緊急事態宣言の見方・読み方は?

新型コロナウイルスの感染が急速に拡大している事態を受けて、安倍首相は7日夕方、政府の対策本部で、東京など7都府県を対象に、法律に基づく「緊急事態宣言」を行った。宣言の効力は5月6日までで、東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡が対象になる。

そこで、この「緊急事態宣言」の見方・読み方。私たち国民はどのように受け止め、評価、対応していけばいいのか考えてみたい。

結論を先に言えば、「過剰な警戒は不要、過大な期待も禁物」、冷静に新型感染症を抑制していく。「目標の設定」を明確にして、国民の合意を広げながら取り組みを進めていくことが大事だ。

具体的には、◇不要な外出の自粛徹底で「新たな感染者を減らすこと」。
◇「医療崩壊を防ぐこと」。そのために「検査体制の拡充」と「重症者の入院・診療体制の整備」。
◇それに「社会活動・経済活動の継続と、自由な議論ができる日本方式」。

この3つの目標を国民が共有しながら、危機を克服していきたいと考える。

過剰な警戒は不要、過大な期待も禁物

今回の「緊急事態宣言」は、新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づいて出される。物々しい印象を受けるが、日本の場合は欧米諸国などに見られるような外出禁止、多額な罰金、ロックダウン・都市封鎖といった強い権限を与える法律ではない。国民の心理面に影響を及ぼす効果は予想されるが、強制力は弱い。

このため、端的に言えば「過剰な警戒は不要、他方、過大な期待も禁物」という見方をしている。独断専行に陥る仕組みにはなっていない。他方、一刀両断、一挙に問題解決といった期待もできない。

これまで首相や知事が要請したことと似たような内容も多くなる見通しだ。「要請、お願い」レベルから、「法律に基づく要請、指示、公表」に一歩踏み込んだ措置といったところではないかと見ている。

 目標の設定と国民の協力

さて、緊急事態宣言は、総理大臣が期間や地域を指定して宣言を出し、これを受けて、各知事がそれぞれの都民・県民に対して、感染防止に必要な「緊急事態措置」を決定、要請する仕組みになっている。

そこで、重要なことは、この緊急事態宣言・措置で具体的に何をめざすのか。何を最重点に取り組むのか、「目標の設定」を明確にして、国民に説明、協力を得ながら実行していけるかがカギになる。

 外出自粛の一層の徹底

今回は新型ウイルスとの戦いでは、”集団感染”を防ぎ、”感染爆発”につながらないようにすることが重要だ。効果があるのは、まずは「不要不急の外出の自粛を一層徹底すること」。これによって「新たな感染者数を減らすこと」。地味な取り組みだが、最も効果的であり、第1の目標だ。

 医療崩壊を防ぐこと

第2は、「医療崩壊を防ぐこと」。そのためには、これまで何度も強調してきたように「PCR検査の拡充」。検査能力は高まったが、実際の検査件数が増えない。感染の疑いがある人が増えてくると、検査件数を増やして感染者を早期に発見、対応していかないと感染拡大を押さえ込むのは難しくなる。

もう1つが、重症者を早期に発見、隔離・入院させていく「重症者の診療体制の整備」。専門家が、感染拡大に備えて、受け入れ病床の確保を繰り返し強調してきたが、病床の不足が指摘されている。

このため、軽症者などは借り上げの宿舎・ホテルなどに移ってもらい、重症者の病床確保が必要になるが、こうした対応の遅れが懸念されている。今回、緊急事態宣言に踏み切ることになった背景にも、こうした診療体制の整備の遅れと医療崩壊を避けたいねらいがあるとみられる。

政府は、こうした検査体制の拡充と、重症者の診療体制の整備について、緊急経済対策の中で、医療機材の整備、人材の手当などに思い切った予算の投入をできるかが問われている。

 社会、経済、自由な議論の日本方式

第3は、緊急経済対策が出された後も、社会活動や経済活動への影響を最小限に止めるともに、自由な議論、国民の権利の尊重といった日本型の危機管理方式で乗り切っていきたい。

今回の特措法の一部には、医療施設を開設するため、所有者の同意がなくても土地などを使用できる強い権限の規定もある。あるいは、緊急事態宣言をきっかけに基本的人権などが侵害されるおそれがあると警戒する意見があるのも事実だ。

この特措法には、基本的人権の尊重の規定も盛り込まれている。感染症の危機乗り切りに徹していくことを確認し、新たな取り組みをスタートさせていきたい。

日本で感染者が初めて確認されたのが1月16日。政府の対策本部が設置されたのが1月30日。2か月余り経って、今回の緊急事態宣言の発令となる。この間、安倍政権の対応・危機管理はどうだったのか、今後、しっかり検証していく必要がある。(なお、4月7日17時30分から開かれた政府の対策本部で、安倍首相は緊急事態宣言を行いましたので、冒頭部分の表現を一部、修正しました)

コロナ危機 新局面、医療崩壊を防げるか

新型コロナウイルスの急増に歯止めがかからない。東京や大阪などの都市部では、感染ルートが分からない人が増えている。また、新学期も高校、小中学校で休校が続く地域も出ている。

一方、政府の専門家会議は、集団感染への対応で「医療崩壊」が起こりうると懸念を表明するなど、新型コロナ危機は新たな局面を迎えつつある。

政府は来週、これまでに例を見ない大型の緊急経済対策を打ち出す方針だが、根源の感染拡大を押さえ込み、国民の不安感を払拭できないと景気対策も思ったほどの効果を発揮できないこともありうる。

政界では、大規模な経済対策や緊急事態宣言に関心が集まっているが、今、最優先で取り組まないといけないのは、感染拡大の抑制だ。具体的には「検査や治療などの医療体制の整備に予算と人材を大胆に集中投入」することだ。

コロナ危機が新局面を迎えている中で、医療崩壊を防ぐためにどんな取り組みが求められているのか考えてみたい。

 ”医療崩壊” に強い危機感

新しい年度がスタートした4月1日、政府の新型コロナウイルス対策を検討する専門家会議は、海外のような感染拡大の爆発的な急増は見られないものの、現状を考えると、今後、医療現場が機能不全に陥ることが予想されるとして、「医療崩壊を防ぐための対策」を早急に求める提言を発表した。

提言の中では、東京と大阪は感染者数の増加状況などから、最も厳しい対策が必要となる「感染拡大警戒地域」にあたるという認識が示された。専門家会議の強い危機感が読み取れる。

 乏しい政治の側の危機感

こうした専門家会議の強い危機感に対して、政治の側の受け止め方はどうか。
政府は、緊急の経済対策を取りまとめることにしており、与党の自民党や公明党はそれぞれ独自の提言や対策をとりまとめ、政府に申し入れを行った。

