予算案 衆院通過”裏金解明は進まず”

異例ずくめの展開が続く国会は、新年度予算案の審議が土曜日の2日も続き、夕方の衆議院本会議で、与党の賛成多数で可決されて参議院に送られた。憲法の規定で、予算案は年度内に成立する。

もう1つの焦点になっている自民党の派閥の裏金問題については1日、衆議院政治倫理審査会で、安倍派幹部4人が弁明に立ったが、いずれも「自らは関与していない」と繰り返し、実態解明につながる新たな内容はなかった。

予算案が衆院を通過すれば、通常では国会前半戦が一山越えたということになるが、今回は、懸案の裏金問題が残されたままで、岸田政権にとって険しい政権運営が続く。国会での与野党攻防と、岸田政権の課題を点検する。

 裏金解明、派閥幹部・首相も後ろ向き

自民党の派閥の裏金問題から、見ていきたい。29日と1日に行われた衆議院政治倫理審査会を中継などでご覧になった方は、国会議員の政治とカネをめぐる認識や釈明にあきれ、驚くことが多かったのではないか。

1日の政治倫理審査会には、安倍派の西村・前経産相、松野・前官房長官など幹部4人が出席した。派閥の会計処理について、4人の幹部はいずれも「関与していない」と釈明したほか、「パーテイー券の販売ノルマも、会長と事務局長との間で長年、慣行として扱ってきた」などとして、会長案件だったと強調した。

2022年当時、安倍会長の意向で裏金還流を止める方針が決まった後、安倍氏が死去して還流が復活した経緯については、派閥幹部と事務局長が集まって検討したものの、いつ、決めたかはっきりしないといった説明が繰り返された。

一方、29日に行われた政治倫理審査会では、岸田首相が歴代総理大臣として初めて出席したが、事実関係については、党の聴き取り調査をなぞる説明がほとんどだった。

また、自民党総裁として、今後の実態解明の取り組み方や政治改革の目指すべき方向を明らかにすることもなかった。

政治倫理審査会が鳴り物入りで開かれたが、安倍派の裏金作りはいつから始まり、どのような経費に使われたのか、誰が政治責任を取るのか、かねてからの疑問点は全く明らかにされなかった。

「裏金の実態解明という宿題」は全く進んでいない。こうした原因は、自民党の聴き取りなどの調査が2月になってようやく始まるなど岸田首相や党執行部の後ろ向きな姿勢が大きく影響していることを改めて強調しておきたい。

 予算通過、主導権発揮に強いこだわり

次に、新年度予算案をめぐる与野党の攻防をどうみるか。岸田首相は、予算案の年度内成立、実際には自然成立となる衆院通過の時期に強いこだわりをみせた。

具体的には、予算案は3月2日までに通過すれば自然成立となるが、2日は土曜日なので、前日1日の通過をめざし、委員長職権で委員会の開催を決定した。

これに対して、立憲民主党は委員長解任決議案などを提出して抵抗したため、深夜にもつれ込んだ後、異例の土曜日、2日の採決となった。

自然成立は予算案が自動的に成立するメドであり、実際には、参議院が独自性を発揮して審議時間を短縮するので、多少ずれ込んでも年度内成立は可能だ。

それでも、2日までの成立にこだわって突き進んだのは、内閣支持率の低迷に加えて、この国会では裏金問題で野党の攻勢が続いていることから、何とか政権の主導権発揮を印象づけたいねらいがあるものとみられる。

一方、今回は、首相官邸と自民党執行部との連携が機能していない場面が目立った。例えば、政治倫理審査会に出席する派閥幹部の顔ぶれが二転三転、与野党が大筋合意していた日程が見送られたほか、岸田首相が突如、出席を表明し与野党双方の関係者を驚かせた。

政倫審の出席者の調整などは、本来、党務を預かる幹事長の役割だが、茂木幹事長が調整に当たる場面は見られなかった。今後は、裏金問題に関与した議員の処分を決める難問が控えている中で、首相官邸と党執行部の調整が順調に進むのか、危ぶむ声も聞かれる。

 裏金問題の処分、政治改革も本格化

予算案の衆院通過後の国会はどのような展開になるか。当面は、参議院予算委員会に舞台を移して、引き続き裏金問題が論戦の中心になりそうだ。

具体的には、裏金問題に関与した議員に対する処分の扱いや、岸田首相の政治責任をめぐって、野党側の追及が続きそうだ。このうち、処分の問題については、岸田首相も検討する考えを表明しているが、安倍派や二階派の反発も予想され、難問だ。

また、参議院では、安倍派幹部の世耕元参議院幹事長の政治倫理審査会での弁明が行われる見通しだ。但し、衆議院での安倍派幹部と同じような答弁に止まることが予想され、新たな事実が明らかになる可能性は低いとみられる。

一方、衆議院では、自民党の浜田国会対策委員長と立憲民主党の安住国会対策委員長が2日に会談し、政治資金問題で参考人招致の協議を続けるとともに、政治倫理審査会への出席の申し出があった場合は、弁明と質疑を行うことを申し合わせた。

新たに5人程度の自民党議員が審査会での弁明を申し出ており、来週以降、審査会が開催される見通しだという。野党側としては、当面、安倍派の事務総長経験者の下村・元政調会長の参考人招致を要求する方針だ。

このほか、野党内では、二階派会長の二階・元幹事長や、森元総理の参考人招致や証人喚問を要求する意見があり、調整が行われる見通しだ。

さらに、自民、立民の国対委員長会談では、4月以降、衆議院に政治改革を議論するための特別委員会を設置することを申し合わせた。この特別委員会で、再発防止の具体策や法整備の内容について、本格的な議論が始まる見通しだ。

このほか、今の国会では、春闘での賃上げと経済運営をはじめ、子ども・子育て法案や、25年ぶりの改正となる食料・農業・農村基本法改正案など重要法案の審議も控えている。

以上、見てきたように予算案の衆院通過後の国会は、裏金問題と政治改革に加えて、内外の多くの課題が議論になる見通しだ。岸田政権が賃上げなどをテコに反転攻勢をみせるのか、それとも野党が政治改革などを軸に攻勢を続けるのかが焦点だ。(了)

 

 

 

ようやく政倫審”後手と迷走”

自民党派閥の裏金問題で、衆議院の政治倫理審査会が28日と29日に開かれ、安倍派と二階派の幹部5人の弁明が行われる見通しになった。審査会を公開するかどうかなどについて、与野党の間で詰めの調整が続く。

政治倫理審査会開催への動きは一歩前進だが、まだ当事者の弁明を聞く舞台作りで、ようやく合意に達した状態だ。国会召集から早くも1か月近くが経過、「あまりに遅い」というのが率直な印象だ。

こうした背景には、岸田政権の小出しの対応と、基本方針がはっきりせず、決断や覚悟のなさが迷走につながっているようにみえる。ここまでの動きを点検し、何が問われているかを探ってみたい。

政倫審、出席議員の顔ぶれと公開の是非

衆議院の政治倫理審査会をめぐって、自民党は22日までに、安倍派の座長を務めた塩谷元文科相と、安倍派「5人衆」と呼ばれる松野前官房長官、西村前経産相、高木前国会対策委員長の3人、それに二階派事務総長の武田元総務相の合わせて5人が出席する意向だと野党側に伝えた。

参議院では、安倍派「5人衆」の1人、世耕・前幹事長も出席の意向を明らかにしている。

野党側は、派閥からのキックバックを受けながら政治資金収支報告書に記載しなかった自民党議員82人のうち、衆議院議員51人全員について、出席の意向を確認するよう要求した。また、安倍派「5人衆」全員と二階派会長の二階元幹事長らの出席を求めた。

自民党が示した対象者からは、安倍派の萩生田前政調会長と二階元幹事長は外れている。自民党は「派閥の事務総長、または経験者」で線引きしたものとみられるが、その場合、安倍派の事務総長経験者である下村元文科相は外れているなどの矛盾もある。

