衆参両院の本会議で21日行われた首相指名選挙で、自民党の高市早苗総裁が憲政史上初の女性首相に選出された。高市首相は直ちに組閣を行い、21日夜に高市新内閣を発足させた。
新内閣の顔ぶれは、総務相に林芳正前官房長官、外相に茂木敏充元幹事長、防衛相に小泉進次郎前農水相を充てるなど総裁選を争った相手を主要ポストに起用するなど挙党態勢に配慮をみせた。一方、財務相に片山さつき元地方創生相、経済安全保障相に小野田紀美参院議員の女性閣僚2人を起用し、高市カラーを打ち出した。
このように高市首相は、女性や若手、ベテランなどを幅広く人材を起用する一方、新たに日本維新の会と連立を組んで政権運営に当たるが、衆参ともに過半数に達しない少数与党という厳しい政治状況は変わらない。
内外に数多くの難題を抱える中で、高市首相は懸案を処理し安定した政権運営を行うことができるだろうか。内閣の顔ぶれ、主要政策、それに政権基盤を中心に高市政権の課題や問題点を探ってみたい。
閣僚人事、若手・女性など抜擢目立つ
さっそく、高市新内閣の閣僚人事からみていきたい。まず、内閣の要となる内閣官房長官に木原稔・元防衛相が抜擢された。木原氏は、高市氏が自民党政調会長時代に支え、保守的な政治信条が高市氏に近いことから起用されたものとみられる。
総務相には林芳正前官房長官、外相に茂木敏充元幹事長、防衛相に小泉前農水相を起用した。3人はいずれも総裁選挙を争った相手で、挙党態勢づくりに配慮をみせた。
今月7日の自民党役員人事では、副総裁に麻生元首相、幹事長に麻生氏の義理の弟の鈴木前総務会長、総務会長に有村治子参議院議員といずれも麻生派から起用するなど人事が偏重していると批判を浴びたが、閣僚人事では旧派閥のバランスなどをとったことがうかがえる。
また、財務相には片山さつき元地方創生相、経済安全保障相に小野田紀美参議院議員を起用した。2人とも総裁選挙では、高市氏の推薦人を務めた。
一方、旧派閥の裏金問題に関与した議員は閣僚には起用されていない。但し、この後行われる副大臣や政務官でどのような扱いになるかは、まだはっきりしない。
今回の閣僚と党役員の人事を合わせて考えてみると高市政権では、内閣と党全体の政権運営を誰が中心に行うのかが問われるのではないか。石破政権では森山前幹事長が政権運営の中心的な役割を担った。
歴代政権でも官房長官、あるいは幹事長のいずれかが調整や指導力を発揮することが多かった。今回は鈴木幹事長、木原官房長官には荷が重いのではないかとの声を聞く。
高市首相自らがこうした役割を果たすことになるのかどうか。いずれにしても高市政権全体として、政権運営能力は未知数で、こうした面の役割分担が問われることになるのではないか。
主要政策、問われる優先順位と実行力
次に高市政権の主要政策をみてみたい。高市政権は日本維新の会と連立を組むことになり、20日に連立政権の合意書をまとめた。維新が12項目を要求し、政策協議がまとまった後、藤田共同代表が項目ごとに「満額回答を得た」と連発したように自民党側が、維新側の要求をほとんど丸飲みする形になった。
合意内容の中では、憲法改正や皇室典範の改正、スパイ防止法の制定など保守的な政策がずらりと並んでいる。
経済政策では、ガソリン税の暫定税率の廃止や、電気・ガス料金の負担軽減など物価高対策を盛り込んだ補正予算案を秋の臨時国会で成立させることにしている。また、飲食料品について「2年間に限り消費税の対象としないことも視野に法制化の検討を行う」ことも盛り込んでいる。
維新の吉村代表が連立の絶対条件に挙げた「副首都構想は、両党による協議体を設置した上で、来年の通常国会で法案を成立させる」と明記した。社会保険料の引き下げを含む「社会保障改革については両党の協議体を定期開催する」ことになった。
さらに「議員定数の削減」については「衆議院議員の1割を目標に臨時国会に法案を提出し、成立をめざす」との方針を打ち出した。
一方、「企業・団体献金」については「政党の資金調達のあり方について議論する協議体を設置し、再来年の高市総裁の任期中に結論を得る」とした。維新はこれまで献金廃止を強く主張してきたが、大幅に後退する内容になっている。
このように連立政権の政策は幅広い内容を盛り込んでいるが、定数削減については衆議院だけで50議席も削減する内容だ。比例代表で削減する場合、中小政党や新興政党などは大きな影響を受けることから、強い反発が出ることが予想される。議員定数の削減は民主主義の根幹に関わるルールの問題であることから、2党だけで決められる問題ではない。
企業・団体献金については、既に公明党と国民民主党が献金の受け手側を規制する法案を提出するなど国会の議論が進んでいる。高市首相の総裁任期が切れる2年先に結論を先送りするような方針は、国民の理解が得られるかどうか疑問だ。
高市政権の政策をめぐっては、数多くの政策課題の中から何を最優先に取り組むのか、優先順位を明確にする必要がある。また、政策の具体的な内容と実現に向けた道筋について各党との意見調整を丁寧に行う必要がある。
高市政権、政策調整と意思決定がカギ
高市政権は、自民党と維新との連立政権で当面、維新の側は閣僚を出さない閣外協力の形で政権を運営する。日本のこれまでの連立政権は閣僚を出した上で、内閣を共同で運営する形態がほとんどだっただけに、今回の連立は特異な形と言える。
それだけに自民党と維新との政策調整と意思決定が順調に進むかどうかがカギを握っている。意見調整がうまく運ばないと衆参両院とも少数与党だけに政権基盤が揺らぐことになりかねない。
当面、年内は物価高対策が中心になり、政権与党内の意見調整は進むとみられるが、問題は来年度予算案の編成や中長期の課題をめぐっては、与党内の調整や意思決定は難航が予想される。
高市首相は21日夜、首相就任後初めての記者会見を行い「国家・国民のため、全力で変化を恐れず、果敢に働いていく。強い日本をつくるため、絶対にあきらめないと決意している」と決意を表明した。
そのうえで、「維新の会との合意に基づいて政策実現に取り組んでいく。政治の安定のために全ての野党に協力を呼びかけるとともに、政策提言を前向きに受け入れるなど最大限の柔軟性を発揮していく準備がある」とのべ、野党の提案も柔軟に受け入れていく考えを示した。
夏の参院選挙で自民・公明両党が大敗してから3か月。石破政権の後継選びをめぐる長い政治空白にようやく一区切りがついたが、高市政権が内外の懸案の打開に向けて前進することができるかどうかは、政権全体を動かす力を発揮できるかどうかにかかっているのではないか。国民世論の受け止め方と、今後の政権運営を注視したい。(了)
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