

政治に緊張感を持たせ、よりよい政策を打ち出していくためにも、しっかりした野党が必要だ。内外ともに激しい動きが予想される中で、与野党が競い合う政治の実現をめざしてもらいたい。私たち国民も、どちらの主張を支持するか、的確な評価と判断を次の選挙で示していきたい。(了)

 

 

自民総裁選”首相進退、戦いの構図が焦点”

長丁場の通常国会閉会に合わせたかのように、秋の自民党総裁選挙への動きがあわただしくなってきた。

岸田首相が、会期末の記者会見で再選への意欲をにじませれば、直後に菅前総理が、事実上の退陣論に言及するなど総裁選に向けた思惑が激しくぶつかり始めた。

今度の自民党総裁選は、裏金問題で派閥の解散が決まった後の最初の総裁選になり、どのような構図になるのか、まだはっきりしない。岸田首相の進退をはじめ、総裁選はどこが焦点になるのか探ってみる。

広がる首相交代論、政権浮揚がカギ

国会が事実上の閉会となった21日夜の記者会見で、岸田首相は「政治家の責任強化などを含む政治資金規正法改正を実現することができた」と胸を張った。

そして物価高対策として「8月から3か月電気・ガス料金の補助を行う」とともに秋に第2弾として「年金生活世帯などを対象に、追加の給付金の支援を検討する」ことを表明し、秋の自民党総裁選とその後の政権運営に強い意欲をにじませた。

この首相会見から2日後の23日夜、菅前総理がネット番組に出演し、裏金問題を受けた党の状況について「岸田首相自身が責任をとっておらず、不信感を持つ国民は多い」とのべ、この間の岸田首相の対応を批判した。

そのうえで、自民党総裁選について「自民党が変わったという雰囲気作りが大事だ。国民に刷新感を持ってもらえるかが大きな節目になる」とのべ、事実上、岸田首相の退陣論に言及した。

裏金問題の対応をめぐっては、自民党の若手議員などから「岸田首相は公明党に譲りすぎだ」といった不満や反発の声が出ていた、今回は、狙いすましたようなタイミングで、総理経験者が首相の責任に言及した影響は大きく、党内に波紋が広がっている。

それでは、これから総裁選はどのように展開するか、現在の立ち位置を確認しておきたい。報道各社の世論調査によると岸田内閣の支持率は20%台前半から10%台後半まで続落。自民党支持率も20%台半ばから10%台後半まで下落し、いずれも2012年の自民党政権復帰以降、最低の水準に落ち込んでいる。

こうした原因は裏金問題への対応が「不十分」で、岸田首相が「指導力を発揮できていない」と受け止められているためだ。

自民党長老に現状の評価を聞くと「国会終了とともに総裁選への号砲が鳴ったということだろう。但し『岸田降ろし』が直ちに起きる可能性は低い。ジワジワと包囲網が狭まるのではないか。岸田首相の再選への道は険しい」と指摘する。

自民党内では岸田首相交代論が、次第に広がりつつあるようにみえる。これに対して、岸田首相が政権浮揚策を打ち出し包囲網を突破できるか、それとも撤退・退陣を余儀なくされることになるのか。ここが、総裁選の第1のポイントだ。

8月上旬に自民党総裁選の選挙管理委員会が設置され、下旬までには選挙日程が固まる見通しだ。この時期に首相の進退問題が大きなヤマ場にさしかかるのではないかとみている。

麻生・菅両氏、ポスト岸田の選択肢は

次に今度の総裁選は、裏金問題を受けて派閥が解散し、派閥なき総裁選ということになる。具体的な選挙の構図はまだ、わからないが、それでも党内の実力者・キーパーソンの影響力は残ることになるだろう。

その1人が、岸田首相が頼りにしている麻生副総裁だ。ただ、岸田首相と麻生氏との関係は「政治資金パーテイーの扱いをめぐって麻生氏の説得を振り切る形で、岸田首相が公明党の要求を受け入れたことから、深い溝が生じている」とされる。

岸田首相は18日になってようやく麻生氏との会食にこぎつけ「有意義な会談だった」と関係修復を強調している。

ところが、麻生氏側は「この間の岸田首相の派閥解散、関係議員の処分の決め方、公明党への譲歩などに対する不満が消えておらず、別の選択肢に傾いている」(自民党関係者)とされる。この選択肢ははっきりしないが、兼ねてから上川陽子外相を想定しているのではないかとの見方は消えていない。

もう1人のキーパーソンが、先に触れた菅前総理だ。菅氏は総理・総裁の座を岸田首相に追われたこともあり、岸田首相とは距離を置いてきた。菅氏もポスト岸田の具体名を挙げていないが、小泉進次郎元環境相、河野太郎デジタル担当相、加藤勝信・元官房長官、それに石破茂元幹事長ら「幅広い選択肢」を持っているのが強みだ。

自民党関係者によると「麻生、菅両氏ともに『岸田首相で難局乗り切りは困難』」との見方では共通している」とされる。そして、それぞれ新たな選択肢を模索しているという。その際、菅氏が、ポスト岸田の世論調査で最も人気の高い石破元幹事長を推すことになるのかどうかが大きなポイントになる。

というのは、麻生氏はポスト岸田候補として、石破氏については拒否感が強い。菅氏が石破氏を推す場合は、麻生、菅両氏が事実上、対決する形になる。両氏が最終的に誰を擁立することになるのか、それによって総裁選の構図が固まる可能性が大きいとみられる。ここが2つ目の焦点だ。

新たな候補者、問われる政治とカネ

今度の総裁選では、新たな候補者や勢力がどこまで台頭し挑戦することになるのかも注目点だ。自民党の中堅や若手議員は、裏金事件の批判を浴びて、次の衆院選挙のゆくえに強い危機感を抱いている。

このため、「自民党が政権政党として生まれ変わった姿を見せる必要がある」として、中堅議員から新たな候補者を擁立しようという動きが続いている。

具体的には、斎藤健・経産相(当選5回)、小林鷹之・元経済安保担当相(当選4回)、古川禎久元法相(当選7回)らの名前が挙がっている。

このほか、上川陽子外相、高市早苗経済安保担当相、野田聖子元少子化担当相ら女性議員の名前も取り沙汰されている。派閥解散に伴い、これまでにない人数の候補者が名乗りを上げるのではないかとの見方もある。

また、自民党内では、岸田内閣、自民党の支持率ともに低迷する苦境に追い込まれていることから、総裁選で「新しい顔」を選んだ後、直ちに衆院を解散し、国民の支持を集めて危機を乗り切ろうという考え方が強い。

但し、国民は世論調査にみられるように「自民党は、裏金問題を本当に反省しているのか疑わしい」と疑念や不信の念は変わっていないのではないか。政治とカネの問題について、新たな踏み込んだ対応策を打ち出さないと、選挙の顔を変えた程度では状況は好転しないと思われる。