今回の対象者で、国民は納得するかといった問題も残されており、与野党の協議が続くものとみられる。

政治倫理審査会が開かれると衆議院の場合、2009年以来となる。参議院で開かれると初めてのケースだ。政治倫理審査会は原則非公開だが、本人の了承が得られれば、公開された先例もある。

このため、野党側は公開を求める方針で、与野党で折衝が行われる見通しだが、非公開となると、世論の反発も予想される。

一方、政倫審が開かれた場合、野党側は、裏金問題の実態解明につながるような審査を行うことができるのかどうか、力量を問われることになる。

小出しの対応、政権の強い指導力見えず

さて、ここまでの与野党の対応をどのように評価するか。まず、岸田首相や自民党執行部の対応は小出しの対応が多く、実態解明に積極的な姿勢は見られなかった。

今年の通常国会は、自民党派閥の裏金問題を受けて、異例の幕開けとなった。通例では召集日に行われる首相の姿勢方針演説を後回しにして、衆参両院の予算委員会で「政治とカネ」の集中審議を国会冒頭に行った。

その集中審議で、岸田首相は今回の事態を陳謝したうえで「関係議員から聴き取り調査を行うことを通じて実態を把握し、政治的な責任について考えたい」と表明した。

ところが、自民党所属の全議員を対象としたアンケート結果がまとまったのは2月13日、関係議員からの聴き取りの結果がまとまり、公表されたのは2月15日と大幅に時間がかかった。アンケートといっても質問はわずか2問だけ、聴き取り調査も核心に触れる内容はなかった。

政治倫理審査会についても野党側の申し入れがあって検討を始めるという受け身の対応が目立ち、議員に対する出席の意向確認も遅れた。

岸田政権がこうした対応をとったのは、新年度予算案の年度内成立が第1の目標で、予算案の衆議院通過が最優先の課題のためだ。そのための「時間稼ぎ」、その間に予算審議の時間を重ねる、ねらいがあるものとみられる。

実態把握の調査や政治倫理審査会の対象者への打診などは、森山総務会長が中心になって行われた。但し、安倍派幹部から、自らの派閥の問題なので、進んで説明責任を果たしていくような動きは見られなかったという。

一方、岸田首相や茂木幹事長ら党の執行部も、対象者を決める判断基準や基本方針を示したり、党内調整で強い指導力を発揮したりするような場面はみられなかった。

政倫審めぐる与野党折衝で、自民党側は当初は出席者は2人と伝え、野党の反発を受けると人数を増やすといった迷走もみられた。党内からも「岸田首相や党役員はもっと指導力を発揮しないと、国民の納得を得るのは難しいのではないか」との批判の声も聞いた。

実態解明、政治改革の集中的取り組みを

それでは、これからの取り組みはどうなるか。政治倫理審査会が開催されても、実態解明が一気に進むとは限らない。その場合、必要があれば、新たな幹部から説明を求めることも必要になるだろう。

また、予算委員会など別の場で参考人招致、証人喚問なども必要になるかもしれない。こうした取り組みが実現するかどうかは、野党側の連携や結束力が試されることになる。リクルート事件の際には、中曽根元首相、竹下元首相などの証人喚問が行われた先例もある。

こうした実態解明が、第1段階だ。第2段階は、裏金の実態などを踏まえて、政治資金規正法の「抜け道」などを防ぐ再発防止策と政治改革が焦点になる。

再発防止の法整備については、既に野党各党と、与党の公明党はそれぞれ、具体策や方針をとりまとめている。

自民党の対応だけが遅れており、党の刷新本部で検討を進めている段階だ。自民党が早急に改革案をとりまとめて、与野党の合意を図る取り組みが必要だ。

主な項目は、◇政治資金パーテイーの是非や、パーテイー券購入者の公開基準の引き下げ、◇政治資金をめぐる不正があった場合、会計責任者だけでなく、議員も罰則を適用できるようにすること、◇政策活動費の使途の公開、◇政治資金収支報告のデジタル化、◇それに懸案の旧文書・通信・文通費の扱いなどだ。

こうした対応策については、ダラダラと時間をかけずに短期集中型で合意をとりまとめ、成果を上げることが極めて重要だ。目に見える成果が得られないと国民の政治不信はさらに強まり、民主主義そのものが機能不全となる恐れがある。

また、この国会は、賃上げと日本経済活性化の取り組み、子ども・子育て支援制度の創設、農業基本法の改正、さらには、ウクライナやガザなどの外交問題といった数多くの法案や課題を抱えている。こうした懸案の議論を深める必要がある。

報道各社の今月の世論調査をみると、岸田内閣の支持率は政権発足以降、最も低い20%台前半まで落ち込んでいる。裏金問題への岸田首相の対応については「評価しない」が7割から8割にも達していることを重く受け止める必要がある。

これから政治倫理審査会での実態解明と政治改革をめぐる議論が、大きなヤマ場を迎える。与野党が議論を徹底して深めたうえで、再発防止の政治改革については、国民の信頼をつなぎとめるためにも一定の成果を上げるよう強く注文しておきたい。(了)

★追記(26日23時)以上の原稿は、23日(金)午前0時出稿。26日(月)夜の時点で全体状況は、以下の通り。政治資金問題を受けて、衆議院の政治倫理審査会は26日、与野党が開催のあり方について協議をしたが、公開の是非をめぐって折り合いがつかず、引き続き協議を行うことになった。            ★追記(27日21時)政治資金問題で、与野党は28、29両日、衆議院の倫理審査会を開く方向で協議を続けてきたが、公開のあり方などをめぐって調整がつかず、28日の開催は見送られることになった。                  ★追記(28日22時)衆議院の政治倫理審査会は28日午前、岸田首相が突如、審査会に自ら出席する意向を明らかにした。これを受けて、これまで公開での出席に慎重な姿勢を示していた派閥幹部4人も出席する考えを示し、29日と1日の両日、審査会が開催されることになった。報道機関にも公開する形で行われる。★追記(29日21時)29日に開かれた衆議院政治倫理審査会で、岸田首相は、自民党の派閥による裏金問題について、党の聴き取り調査の内容を繰り返す場面が多く、事実の解明につながる新たな事実を語ることはなかった。          二階派の事務総長を務める武田・元総務相は、収支報告書の不記載について「二階会長も私も、会計責任者から説明を受けることはなく、全く関与していない」とのべた。                               ★追記(3月1日午後11時半)衆議院の政治倫理審査会が1日開かれ、自民党安倍派の事務総長経験者4人が出席した。西村・前経産相、松野・前官房長官、塩谷・元文科相、高木・前国対委員長は、いずれも会計処理には関与していなかったと釈明した。野党側は「真相究明に後ろ向きだ」と強く反発している。

裏金問題”首相対応 評価せず7割”

自民党派閥の裏金問題を受けて、国会は衆院予算委員会を舞台に岸田首相と野党側との間で、論戦と攻防が激しさを増しているが、国民は今回の問題をどのようにみているのだろうか。

NHKの2月世論調査が公表されたので、そのデータを基に世論の受け止め方や、岸田政権に及ぼす影響などを考えてみたい。(2/10~12日実施)

まず、2月の世論調査をみて感じるのは、自民党や岸田政権に対する国民の視線が一段と厳しくなっていることだ。

世論調査は▲まず、自民党内では派閥から受け取った収入を収支報告書に記載していなかった議員が相次いでいるが、こうした議員が説明責任を果たしていると思うかどうかを聞いている。

回答は◆「果たしている」はわずか2%で、◆「果たしていない」が88%に上った。

▲次に、自民党「政治刷新本部」が中間とりまとめで、派閥をカネと人事から完全に決別させることなどを決めたことについては、◆「評価する」が36%に対し、◆「評価しない」が58%と上回った。

▲さらに、自民党の政治資金パーテイーの問題に対する岸田首相の対応については、◆「評価する」が23%に対し、「評価しない」が69%、7割に達した。

こうした厳しい評価となった背景としては、この問題が発覚したのは去年11月中旬で、岸田首相も先頭に立って取り組むと年末に表明しながら、実態把握の調査を始めたのは今月に入ってからと、あまりの対応の遅さに対する国民のいらだちや不信が影響しているものとみられる。

