異例ずくめの展開が続く国会は、新年度予算案の審議が土曜日の2日も続き、夕方の衆議院本会議で、与党の賛成多数で可決されて参議院に送られた。憲法の規定で、予算案は年度内に成立する。
もう1つの焦点になっている自民党の派閥の裏金問題については1日、衆議院政治倫理審査会で、安倍派幹部4人が弁明に立ったが、いずれも「自らは関与していない」と繰り返し、実態解明につながる新たな内容はなかった。
予算案が衆院を通過すれば、通常では国会前半戦が一山越えたということになるが、今回は、懸案の裏金問題が残されたままで、岸田政権にとって険しい政権運営が続く。国会での与野党攻防と、岸田政権の課題を点検する。
裏金解明、派閥幹部・首相も後ろ向き
自民党の派閥の裏金問題から、見ていきたい。29日と1日に行われた衆議院政治倫理審査会を中継などでご覧になった方は、国会議員の政治とカネをめぐる認識や釈明にあきれ、驚くことが多かったのではないか。
1日の政治倫理審査会には、安倍派の西村・前経産相、松野・前官房長官など幹部4人が出席した。派閥の会計処理について、4人の幹部はいずれも「関与していない」と釈明したほか、「パーテイー券の販売ノルマも、会長と事務局長との間で長年、慣行として扱ってきた」などとして、会長案件だったと強調した。
2022年当時、安倍会長の意向で裏金還流を止める方針が決まった後、安倍氏が死去して還流が復活した経緯については、派閥幹部と事務局長が集まって検討したものの、いつ、決めたかはっきりしないといった説明が繰り返された。
一方、29日に行われた政治倫理審査会では、岸田首相が歴代総理大臣として初めて出席したが、事実関係については、党の聴き取り調査をなぞる説明がほとんどだった。
また、自民党総裁として、今後の実態解明の取り組み方や政治改革の目指すべき方向を明らかにすることもなかった。
政治倫理審査会が鳴り物入りで開かれたが、安倍派の裏金作りはいつから始まり、どのような経費に使われたのか、誰が政治責任を取るのか、かねてからの疑問点は全く明らかにされなかった。
「裏金の実態解明という宿題」は全く進んでいない。こうした原因は、自民党の聴き取りなどの調査が2月になってようやく始まるなど岸田首相や党執行部の後ろ向きな姿勢が大きく影響していることを改めて強調しておきたい。
予算通過、主導権発揮に強いこだわり
次に、新年度予算案をめぐる与野党の攻防をどうみるか。岸田首相は、予算案の年度内成立、実際には自然成立となる衆院通過の時期に強いこだわりをみせた。
具体的には、予算案は3月2日までに通過すれば自然成立となるが、2日は土曜日なので、前日1日の通過をめざし、委員長職権で委員会の開催を決定した。
これに対して、立憲民主党は委員長解任決議案などを提出して抵抗したため、深夜にもつれ込んだ後、異例の土曜日、2日の採決となった。
自然成立は予算案が自動的に成立するメドであり、実際には、参議院が独自性を発揮して審議時間を短縮するので、多少ずれ込んでも年度内成立は可能だ。
それでも、2日までの成立にこだわって突き進んだのは、内閣支持率の低迷に加えて、この国会では裏金問題で野党の攻勢が続いていることから、何とか政権の主導権発揮を印象づけたいねらいがあるものとみられる。
一方、今回は、首相官邸と自民党執行部との連携が機能していない場面が目立った。例えば、政治倫理審査会に出席する派閥幹部の顔ぶれが二転三転、与野党が大筋合意していた日程が見送られたほか、岸田首相が突如、出席を表明し与野党双方の関係者を驚かせた。
政倫審の出席者の調整などは、本来、党務を預かる幹事長の役割だが、茂木幹事長が調整に当たる場面は見られなかった。今後は、裏金問題に関与した議員の処分を決める難問が控えている中で、首相官邸と党執行部の調整が順調に進むのか、危ぶむ声も聞かれる。
裏金問題の処分、政治改革も本格化
予算案の衆院通過後の国会はどのような展開になるか。当面は、参議院予算委員会に舞台を移して、引き続き裏金問題が論戦の中心になりそうだ。
具体的には、裏金問題に関与した議員に対する処分の扱いや、岸田首相の政治責任をめぐって、野党側の追及が続きそうだ。このうち、処分の問題については、岸田首相も検討する考えを表明しているが、安倍派や二階派の反発も予想され、難問だ。
また、参議院では、安倍派幹部の世耕元参議院幹事長の政治倫理審査会での弁明が行われる見通しだ。但し、衆議院での安倍派幹部と同じような答弁に止まることが予想され、新たな事実が明らかになる可能性は低いとみられる。
一方、衆議院では、自民党の浜田国会対策委員長と立憲民主党の安住国会対策委員長が2日に会談し、政治資金問題で参考人招致の協議を続けるとともに、政治倫理審査会への出席の申し出があった場合は、弁明と質疑を行うことを申し合わせた。
新たに5人程度の自民党議員が審査会での弁明を申し出ており、来週以降、審査会が開催される見通しだという。野党側としては、当面、安倍派の事務総長経験者の下村・元政調会長の参考人招致を要求する方針だ。
このほか、野党内では、二階派会長の二階・元幹事長や、森元総理の参考人招致や証人喚問を要求する意見があり、調整が行われる見通しだ。
さらに、自民、立民の国対委員長会談では、4月以降、衆議院に政治改革を議論するための特別委員会を設置することを申し合わせた。この特別委員会で、再発防止の具体策や法整備の内容について、本格的な議論が始まる見通しだ。
このほか、今の国会では、春闘での賃上げと経済運営をはじめ、子ども・子育て法案や、25年ぶりの改正となる食料・農業・農村基本法改正案など重要法案の審議も控えている。
以上、見てきたように予算案の衆院通過後の国会は、裏金問題と政治改革に加えて、内外の多くの課題が議論になる見通しだ。岸田政権が賃上げなどをテコに反転攻勢をみせるのか、それとも野党が政治改革などを軸に攻勢を続けるのかが焦点だ。(了)