こうした新たな候補者や勢力の台頭、あるいは、政策や政治課題で国民の信頼を取り戻せるような取り組みができるのか。これが3つ目の大きなポイントになるのではないかとみている。

立民、政権構想と野党連携は進むか

一方、野党側の対応はどうなるか、秋以降の政局に影響を及ぼす。特に野党第1党の立憲民主党の態勢と戦略が問われる。

具体的には、自民・公明の与党に対して、どのような対立軸を設定して臨むのか、政権構想がカギを握る。焦点の裏金問題については、野党として共同の改革案をまとめ上げて、早期に実現を迫ることができるのかどうか。

また、暮らしや経済、社会保障などの分野で、現実的で説得力のある政策をとりまとめ、秋の臨時国会での論戦や次の衆院選での争点に持ち込めるかが試される。

さらに立憲民主党は、9月に泉代表の任期が満了になる。泉代表が続投するのか、野田佳彦元首相や、枝野幸男元官房長官らを推す声もあり、「党の顔」をどうするかという難題も抱えている。

立憲民主党としては、代表選びで足を引っ張り合うような余裕はなく、政権構想づくりや党の結束力を強めることができるか。そのうえで、次の衆院選に向けて、野党の連携を強めることできるかどうか課題は多い。

最近の世論調査で、次の衆院選挙後に望む政権については「自民党中心の政権の継続」と、「野党中心の政権に交代」が接近してきている。それだけに自民党総裁選と、立憲民主党の代表選がどのような展開になり、国民の支持を得るのはどちらになるのか、今後の動きを注視していきたい。(了)

 

裏金問題の法改正”やり直しが必要では”

自民党派閥の裏金事件を受けて、自民党が提出した改正政治資金規正法が19日の参議院本会議で、自民、公明両党の賛成多数で可決、成立した。衆議院では賛成した日本維新の会をはじめ野党側はそろって反対した。

1月の通常国会冒頭から延々、議論を続けて法改正にこぎ着けたことは評価したいところだが、成立した改正内容をみると「期待外れ」と言わざるを得ない。報道各社の世論調査でも国民の多数は、今回の法改正を評価していない。

したがって、結論を先に言えば「やり直しが必要ではないか」と考える。なぜ、こうした結論になるのか、以下、その理由を説明したい。そのうえで、国民として、これからどうすべきか考えてみたい。

 法改正も透明性低く 残る抜け穴

まず、成立した政治資金規正法の内容については既に何度も取り上げたので、詳細は繰り返さないが、改正の対象が極めて狭い範囲に限られているのが大きな特徴だ。裏金問題にメスを入れることを願ってきた国民の認識と大きなズレがある。

次に政治資金の問題は「政治資金の透明性」をどこまで徹底するかが問われていた。焦点になった政党から幹部議員に渡される「政策活動費」については、支出の項目や年月が新たに報告されることになったが、領収書の公開は10年後だ。これでは「透明性」の確保につながらないと疑念を持たれるのは当然だ。

また、今回の法改正では、自民党と公明党、日本維新の会との修正協議を経て、「検討」項目が増えた。一見、改善が進んだように見えるが、例えば政治資金をチェックする第三者機関はどんな権限を持つのかはっきりしない。具体的な制度設計ができていないので、評価しようがないのが実態だ。

このように改正内容は部分的なので、従来の抜け穴、ザル法と言われる状態が続くことになる。

さらに、30年余り前のリクルート事件当時から問題になっていた企業・団体献金の廃止をはじめ、「政党活動費」の廃止、政治資金収支報告書のデジタル化の取り組みなど根本問題についても掘り下げた議論にはならなかった。

 裏金復活に議員関与、裁判証言で浮上

この国会では、もう一つ「裏金事件の実態解明」が大きな課題になったが、全く進まなかった。その大きな原因は、自民党の実態調査が甘く着手が遅れたことと、安倍派幹部が「知らぬ、存ぜず」に終始したことにある。

この裏金事件で、政治資金規正法違反に問われた安倍派の会計責任者、松本淳一郎被告の公判が18日、東京地裁で開かれた。この中で、松本被告は、一度は中止の方針が示されたキックバックが再開された経緯について、生々しい証言を行った。

「2022年7月末、ある幹部から再開を求められ、その後の幹部の協議で再開が決定した」。その協議に出席したのは「下村さん、西村さん、世耕さん、塩谷さんが集まって話し合いが持たれた。方向性として、還付はしようということになった」と証言。ただ「ある幹部」の具体名は明らかにしなかった。

この派閥幹部4人は政治倫理審査会で弁明したが、塩谷座長を除く幹部3人は「派閥の幹部の協議では、結論は出なかった」「自ら関わっていない」という趣旨の説明をしており、松本証言とは大きく食い違う内容だった。

この国会では、こうした幹部議員の弁明に対して、事実関係を解明するための証人喚問を行わなかった。また、派閥の会長経験者で裏金事件の経緯に詳しいとみられる森元首相を参考人として招致することも見送られた。

松本証言が明らかになったことから、国会として実態解明に向けて、安倍派幹部の証人喚問などを改めて検討する必要があると考える。

自民党・岸田政権、乏しい改革姿勢

それでは、裏金事件の実態解明が進まず、法改正も評価が得られない原因はどこにあったのか。通常国会も閉会するので、整理しておきたい。

今回の事件は自民党の派閥の裏金づくりにあったので、第一義的には各派閥に責任がある。同時に総裁として党全体を統括する立場にある岸田首相と、党執行部も大きな責任を負っている。

その岸田首相と党執行部の対応は事件発覚以降、不記載の実態把握の調査をはじめ、関係議員の聴き取り、国会での弁明、党の処分などいずれも後手の連続で、国民の失望と不信を招いた。

また、再発防止に向けた政治資金制度のあり方についても、公明党や野党各党は1月から2月にかけて、それぞれの党の独自案をまとめて公表した。

これに対し、自民党だけが独自案のとりまとめが遅れ、最終的に自民案を国会に提出したのは5月中旬と大幅にずれ込んだ。こうした自民党の後ろ向きの姿勢が国会での与野党の議論が深まらず、国民の理解も得られなかった大きな原因だ。

自民党の対応が後手に回ったのは、岸田首相らが党内の意見をとりまとめ、対応策を打ち出していく取り組みが弱かったことが挙げられる。党の運営や国会対応で場当たりの対応が目立ち、指導力が発揮できなかった。

その背景としては「岸田首相と茂木幹事長との確執で、政権が一体となって取り組む体制になっていなかった」と指摘する党関係者は多い。

さらにリクルート事件の際には、自民党の多数の議員が参加して党改革の議論を深め、党全体がめざす進路を「政治改革大綱」という文書として打ち出し、国民の理解を得ることができた。