 内閣支持率25%、不支持率最高の58%

一方、岸田内閣の支持率は、先月より1ポイント下がって25%だったのに対し、不支持率は2ポイント上がって58%、去年12月と並んで岸田内閣で最も高くなった。政治資金問題への対応の評価が影響しているものとみられる。

岸田内閣は、支持率より不支持率が上回る「逆転状態」が、去年7月以降8か月続いている。また、政権運営に当たって危険ラインとされる30%を下回るのは、4か月連続になる。

さらに、支持率の中身をみても、政権の基盤となる自民支持層のうち、岸田内閣を支持している割合は、5割に止まっている。安倍政権や、岸田政権の発足当初は、7割から8割に達していたので、政権の体力が低下していることが読み取れる。

 政治倫理審査会が焦点、紆余曲折も

それでは、岸田政権のこれからの対応はどうなるか。自民党は13日、党所属のすべての議員を対象に行ったアンケート調査の結果を野党側に伝えた。現職の国会議員82人に不記載があったというもので、既に明らかにされていた内容だ。

野党側は、調査が極めて不十分だとして、衆議院の政治倫理審査会を開き、安倍派の幹部や二階元幹事長らが出席して説明するよう求めており、自民党が政治倫理審査会の開催に応じるかどうかが、焦点になっている。

今回の世論調査で明らかになったように、国民は関係議員の説明を強く求めており、岸田首相や自民党側も最終的には、政治倫理審査会の開催には応じるとの見方が与野党の関係者から聞かれる。

但し、政治倫理審査会は、関係議員の招致を決めても強制力はないため、何人の幹部が応じるかどうかなどは不明で、紆余曲折があるものとみられる。

野党側は、自民党側が十分な説明責任を果たさない場合は、新年度予算案の審議に影響が出ることもありうると強い構えをみせている。

以上、みてきたように当面、政治倫理審査会の開催と、岸田首相がどこまで指導力を発揮できるかどうかが焦点だ。(了)

“裏金解明 覚悟見えず”岸田首相

国会は5日から衆議院予算委員会に舞台を移して、岸田首相と与野党の委員との間で、一問一答方式による本格的な論戦が始まった。

焦点になっている自民党の政治資金パーテイーの裏金問題について、岸田首相は、この国会で政治資金規正法の改正を実現すると強調したものの、実態調査の進め方をめぐって消極的な対応が目立ち、実態解明に真正面から取り組む姿勢や覚悟は見られなかった。

ここまでの論戦の特徴と、今後の与野党の攻防はどのような展開になるのか、探ってみたい。

自民全議員の調査、 質問わずか2問だけ

衆院予算委員会の質疑の中で野党各党は、自民党の裏金問題について「自民党が自ら事件の全容を明らかにすべきだ」と要求するとともに、自民党総裁の岸田首相や、派閥の幹部の政治責任を明らかにするよう迫った。

これに対し、岸田首相は「国民から厳しい批判を受けており、自民党は変わらなければならないという思いを持って、党の中間とりまとめを実行する。今の国会で政治資金規正法をはじめとする法改正を実現していく」と強調した。

そのうえで「自民党としても実態を把握しなければならない」として、派閥からキックバックを受けていた議員で政治資金収支報告書を修正した「議員リスト」91人分を提出した。

これに対し、野党側は「リストは過去3年分だけで、参議院選挙の年のデータが含まれないなど極めて不十分だ」として、過去5年分を出し直すよう求めている。

また、自民党は5日から党所属の全ての議員を対象にしたアンケート調査を始めたが、この設問内容をみると「収支報告書への記載漏れの有無」と「過去5年の不記載額」を尋ねる、わずか2問だけに止まっている。

野党側は、裏金をつくった経緯や、資金をどのように使っていたかなどについては聞いておらず、「実態を解明する気があるのか」と強く反発している。

これに対して、岸田首相は7日の答弁で「アンケートとは別に、外部の弁護士も参加して聴き取り調査を行っており、結果は第三者にとりまとめをお願いする。党として実態を把握し、説明責任、政治的な責任について適切に対応したい」と釈明した。

自民党の裏金事件は、去年11月から東京地検特捜部が5つの派閥の関係者から任意の事情聴取を始めるなど既にかなりの時間が経過している。それにもかかわらず、今月に入ってアンケート始めるのは余りにも対応が遅すぎる。

また、質問内容もわずか2問だけでは、実態解明に真正面から取り組む姿勢や覚悟がないと言わざるを得ない。

事実解明型の審議、政治のけじめが必要

それでは、国会の審議や与野党の攻防はどのような展開になるか。衆院予算委員は、9日に外交や農業などをテーマに集中審議を行った後、14日に政治資金問題の集中審議を行うことが決まっている。

自民党は、関係議員からの聴き取り調査と第三者によるとりまとめと、アンケート調査の結果を週明け13日以降にまとめる見通しだ。

これに対して、野党側は「調査結果が不十分であれば、予算審議にも影響が出てくる」とけん制しており、場合によっては、予算審議をストップさせる対応もありうるとの見方も出ている。

一方、自民党は、7日に行われた公明党との定期協議で、国会の政治倫理審査会で、不記載の関係議員が説明することを検討していることを伝えた。

こうしたことから、裏金問題は当面、14日の集中審議で、裏金問題の実態がどこまで明らかにされるかが焦点になる見通しだ。そして、野党側から、調査のやり直しや審議拒否なども予想され、与野党の駆け引きが激しくなりそうだ。

一方、野党側としても実態調査とは別に、政治倫理審査会の場で、裏金の関係議員の出席を求めて説明を求めるべきだという意見が出されている。

さらに与野党双方とも再発防止の対応策を協議する場を設けるべきだという意見もあることから、こうした点も含めて与野党の協議が行われる見通しだ。

国民からすると政治とカネの問題は、ロッキード事件やリクルート事件などを経て90年代はじめに、政治改革関連法が成立した。そして、国民の血税を政党に助成することまで踏み込んだのに、未だに違法行為を組織的、かつ長期に続けている議員に強い不信感と怒りを覚える人が多いように見える。

したがって、国会が取り組むべきことははっきりしている。まずは、政治腐敗、政治資金規正法に違反する行為はいつ頃から行われ、何に使っていたのか、実態を明らかにすることが必要だ。

そのためには、これまでのような事実関係を曖昧にしたまま、小手先の妥協策で終えるのではなく、「事実の解明型の審議」を行うことが不可欠だ。

具体的には、ロッキード事件を受けて昭和60年に国会議員自らが定めた「政治倫理綱領」と政治倫理審査会がある。「疑惑が持たれた場合には、自ら疑惑を解明し、その責任を明らかにするよう務めなければならない」と定めている。

疑惑を指摘された議員は全員、自ら申し出て弁明してはどうか。また、疑惑の解明を進めるために必要であれば、派閥幹部を参考人として招致、あるいは証人喚問なども行い、国民の政治不信をなくす具体的な取り組みを取ってはどうか。

自民党は、実態調査などは小出しにする対応が目立つが、その理由は、新年度予算案を衆院通過させ、年度内に成立させるのが一番の目標で、そのための時間稼ぎをねらっているのではないかとの見方も聞く。

しかし、岸田内閣の支持率は急落したまま低迷しているほか、今度は、森山文科相と旧統一教会との関係が新たな問題として急浮上しており、裏金問題など相次ぐ不祥事に時間をかけて対応するような状況にはない。

今回の裏金問題は、自民党の派閥が起こした不祥事であり、岸田首相と自民党執行部は、実態解明に積極的に取り組む必要がある。

また、再発防止の政治改革案は、他の各党は既にとりまとめているので、自民党は、直ちに改革案をまとめて与野党協議に臨むことも必要だ。

裏金問題の実態解明と政治改革にできるだけ早くメドをつけ、政治が本来、取り組むべき、新年度予算案の内容や、内外の政治課題に取り組んでもらいたい。(了)