自民、公明の与党の提言を読むと、「リーマンショック時を上回る財政措置20兆円、事業規模60兆円規模の対策」、「1人あたり10万円の給付」などの大盤振る舞いを求める政策が並んでいる。

一方、感染症を抑制するため、治療薬やワクチンの開発、PCR検査体制の確保、感染者を隔離する施設の確保などの対策も掲げてはいるが、他の経済対策のような具体的な予算規模には言及していない。景気優先で、医療現場は持ちこたえられるのかといった危機感は伝わってこない。

 医療崩壊防止へ予算・人材集中投入

それでは、政府が問われている点は何か。端的に言えば、感染拡大を抑制することであり、そのために医療分野に予算・人材を集中的に投入することだ。

具体的には、PCR検査の拡充。重症者を隔離・入院させ、死亡者を可能な限り減らす治療体制を早急に整備すること。

コロナウイルスに対する検査能力は、1日あたり7500件と当初の2倍以上に増えたが、実際に行われた検査件数は2000件にも満たず、思ったほど増えていない。今後、感染者がさらに増えることを想定すると検査件数の拡充は欠かせない。

一方、感染抑制には重症者を早期に発見、入院・治療、死亡者を最小限に止める重要性が指摘してされてきた。ところが、入院ベッドをどのように整備していくのか、政府や自治体側から、整備の進み具合や予算投入額などの説明は極めて少なかったのが実状だ。

東京都の場合、700床を確保したとされるが、入院患者が増え既にひっ迫していると言われる。最終的には4,000床を確保する目標にしているが、患者が急増した場合、対応できるのか難しいとの見方は根強い。

このため、重症者と軽症者の振り分け、軽症者は自宅療養だけでなく、ホテルや旅館を借りあげ入ってもらうことなどが検討されているが、実現までこぎつけられるかどうか。

また、国民個人や企業などが、国や自治体の外出自粛などの要請を受け入れ、協力するとともに、企業や社会活動も続けていきながら集団感染を抑えていく日本方式が通用するかも大きなカギを握っている。

 感染抑制、政治の最優先課題!

政府は、来週、緊急の経済対策を取りまとめることにしている。国民に安心感を与えるために大きな予算規模。収入の大幅な減少に見舞われた個人や中小事業者に対する生活保障措置は、必要だ。

同時に必要不可欠なのは、感染拡大の抑制を政治の最優先課題に位置づけること。具体的には、医療提供体制の整備と予算がどこまで盛り込まれているか、政府の緊急対策を評価する上での大きなポイントになる。

また、日本は、1970年代以降、エボラ出血熱や鳥インフルエンザなど地球規模の感染症の当事者にならなかったこともあって、ウイルスとの戦いに無防備状態だった。それだけに感染症にどのように備えるのか。総理官邸内部の体制、各省庁や、地方自治体、感染症や衛生研究所などとの連携、危機管理の体制づくりも大きな課題として残されている。

来年”五輪後 解散”か 新型コロナ政局

新型コロナウイルス感染が世界規模で拡大する中で、新年度予算が27日に成立した。例年だと通常国会前半の大きなヤマ場を越えたことになるが、今年はコロナウイルスのパンデミックの影響で、東京オリンピック・パラリンピックが来年夏まで1年程度延期されることになり、政治日程は一変した。

そこで、日本政治は今後、どう動くのか。国民の関心も高い衆院解散・総選挙は、どうなるのか探ってみた。結論から先に言えば、次のようになる。

◆メイン・シナリオは来年夏の東京五輪パラ後「五輪後解散」の公算が大きい。◆リスク・シナリオAとしては、今年秋以降「年内解散」もありうる。
◆リスク・シナリオBとして、「五輪再延期、中止の最悪ケース」も念頭に置いておく必要がある。なぜ、こういう結論になるのか、以下、説明したい。

 政治日程一変

本論に入る前に、前提となる今年の主な政治日程を確認しておきたい。
今年の政治日程は当初、夏のオリンピック・パラリンピック開催を前提に組み立ててきたが、1年程度の延期が決まったことで、政治日程は一変した。

新年度予算案は成立したが、新型コロナ対策が盛り込まれていないため、◇直ちに追加の経済対策をまとめ、新年度補正予算案を編成、大型連休前の4月下旬の成立をめざす。◇6月17日が通常国会の会期末。◇7月5日が首都・東京の都知事選の投開票と続く。

来年は、◇夏に東京五輪・パラ開催予定。◇7月22日東京都議会議員の任期満了。◇9月30日自民党総裁の任期満了。◇10月21日には、衆議院議員の任期が満了。

つまり、今年はパンデミック終息と世界経済回復という難しい舵取りが続くが、日本の政治日程は、今のところ夏以降は空白状態だ。逆に来年は夏から秋にかけて、主要な政治日程が集中していることがわかる。

 五輪最優先、来年秋解散説

そこで、本論に入って衆院解散・総選挙の時期はどうなるか。個人的に信頼している与党幹部に聞いてみた。

「オリンピックの延期で、今年の夏以降、政治日程に大きな空白ができるのは事実だ。政治がやらないといけない点は、コロナの終息、日本と世界の両方で押さえ込む。それに日本経済の立て直し。いずれも今年秋までにメドをつけるのは、たいへんなことだ。政権に年内解散をやる余裕があるか、ない。そうすると結論は決まってくる。オリンピックを安倍総理がやりとげ、その後、自民党の後継者選び、さらに任期満了前の解散・総選挙。腹を決めてやるしかないだろう」。

安倍首相4選の可能性、任期満了選挙は自民党内は嫌がるなど問題は多い。一方で、新型コロナ感染の流行は欧米で続いており、新たにアフリカや南米などに拡大していく勢いだ。世界経済への影響はリーマンショック以上とも言われている。日本としては、当面、延期した東京五輪開催にこぎ着けることが至上命題になっていると言える状態だ。

そうすると、まずは来年夏のオリンピック・パラリンピックを開催。その後、任期満了・ゴールが決まっている自民党総裁選挙、続いて衆院解散・総選挙を行っていくのが、オーソドックスな対応であり道筋。メイン・シナリオだとみる。

 景気V字回復、年内解散論

これに対して、安倍総理の総裁4選を推進する人たちは、別の見方をしている。元々、今年夏に東京五輪が開催されていた場合は、オリンピック・パラリンピックの成功させた後、新たな国づくりを訴え、年内に衆院解散・総選挙、勝利をめざすのを基本戦略にしていた。来年に持ち越すと自民党にとって不利とされる任期満了選挙に追い込まれるおそれがあるので、回避したいとの事情もあった。

