“桜”問題と前首相の政治責任

「桜を見る会」の前日夜に開催された懇親会をめぐり、安倍前首相の公設第1秘書が24日、政治資金規正法違反の罪で略式起訴され、罰金100万円の略式命令を受けた。安倍氏本人については、嫌疑不十分で不起訴になった。

一方、安倍前首相は25日、「在任中の国会答弁に事実に反するものがあった」として、衆参両院の議院運営委員会に出席して謝罪した。

これを受けて、政府・自民党側は、安倍前首相の説明で区切りがついたとして、幕引きを図りたい方針だが、野党側は年明けの通常国会で、証人喚問を要求して追及する構えをみせている。

一国の首相経験者が国会答弁を訂正するのは極めて異例の事態で、どのように見たらいいのか。また、年の瀬、コロナ感染拡大に歯止めがかからない中で、菅政権や政局にどんな影響を及ぼすのか、考えてみたい。

 肝心な「事実関係」など不十分な説明

安倍前首相の国会での説明はテレビの中継などで、ご覧になった方も多いと思う。「懇親会の開催費用の一部を後援会として支出していたにもかかわらず、政治資金収支報告書に記載していなかった事実が判明した。会計処理は、私が知らない中で行われていたこととはいえ、道義的責任を痛感している。深く、深く反省し、心からおわび申し上げたい」。

冒頭の説明はわずか2分。「深く反省」や「おわび」を口にしたが、国会答弁のどの部分をどのように訂正するのか。なぜ、事実と異なる答弁、事実上の”虚偽答弁”になってしまったか、肝心な事実関係の説明があまりにも乏しく、正直、驚いた。

衆議院調査局の調べによると、安倍前首相が去年11月からの臨時国会と今年1月からの通常国会で行った答弁のうち、検察の捜査に関する情報とが食い違う答弁は、少なくとも118回もあった。

このように内容の乏しい説明と質疑に終わったのはなぜか。理由は、衆議院、参議院での質疑がそれぞれたったの1時間ずつしかなかった点が大きい。これでは、事実関係にしても詰めようがない。

政治とカネの問題は長年取材したが、「事実関係」を確認・認定した上で、国会議員の秘書に対する監督責任や、政治資金制度の改革などを掘り下げて議論しないと真相究明や事態の改善につながらない。今回の説明と質疑は極めて不十分と言わざるをえない。

 与野党の受け止め、今後の取り組み

それでは、この問題、今後の取り組みはどうなるか。自民党の幹部は「一定の説明責任を果たすことができたのではないか」として、早期に幕引きを図りたいのが本音だ。

これに対して、野党側は「虚偽答弁を続けた上、秘書に責任を押しつけており、真実を明らかにする姿勢が感じられない」と批判、安倍氏の証人喚問や、議員辞職を要求していく構えだ。

また、安倍前首相の政治責任をどう考えるか、年明けの通常国会でも焦点の1つになる。「桜を見る会」や懇親会の問題については、菅首相も官房長官時代に安倍氏を擁護する発言をしており、菅首相の責任も問題になる見通しだ。

国民の側からみると、政治とカネの問題に決着をつけるとともに、コロナ対策や経済対策などもきちんと議論してもらいたい。そのためには、政治とカネの問題は、予算委員会で一定程度議論したあとは、別の委員会でじっくり議論するなどコロナ対策などと両立する取り組み方を工夫する必要があるのではないか。

政治とカネの問題は「事実関係」を明確にできるかどうかがカギになる。審議にあたっては、事前に安倍前首相やホテル側に求めて領収書や明細書などをそろえる。その上で、安倍首相に「事実関係」について「詳しい説明・報告」を求め、各党の委員が時間を十分取って論点を深めていく。端的に言えば「事実解明型の審議」に変えていく必要がある。

 菅政権、新年政治への影響は?

安倍前首相の問題は、菅政権や新年の政治にどんな影響を及ぼすか。東京地検特捜部の捜査は終わったが、安倍氏を告発した弁護らは、今後、不起訴処分を不服として、検察審査会に審査を申し立てる可能性がある。

その場合、政界関係者によると「最終的な結論が出るまで、10か月程度かかる可能性がある」という。有権者から選ばれた11人の検察審査会の審査員が、市民感覚で、検察の不起訴処分が適切か否かを判断することになる。

菅政権としては、国会での野党側の攻勢に加えて、検察審会の動きも影響してくる。

また、自民党の衆議院議員だった吉川貴盛・前農相が、大臣在任中に大手鶏卵生産会社の元代表から現金500万円を受け取った疑いがある問題で、東京地検特捜部は収賄などの疑いで、25日に吉川氏の事務所の捜索など強制捜査に乗り出した。政界では、事件に発展する可能性が大きいとの見方が強まっている。

さらに年明けの1月21日には、去年夏の参議院選挙で公職選挙法違反に問われた河井案里参議院議員の1審判決が出されることになっている。

このように菅政権にとっては、拡大が続くコロナ感染に加えて、年明け以降には、政治とカネの問題が一気に押し寄せる形になっており、内閣支持率や国会運営面で影響が出ることが予想される。

また、新しい年は秋までには、衆議院の解散・総選挙が行われる。政治とカネの問題に真正面から取り組まないと、有権者の批判を浴びて、選挙で打撃を受けることになる。それだけに与野党双方ともコロナ対策に加えて、政治とカネの問題への取り組み方が問われることになりそうだ。