それに比較して「今回は上は首相・党役員から、下は中堅・若手議員まで危機感と熱意に乏しく、大胆な改革に踏み出せなかった」と党幹部の1人は今後の影響を懸念する。

こうした一方で、野党に対して国民の期待が高まっているわけではない。今回、抜本的な政治改革まで議論できなかったのは、野党の力不足も大きい。今後どのような目標を掲げ、実現をめざしていくのか、野党の戦略と力量も厳しく問われる。

政治の流れを変えるか、世論の風圧

さて、これからの政治はどのように展開するのだろうか。政治資金制度の改革は成果を上げているとは言えないが、一方で、政治に変化の兆しがみられる。具体的には、岸田政権や自民党に対する世論の評価だ。

NHKの6月の世論調査(7日~9日実施)では、岸田内閣の支持率は21%、不支持率は60%。自民党の政党支持率は25.5%まで下落した。内閣支持率、自民党支持率ともに2021年の岸田内閣発足以降、最低の水準だ。自民党政権下の内閣としては、2009年麻生政権末期に近い状況だ。裏金問題の逆風が影響しているものとみられる。

朝日新聞の6月世論調査(15、16日実施)によると、岸田内閣の支持率は22%、不支持率は64%。自民党の支持率は19%で、2009年麻生政権末期の20%を下回った。裏金問題への岸田首相の対応は「評価しない」が83%、自民党の改正案が成立した場合、再発防止は「効果がない」とする回答が77%に達した。

また、次の衆院選挙の投票先(比例代表)としては、自民党が24%に対し、立民19%と接近している。その他の各党は、維新10%、公明6%、共産5%、れいわ5%、国民4%などと続いている。

このように世論の評価が、風圧となって政権与党の支持基盤を変えつつあることが読み取れる。また、国民の多数が、今回の法改正をほとんど評価していないことからも「政治改革のやり直し」が必要だと考える。

その際、国民の側は「政治とカネの問題」を忘れずにしっかり記憶し、次の選挙の争点として位置づけ、候補者や政党に対応を迫っていくことが必要だ。こうした世論の力が、今後の政治を変えていくことになるのではないかとみている。

今の国会は、21日に内閣不信任決議案の採決が行われた後、23日に閉会する見通しだ。閉会後は、秋の自民党総裁選に向けて激しい動きが予想される。但し、新総裁が選ばれても「政治とカネ」の問題に本気で向き合わないと、次の選挙で国民から厳しいしっぺ返しを受けることが予想される。(了)

“迷走と 低い改革度 ”規正法案 衆院通過

自民党派閥の裏金事件を受けて、自民党が提出した政治資金規正法の改正案が6日、衆議院本会議で自民、公明、維新3党などの賛成多数で可決され、参議院へ送られた。これによって、この法案の今国会での成立が確実な情勢になった。

この法案の内容を見ると、政治資金の透明度や、抜け穴などと批判を浴びた現行制度がどこまで改善されるのか、はっきりしない。また、法案をめぐる自民党と岸田政権の対応には迷走が目立ち、政治改革をやり遂げる覚悟や意欲があるのか疑問に感じる場面も多かった。

今回の法案の衆議院通過という節目に、法案の中身の評価と、岸田政権それに与野党の対応や今後の注目点などを探ってみたい。

自民法案 透明性など低い改革度

さっそく、衆議院で可決された法案の内容からみていきたいが、その前にこの法案がどのような経緯を経て提出されたのか説明しておきたい。

この法案は自民党が単独で提出した法案について、公明党や日本維新の会との協議や党首会談を経て、法案の一部を修正し、3党の賛成で可決したものだ。

主な内容は◇議員の政治責任を強化する「連座制」導入のため、収支報告書の作成を議員に義務づけること。◇パーテイー券購入者を公開する基準について、現行の「20万円を超える」から「5万円を超える」に引き下げること。◇党から支給される「政策活動費」については、項目ごとの使い途や支出した年月を開示し、10年後に領収書などを公開するなどとなっている。

国民にとって関心があるのは、こうした対策で、政治資金の透明性が徹底され、裏金や政治資金スキャンダルが止められるかどうかにある。結論から先に言えば、改善点は多少あるが、再発防止に実効性があるかどうかは不透明だ。

というのは、特別委員会の質疑でも指摘されたように「政策活動費」の領収書などの開示は10年後になる。その間、領収書の保存をどうするのか。政治とカネに関する法律の時効は5年で、10年後となれば罪に問えない公算が大きい。監視する第三者機関もいつ設置されるのか、これから検討するとしている。

自民党の修正案要綱には、具体的な改善内容が幾つも列挙されているが、いずれも「検討」項目だ。政治資金の基本である透明性が徹底されていない。

また、30年余り前のリクルート事件の時から宿題になっている企業・団体献金の扱いや、「政策活動費」の廃止といった点も取り上げられておらず、「改革の志向や度合いも低い」のが大きな問題点だ。

自民党が平成元年にとりまとめた「政治改革大綱」には「日本の政治は大きな岐路に立たされている。国民の政治に対する不信感は頂点に達し、深刻な事態を迎えている」「今こそ、自らの出血と犠牲を覚悟して、国民に政治家の良心と責任感を示すときである」と記されている。この指摘は今も通用する。

今回の法案審議でも提案者からは、こうした現状認識や改革の決意は全くと言っていいほど伝わって来なかった。国民の間では「期待外れ」「失望と落胆」などの受け止めが広がったのではないか。

政権迷走、場当たり対応が根本原因

次に、今回の法案作りと国会での各党の対応などについて、みていきたい。自民党は、当初から連立政権を組む公明党との間で「与党案」をまとめ、成立させることをめざしていた。

このため、大型連休明けの5月7日から両党の実務者レベルの協議を本格化させ、調整を進めたが、双方の溝は埋まらなかった。自民党は与党案を断念し、5月17日に単独で法案を提出した。連立政権を組む与党が、後半国会の最重要法案で合意できなかったのは極めて異例の事態だ。

その後、特別委員会の採決を控えた5月下旬になって、自民党は公明党の賛同を得るため、再び修正案を提示して関係修復を図った。公明党もこの修正案に賛成するものとみられていた。

ところが、公明支持者などの反発は強く、岸田首相は山口代表との党首会談に持ち込み、パーテイー券購入者の公開基準は「公明案を丸飲み」する形でようやく決着をつけた。

一方、日本維新の会と間では、岸田首相と馬場代表との党首会談で、政策活動費は「10年後に領収書などを公開する」との維新案を修正案に盛り込むことで合意した。

ところが、公開の内容をめぐって双方の食い違いが表面化し、与野党が決定していた特別委員会の審議と法案の採決日程が、土壇場で取り止めとなる前代未聞の事態が起きた。その後、自民党側が維新の要求を認め、再修正の合意にこぎ着けた。

このように自民党と岸田政権の対応は、当初から二転三転、法案修正の提示が3度も繰り返されるなどの迷走が続いた。こうした事態を起こす原因はどこにあったのだろうか。

自民党は、再発防止策の検討に当たっては、不記載の問題に絞り込んだため、口座を通じた資金管理や、議員の政治団体に対する監査の強化といった細々とした対策作りに重点が置かれた。