そのオリンピック・パラリンピックが来年に延期されたが、基本戦略は変わらない。今年7月の東京都知事選は、小池百合子現知事を担いで野党に対して圧勝をめざす。その上で、超大型経済対策で日本経済のV字回復をはかり、年内に衆議院解散・総選挙を断行。来年夏の五輪開催・成功を経て、安倍総理の総裁4選、または自らに近い後継者へのバトンタッチを図る道筋を探るものとみられる。

麻生副総理や二階幹事長らを中心に自民党内では、安倍総裁4選論は根強い。問題は、安倍総理が4選論を受け入れるかどうかは横において、年内に新型コロナを封じ込めることができるのか。また、経済再生のメドを国民に示して、解散・総選挙で勝てる経済・社会環境を整えられるのかどうかが最大の問題だ。

つまり、永田町の勝敗、日本国内の事情を軸に解散・総選挙の流れが決まってきたこれまでとは、今回は、大きく異なるのではないか。V字型の急速な景気回復といった不確定要素を前提に解散・総選挙に踏み込んでいくことは不安定で、リスクは大きいのではないか。国民にとっては、リスク・シナリオであり、確率的にも実現可能性は低いのではないかという見方している。

 五輪中止の最悪ケースも

このほか、あまり考えたくはないが、延期したオリンピック・パラリンピックは、本当に来年夏までに開催できるのかどうか。新型コロナウイルスの終息、世界経済再生のいずれもメドがついているわけでない。最悪の場合、五輪の再延期、あるいは、中止の事態も頭の片隅に置いておく必要があるのではないか。

その場合、アスリートの挫折はもちろん、国民にとっても経済的な損失、さらには精神的なダメージは計り知れないほど大きいだろう。個人的な推測だが、その際には、安倍首相は政治責任をとって退陣表明、大きな混乱も予想される。

 安倍総理、レガシー意識も

振り返ってみると、安倍総理は政権復帰まもない2013年5月、ロシアでのG20サミットに出席した後、そのまま南米アルゼンチンのIOC総会に乗り込み、総理スピーチなどを行い、東京招致を射止めた。

この五輪招致が長期政権の原動力になった。そして今回、初のオリンピック延期となったが、来年開催にこぎつければ、安倍総理が強調するように”人類が新型感染症に打ち勝った証の五輪大会”になる。

安倍政権は憲政史上最長の政権になったが、レガシー・政治遺産と言われる功績は見当たらない。今回、五輪開催を実現すれば、オリンピック招致と開催の両方に関わった初めての総理大臣になる。同時に、新型感染症のパンデミックを克服したリーダーと位置づけることも可能になる。

このようにみてくると”リスクを取る、決断”を信条にしているように見える安倍総理は、年内の衆院解散よりも、世界が注目している五輪開催にができるかどうかのリスクへの挑戦を選択するのではないか。端的に言えば、五輪開催優先、感染症克服、世界経済回復をめざすのではないかというのが、私の読み方だ。

 メイン・シナリオ、五輪後解散

以上を整理すると、◇メイン・シナリオは「来年夏の五輪後解散」。◇リスク・シナリオは「今年秋以降、景気急回復後の年内解散」。◇ワースト・シナリオは「五輪中止、政局混乱」ということになる。

衆議院の解散・総選挙については、さまざまな見方・読み方がある。個人的には、今回は、5つの要素があると考える。
①東京五輪パラの開催時期、②新型コロナウイルスの感染状況、③経済・生活再建状況、④政権、与野党の思惑・対応、⑤世論の反応。

今回は、以上5つの要素を分析した上で、3つのシナリオに整理した。まだまだ、流動的な部分も多いので、新たな動きや見方が出てくれば修正しながら取り上げていく。

また、今後は、安倍首相の4選論、政治課題・選挙の争点、野党の戦略、世論の反応などについて、順次、取り上げていきたい。

安倍総理、本当の出番ですよ!コロナ危機

新型コロナウイルス感染の問題は、先週3月19日の専門家会議の提言を受けて、大型イベントの自粛要請は続くものの、政府が要請した一斉休校は終了、地域によって学校が再開、追加の経済対策づくりも急ピッチで進められる見通しだ。

一方、今回のコロナウイルス感染が日本社会や経済へ与えた影響は極めて大きく、安倍政権は乗り切ることができるのかどうか。ここ数か月の政権の取り組みが大きなカギを握っている。端的に言えば、”安倍総理、これからが、本当の出番ですよ!”と言えるのではないかと思う。

新たな局面を迎えつつあるコロナ危機。安倍政権の対応、どんな取り組みが必要なのか探ってみたい。

 ”感染制御のメッセージ” が必要

新型コロナウイルスの感染が中国の武漢で確認されたのが去年12月上旬、日本国内で初めて感染者が出たのが今年1月16日、中国武漢市から帰国した中国国籍の男性だった。それから2か月余り経過したが、国内での感染者は1000人を上回っている状況だ(3月22日18時半時点、1078人。クルーズ船712人除く)。

これまでの政府の対応は、指定感染症の指定・公布、クルーズ船の集団感染、専門家会議の設置時期などを見ると”後手に回っている”と言わざるを得ない。

一方、安倍総理が2月27日に突然、発表した小中高など全国一斉休校の要請は、決め方などに批判を浴びたものの、国民全体に危機感を共有するなど一定の効果はあったと言えるのではないか。

さて、問題はこれからだ。文部科学省は一斉休校措置は終了、地域によって新学期から学校再開の方針を決める見通しになっている。
また、政府は経済対策の取りまとめに向けて、さまざまな業界・団体などからのヒアリングを行っており、経済対策の中身の大胆さや、規模の大きさに関心が集まりつつある。

ところが、経済対策でいくら巨額な予算を積み上げても、感染症を押さえ込む根本対策が十分でないと、国民は安心できない。経済対策も効果を上げるのは難しいのではないか。

そこで、3月27日には新年度予算案が国会で成立する見通しで、大きな節目を迎える。つまり、経済対策をまとめる前に安倍総理は、「コロナウイルスの制御・コントロール」について、どんな見通しを持っているのか、どんな対策に重点を置いて取り組もうとしているのか、国民に明らかにしてもらいたい。

東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて、日本の受け入れ体制の整備に関係してくる問題でもある。

 検査と治療体制への疑問

政府の対応策について、安倍総理をはじめ、加藤厚生労働大臣、西村経済再生担当大臣らの記者会見などを聞いて、納得のいかない疑問点が2つある。

1つは、検査体制、具体的には、新型コロナウイルスの感染の有無を調べるPCR検査。日本はどうして検査件数が少ないのかという点だ。
1日に可能な検査は、2月18日には約3800件だったが、3月16日には7500件、およそ2倍に増えた。
一方、実際に行われた検査件数は、1日あたりの平均で、2月18日からの1週間で901件だったのが、3月9日からの1週間では1364件と増えている。