”裏金”実態解明めぐる攻防激化へ

自民党の派閥の政治資金裏金事件を受けて、異例の幕開けとなった通常国会は、2日までに冒頭部分の与野党の論戦を終えた。

これまでは召集日に首相の施政方針演説を行うのが通例だったが、今回は「政治とカネ」の問題で、野党側の要求を受け入れて衆参両院で集中審議を行った後、岸田首相の施政方針演説と、これに対する各党の代表質問が行われた。

その異例の幕開けとなった論戦だが、焦点の裏金問題で、岸田首相の答弁に新味があったのは、キックバックを受けた議員から聴き取り調査を行うことを自民党執行部に指示した程度で、踏み込んだ発言はほとんどみられなかった。

岸田首相は施政方針演説では、今回の事件を陳謝したうえで「自民党の派閥、政策集団が、お金と人事から完全に決別することを決めた」とのべ、政治への信頼回復をめざしていく考えを強調した。

但し、政治資金の透明化や、連座制の導入、政策活動費の使途の公開などの各論になると「各党との協議に真摯に参加する」などとして、具体案には踏み込まなかった。

このように岸田首相の答弁は、事件の実態解明や、政治改革の内容ともに慎重な姿勢が目立った。国民の政治不信を払拭していくため、自ら強いリーダーシップを発揮していく強い覚悟や熱意は、残念ながら伝わって来なかった。

政治改革が大きなテーマになっているこの国会で、与野党の攻防はどうなるのか、どこがポイントになるのか探ってみたい。

 予算委の論戦・攻防、実態解明が焦点

国会は週明けの5日からは、衆議院予算委員会に舞台を移して、新年度予算案の審議を始めることで与野党が一致している。

野党側は、裏金事件を最重点に攻勢に出る構えで、自民党所属の全ての議員を対象に調査を行い、派閥からキックバックを受けていた議員の人数などを5日までに明らかにするよう求めている。

これに対して、自民党は2日から、森山総務会長ら党執行部の役員6人が、3つのチームに分かれて、政治資金収支報告書に不記載があった議員への聴き取り調査を始めた。安倍派と二階派、岸田派の議員ら80人余りを対象に行い、来週中のとりまとめをめざしている。

また、自民党は、来週、党所属の全ての議員を対象に裏金受領の有無を確認するアンケートも実施する方針だ。

さらに、安倍派幹部などについては、キックバックが始まった経緯や、収支報告書に記載しなかった理由などについても説明を求める方針だ。党執行部としては、こうした調査結果を踏まえて、党の処分も検討するものとみられる。

これに対して、野党側は、全ての議員を対象に十分な調査が行われたのかどうかを質すとともに「調査内容が不十分な場合には、予算審議にも影響が出てくる」とけん制している。

また、野党側は、事件の全容を解明するため、安倍派や二階派の幹部を参考人として、委員会に招致するよう求める構えだ。このように国会は、予算委員会を舞台に裏金事件の実態の解明や、そのための取り組み方をめぐって、与野党の駆け引きが激しくなる見通しだ。

 安倍派活動停止、裏金経緯の説明なし

こうした中で、自民党内で最大勢力を誇ってきた安倍派は1日、最後となる議員総会を開き、派閥としての活動を停止し、解散への手続きを進めることを決めた。

これに先立って、安倍派は31日、2018年から22年までの5年間で、国会議員の関係団体に支出した総額6億7千万円余りが、政治資金収支報告書に不記載だったと発表した。

このうち、公開している2020年から22年までの3年分については、不記載のパーテイー収入4億3千万円余りがあったとして、訂正を総務省に届け出た。

安倍派をめぐっては、東京地検特捜部の捜査で、高額なキックバックを受けていた議員3人と、派閥の会計責任者が立件されたものの、派閥の幹部議員は刑事責任を免れた。

一方、裏金作りがいつ頃から始められ、派閥幹部がどのように関与していたのかといった経緯や実態などについては、これまで説明されてこなかった。

さらに最後の議員総会でも、派閥としての政治責任については全く、明らかにしないまま、解散する公算が大きくなっている。自民党としても今回の裏金事件の政治責任をどのように明確にするのか、予算員会の論戦で問われることになる。

国会は、こうした裏金事件の実態解明と政治責任の問題とともに、政治資金規正法の改正など政治改革の内容も大きな焦点になる。また、予算委員会とは別に与野党が、政治改革をめぐる協議の場を設けることも話し合われる見通しだ。

政治改革の内容については、既に与党の公明党や、野党各党はそれぞれ具体的な方針を決めているのに対して、自民党はとりまとめが遅れている。

具体的には、◆パーテイー券の購入者の公開基準の引き下げ、◆政治資金をめぐる国会議員の責任を明確にするため連座制の導入、◆政策活動費の使途の公開などについて、早急に具体案のとりまとめが求められている。

以上、みてきたように自民党は、派閥の解散・活動停止の動きが広がる中で、事件の実態解明と、政治改革に踏み込んだ対応策を打ち出せるかが問われている。

一方、野党側は、立憲民主党と維新の会などが足並みをそろえて、自民党の譲歩を迫ることができるのかどうか。与野党ともに、この国会で最初の大きな節目を迎えている。(了)

 

”裏金 実態の説明とけじめ”が焦点 国会論戦

今年前半の政治の主な舞台となる通常国会が26日に召集された。召集日は、首相の施政方針演説が行われるのが通例だが、自民党の派閥の裏金事件を受けて見送られた。

代わって、29日に衆参両院の予算委員会で「政治とカネ」をめぐる集中審議を行い、翌30日に岸田首相の施政方針など政府4演説を行う異例の幕開けになった。

自民党の裏金事件をめぐっては、東京地検特捜部の捜査が国会召集直前まで続いた。また、岸田首相が突如、自らの派閥解散を宣言したのをきっかけに安倍派、二階派、森山派も相次いで解散を決めるなど政権与党の動揺が続く中で、国会論戦が始まることになった。

激動が予想される中で通常国会は、どこがポイントになるのか。結論を先に言えば、裏金事件については、実態の解明と説明が十分に行われるのかどうか。そのうえで、政治家の政治責任にけじめをつけられるのかどうかが、大きなカギを握っているとみている。

 与野党攻防、実態解明をめぐる綱引き

通常国会が召集された26日、岸田首相は自民党の両院議員総会で「政治とカネの問題で国民は、自民党に厳しい目を注いでいる。政治資金の透明化など各党・会派と議論して進めるべきものは進めていく」とのべるとともに「日本の重要課題にしっかりと立ち向かっていく」と結束と協力を呼びかけた。

これに対し、野党第1党・立憲民主党の安住国会対策委員長は「岸田首相は、事件の全容解明のために、自民党の議員のどれくらいが事件に関わったのか調査チームなどを設けて国会に示して欲しい。それがなければ予算委員会は順調に運ばないのではないか」と自民党をけん制した。

この二人の発言から、今国会に臨む双方のねらいや展開が読み取れる。岸田首相としては、自民党総裁の直属機関として設置した政治刷新本部が決定した「中間とりまとめ」を基にこの国会を乗り切りたい考えだ。

中間とりまとめでは、政治資金の透明化を進める一方、「自民党は派閥ありきの党から完全に脱却していく」ことなどを強くアピールしている。

これに対し、立憲民主党などの野党側は「事件の本質は、派閥の解散などにあるのではなく、パーテイー収入を裏金として組織的、意図的にキックバックしてきた違法行為にある」として、自民党に事件の調査と結果の説明を強く迫る構えだ。

国会の序盤では、事件の概要・実態をはじめ、岸田首相の自民党総裁としての責任、実態解明の進め方などをめぐって与野党の激しい綱引きが続く見通しだ。

 実態調査と説明、政治家の責任がカギ

この問題で、国民の受け止め方はどうか。多くの国民は、ロッキード事件、リクルート事件など連綿と続くスキャンダルにあきれる一方、政治とカネの問題に早く決着をつけ、山積している懸案へ全力で取り組むことを期待していると思われる。