その結果、政治資金制度や政治改革全体に及ぶ党内議論は乏しく、党の幹部も「改革の熱が乏しい」と認めざるを得なかった。党の基本方針も示されなかった。

他の党は、いずれも1月から2月の段階で、政治改革方針をとりまとめ公表したが、自民党だけが大幅に出遅れた。報道各社の世論調査でも、岸田政権の取り組みを「評価しない」という声が多数を占めた。

さらに、自民党は独自案を示さず公明党との協議を続けたため、法案化や修正案づくりの面でも対応が後手に回った。

こうした結果、自民党は十分な準備が整わないまま、岸田首相が党首会談などでその都度、あわただしく方針を決める「場当たり対応」を重ねた。これが、一連の迷走が続いている根本的な原因だとみている。

岸田首相と自民 問われる統治能力

こうした岸田首相の迷走は、今回の政治資金規正法改正案の対応だけに止まらない。去年11月中旬に裏金事件が表面化して以降、年末の安倍派4閣僚の更迭をはじめ、年明けの派閥解散宣言、政倫審への自らの出席など“サプライズの対応”が続いている。

もちろん、岸田首相の対応に中には、動かぬ自民党を動かすにはトップリーダー自らが動かざるを得ない事情もあった。

一方で、党全体で議論して問題意識を共有し、そのうえで、政権が問題解決に向けた方針を打ち出し、様々な意見を取り入れながら、実行していく組織的な政権運営が必要だ。

ところが、岸田政権にはこうした組織的政権運営がほとんどみられず、首相が党の限られた政権幹部の協議を経て、大きな方針が突如と決まる事態が続いている。

今回もパーテイー購入者の公開基準の引き下げをめぐって、麻生副総裁と茂木幹事長は引き下げに反対、岸田首相が押し切ったとされる。党内は「パーテイー券購入者の公開基準は譲歩しすぎ」との不満が渦巻いているとされる。

岸田首相、自民党執行部ともに問われているのは、裏金事件を起こした当事者として、明確な方針を打ち出し、国民に説明を尽くす対応ができているか「統治能力」が問われているのだと思う。そして、世論の支持を得られているのかどうかが問題だ。

自民党は、衆院3補選で全敗したのをはじめ、静岡県知事選でも推薦候補が敗退、都内の区長選や議員補選でも負けが続いている。その要因としては、裏金問題の逆風が依然として大きく影響しており、岸田政権が有効に対応できていないことの証明でもある。

政治資金規正法の改正問題は、7日から参議院で審議が始まり、野党側は法案の再修正を求め、与野党の攻防が続く見通しだ。野党側は、維新が自民党の修正案賛成に回り、野党が分断される形になった。立民、維新どちらが野党内の主導権を確保し、党勢を増していくのかをみていく必要がある。

一方、岸田政権と自民党については、まずは、世論が自民党の修正案をどのように評価をするかが、大きなカギになる。仮にこれまでの自民単独案と同じように評価が低い場合は、次の段階として、自民党の統治能力や政権担当能力の評価にも影響を及ぼすことになりそうだ。

以上、みてきたように世論が今回の法改正をどのように評価するのか、極めて興味深い。9月末に自民党総裁としての任期満了を迎える岸田首相の進退問題や、次の衆院選挙のゆくえを占ううえでも、大きな判断材料として世論の動向を注目している。(了)

政治とカネ”与党案に厳しい評価”

自民党派閥の裏金事件を受けて、自民・公明両党が先にまとめた政治資金規正法改正の「与党案」について、国民の8割近くが「評価しない」と厳しい評価をしていることが、NHK世論調査で明らかになった。

一方、岸田内閣の支持率は24%と低迷しているほか、自民党の支持率も30%を割り込んで、2012年の政権復帰以降、最低の水準まで落ち込んでいる。

いずれも、自民党の裏金問題への反省のなさや、改革に後ろ向きな姿勢が影響しているものとみられ、岸田政権は終盤国会で苦しい対応を迫られることになりそうだ。

 与党案と 首相の指導力に厳しい評価

終盤国会の焦点になっている政治資金規正法の改正をめぐり、自民・公明両党は9日、両党の幹事長が会談し「与党案」の概要をまとめた。

与党案では、政党が幹部議員に渡す「政策活動費」は、「議員からの報告に基づき、党が金額などを収支報告書に盛り込む」としたが、具体的な使途の公開の方法などは明らかになっていない。また、パーテイー券の購入者などを公開する基準についても結論を先送りにしている。

NHKの世論調査では、この与党案の評価ついて「評価する」は15%に止まり、「評価しない」が77%、8割近くに達した。

また、政治とカネの問題への対応で、岸田首相が指導力を発揮しているか尋ねたところ「発揮している」は19%で、「発揮していない」が74%に上った。

これを支持政党別にみると、自民党支持層でも「発揮していない」と答えた人が58%に達した。また、野党支持層では「発揮していない」がおよそ90%、無党派層ではおよそ80%を占めるなど首相の指導力に厳しい評価が示された。

内閣支持率低迷、自民支持率も落ち込み

岸田内閣の支持率は、4月調査より1ポイント上がって24%だったのに対し、不支持率は3ポイント下がって55%だった。

先月に比べるとほぼ横ばいだが、政権運営の危険ラインとされる30%を割り込んで、20%台が続くのは7か月連続。支持率を不支持率が逆転するのは、去年7月以降、11か月連続となった。

一方、自民党の支持率は、4月より1ポイント下がって27.5%だった。20%台に下がるのは今年3月以降、3か月連続だ。今月の27.5%は、2012年に自民党が政権復帰して以降、最も低い水準にまで落ち込んだことになる。

岸田内閣の支持率が低迷する理由としては、今月の調査で「景気がよくなっている実感がない」という人が80%に上ったほか、岸田首相が今年中に「物価上昇を上回る所得を必ず実現する」と表明していることについて、「期待しない」が62%を占めるなど政府の物価高騰対策や経済政策に対する不満もあるものとみられる。

こうした一方で、このところ内閣支持率だけでなく、自民党支持率も平行して下落しているのが特徴だ。

こうした背景には、去年11月に裏金事件が表面化して以降、実態解明が一向に進まないこと。また、岸田首相や自民党が再発防止と称して、政治資金の部分的な手直し案しか示さないことに対する国民のいらだちや、厳しい評価も影響しているとみられる。

 野党攻勢、自・公調整のゆくえは

それでは、政治とカネの問題は、これからどのように展開するだろうか。長丁場の通常国会も来月の会期末まで1か月余りを残すだけとなった。

野党各党は、裏金問題の実態解明に加えて、政治資金規正法の抜本的な改正に向けてそれぞれの党の独自案をとりまとめている。

このうち、野党第1党の立憲民主党と国民民主党は、法案の共同提出に向けて協議を続けており、衆院政治改革特別委員会を舞台に野党案の実現を迫る構えだ。

これに対して与党側は、岸田首相が13日の政府与党連絡会議で「与党間でしっかり協力し、今国会中の法改正の実現に全力を尽くしてもらいたい」とのべ、公明党との間で条文化の作業を進め、実現を図りたい考えを示した。