但し、検査が可能な件数は1か月で2倍に増えたのに、実際に行われた検査は、検査能力の2割程度に止まっている。

また、3月6日からは公的医療保険が適用されるので、検査件数は増えると強調されてきたが、公的保険が利用された件数は、全体のわずか2%に止まっている。

政策に詳しい国会議員に聞いても私と同じように、なぜ、日本では件数が増えないのか、役所の側から納得のいく説明はないと話している。

2つ目は、治療体制の拡充だ。専門家会議は、重症者を隔離して治療を行えるようにすることが重要だと指摘した上で、保健所などが対応できるように思い切った予算や人員の投入が必要だと要望している。

ところが、厚生労働省は、都道府県別の重症者の受け入れ見通しの数字は発表するが、体制は十分と言えるのか、十分な声明は聞かれない。
こうした根源部分の対策について、安倍総理などから納得のいく説明が欲しいところだ。

 政権内の対立・確執を危惧

新型コロナ感染に対する対応に関連して、危惧されているのが、政権内の対立、確執だ。

例えば、安倍首相が先に突如、要請した一斉休校。内容もさることながら、一斉休校案について、菅官房長官をはじめ、萩生田文部科学大臣、加藤厚生労働大臣ら側近と言われる閣僚も当日まで知らされていなかったことに驚かされた。

関係者によると端的に言えば、今井総理補佐官の進言を安倍総理が採用し、関係閣僚は外されていたという構図になる。背景として政権運営をめぐって、今井総理補佐官と、菅官房長官との対立、確執が影響しているとの見方がされている。第2次政権発足から8年目に入る異例の長期政権、政権内部が常に一枚岩とはいかないのはある程度、想像できる。

但し、政権発足まもなく東京オリンピック・パラリンピックの招致に成功したころを思い起こすと、大きな様変わりだ。
当時、政権関係者は「政権運営が順調なのは、安倍総理、麻生副総理、甘利大臣、菅官房長官の4人が話し合い、それを官房長官を通じて閣内に徹底してきたこと。総理と官房長官の関係がいいことが大きい。それに政務の総理秘書官・今井さんら各省秘書官グループらが支えていることだ」と話していた。長期政権で、政権中枢の人間関係も変質してきたと言えるのではないか。

しかし、今回は、国民の命と健康、暮らしに関わる問題だ。当面の危機を乗り切るメドがつくまでは、政権内の利害・打算などは横に置いて、危機管理に徹する必要がある。コロナ危機を乗り切ることができるかどうか、これから本当のヤマ場を迎える。”覆水盆に戻らず”とのことわざがある。政権中枢の一体感を取り戻すことができるのか、その点でも安倍総理の本当の力量が問われていると見ている。

揺れる東京五輪と日本政治 コロナ危機

中国・武漢で発生した新型コロナウイルスの勢いは止まらず、WHO=世界保健機関は12日、「新型コロナウイルスは、パンデミックと言える」と世界的な大流行になっているとの認識を表明した。

日本国内では、異例の小中高校の一斉休校、大相撲は無観客で開催、春の選抜は中止に追い込まれた。13日、株価はバブル崩壊以来の大幅下落。国会では、首相の非常事態宣言が可能になる特別措置法が成立と急展開が続いている。

さて、気になるのは、東京オリンピック・パラリンピックのゆくえだ。アメリカのトランプ大統領は1年延期の可能性に言及。安倍、トランプ電話会談で、安倍首相は「開催に向け、全力で頑張っている」と巻き返し。

万一、中止、延期になると日本政治はたいへんだ。安倍政権のダメージはもちろんのこと、来年秋にタイムリミットの衆議院の解散・総選挙はいつやるのか。

今回の新型コロナウイルス危機は、東京五輪をはじめ、日本政治にどんな影響をもたらすのか探ってみる。

 五輪の開催判断は、IOCにあり

最初に話の前提して、確認しておきたいのは、オリンピックの開催、中止などの判断は誰にあるのかという点。残念ながら、日本政府にはない。IOC=国際オリンピック委員会にある。

2020年のオリンピック・パラリンピック大会の開催都市を決定した際に、東京都、JOC=日本オリンピック委員会、IOC=国際オリンピック委員会の3者で契約を締結している。それによると大会中止の権限は、日本政府や東京都にあるのではなく、IOCが単独の裁量で、中止する権利を有すると書いてある。

マラソンの開催場所が、東京から札幌に変更になった時と同じようにIOCに権限がある。このことを頭に入れておいていただきたい。

 米大統領「1年延期発言」の波紋

さて、驚いたのは、アメリカのトランプ大統領が12日、ホワイトハウスで記者団の質問に答えた発言だ。東京五輪について「無観客など想像できない。あくまでも私の意見だが、1年間延長した方がよいかもしれない」。

さっそく、翌13日に行われた日米首脳の電話会談。安倍首相は「オリンピック開催に向けて、日本として全力で頑張っている」とアピール。トランプ大統領は「日本が透明性のある努力を示していることを評価する」と応えたとされる。

トランプ大統領から、開催延期やむなし発言に関連した言及はなかったというが、延期発言の重さと波紋の大きさを個人的には感じる。

 与党幹部 ”4月中旬押さえ込み”論

安倍総理大臣や、橋本五輪担当大臣ら政府関係者は、いずれも大会の延期や中止は一切検討してないとして、予定通りの開催を強調。東京オリンピックの聖火の採火式が12日ギリシアで行われ、20日には日本に到着する予定だ。

一方、与党幹部に見通しを聞くと「予定通り開催するためには、4月中旬には国内の感染押さえ込みができないといけない。IOCの一部委員が、5月末に判断すると言っているようだが、遅すぎる。また、”風評被害”もなくすることが重要だ。”風評被害”とは、海外の著名選手が、感染の広がりを理由に日本行きを拒否するような発言をする事態だ」。

別の医療分野に精通している自民党議員も「3月下旬から4月上旬にかけて、ウイルスを押さえ込み、4月中旬には、出口戦略を打ち出す必要がある」と同じような考えを示している。

今後の注目点は、専門家会議が3月19日に国内の感染状況や、今後の対応の仕方などについてどんな方向性を打ち出すか。また、4月中旬から5月末にかけて、感染押さえ込みが成功するのか、出口戦略を打ち出せるのかが焦点だ。

 今後の政治シナリオへの影響

それでは、今回のコロナウイルス危機は、今後の日本政治どんな影響を及ぼすのだろうか?