そうであれば、まずは、今回の事件について検察の調べとは別に、自民党は自ら党所属の議員を対象に調査を行い、その結果を国民に説明することが必要だ。不祥事を起こした企業、団体のほとんどが、こうしたことは行っている。

また、国民の政治不信を払拭していくためには、刑事責任とは別に、国会議員が政治的・道義的責任を明確にすることも必要だ。

岸田派、安倍派、二階派の会計責任者は、政治資金規正法の違反容疑で、起訴、または略式起訴となったが、派閥の幹部議員は、いずれも刑事責任を免れた。

安倍派では安倍元首相が派閥の会長に戻った時に、キックバックの廃止を決めたものの、安倍氏の死去後、復活させた。この経緯についても安倍派幹部は、検察の事情聴取に対して「会長案件だった」などとして、自らの関与は否定したとされる。

安倍派の場合、今回の事件について政治責任を取る幹部議員は一人もおらず、事件の事実関係についても詳しい説明が行われていない。これでは、自民党が中間とりまとめなどで「国民に深くおわびし、信頼回復に取り組む」と繰り返しても信用されないだろう。

「政治とカネ」の問題は、事件が起きたときに実態の解明と説明、それに政治家の政治責任を明らかにすることが大前提になることを強調しておきたい。

そのうえで、今後、与野党の間では、事件の実態解明や再発防止策の協議の進め方をめぐって意見が対立し、国会運営面で大きな問題になってくるとみられる。

具体的には、自民党側から「検察の捜査以上に実態を調べることには限界がある」として、再発防止の中身の議論を優先するよう求めることが予想される。

個人的な体験で恐縮だが、ロッキード事件以降、政治とカネの取材を続けてきた。再発防止策は曖昧決着となるケースが多く、同じような不祥事が繰り返されてきた。政権与党は「曖昧なまま先送りにすることにかけては、天才的能力を持っている」というのが、率直な印象だ。

このため、「政治とカネ」の問題では「取り組みの順序」が極めて大事だ。事件の実態を調べるとともに、問題点や抜け穴などの点検、確認が不可欠だ。そのうえで、再発防止の具体策を考えていくことが重要だ。

こうした一方で、再発防止策を整備するためには、野党各党がどこまで連携して自民党に迫ることができるかどうか、野党の連携、共闘体制が必要になる。立憲民主と維新との足並みがどこまでそろうかがポイントになる。

 再発防止と政治改革、実効性がカギ

それでは、再発防止と政治改革の実現にむけて、どのような取り組みが必要だろうか。再発防止の内容については、これまで何回も問題になってきたこともあって、与野党とも大筋で共通認識ができているようにみえる。

具体的には、◆政治資金集めのパーテイー券の購入については、購入者の公開基準を今の20万円から引き下げること。◆政治資金規正法については、会計責任者だけでなく、国会議員も責任を負う連座制を導入すること。

◆政党から議員に渡される政策活動費については、使途の公開などを図る。◆政治資金の透明化を徹底するため、オンライン申請とデジタル化を進めること。

こうした一方で、◆企業団体献金については、禁止を求める野党側と、継続を求める自民党側との間で、大きな隔たりがある。

企業団体献金の扱いを除いては、与野党の問題意識は多くの点で共通している。今後、内容面の詰めの議論を行い、与野党が実効性のある対応策をとりまとめることができるかどうかが大きな焦点だ。

最後に今の政治情勢だが、岸田首相は、派閥の解散を打ち出すことで、政権への追い風を期待したようだが、世論は反応せず、内閣支持率は低迷したままだ。一方、野党各党も政党支持率が上がらず、政権批判の受け皿になり得ていない。

この国会は「政治とカネ」の問題を中心に激しい論戦と駆け引きが繰り広げられる見通しだ。国民が、果たして政権与党と野党のどちらの主張に軍配を上げるか。その結果は、今年の政治の流れを大きく左右することになりそうだ。(了)

“カギは政治責任” 派閥幹部立件見送り

自民党の派閥の政治資金パーテイーをめぐる裏金事件で、東京地検特捜部は19日、政治資金規正法違反の虚偽記載の罪で、安倍派と二階派の会計責任者を在宅起訴し、岸田派の元会計責任者を略式起訴した。

一方、安倍派の幹部7人や二階元幹事長など派閥の幹部については、会計責任者との共謀は認められないとして、立件を見送る判断をした。これによって、検察の捜査は事実上、終結し、今後は政治の側、国会を舞台に与野党の議論や攻防に焦点が移る見通しだ。

こうした中で、岸田首相は18日夜、自らが会長を務めていた「宏池会」=岸田派でも政治資金収支報告書の不記載があったことから、派閥の解散を検討していることを記者団に明らかにした。

派閥解散の意向は、他の派閥幹部にも伝えられていなかったことから、党内に大きな衝撃をもって広がり、蜂の巣をつついたような状況になった。果たして、岸田首相は主導権を確保できるのか、逆に求心力を失うのか、混沌としている。

さて、私たち国民は、こうした政界の一大スキャンダルをどう受け止め、対応していけばいいのか。大事なことは、問題の核心は何かを見抜くこと。今回は「事件の実態と政治の責任」、特に「政治の責任」に関心を持ち、監視していくことが必要ではないかと考えている。

 納得いかない検察処分、どうするか?

今回の東京地検特捜部の処分では、裏金事件を起こした安倍派と二階派、岸田派の主要幹部議員はいずれも立件を逃れる形になった。「刑事処分を受けるのは会計責任者、まさにトカゲの尻尾切り、納得がいかない」と受け止めた国民は多かったのではないか。

東京地検特捜部も派閥幹部の立件に向けて、捜査を尽くしたと思うが、肝心の法律、政治資金規正法がかねてから”ザル法”と呼ばれてきたように、会計責任者が責任を取り、議員の責任は問いづらい立て付けになっている。

このため、会計責任者と派閥幹部の共謀を証明する証拠を集めることが難しかったので、立件を見送らざるをえなかったものとみられる。今後、検察審査会への申し立てが行われれば、捜査が再度、行われる可能性がないわけではないが、立件となる保証はない。

そこで、捜査が十分だったかどうかは検察審査会に委ね、今後は、政治の場、国会での与野党の議論や法改正の内容などを考えた方が生産的だ。政治の信頼を失墜させた責任は大きく、刑事責任を免れても「政治的道義的責任」を問われることは十分ありうる。

その場合、議論の仕分けや進め方の順番をきちんとしておかないと「それぞれの立場の意見の表明や、駆け引きが延々と続き、結局、曖昧なまま先送り」となりかねない。

 実態解明と政治責任、順序が重要

それでは、政治の場でどのように取り組みを進めるべきか。結論を先に言えば「実態の解明と政治責任」を明確にしたうえで、「再発防止や改革」を考えていく順番が重要だ。

今回も、各党の再発防止や改革案の中身の議論を急ごうとする動きもあるが、これをやってしまうと、不祥事の実態を踏まえていないので、制度・形だけ整ったが、使い物にならない恐れがある。

「実態の解明」、例えば、安倍派の裏金作りと還流の実態はどうなっていたのか、肝心な点は明らかになっていない。

安倍元首相が首相を辞めて派閥の会長に就任した後、裏金のキックバックの廃止を決めたものの、銃弾に倒れて死去した後、派閥幹部が協議して還流を再開したとされるが、誰が関与したのか。

また、安倍派の参議院議員は、選挙がある年はノルマを上回った分だけでなく、全額キックバックの優遇を受けていたとされるが、どのような経緯で決めたのか。

検察の事情聴取に対し、安倍派の事務総長や経験者らの幹部は「知ってはいたが、『会長案件』で、自分は関与していない」と説明したと伝えられている。自民党関係者から「まさに”死人に口なし”、亡き会長に責任を押しつける情けない対応」と批判の声も聞く。

リクルート事件の際には、中曽根元総理、竹下元総理の証人喚問も行われた。安倍派の幹部7人や、二階派、岸田派の幹部は、国会でどう説明するのか。説明が不十分であれば、参考人招致や証人喚問なども行うべきではないか、野党の力量も問われる。