公明党の山口代表は「与党案をまとめたが、隔たりのあるところがあり、法案にするには困難な部分がある。与党として法案に必要な作業を行うべきだが、野党の意見も聞きながら、国会として合意を形成することが信頼回復につながる」とのべ、野党も含めた与野党協議を重視する姿勢をにじませた。

こうした背景には、与党案をめぐっては自公両党の間に考え方の隔たりがあることに加えて、公明党としては、裏金問題を抱える自民党と距離を置きたいねらいがあるものとみられる。

このように焦点の政治資金規正法をめぐっては、自民、公明両党の足並みがそろっていないことに加えて、自民党と野党各党都の間では、法改正の内容や範囲をめぐって大きな違いを抱えている。

岸田首相は今国会での法改正の実現を明言しており、14日に山口代表と会談し、自民党として法案の作成を進め、公明党側に示したいという考えを伝えた。

仮に法改正ができない場合は、岸田首相は大きな政治責任を負うことになる。このため、どのような道筋で実現を図るのか。野党の協力を得て与野党合意をめざすのか、与党だけで成立を図るのか、あるいは今国会での成立を見送るのか決断を迫られることになる。

一方、野党側は、法改正で要求が認められない場合、内閣不信任決議案を提出する公算が大きい。その場合、岸田首相は、粛々と否決するのか、それとも政界の一部にあるような衆院解散・総選挙に打って出るのか、緊迫した会期末を迎える可能性もある。

このため、まずは、与党の自民党と公明党との間で調整が進むのか、そしてどのような道筋で法改正の実現をめざすことになるのか、与党内の調整のゆくえが当面、最大の焦点になる。(了)

 

終盤国会2つの焦点、政治資金法改正と首相の求心力

大型連休が終わり、国会は6月23日の会期末まで50日を切って終盤戦に入った。終盤国会は、自民党の派閥の裏金問題を受けて、政治資金規正法の改正をめぐり、与野党の攻防が一段と激しくなる見通しだ。

また、岸田首相は会期末に向けてどのような姿勢で、終盤国会に臨むのか。野党側が内閣不信任決議案を提出した場合、衆議院の解散に打って出る可能性はないのかどうか、与野党や自民党内で腹の探り合いが続いている。

先の衆議院3補欠選挙で自民党が全敗したのを受けて、自民党内では岸田首相の政権運営を危ぶむ声も聞かれる中で、終盤国会の焦点を探ってみる。

政治資金の法改正、与野党協議は難航か

大型連休を利用してフランスと、南米のブラジル、パラグアイを歴訪した岸田首相は、連休最終日の6日午後帰国したあと、夕方、党の政治刷新本部のメンバーと会談し、自民党の政治資金規正法の改正案づくりをめぐって意見を交わした。

この中で、岸田首相は、政治資金規正法の改正に向けて、公明党と早期に合意できるよう協議を加速するよう指示した。

自民、公明両党の間では、議員本人に収支報告書の「確認書」の作成を義務づけることなどで合意しており、それ以外の論点についても協議を急ぐ方針を確認したものだ。自民、公明両党は、連休明けの7日から協議を再開する見通しだ。

政治資金のあり方をめぐっては、衆議院の政治改革特別委員会が設置され、その委員会が先月26日初めて開催され、各党がそれぞれの党の見解を表明した。

与党の公明党、それに野党各党は既に改革案の内容を決定しているが、自民党の改革案は、議員の政治責任を強化するため、収支報告書の「確認書」の作成を義務づけるなど部分的な内容に止まっている。

このため、自民党が再発防止の具体策とともに、それ以外の論点を含め、どこまで踏み込んだ内容を打ち出し、公明党との間で具体案をとりまとめることができるかが焦点になっている。

具体的には、パーテイー券購入者の公表基準の引き下げや、政党から議員に渡しきりになっている「政策活動費」の扱い、政治資金パーテイーの開催や企業団体献金の是非、さらには懸案の旧文通費の使途公開など数多くの項目がある。

岸田首相は、今の国会で政治資金規正法の改正を実現させると明言しているが、自民党内には、派閥の政治資金パーテイー収入の不記載問題に絞った対応に止めた方がよいという慎重論も根強い。このため、岸田首相がどこまで指導力を発揮して、具体案を打ち出せるかが問われている。

先の衆院島根1区補欠選挙の出口調査をみても投票に当たって「裏金問題を考慮した」と答えた人は8割近くに達し、そのうち7割の人が野党候補に投票した。自民党としても相当、踏み込んだ改革案を打ち出さないと国民の納得は得られないのではないか。

さらに、今後の本格化する与野党協議では、政治資金制度の改正内容をめぐって、双方の主張に相当の開きがある。また、野党側は、裏金問題の実態解明が不十分だとして、関係議員の証人喚問や参考人招致を強く求めることが予想され、与野党の協議が難航するのは必至の情勢だ。

首相の求心力、会期末攻防や政局を左右

終盤国会のもう1つの焦点が、会期末の重要法案や政権運営の評価をめぐる与野党の攻防だ。野党第1党の立憲民主党は、自民党の派閥の裏金問題の政治責任を追及するとともに、衆議院の解散・総選挙に追い込む構えを強めている。

これに対して、岸田首相がどのような方針で、国会の乗り切りを図るのか、与野党の神経戦が続くことになる。

岸田首相は4日、訪問先のブラジルでの記者会見で「内外の諸課題に全力で取り組むことに専念する。それ以外のことは現在考えていない」とのべ、解散・総選挙は考えず、さまざまな政治課題に取り組んでいく考えを強調した。

岸田首相としては、今の国会で政治資金規正法の改正を実現するとともに「子ども子育て支援法」などの重要法案の成立を図りたい考えだ。また、定額減税の実施や物価高騰対策などを積み重ねながら、秋の自民党総裁選での再選と衆院の解散時期を模索しているものとみられる。

首相に近い自民党幹部は「岸田首相は苦境でも打たれ強く、予測不能な行動をする。野党が内閣不信任決議案を提出すれば、衆院解散・総選挙に踏み切る理由ができたことになる。一方、内閣や党の人事を行う選択肢もある」として、6月の会期末解散や国会終了後の人事の可能性も示しながら、政権運営の主導権を維持していく考えを示している。

自民党の長老に聞くと「6月解散などあるわけがない。今の内閣支持率や補選の結果を考えると、自民党にとって壊滅的な結果になる。岸田降ろしは起きないが、解散もなく、秋の総裁選挙を粛々とやろうという方向で収束するのではないか」と予測する。「但し、総裁選に誰が立候補するのか、岸田首相を含め顔ぶれは、今の時点では予想できない」という。