今回のウイルス危機の震源地は中国は、世界のGDPの19%も占めている。武漢はチャイナ7の一つで、イノベーションの中核都市だ。サプライチェーンの混乱、訪日観光客の大幅減少も避けられないので、日本経済への打撃は深刻だ。

つまり、景気と雇用に影響が出ると、アベノミクス、安倍政権へのダメージも予想以上に大きくなることが想定される。

政治への影響はどうか。今年1月のブログで、政治シナリオを3つ予測した。
①東京オリパラ後の年内解散断行。②”オリンピック花道論”。安倍首相が影響力を残して退陣。③ポスト安倍、衆院解散・総選挙とも来年へ持ち越し。

コロナウイルス危機は、一旦、収まってもぶり返しあるということで、専門家は半年から1年程度警戒が必要と指摘。また、日本経済立て直しへ大胆な取り組みが必要になる。

そうすると、最長政権といえども、シナリオ①、②のような余裕はとてもない。③の可能性が大きくなるのではないか。つまり、総裁選び、解散・総選挙といった重要政治日程は「後ろへずれ込む」というのが、私の今の時点での見立てだ。

 WHOからの求めで開催断念も

IOCのバッハ会長は12日、ドイツのテレビ局のインタビューの中で、東京オリンピックの予定通りの開催をめざしていると強調した。一方で、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、WHOから大会の中止を求められた場合は、開催を断念せざるをえないという考えを示した。

冒頭に申し上げたようにオリンピック開催の是非の判断は、東京都、日本政府にはない。IOCが権限を持っている。そのIOCの会長が、WHOの判断に従わざるを得ないと語っているのである。

そうすると日本が大会を予定通り開催するためには、まずは、国内の感染を押さえ込むことは、最低限の条件だ。
次に、日本は押さえ込みに成功したとしても、海外諸国での感染が収まらないことも十分ありうる。WHOが開催に難色を示し、開催の条件が整わないこともありうる。ハードルはかなり高い印象を受ける。

日本としては、やるべきことをやるしかない。まずは、3月19日の専門家会議がどんな方向性を打ち出すか。4月中旬以降の日本の感染押さえ込み状況がどうなるか。日本の危機管理能力、取り組み方が問われている。

首相官邸の意思決定は?一斉休校の舞台裏

安倍首相の一斉休校の要請を受けて、全国各地の小学校、中学、高校、特別支援学校では、3月2日から臨時休校が始まった。突然の要請で、学校現場をはじめ、子どもを抱える家庭、休暇申請の社員を抱える企業などは、てんやわんやの対応に追われた。”そこのけ、そこのけ、政権が通る”といった風情に見える。

気になるのは、こうした異例の要請、安倍政権内でどのような意思決定で決まったのか、よく分からない点だ。加えて、これからは、緊急事態宣言の実施もできる特別措置法制定をめざす動きも始まる。

そこで、これまでの安倍政権の対応、いい・悪いの評価は一旦、横に置いて、どんな経緯をたどって決まったのか、整理しておきたい。事実関係はどうなのか、3月2日、3日の両日、安倍首相も出席して行われた参議院予算委員会の与野党の質疑をベースに整理した。

 ▲①安倍首相 政治判断の根拠

第1のポイントは、安倍首相が踏み切った一斉休校要請の考え、その判断の理由・根拠は何かという点。安倍首相は、次のように答弁している。

「専門家から、感染の拡大を防ぐことができるかどうかは、この1,2週間が瀬戸際だとの見解が出された。感染ルートが確定されていない感染者が出てくる中で、判断に時間をかける、いとまがない。私の責任で判断した。専門家に直接うかがったものではない」。つまり、判断にあたっては、専門家の意見は求めず、自らの政治判断で決断したことを明らかにした。

感染・医療の専門家に聞くと、特に今回のような未知のウイルス対策については、政権が方針決定をする前に、医療分野に詳しい専門家や官僚が技術的・専門的な分析・検討を行い、その意見を踏まえて、政治が判断することが望ましいと指摘している。

▲②関係閣僚との調整は

第2は、安倍首相と関係閣僚との調整。具体的には、2月27日に安倍首相が全国一斉に臨時休校をするよう要請する方針を表明した。感染拡大防止を担当する厚労大臣、文教行政を担当する文部科学大臣との調整はどうだったか。

加藤厚労相は、休校要請方針を聞いた時期については「27日午前の衆議院予算委員会の後だと思う」とのべた。

萩生田文部科学大臣は「一斉休校が必要かということは当初、私は問題意識が低かった。文部科学省としては、早い段階から幾つかのシミュレーションをしていた。全国一斉というより、感染状況が違うので、地域によって、休校措置などを検討していた」とのべている。全国一斉休校には慎重な姿勢だ。

2人の閣僚発言からもわかるように首相と担当大臣との間では、事前に十分な検討、意見調整が行われていたとは言えない。27日に急展開したと言えそうだ。

このような事前の調整不足は、子どもを抱える共稼ぎ世帯はどうするのか。学童保育施設の運営、休業に対する保障はどうなるのか、国民の側に、混乱と負担の形で跳ね返る。

2017年、衆院選で突然打ち出された幼児教育などの無償化方針。その後、無認可保育所の扱いなどが詰められておらず、混乱したことが思い出される。

▲③内閣の要、官房長官との関係

第3は、内閣の要、総合調整に当たる官房長官との関係。今回の休校問題では、菅官房長官の影は薄い。予算委員会の質疑でも質問が向けられることは少ない。

第2次安倍政権の発足以降、菅官房長官は政策の総合調整、東日本大震災の復興・復旧、数々の不祥事などの危機管理に当たってきた。

また、菅官房長官が中心になって、政務と事務の官房副長官、総理秘書官などと活発な意見交換、濃密なコミュニケーションが長期政権を支える原動力の1つと見られてきた。

ところが、このところ、桜を見る会への対応、今回の新型ウイルス感染対応などでは、菅官房長官の存在感があまり感じられない。首相との距離の広がり、官邸内の不協和音、”外されているのではないか”との見方まで伝わってくる。

(※菅官房長官は、5日の参院予算委員会で、安倍首相が小中高校などに一斉の臨時休校を要請することを知ったのは、2月27日午後だったことを明らかにした。「その日の午後だ。首相と4,5日間ずっと議論し、その日の午後、首相が判断したと聞いた」と答弁。加藤厚労相、萩生田文科相も27日、当日に知らされたことを明らかにしている)

 ▲④最側近の補佐官の存在

第4は、最側近の今井秘書官の存在・役割。これまで見てきたように今回の休校問題では、安倍首相と近いと言われる加藤厚労相、萩生田文科相、それに菅官房長官も、方針決定に深く関わっているようには見えない。