「事件の実態」を明らかにするため、事実関係の解明を進めること、その上で、原因と問題点を明らかにするとともに「政治責任」をどう果たすのか、けじめをつけることが重要だ。

一方、再発防止や政治改革の中身は、かねてからの懸案で、与野党ともにやるべきことはわかっている。政治資金の透明性を高めること、連座制を導入して議員に対する罰則を問えるようにすることなどが主な柱になるとみられる。

 首相の派閥解散方針、問われる指導力

ところで、岸田首相が打ち出した自らの派閥の解散方針が、波紋を広げている。岸田派に続いて、安倍派や二階派も解散する方針を決めた。これに対して、麻生派と茂木派からは反発する声が出ているほか、森山派は様子見の構えだ。

自民党内では「今、国民は自民党の主張に耳を貸さない状態なので、派閥解散という大胆な対応は必要だ」と首相の決断を支持する意見がある。これに対して「事前の説明もなく、政権維持のため国民受けをねらった自己保身の方針だ」と反発する声も聞かれる。

野党からは「真相解明から目をそらすための目くらまし」あるいは、「自民党得意の論点ずらし」などの批判も聞かれる。

国民としては、どうみるか。岸田首相の発言は、メデイアの関心を引きつけ、その結果、低迷する支持率を一時的に引き上げる効果があるかもしれない。但し、最近の国民の目は肥えており、長続きはしないのではないか。

岸田首相は元々、派閥効用論者とみられており、首相就任後も派閥を離脱せず、先月急に会長を辞任した。通常国会を間近に控えて、今回の不祥事をどのような基本方針で乗り切るのか、その覚悟と党内の意見をとりまとめていく指導力が問われている。

自民党は近く政治刷新本部で、派閥の存廃を含めた党改革の議論に入り、26日の通常国会召集日までに中間報告をとりまとめる予定だ。派閥の存廃をめぐって党内に対立を抱えている中で、派閥のあり方について、どこまで踏み込んだ方針を打ち出せるかが焦点だ。

一方、通常国会は、自民党の裏金事件を受けて、今年は召集日当日の26日は開会式だけに止め、29日に先に「政治とカネ」の集中審議を衆参両院で行った後、翌30日に岸田首相の施政方針演説など政府4演説を行う異例の幕開けとなる。

まずは、焦点の「裏金事件の実態」はどうなっていたのか、政党、議員はどのように「政治責任」を果たしていくのかを明確にしたうえで、国民の信頼回復につながる具体策を打ち出せるか、しっかり監視していきたいと考えている。(了)

 

”危険水域”続く岸田政権  

新しい年・2024年は、元日に能登半島を震源地とする大地震に襲われ、発災から2週間余りたった今も多くの人が避難所での生活を続けている。

一方、年末から続いている自民党の裏金事件をめぐる東京地検特捜部の捜査は、大詰めの段階を迎えており、近く立件の方針が明らかになる見通しだ。

こうした大きな災害や事件が相次ぐ中で、国民は政治の対応をどのように受け止めているのだろうか?NHKの1月の世論調査がまとまったので、このデータを基に分析してみたい。

 支持率下げ止まりも、危険ライン続く

まず、内閣支持率からみていきたい。岸田内閣の支持率は、先月より3ポイント上がって26%だったのに対し、不支持率は2ポイント下がって56%となった。

岸田内閣の支持率は、去年11月に29%、12月に23%と政権発足以降、最低の水準を更新してきたが、今回は26%、ようやく下落に歯止めがかかった。但し、3%程度の上昇なので、誤差の範囲、事実上、横ばい状態だ。

岸田内閣は、支持率より不支持率が上回る「逆転状態」が、去年7月から7か月続いている。また、政権運営に当たって危険ラインとされる30%を3か月連続で下回っており、危険水域が続いているというのが実態だ。

さらに、支持率の中身をみても、政権の基盤である自民支持層のうち、岸田内閣を支持している割合は、5割に止まっている。安倍政権や、岸田政権の発足当初は7割から8割に達していたので、政権の求心力が大きく落ち込んでいる。

このため、岸田首相が秋の自民党総裁選で再選をめざすためには、自民支持層の支持を回復させないと、再選の道は相当難しいのが実状だ。

 災害対応、初期段階は一定の評価

次に、能登半島地震への対応だ。政府のこれまでの対応について、◇「大いに評価する」が6%、「ある程度評価する」が49%で、合わせて「評価する」は55%だ。

これに対して、「余り評価しない」は31%、「全く評価しない」は9%で、合わせて「評価しない」は40%となった。

このように地震対応について、「評価する」が過半数を上回ったことが、今回、内閣支持率の下落に歯止めをかけることができた主な要因だ。

但し、能登半島地震は16日時点で死者が222人に上ったほか、未だに被害の全容がつかめておらず、道路、水道などインフラ施設の復旧のめどもついていない。

厳しい寒さが続く中で、避難している人は1万6千人余りに上っており、避難所などで体調を崩して亡くなる災害関連死が増えることが懸念されている。こうした救援・復旧の進み具合で、政府の対応の評価は大きく変わる可能性がある。

 自民党の政治刷新、8割が信用せず

自民党の派閥の政治資金パーテイーをめぐる裏金事件を受けて、岸田首相は自民党に「政治刷新本部」を立ち上げ、再発防止や派閥のあり方などについて検討を始めた。

世論調査では、こうした取り組みが「国民の信頼回復につながると思うか」尋ねた。結果は◇「つながる」が13%に止まったのに対して、「つながらない」は78%に上った。国民の8割は、政治刷新の取り組みを信用していないことになる。

この「つながらない」と答えた人を支持層別にみてみると◇野党支持層では88%に上ったほか、◇無党派層で85%、◇自民支持層でも66%にも達している。

「刷新本部」は、本部長を岸田首相自ら務めるほか、最高顧問には、麻生派を率いる麻生副総裁と、無派閥の菅元首相が就任。党の役員もメンバーに入るので、各派閥のトップや幹部が顔をそろえた。

38人のメンバーのうち、安倍派が最も多い10人を占め、このうち9人は裏金のキックバックを受けていることが明らかになった。党内から「なんで、こんなバカなことをやるのか。規則破り、法律違反者に新たな規則づくりを委ねるようなもの。国民の理解が得られるはずがない」と厳しい声を聞く。

今から34年前のリクルート事件の際には、当時の竹下首相は党に「政治改革委員会」を設け、会長にベテランの後藤田正晴氏に就任を要請した。有識者の声を聞くため、首相官邸に私的諮問機関である賢人会議を立ち上げたほか、選挙制度審議会に選挙制度を検討してもらうなど3本柱で対応した。

このうち、後藤田氏は自民党の若手議員に自由に議論させ、その内容は後の政治改革大綱につながった。今回の岸田首相の「政治刷新本部」は、焦点の派閥のあり方を含め、国民の多くを納得させるような改革案をまとめることができるのか、危惧する見方は多い。

 2つの危機対応、舞台は通常国会へ

以上、みてきたように新年の政治は、当面、2つの危機対応が求められている。1つは、能登半島地震への対応だ。災害関連死などを防ぎ、早期の復旧・復興のめどをつけられるのか。自衛隊、警察、消防などの部隊の投入や展開などの危機対応は適切だったのか、検証や議論が必要だ。

もう1つは、裏金事件の真相究明と国民の政治不信の高まりへの対応だ。会計責任者とともに、国会議員、派閥の幹部の立件はどうなるのか、近く東京地検特捜部の結論が出される見通しだ。

検察当局の捜査とは別に、政治の場でも事実関係の解明と、議員や派閥幹部の責任が議論されることになる。そのうえで、再発防止策や、政治改革の実現へとつなげることができるかどうかも焦点になる。

通常国会が26日から幕を開け、これから半年間、与野党攻防の主な舞台となる。地震対応と、政治とカネ、さらに賃上げや経済政策、外交・防衛など多くの懸案・課題が待ったなしの状態だ。