このようにみてくると、会期末に向けた政治の展開は、岸田首相の求心力がどの程度、維持されているのかが大きく左右するのではないか。岸田首相と茂木幹事長の確執が取り沙汰される中で、政治資金規正法改正の自民党案や、公明党との与党案をどのようにとりまとめるのかが、岸田首相の手腕がポイントになる。

一方、野党第1党の立憲民主党は先の衆院補選で3勝したことから、政治資金規正法の改正や裏金問題の実態解明をめぐって強い姿勢で臨むことが予想される。これに対して、岸田首相が最終的にどのような形で決着させるか、力量が問われることになる。

このほか、川勝平太前知事の辞職に伴い5月26日に投開票が行われる静岡県知事選挙のゆくえも注目される。選挙は、元副知事を自民党県連が推薦、元浜松市長を立憲民主党と国民民主党が推薦、それに共産党の県委員長が立候補する構図になっている。

静岡県では、自民党安倍派の座長を務めた塩谷・元文科相が派閥の裏金問題で、離党勧告処分を受けて離党したほか、先に宮沢博行・元防衛副大臣が女性問題で議員辞職に追い込まれた。

こうした裏金問題などが与野党対決の知事選挙にどこまで影響するか。また、自民党が先の3補選で全敗したのに続いて、地方の主要選挙で敗北となると「菅政権の末期と同じように、岸田政権も打撃を受けるのではないか」と与野党の関心が集まっている。

今年1月の通常国会召集から大きな焦点になっていた裏金問題は、終盤国会でどのような形で決着がつくのか、岸田政権と与野党双方に大きな影響を及ぼすことになりそうだ。(了)

 

 

 

衆院補選 自民3戦全敗”政局流動化へ”

衆議院の3つの補欠選挙は28日に投開票が行われ、いずれも立憲民主党の候補者が勝利し、自民党は不戦敗を含めて3戦全敗となった。

唯一、与野党対決となった島根1区は自民党が長年、議席を維持してきた牙城だったが、立憲民主党の元議員の亀井亜紀子氏が自民党新人を破って議席を獲得した。自民党の裏金問題に対する有権者の批判や怒りが、自民党の選挙地盤を覆した形だ。

岸田政権の下で、衆参の補欠選挙は5回目になるが、これまで自民党が負け越すことはなく、全敗したのも今回が初めてだ。

今回、岸田政権へのダメージは大きく、首相の求心力は低下するとの見方が広がっている。今は国会開会中で「岸田降ろし」が直ちに表面化する可能性は低いとみられるが、秋の総裁選挙をにらんだ動きが活発になり、政局は流動化してくる見通しだ。

3つの補欠選挙で有権者はどのような判断を示したのか、NHK出口調査のデータを基に分析してみたい。また、今後の政治はどのような展開になるか、ポイントを考えてみたい。

 ”保守王国”島根で野党勝利の異変

▲今回の3つの補欠選挙のうち、今の政治状況を最も鮮明に映し出したのが島根1区だ。衆議院に小選挙区が導入された1996年以降、島根県は全国で唯一、自民党が議席を独占してきた”保守王国”だが、今回初めて野党が勝利して議席を獲得した。

NHKが投票当日、投票所に足を運んだ有権者を対象に行った出口調査によると投票する際に「政治とカネの問題を考慮した」という人は76%、8割近くに達した。そのうち、70%の人が立憲民主党の亀井亜紀子氏に投票したと答えた。裏金問題が、選挙結果に大きな影響を及ぼしたことがわかる。

投票者を支持政党別にみると、当選した亀井氏は◇立憲民主党支持層の90%台半ばの支持を集めたほか、◇日本維新の会支持層の60%台半ば、◇無党派層の70%台後半から支持を得ていた。

さらに、亀井氏は◇自民党支持層のおよそ30%、◇公明党支持層の40%余りの支持も獲得していた。

これに対して、自民党新人の錦織功政氏は、◇自民支持層の70%、◇公明支持層の40%余りの支持に止まり、◇無党派層の支持は20%余りだった。

このように亀井氏は、野党支持層や無党派層の多数を固めたことに加えて、与党支持層にも支持を広げたことが勝因だ。これまで自民党に投票してきた支持層の一定割合が、裏金問題を契機に野党支持へ投票行動を変えたことが読み取れる。

▲野党や無所属など過去最多の9人が争った東京15区は、立憲民主党新人の酒井菜摘氏が抜け出し、初めて議席を獲得した。自民、公明両党は候補者擁立を見送った。

NHK出口調査では、◇投票者の24%を占める自民支持層は、主な候補者5人に票が分散した。酒井氏は、◇立憲民主党と◇共産支持層の大半を固めたうえで、◇全体の4割を占める無党派層の30%余り、候補者の中で最も多くの支持を獲得したことが勝利につながった。

東京15区では、東京都の小池知事が、無所属新人の乙武洋匡氏を支援したことから、小池知事の影響力に関心が集まった。その乙武氏の得票数は、1万9655票で5位に止まった。

小池知事の都政運営の評価は「評価する」が75%、「評価しない」が30%余りだった。「評価する」と答えた人のうち、20%台後半が酒井氏に投票したと答え、次いで無所属の前参議院議員の須藤氏と維新の金澤氏にそれぞれ10%台後半、乙武氏は10%半ばに止まった。

小池知事をめぐっては、今年1月の東京・八王子市長選挙で自公の推薦候補を応援して当選につなげるなど選挙の強さを発揮したが、今月21日の目黒区長選挙では、支援した候補者が現職に敗れており、今回も選挙関係者からは「学歴詐称疑惑が取り沙汰されて以降、小池氏の選挙への影響力は低下している」との見方が聞かれる。都知事選の告示を6月20日に控え、小池知事の対応に注目が集まっている。

▲長崎3区については、自民、公明両党が候補者擁立を見送ったことから、野党の候補者2人の戦いとなった。立憲民主党の前議員で、社民党が推薦した山田勝彦氏が、維新新人の井上翔一朗氏に大差をつけて、当選を果たした。立民と維新の争いでは、2つの選挙とも立民が制した。

 政権の求心力低下、6月解散は困難か

さて、3つの補選の結果を受けて、これからの政治はどのように展開するか、どこがポイントになるかみていきたい。

まず、岸田政権にとって、3つの補欠選挙で全敗したことは大きな打撃だ。特に島根1区は、2度も現地入りし選挙運動最終日も懸命なテコ入れを行ったが、挽回できず、岸田首相の求心力低下を印象づけた。