政界関係者に聞くと、今回の対応については、総理大臣の政務秘書で首相補佐官も兼ねる今井秘書官の存在感が増しているという。

確かに今井秘書官は、これまでの苦境の安倍首相を支える役割を果たしてきた。内政、外交、政局対応でも事態の打開に当たってきた。

今回の問題は、野党から「クルーズ船対策で、安倍政権は後手後手の対応」と追及され、内閣支持率も急落する中で、反転攻勢、政権運営の主導権を取り戻すねらいがあったのではないか。そのために安倍首相が、今井秘書官の進言を採用することを決断したのではないかと見ている。

 ▲⑤正念場の政権運営

それでは、これからは、どんな展開になるのだろうか。
ここまでの流れは、24日に専門家会議が「今後1、2週間が瀬戸際」との見解をとりまとめ、25日に政府が感染拡大防止をめざす基本方針を決定した。

ところが、26日に安倍首相は大規模イベントの自粛を要請、27日には小中高の一斉臨時休校の要請に踏み込む考えを表明、政権の対応にブレが目立ち始めた。

こうした背景には、強い政権イメージにこだわる姿勢と政権運営の焦り、首相官邸内の足並みの乱れがあるのではないか。

一方、新型コロナウイルス感染押さえ込みのメドはついていない。
感染拡大が続く中で、相変わらずマスクや消毒液の不足が続く。検査体制や重症者の受け入れ体制の整備も大きな課題。さらには、非常事態宣言などができる特別措置法の制定に向けての野党の協力の取り付けたい。

こうした中で、去年夏の参議院選挙で当選した河井案里参議院議員と、夫の河井克行前法務大臣の公設秘書ら3人が、公選法違反容疑で3日、検察当局に逮捕された。河井案里議員には、安倍首相、菅官房長官が積極的なてこ入れをしたほか、自民党が異例の1億5000万円もの資金を投入・支援をした。

今後、懸念されるのは、東京オリンピック・パラリンピック開催は大丈夫なのか。それに日本経済の先行きだ。

安倍政権は現在、憲政史上、最長の記録を更新中だが、緊急課題は、感染危機の乗り切りだ。合わせて、不祥事への対応と国民の信頼回復、経済運営のかじ取りも必要不可欠で、正念場を迎えている。

”危機感伝わらない”首相会見 新型肺炎

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、安倍首相が29日午後6時から記者会見し、全国の小中高校を臨時休校するよう要請する考えを打ち出した経緯などについて、説明した。

この中で、安倍首相は、異例の休校を要請について「断腸の思いだ」と理解を求めるとともに、保護者が休業に伴って所得が減少した場合、新たな助成金制度を設ける考えを表明した。

この記者会見をどう見るか。休校措置を打ち出した理由や、今後の対応策などについて、具体的で新たな内容は乏しく、危機感が伝わってこない。”説得力は今一つ”と言わざるを得ない。

 新型肺炎後、初の記者会見

今回の安倍首相の記者会見は、新型コロナウイルス感染が広がって以降、初めてだ。
また、小中高校の極めて異例の臨時休校を要請した直後だけに、こうした決断に踏み切った理由や、今後の取り組み方などについて、学校関係者、保護者、国民に向けてどんなメッセージを発信するのか、大きな関心を持って、記者会見を聞いた。

 具体策、新味の乏しい記者会見

安倍首相の発言内容のポイントを整理すると、次のような点だ。
△政府の専門家会議を踏まえると、今後2週間程度、国内の感染拡大を防止するためにあらゆる手段を尽くすべきだと判断した。

△全国の小中高の臨時休校を要請したことについて「断腸の思いだ。何よりも、子どもたちの健康・安全を第1に感染リスクに備えなければならない」と判断した。

△保護者の負担軽減に向けて、学童保育は春休みと同様、午前中から開所するなど自治体の取り組みを支援するとともに、新しい助成金制度を創設することで、正規、非正規を問わず、休職に伴う所得の減少に対する手当の支援に取り組む。

△感染拡大の防止に向け、第2弾となる緊急対策を今後10日程度のうちにとりまとめる。

以上のような点を中心に説明したが、例えば、休業に伴う助成はどういう制度にになるのかなど具体的で、新味のある説明は乏しかった。このため、安倍首相が「断腸の思い」と語っても、危機感が伝わってこない。”説得力は今一つの記者会見”と言わざるを得ない。

 問われる政権の危機管理

それでは、安倍政権の対応としては、今、何が最も問われているのか。
新型ウイルス感染を防いでいくためには、幅広い分野で、全国規模で対策を実施していく必要がある。

具体的には、総理官邸が、中央省庁や地方自治体と連携・協力を強めるとともに、医療機関や大学、企業、国民がそれぞれの役割を果たしながら、連携していく体制をつくることが重要だ。政権が「総合的な調整を行い、危機管理の中枢」としての役割を果たしていく考えを表明すべきではなかったか。

あるいは、今後、感染危機に対応するため、新たな法律を制定するため、野党に協力を求める。これまでの行き掛かりは一旦、横に置いて、党首会談を呼びかけるなど大胆な取り組みを提起すべきではなかったか。

 実行プロセスに専門家の意見を

今後、対策を実行していくのあたっては、専門家と官僚の意見、協力がカギを握ってくる。政治主導、安倍1強政権といっても、今回の感染症の分野では、所詮、素人だ。疫学・医療の専門家・プロ、官僚の意見を踏まえて、対策をまとめ、実行に移していく必要がある。
政府は専門家会議を設置しているが、この専門家会議のメンバーは、今回の全国一斉の休校措置について意見を求められたことはなく、「政治判断」だと受け止めている。

野党などから「政府の対応は、後手後手」などと批判されても、政策決定と対策実行に当たっては、まずは、専門家や官僚に技術的・専門的議論を行ってもらう。その上で、そうした意見・助言を踏まえて、政治が決断・実行していく。こうしたプロセスを取ることが、本来の危機管理ではないか。

これに対して、こうしたプロセスなき政権運営は危うい。安倍政権がどんな対応、政権運営をしていくのか、正念場を迎えている。

 

全国臨時休校と危機管理の本質

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、全国すべての小中高校を、来月2日から臨時休校するよう要請するとの驚くニュースが、27日夕方飛び込んできた。

政府の対策本部で安倍首相が表明したもので、感染拡大を抑制し、国民生活や経済に及ぼす影響を最小にするために必要な法案も準備するよう指示したという。

今回の臨時休校は、踏み込んだ対応策で賛否両論あると思うが、結論から先に言えばありうる措置だと考える。

問題は、政権の危機管理のあり方。何を最優先に取り組むかという問題を考える必要があるということ。
今、最優先でなすべきことは、感染源の正確な把握。そのための検査体制を早急に整えること。もう1つは、感染拡大期に備えて診察・治療体制の整備だ。

問題の本質は、学校の休校措置ではなく、感染源の検査と対策。ここを最重点に対応していくことが重要だと考える。みなさんはどのようにお考えでしょうか。

全国臨時休校、どう評価?