岸田政権と与野党は、当面の問題については早期に結論を出し、政治が本来、取り組むべき懸案・課題を競い合う、メリハリの効いた政治をみせてもらいたい。(了)

 

“2つの危機対応”問われる岸田首相

新しい年・2024年は、厳しい年明けになった。1日夕方4時過ぎ、能登半島を震源とする最大震度7の強い地震が観測され、石川県では1週間たった8日時点で、亡くなった人は168人に増え、安否がわからない人が320人余りに上っている。

一方、昨年末に東京地検特捜部が着手した自民党の派閥の裏金事件は7日、高額なキックバックを受けていたとされる安倍派の池田佳隆・衆議院議員が、会計責任者の秘書とともに逮捕された。裏金事件で、国会議員が逮捕されたのは初めてだ。

支持率の低迷が続く岸田政権にとっては、裏金事件に加えて、新たに地震災害対応が重なることになった。この2つの危機を乗り切ることができるかどうか、今年の政治を大きく左右することになりそうだ。

令和で最大級の災害、問われる危機対応

能登半島地震の被災状況は、冒頭触れたように死者は8日午後2時時点で、168人に上る。100人を超す犠牲者が出た地震は、2016年4月の熊本地震以来で、令和に入って最大級の災害だ。

熊本地震では、大分県を含め死者は276人に上ったが、災害関連死が8割以上を占め、災害による直接的な死者数は55人だった。直接的な死者数では、今回が既に上回っている。

岸田首相は8日のNHK日曜討論で「中小の道路も寸断され、物資の搬入1つとってもたいへん困難な状況が続いているが、自衛隊、警察、消防関係者が最大限の努力をしている」と災害対応の現状を説明した。

これに対して、野党第1党・立憲民主党の泉代表は「自衛隊の派遣が最初は1千人、次いで2千人、5千人と逐次投入となっており、対応が遅い」と批判した。

今回の地震では家屋の倒壊が多く、余震も頻繁に続いていることから、各地に孤立した集落が残されるなど災害全体の状況が把握できない状態が続いている。

政府は、当面、家屋の倒壊などで閉じ込められている人の救出や、孤立地域の救援に最優先で当たっているほか、避難の長期化に伴う生活環境の整備や、被災者の健康管理、さらには被災地域の復旧・復興などの取り組みが求められている。

災害などの危機管理は、政権にとって最優先の課題で、対応を間違うと政権は一気に求心力を失う。阪神・淡路大震災の際の村山政権、東日本大震災時の菅直人政権などは、災害対応に政権のエネルギーを奪われ、退陣へとつながった。

岸田政権は、政権発足直後の新型コロナ感染に続いて、今度は地震災害という異なる分野だが、2度目の危機対応になる。コロナ対応の時は、地域の感染状況の把握や医療提供態勢づくりに対応の遅れが目立った。

今回の能登半島地震では、石川県の避難者は2万8000人を超えている。厳しい寒さが続く中で、犠牲者や行方不明者を最小限に抑えて、被災者の救援と地域の復旧のめどをつけられるかどうか、岸田政権の危機対応力が問われている。

 捜査の本丸は?派閥幹部に伸びるか

もう1つの焦点である「政治とカネ」、自民党の派閥の裏金事件については、年明けに東京地検特捜部が、二階派会長を務める二階俊博・元幹事長から任意で事情を聴いたことが明らかになった。

8日には、安倍派に所属する池田佳隆・衆議院議員が4800万円余りのキックバックを受けたにもかかわらず、政治資金収支報告書に記載せず、政治資金規正法違反の容疑で逮捕された。この事件で、国会議員が逮捕されたのは初めてだ。

池田議員が逮捕されたのは、検察の捜索の前に関係先にあったデータを保存する媒体が壊されていたことがわかり、罪証隠滅のおそれが大きいと判断したためとみられている。

政界では、池田議員と同じく高額なキックバックを受けていたとされる大野泰正・参議院議員、谷川弥一・衆議院議員についても立件されるのではないかとの見方が広がっている。

今回の事件の核心は、派閥が組織的、意図的に裏金作りを続けてきた点にある。東京地検特捜部は、最大派閥の安倍派、二階派の事務総長や経験者など派閥幹部の立件も視野に捜査を進めているものとみられる。

今月下旬に通常国会が召集されるのをにらんで、検察の捜査はヤマ場を迎えている。捜査の本丸が、派閥の幹部にまで伸びるのかどうかが、最大の焦点だ。

 政治改革案、問われる首相の指導力

一方、政治の側の動きとして注目されるのは、岸田首相が近く立ち上げる「政治刷新本部」と、首相の指導力だ。

この組織は、4日に行われた年頭の記者会見で岸田首相が打ち出した構想だ。自民党総裁の直属の機関として党に設置し、再発防止策や派閥のあり方などを検討し、今月中に中間的なとりまとめを行う方針だ。

岸田首相は、再発防止の具体策として「パーティーの収支について党の監査を行うとか、現金でなく振り込みに変えるとかが考えられる」とのべたが、いずれも政治資金パーティーの存続を前提にした内容だ。

また、刷新本部の本部長は岸田首相自らが就任するほか、最高顧問には、麻生副総裁と、菅前首相の首相経験者が就任する見通しだ。

リクルート事件当時、竹下首相は自民党に「政治改革委員会」を設け、トップに後藤田正晴・元副総理の就任を要請した。続く宇野首相時代に「政治改革本部」と変わり、本部長に伊東正義・元官房長官、代理に後藤田氏の重鎮2人が就任し、党内論議と党改革の推進役を果たした。

今回は、党内第2派閥を率いる麻生副総裁と、派閥解消論者の菅前首相という正反対の立場にいる2人が最高顧問に座る。果たして、派閥のあり方なども含めて思い切った政治改革案をまとめることができるのか、危惧する見方が強い。

さらに、野党側からは「自民党は、まずは事件の実態を説明し、不正を行った議員にケジメをつけさせるのが先だ」といった指摘が出されている。

また、与党の公明党や、野党各党からは、政治資金規正法の抜本的な改正を行い、パーティー券購入者の公開基準の引き下げや、違法行為に対しては、国会議員の責任を問える罰則の強化を求めていく方向で一致している。

自民党は、果たして党内の意見を取りまとめができるのかどうか、最終的には、岸田首相の決断と指導力にかかってくるのではないか。その結果によっては、今年の政局は、さらに大きく揺れ動くことになる。(了)

★追記①(9日16時30分)能登半島地震による石川県内の死者は、9日午後2時・時点で、202人に上った。昨日に比べて34人も増えた。一方、安否不明者は102人となり、昨日より121人減った。                     ★追記②(10日17時40分)能登半島地震による石川県内の死者は、10日午後2時・時点で206人。安否不明者は52人。                  ★追記③(11日21時)能登半島地震による死者は、11日午後2時・時点で213人、安否不明者は37人。2500人余りが孤立状態にある。

 

“波乱・混迷政局の幕開け”2024年予測

自民党の派閥の「裏金疑惑」が政権を直撃する中で、新しい年・2024年が幕を開けた。政界関係者の情報を総合して判断すると、新しい年は「波乱、混迷、模索の年」になるのではないか。

「波乱」とは、端的にいえば、内閣支持率の低迷が続く岸田首相は退陣、交代する確率が高いということ。

「混迷」とは、後継選びとなると有力候補がいないため、交代時期や候補者の絞り込みなどをめぐって、調整などが難航することが予想される。

焦点の衆院解散・総選挙の時期は、自民党の総裁選びと事実上、表裏一体の位置づけとなり、新総裁が決まると時間を置かずに解散・総選挙になる公算が大きいのではないか。2024年中に解散・総選挙となる可能性が高いとみている。

さらに「模索」とは、どういうことか。今の政治は、裏金疑惑に代表されるようにここ数十年の中でも残念ながら、最低水準といわざるをえない。ザル法と揶揄される政治資金規正法ですら守られないほど政治の劣化が進んでいる。

しかし、それでも難題を数多く抱える日本にとって残された時間は多くはない。政権、与野党双方とも懸案・課題を前進させていくため、さまざまな取り組みを試みてもらいたい。