また、自民党内から岸田内閣の支持率低迷に加えて、補選の敗北で「次の総選挙の顔として、岸田首相はふさわしいのかどうか」疑問視する声が強まることも予想される。

但し、通常国会は連休明けには終盤戦に入り、重要法案を抱えていることなどから、自民党内で補選の敗北をめぐって「岸田降ろし」が表面化する可能性は低いとの見方が多い。

このため、閣僚経験者の1人は「6月末の会期末や秋の総裁選挙をにらんで、水面下でさまざまな動きが出てくるのではないか」との見方をしている。

一方、岸田首相に近い幹部は「岸田総理は打たれ強いので、自ら身をひいたりすることは考えられない。秋の総裁選に向けて政治課題を1つずつこなしながら、国会会期末に大きな政治決断をすることがあるかもしれない」と6月解散もありうるとの見方を示している。

これに対して、別の党幹部は「今のような支持率で、解散をすれば自民党は壊滅的な打撃を被るだろう」とのべ、6月末の解散・総選挙には反対する意向を漏らしている。

今回の補欠選挙の結果と、選挙の勝敗という面から考えると、自民党内では、6月末の解散論には慎重論が一段と強まることが予想される。

もう1つは、連休明けの通常国会では、野党側は、裏金問題を受けての実態解明と政治資金規正法の抜本的な改正を要求する構えだ。これに対して、自民党が先に公表した改革案は、確認書の義務化といった部分的な内容に止まっている。

このため、岸田首相が自民党内の慎重論を説得しながら、踏み込んだ改正案を打ち出し、野党側との協議を経て実現までこぎ着けられるかどうか、岸田首相の指導力が問われることになる。

以上、みてきたように補欠選挙後の政局は、1つは、政治資金規正法の改正をめぐって、岸田首相と野党側との綱引きがどのような展開になり、国民がどちらを支持するのかが焦点になる。

もう1つは、6月の会期末の時点で、岸田首相が秋の総裁選と衆院解散・総選挙の時期をどう判断するか、自民党内と与野党の駆け引きが激しくなる見通しだ。岸田首相にとっては、会期末までに政権の実績を上げ、国民の支持が広がらないと、秋の総裁選での再選も険しい道になるのでないかとみている。(了)

”島根1区 自民苦戦” 衆院補選情勢

岸田政権の政権運営に大きな影響を及ぼす衆議院の3つの補欠選挙は、後半戦に入った。このうち唯一、与野党対決の構図になっている島根1区は、立憲民主党の候補が先行、自民党の候補は苦戦している。

自民党の派閥の裏金問題などで、選挙戦は大きく様変わりしている。自民党は挽回をめざしているが、選挙情勢は厳しく、不戦敗を含めて3戦全敗となる可能性もある。28日に投開票が迫った選挙情勢を探ってみる。

 島根1区自民苦戦、全敗の危機も

衆議院島根1区の補欠選挙は、細田博之・前衆議院議長の死去に伴うものだ。21日の日曜日には、岸田首相と立憲民主党の泉代表がそれぞれ松江市に入るなど双方が激しい選挙戦を繰り広げている。

朝日、読売、共同の主要メデイアが19日から21日にかけて行った情勢調査によると島根1区は、立憲民主党元議員の亀井亜紀子氏がリードし、自民党新人で公明党が推薦する錦織功政氏が追う展開になっている点で共通している。

亀井氏は、立憲民主支持層の大半をまとめたうえで、無党派層の支持を幅広く獲得しており、自民支持層の一部にも食い込んでいる。

これに対し、錦織氏は自民支持層の7割から8割、公明支持層の7割程度の支持に止まっているほか、無党派層で大きな差をつけられている。

島根は竹下元首相、青木幹雄元官房長官を輩出するなど自民王国として知られる。今の選挙制度が導入された1996年以降、島根1区では自民党の細田博之氏が連続して当選を重ねてきた。

その細田氏は最大派閥・安倍派の会長を務めてきたこともあり、今回は裏金問題が選挙戦を直撃する形になり、自民党は守りの選挙に追い込まれている。

自民党の選挙関係者に聞くと「挽回をめざして最後までギリギリの戦いを続けるが、厳しい情勢にあるのは事実だ」と劣勢を認めている。自民党がここで1勝できるか、敗北すると不戦敗を含めて3戦全敗という危機的状況に立たされている。

報道各社の情勢調査では、有権者の3割から4割程度は、投票する候補者を決めていない。また、投票率が大幅に下がったりすると選挙情勢が変わる可能性があるので、特に投票率を注意してみていく必要がある。

 長崎3区は野党対決、立民優位

衆院長崎3区の補欠選挙は、自民党安倍派の議員の辞職に伴って行われる。自民党が候補者擁立を見送り、立憲民主党前議員の山田勝彦氏と、日本維新の会新人の井上翔一郎氏の野党対決の構図になっている。

メデイアの情勢調査では、立民の山田氏が、立憲民主支持層の大半を固めたうえで、無党派層や自民支持層にも支持を広げている。選挙関係者も、山田氏が優位に選挙戦を進めているとの見方をしている。

 東京15区 立民リードも5人混戦

柿沢未途・前法務副大臣の議員辞職に伴う東京15区の補欠選挙には、9人が立候補し大混戦となっている。この選挙区でも自民、公明両党が候補者擁立を見送ったため、野党と無所属、諸派の候補の争いとなっている。

メデイアの情勢調査によると、立憲民主党の酒井菜摘氏が一歩リードし、日本維新の会公認で「教育無償の会」推薦の金沢結衣氏、無所属で国民民主党と地域政党「都民ファーストの会」が推す乙武洋匡氏、無所属で前参議院議員の須藤元気氏、それに諸派の飯山陽氏の合わせて5人が争う構図になっている。

候補者を擁立していない自民、公明の支持層が、どのような投票行動をとるか。また、東京都の小池知事は、無所属の乙武氏擁立を主導したが、21日投票の目黒区長選では都民ファーストの会が推した候補が現職に競り負け、小池知事の影響力に関心が集まっている。

さらに、国政では野党第1党の立憲民主党と、野党第2党の維新の戦いがどのような形で決着がつくのかも注目点だ。投票率がどうなるのかという点も合わせて、不確定要素が幾つもあるので、最終的な勝敗のゆくえはまだ、はっきりしない。

 国会、政権運営、解散戦略に影響

以上見てきたように衆院3補選は、自民党が1勝できるか、それとも不戦敗を含めて3戦全敗となるかどうかが大きな焦点だ。

もう1つは、投票率がどうなるか。選挙結果を左右するだけでなく、今の政治に対する国民の認識や評価を判断できる指標にもなる。裏金問題と政治不信が、どのような形で現れるか注目している。

さらに、今回の選挙結果は、後半国会の焦点である政治資金規正法の改正や裏金問題の実態解明への取り組みに影響を及ぼす見通しだ。支持率低迷が続く岸田政権の政権運営や衆議院の解散戦略にも影響を与えることになりそうだ。

投票日直前の26日には、新たに設置された衆院政治改革特別委員会の初めての委員会が開かれる。各党が裏金問題について、どのような見解の表明を行うかも選挙の行方を左右する。今年前半の政治の大きな節目になる。(了)