この臨時休校、安倍総理大臣は、北海道などで小中学校などの臨時休校の措置が取られていることに触れた上で、次のように表明した。

「ここ1,2週間が極めて重要な時期だ。何よりも、子どもたちの健康第1に考え、日常的に長時間集まることによる大規模な感染リスクににあらかじめ備える必要がある」とのべ、来月2日から全国全ての小学校、中学校それに高校と特別支援学校について、春休みに入るまで臨時休校するよう要請する考えを示した。

こうした対応をどう評価するか? 2009年の新型インフルエンザの際の対応が思い出される。世界的な流行になったが、日本は他の国に比べて圧倒的に死亡者数を押さえ込むことに成功した。

この時は、関西、大阪や兵庫で大流行したが、学校の臨時休校・閉鎖措置を実施したことがウイルスの駆逐に成功した要因だったという。こうした例を考えると、臨時休校の措置も1つの選択肢だと考える。

 本質は、感染源対策にあり!

そこで、問題の本質はどこにあるか?それは、コロナウイルスの感染拡大をどう防ぐか、感染源対策にある。

今回は、政府が本格的な対策を打ち出す前に、既に中国などから大勢が入国しており、水際対策だけで完全に封じ込めることはできない。このため、水際対策は続けながらも「国内対策にシフト」する必要があるというのが専門家の意見だ。

つまり、コロナウイルスの感染感染源をどう防ぐことができるかにある。そのためには、感染源の検査、検査で重症者や接触者を突き止め、死亡者などを最小限にし、最終的に感染源を押さえ込むことにある。

学校への新型ウイルスの侵入を防ぐことは大事だが、感染源は学校以外にある。その感染源を検査で突き止め、防止していくことが基本だ。

 政権の危機管理、検査と治療体制

政府のこれからの新型感染対策では、政権の危機管理能力が問われる。幅広い分野での対策を、全国規模で行う必要がある。そのためには、政府、中でも対策・実行の司令塔として「総理官邸、政権の総合的な調整力」がカギを握っている。

その危機管理では「最悪の事態」に備えるのが鉄則だ。最悪の事態への対応として、感染拡大防止に学校の臨時休校もありうる。

但し、問題の本質は、休校ではなく、感染源の抑制だ。具体的にはウイルスの検査体制をどうするのか。政府は、1日に全国で3800件まで検査能力を拡大できたと強調してきた。ところが、実際は900件に止まっているという。医師が保健所に検査を依頼しても、人手不足などを理由に断られるケースもあるという。

また、重症者を入院させ、治療を行い、死亡者を最少化することが感染症の押さえ込みにつながる。感染拡大期に全国で、入院・治療の受け入れ体制を整備することが最も問われる点だ。

安倍政権としては、こうした検査、治療体制の整備に予算、人材をどのように投入するのか、大胆で説得力のある対策を提起することが最も問われる点だと考える

 問題の本質、見極めが大事!

最後に繰り返しになるが、危機の際には、問題の本質・核心は何か。ここを立ち止まって見極めることが大事だ。

学校の全国規模の臨時休校、前例のない取り組みで、子ども達の暮らし、家庭の受け入れ体制など多くの問題を抱えており、大きな議論を巻き起こすだろう。

但し、問題は繰り返しになって恐縮だが、感染源を突き止め、抑制することだ。
そのための検査、診察・治療体制をどうするのか。そのために政権はどんな対策を考え、実行しようとしているのか。この点についての政府の方針と説明を求めていくことが最も必要なことだ。問題の解決の順番を間違えないことが肝要だと考えます。

 

新型肺炎 問われる政権の危機管理

新型コロナウイルスの感染問題は、クルーズ船の乗客で、感染が確認され医療機関に入院・治療を受けていた80代の男女2人が死亡したほか、全国各地で国内感染の拡大が続いている。

一方、中国などからの観光客が激減、自動車業界ではサプライチェーン・部品供給網の混乱など経済面への影響が深刻になっている。

さらには、大勢の人が参加するイベントや会合の中止など社会の活動面の影響も広がっている。

このように新型ウイルスの感染問題は、当面の政治の最重要課題に浮上しており、特に安倍政権の危機管理が問われている。今回の感染拡大の危機を乗り切ることができるのか、具体的にどんな対応が問われているのか探ってみる。

 新型感染症 政府が取るべき対応

今回のような新型ウイルスの感染に対して、政府・政権はどんな対応をとるべきなのか。感染症・医療の専門家は、次のような対応が重要だと指摘している。

1つは「初期の対応」、水際対策は迅速、強めに行うこと。多少の過剰な対応はやむを得ない。

2つ目は、今回のような潜伏期間が長く、軽症な例も多い疾患では、完全な封じ込めは難しく「国内の感染対策」へシフトする必要がある。

3つ目は、感染拡大の程度、つまり「発生の早期」と「拡大期」に応じて対応策を打ち出していくことの重要性を挙げている。

政府のこれまでの対応に対しては、さまざまな意見や批判が出ている。
一方、当初、新型ウイルスの感染力などはわからず、国内の感染検査も1日300件程度に止まる中で、緊急の対応を迫られたのも事実だ。

以上3点の指摘は、政府対応を評価する際の基準になる。また、一定の区切りがついた段階で、一連の対応について、検証する必要がある。

 危機管理、具体的な対応策

さて、それでは危機管理、具体的にどんな対応が必要なのか。再び、先の感染症・医療の専門家の意見を聞くと次のような対応策を提言している。

1つは、今の状況は「感染の発生早期」の段階。海外からの感染症の完全な封じ込めは難しく、既に国内で感染が進行している。感染早期の段階では、重症者を早期に発見、死亡者を最小限に止めることが重要になる。

2つ目は、次の「感染拡大期」に備えて、一般病院も診療できる体制を準備する。そして、重症者の早期発見、治療を行う。軽症者は、開業医を含めた医療機関で対応する。軽度の人は自宅待機などもありうる。

3つ目は、検査や診療などの全体の体制づくりと運用。政府が中心になって、地方自治体、大学や医療機関、企業、国民がそれぞれ総力を挙げて感染防止を徹底する取り組みができるように総合的な調整を行うこと。

また、政府が方針を決定するのにあたっては、医療関係の専門家、官僚などが技術的・専門的な議論を行い、その結果を踏まえて、政治が判断する仕組みづくりが重要だと指摘している。