なぜ、こうした結論になるのか、以下、説明したい。

 裏金疑惑、立件は政治家まで拡大か

新しい年の政治はどう展開するか?まず、大きな影響を及ぼすのは、自民党の派閥の裏金疑惑、政治資金規正法違反事件がどこまで拡大するかだ。

東京地検特捜部は12月中旬に安倍派と二階派の事務所の強制捜査を行ったのに続いて、多額のキックバックを受けたとされる安倍派の衆参議員2人の事務所などの家宅捜索も行った。

そして、年末までに松野・前官房長官、世耕・前参院幹事長、高木・前国対委員長、萩生田・前政調会長に続いて、西村・経産相の任意の事情聴取を行った。これで「5人衆」と呼ばれる派閥幹部と座長の塩谷・元文科相の6人すべてが、事情聴取を受けたことになる。

自民党関係者に今後の見通しを聞くと「検察当局は、金丸事件も念頭に捜査を進めるのではないか。安倍派と二階派の会計責任者だけではなく、議員や派閥幹部にまで広げるのではないか。但し、人数や範囲は全くわからない」と語る。

特捜部の捜査が最終的にどのような形で決着がつくのか、政界関係者は固唾を飲んで見守っている。いずれにしても、岸田政権と年明けの通常国会にさらに大きな打撃を与えることになるのではないか。

 自民総裁選び、岸田首相交代の波乱も

それでは、新年の政治はどのように展開するのか。今年前半の政治の舞台となる通常国会は今月26日に召集、会期末は6月23日となる見通しだ。野党は「政治とカネ」の問題で岸田政権を厳しく追及する構えだ。

これに対し、岸田首相は、自民党に新たな組織を立ち上げて再発防止と政治改革案をとりまとめ、国民の信頼回復への道を探りたい考えだ。

また、今年の春闘で物価高を上回る賃金の引き上げを実現し、6月に所得税など定額減税の実施ができれば、政権を取り巻く厳しい空気は和らいでくるのではないかと期待をかけている。

こうした一方、「政治日程は逆に読む」と言われる。以上のように時系列で政治の動きをみていくのではなく、政治を最も大きく左右する要素は何かを考えて、逆算して予測するとどうなるか。

最も大きな意味を持つのは、今年秋の自民党総裁選挙だ。岸田首相にとって、自民党総裁の任期が9月末に満了となり、再選できるかどうかが最大のハードルになる。その1年後の来年10月は、衆議院議員の任期も満了となる。

自民党長老は「自民党の議員、特に若手議員は、総裁選挙で誰に投票するか、次の衆院選挙とセットで考える。自民党は自分党、自らの当選を果たすうえで、『選挙の顔』は誰が有利かとなる。そうすると内閣支持率が改善しないと、岸田首相の再選の道は険しいものになるだろう」との見方を示す。

報道機関の世論調査で岸田内閣の先月の支持率は、20%台前半まで落ち込んだ。自民党の支持率もこれまで30%台後半を維持してきたが、年末には30%を切って、2012年に自民党が政権復帰して以降、最低の水準まで下がっている。

自民党内では「岸田降ろし」の動きは起きていないので、早期の退陣は考えにくい。しかし、総裁選が近づくにつれて岸田離れが一段と進むと見られ、再選は困難との見方が、じわりと広がっている。「波乱」の確率は高いとみられる。

そのうえで、想定される波乱の時期だが、与野党の議員に聞くと見方は分かれる。◇新年度予算成立の3月末が限界との説から、◇4月28日統一補欠選挙後、◇通常国会が閉会する6月、◇自民党総裁選が近づく夏といった具合だ。

岸田首相は3月上旬にはバイデン大統領の招請を受けて訪米、6月には首相肝いりの定額減税が実施されるので、それまでの退陣は何としても避けようとするのではないか。個人的には、6月の通常国会閉会後か、総裁選が近づく夏以降の公算が大きいのではないかとみている。

 総裁選び「選挙の顔」重視、混迷も

さて、ポスト岸田はどうなるのかといった質問もあるかと思う。支持率低迷でも岸田首相が持ちこたえているのは、後継の有力候補がいないことが大きい。

それでも総裁選が近づくと新たな候補者擁立の動きが出てくるのは、自然な流れだ。自民党関係者に聞くと、立候補の経験がある石破元幹事長、河野デジタル担当相、高市経済安保担当相らのほか、新たな顔ぶれとしては、茂木幹事長、小泉元環境相、上川陽子外相らの名前が挙がる。

但し、圧倒的な支持を集めそうな候補者は見当たらない。このため、総裁の交代時期、候補者の絞り込みなどが難航し、迷走することも予想される。

さらに、今回は99人が所属する党内最大派閥の安倍派はどうなるのかという問題もある。特捜部の今後の捜査なども考えると他の派閥幹部からは「安倍派の存続は困難、解体的出直しは避けられないだろう」との厳しい見方も聞かれる。

自民党関係者の一人は「次の総裁選びでは、党員や議員の多くは『総選挙の顔』となる候補を選ぼうとするだろう。裏金問題で自民党への視線が厳しくなるので、よりましな候補、経験や実績のある候補へ支持が集まる」との見方を示す。

別の関係者は「裏金問題に焦点が当たるので、従来の派閥主導の候補者擁立は絶対ダメ。女性候補が浮上するのではないか」と話す。候補者選びは紆余曲折、混迷も予想される。

 年内総選挙も、新しい政治へ展望は?

もう一つの焦点である衆議院の解散・総選挙の見通しはどうか。自民党長老は「新総裁が選ばれた場合、即、国民に信を問うことになるだろう。今回は、総裁選びと総選挙を一体として位置づけて、戦うからだ」との見方を示す。

これに対して、野党側も通常国会では「政治とカネ」の問題を徹底的に追及しながら、岸田政権を解散・総選挙へと追い込んでいく構えだ。

こうした与野党双方の姿勢から判断すると次の総選挙は、今年中に行われる可能性が高いとみられる。衆院議員の任期は折り返しを過ぎたことに加えて、来年夏は参院選挙が控えているので、その前に総選挙という見方が強いからだ。

その際、野党の責任は極めて重い。この10年余りの国政選挙では、自民・公明両党の連戦連勝が続いている。その原因は、野党がバラバラで、政権交代はもとより、与野党伯仲にも持ち込めていないからだ。

「自民1強、野党多弱体制」は安倍派の裏金疑惑で崩壊の兆しが見え始めたが、立憲民主党や維新は、自民1強体制を崩せるのか、そのために戦略的な連携へと踏み出すことができるかどうか、問われることになりそうだ。

一方、国民からは「与野党が『政権構想』を示して、もっと政策を競い合う新しい政治を展開してもらいたい」との声を聞く。円安政策もあって、GDPをはじめとする日本の国際社会における地位の低下が目立つからだ。

人口急減社会が進行する中で、賃金の引き上げや経済の再活性化をどのように実現していくのか。教育、社会保障の将来の姿、防衛力増強や少子化対策の具体的な財源確保について、政府が方針を明確に示し、与野党が国会で議論を尽くして前進させていく「新しい政治」を期待する声は根強いものがある。

以上、見てきたように今年の政治は、波乱と混迷、模索の1年になりそうだ。一方、与野党の陣取り合戦だけで終わらせては意味がない。まず、政府、与野党、政治の側の取り組みが問われる。同時に、私たち国民も政治への関心と、選挙でしっかり判断し、選択していくことが求められる。(了)

★追記(5日正午)◇1日に起きた能登半島地震で、石川県内で合わせて92人の死亡が確認された(5日8時・時点)。また、安否不明者は242(5日9時・時点)。 ◇岸田首相は4日夕方の記者会見で、自民党の派閥の政治資金問題で、来週、総裁直属の機関として「政治刷新本部」を立ち上げ、再発防止策や派閥のあり方などの検討を進める意向を表明した。派閥のあり方など党改革の議論でどこまで踏み込めるかが焦点。