 

”3つの壁”越えられるか?岸田首相

長丁場の通常国会も今月10日に折り返し点を過ぎて、後半戦に入った。岸田首相の先のアメリカ訪問と日米首脳会談を受けて、今週は18日と19日に衆参両院の本会議で、それぞれ帰国報告と質疑が行われる。

続いて22日と24日には、衆参両院の予算委員会で集中審議が行われ、裏金問題などをテーマに岸田首相と野党側との質疑が交わされる。

一方、16日には衆院島根1区など3つの補欠選挙が告示され、28日の投開票日に向けて各党が激しい選挙戦を繰り広げる見通しだ。

これからの政治はどのような展開になるのか。岸田首相の行く手には、当面3つの壁が立ちはだかっている。裏金問題の実態解明と処分のケジメのつけ方、衆院3補選の乗り切り、それに裏金問題の再発を防ぐ政治資金規正法改正の実現までこぎ着けられるかだ。

こうした3つの壁を乗り越えることができるかどうか?岸田政権の今後の政権運営や衆院解散・総選挙戦略に大きな影響を与えることになりそうだ。

 裏金の実態解明と処分のけじめは?

今の国会の大きな焦点になっている自民党の派閥の政治資金裏金問題について、自民党は4日に、安倍派と二階派の39人の処分を行ったが、報道各社の世論調査にみられるように国民の評判は極めて悪い。

国民の多くは、裏金の還流に関与した85人の議員らのうち、実際の処分が39人に止まったのをはじめ、実態解明が進まなかったこと、さらに立件された岸田派の会長を務めていた岸田首相や、二階派会長の二階元幹事長が処分の対象から外されたことについて厳しい評価をしている。

一方、今回最も重い「離党勧告」の処分を受けた安倍派の座長、塩谷元文科相は、処分を不服として自民党に再審査を請求した。自民党は16日、総務会や総務会幹部の会合で対応を協議した結果、再審査を認めない方針を決定した。この決定は塩谷氏に伝えられ、離党勧告処分が確定した。

自民党は、今回の処分で一定の政治責任を明らかにすることができたとして、今後は、再発防止の取り組みに重点を移したい考えだ。

これに対し、野党側は実態の解明は全く進んでいないとして、安倍派幹部の証人喚問を行うとともに、森元総理らの参考人招致を求める意見もある。

国民の政治不信を払拭するためにも、岸田首相は国会で事実関係の解明にどのように取り組んでいくのか、証人喚問や参考人招致の扱いを含めて方針を明らかにすることが必要だ。これが、第1の壁になっている。

 衆院3補選、島根1区は与野党一騎打ち

続いて、第2の壁が衆議院の3つの補欠選挙のゆくえだ。東京15区、島根1区、長崎3区の3補選は16日に告示され、28日の投開票に向けて激しい選挙戦に入った。

いずれも自民党が議席を持っていた選挙区だが、自民党は東京15区と長崎3区については公職選挙法違反事件や裏金事件をめぐる逆風が強く、公認候補の擁立を見送った。公認候補を擁立するのは島根1区だけとなった。

◆島根1区の補選は、自民党安倍派の会長も務めた細田博之・前衆院議長の死去に伴うものだ。自民党は元中国財務局長の新人候補を擁立し、公明党が推薦する。

これに対し、立憲民主党は、元衆議院議員の女性候補を擁立し、国民民主党の地方組織と社民党が支援、共産党の地方組織が自主的に支援する。与野党が対決する唯一の選挙になる。

島根は竹下元首相、青木元官房長官などの実力者を輩出してきた全国屈指の保守王国だが、今回は政治とカネの逆風に見舞われている。与野党の選挙関係者に聞くと「現状では、野党候補に勢いがある」との見方が多い。最後までギリギリの戦いが続く見通しだ。

◆東京15区は9人が立候補の名乗りを上げ、大混戦となっている。このうち、地域政党である「都民ファーストの会」の小池東京都知事が主導する形で、作家で無所属の新人が立候補を表明した。国民民主党と都民ファーストの会が推薦する。

立憲民主党は前の江東区議の女性候補を擁立し、共産党も支援する。日本維新の会は元会社員の女性候補、参政党、諸派の新人が立候補する。さらに無所属の参議院議員と、無所属の元衆議院議員も立候補を表明している。

◆長崎3区は、裏金問題で多額の還流を受けていた自民党議員が辞職したのに伴うものだ。自民党が候補者の擁立を見送ったたため、立憲民主党の現職(比例代表)と、日本維新の会の新人の野党同士の一騎打ちになる見通しだ。

3つの補欠選挙は、政治資金規正法違反事件後、初めての国政選挙になる。自民党は2つの選挙区で不戦敗となっており、島根1区を失うと3戦全敗となる可能性もある。島根1区の勝敗がどうなるか、岸田政権の行方にも大きな影響を与えることになる。

 政治資金規正法の改正、実現できるか

後半国会は、裏金事件を受けて政治資金規正法の改正が、最大の焦点になる見通しだ。岸田政権が法案の成立までこぎ着けられるかどうか、これが3つ目の壁になる。

公明党は、クリーンな党のイメージを守りたいとして自民党とは一線を画して、再発防止策の独自案をまとめている。立憲民主党や日本維新の会など野党各党もそれぞれ党の改革案をとりまとめており、自民党に攻勢をかける構えだ。

これに対して、自民党は「政治刷新本部」の作業部会で検討を続けているが、とりまとめには、なお時間がかかる見通しだ。公明党が求めている「連座制」導入などによる議員の罰則強化についても、自民党内には容認論がある一方で、慎重論も残っており、調整がついていない。

政治資金の扱いとなると、野党側が「政治家個人のパーテイー規制の強化」を求めているのに対して、自民党は反対の立場だ。また、政党が党役員に渡す「政策活動費」の廃止や、使途の公開の義務づけについても慎重論が根強い。

自民党としては、公明党との間で与党案をとりまとめたうえで、野党側との協議に入りたい考えだ。

これに対して、野党側は「自民党は時間切れで、政治資金規正法の改正を一部に止めたいねらいがあるのではないか」とみて、与党の改正案を早期に提出するよう求めていく方針だ。

このため、衆参両院に設置された「政治改革特別委員会」を舞台にいつから、政治改革の内容の協議に入るかも焦点になる。また、岸田首相が自民党の改革案のとリまとめに当たって指導力を発揮できるかも問われることになりそうだ。

岸田政権はここまでみてきた3つの壁を乗り越えることができれば、政権の浮揚につなげることができるが、逆に失敗すると政権の求心力を一気に失うことも予想される。特に衆院補欠選挙の結果が明らかになる4月末以降から、6月下旬の国会会期末にかけて岸田首相にとっては、息の抜けない局面が続くことになりそうだ。(了)                               ★追記(16日22時)衆院3補選が告示され、立候補者が確定したのを受けて16日22時の時点で、表現を一部、修正した。