こうした取り組みを進め、国内での感染を抑え、事態の収束に導くことができるかどうか。安倍政権はこれまで政治主導を標榜し、政権が看板政策を打ち上げて政策を実行してきた。今回は、医療・保健などプロの意見を聞きながら、国民の命と健康を守っていく、手探りの対応を迫られることになる。

 外交、東京オリパラ、政治日程

今回の新型ウイルス感染の問題は、4月上旬にも予定されている中国の習近平国家主席の来日が予定通り実現するのかどうか。

また、7月24日から半世紀ぶりに開催が予定されている国家的な事業、東京オリンピック・パラリンピックが予定通り実施できるのかどうかにも影響を及ぼすことになる。

さらに、今年の秋以降にも予想される衆議院の解散・総選挙、ポスト安倍の後継総裁選びなどの政治日程も左右することになる見通しだ。

政権の危機管理は、これまでも阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件が起きた村山政権。東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の激震に見舞われた民主党の菅政権の時のように、政権の求心力にも大きな影響を与えることになりそうだ。

安倍政権にとっては、最長政権の総仕上げの段階、正念場が続くことになる。

 

 

 

首相のヤジと ”危うい政治”

新型コロナウイルスの感染が新たな広がりを見せつつある中で、国会では安倍首相がヤジを飛ばした問題をめぐって、野党側が強く反発、13日午前に予定されていた衆院予算委員会が流会になった。17日に集中審議をセット、安倍首相が釈明することで審議が再開される見通しだ。

今回の問題は、安倍政権の強気の政治姿勢の現れと同時に、国会が政権をチェックできているのかどうか、”危うい政治”状況を浮き彫りにしているのではないか。

新型ウイルス危機を乗り切るためにも政権や国会のあり方を今一度、考えておく必要があるのではないか。首相のヤジが持つ意味と政治のあり方を考えてみる。

 ”意味のない質問” 首相のヤジ

首相のヤジは、12日の衆議院予算委員会の集中審議で飛び出した。手短に説明すると、立憲民主党の辻元清美議員が質問の最後に「タイは頭から腐る。社会、国、企業などの上層部が腐敗していると残りも腐っていく。頭を代えるしかない」と首相批判で質問を終えて退席しようとした際、安倍首相が「意味のない質問だ」とヤジを浴びせた。

 罵詈雑言、反論の機会なし

このヤジをどう見るか。さまざまな見方、反応が考えられる。
公平を期すために安倍首相の言い分も紹介しておくと、その後の答弁で「最後の部分は質問ではなく、罵詈雑言。私に反論する機会がない。だから、意味のない質疑だ」と反論していた。

やや専門的・技術的な話になるが、国会での質疑では持ち時間のルールがある。参議院では「片道方式、質問時間の片方」で計算する。衆議院では「往復方式、質問と答弁の両方を合わせた往復」で計算。今回は、衆議院の往復方式だ。

首相の答弁が長くなると質問時間が減っていく。また、質問時間が多少、残った場合、質問者は自らの意見をのべた上で、締めくくるのが、一般的なやり方だ。

安倍首相は、こうした点は十分、承知の上で、ヤジを飛ばしたのではないかと思われる。

辻元議員のアクの強い質問、表現はどうかという気もするが、首相が「意味のない質問だ」と切って捨てるのは論外ではないか、私の見方。

 質問者の後ろに多数の有権者

この問題を考える際の大事な点は、”首相と野党の質問者”という図式だけでなく、野党の質問者の後ろには、多数の支持する有権者が存在している点だ。

首相にとっては罵詈雑言、不快な質問であっても、有権者の中には別の意見もありうる。どちらに理があるかは、最終的には視聴する有権者の判断に委ねるのが議会制民主主義のルールだ。

このため、国会では自由で活発な議論が最大限尊重されなければならない。これまでは曲がりなりにも守られてきている。それを覆すような態度は傲慢で、許されないことは、最初にはっきりさせておきたい。

 首相の政治姿勢、”強気一辺倒”

安倍首相の閣僚席からのヤジは、今回が初めてではない。自らの答弁中に、議場からのヤジに対しては制止するよう求める一方、閣僚席からヤジを飛ばす光景はこれまで何度も目撃した。

私は40年近く政治取材を続けているが、安倍首相は歴代自民党政権の中でも珍しくヤジを飛ばす数少ない首相だ。首相経験者の何人かから「政権にとって予算は命、成立までは隠忍自重する」との趣旨の話を聞いてきたが、異なるタイプだ。

ある野党議員に聞くと「首相のヤジは、板についてきた。問題になった際の弁解ぶりも堂々としてきた」と意図的なヤジではないかとの見方をしている。

安倍首相の国会答弁は、端的言えば、”強気一辺倒。相手の野党議員に対して、弱気を見せるな。強気で行け”という路線が特徴だ。
この路線は、総理をはじめ、閣僚、一部の官僚まで浸透しており、”ONE・TEAM”とも言える徹底ぶりだ。

但し、この路線で終始すると、討論で相手を説得したり、逆に譲歩して修正案をまとめ上げたりする余地がなくなる。政権運営が順調な場合は問題は少ないが、行き詰まったりした場合、柔軟なかじ取りが難しく、”政権運営上の落とし穴、危さ”が潜んでいると言えるのではないか。

国会・与野党の政権チェック機能

今回の安倍首相のヤジは、行政権と国会との関係の観点からも問題を引き起こす。行政の最高責任者である首相が、国会議員の質問内容について、意味がないと判定しているわけだから、国会としては、野党議員だけでなく、与党議員も政権に対して、”モノ申す、苦言を呈す姿勢”が必要ではないか。

国民の側からすると「政高党低」、安倍首相に対して、党の側から意見をのべることができる議員はほとんどいなくなっているのではないかと疑念を持つ。

国会に対しても、変質・機能の低下を来しているのではないか。憲政史上、最長となった安倍政権に対して、国会はチェック機能を果たしているのかどうか、与野党のあり方を含め、今の政治に危うさを感じる点だ。

知りたい点に応える審議を

国会がやるべき点は、はっきりしている。国民が知りたい点を真正面から議論すること。新年度予算案もまもなく衆議院を通過する可能性が大きい。それまでに懸案・宿題については、議論を整理して到着点をはっきりさせて欲しい。

◇新型コロナウイルスの政府対応の評価、予算は適当か。◇桜を見る会と公文書の取り扱い、◇IR整備の是非、◇閣僚辞任、IR汚職事件、政治とカネの国会での取り組み方、◇東京高検検事長の異例の定年延長など知りたい点は多い。

いずれも点についても政府、並びに与野党の考え方の違いがわかる論戦にしてもらいたい。一連の懸案・宿題の区切りの付け方を工夫して、国民が、今後に関心と期待を持てる国会にする役割・責任が問われている。