混戦の自民総裁選 勝敗の読み方 

菅首相の後継を選ぶ自民党の総裁選挙は17日告示され、届け出順に河野太郎・規制改革担当相、岸田文雄・前政務調査会長、高市早苗・前総務相、野田聖子・幹事長代行が立候補した。

これによって、総裁選挙は4人で争われる構図が最終的に決まり、29日の投開票に向けて、選挙戦が始まった。

「今回の総裁選挙は、誰が勝つのか」という質問を受けることが多いので、選挙の勝敗面について、どこが大きなポイントになるのか探ってみたい。

 勝敗予測、根拠あるデータなし

自民党の総裁選挙は、47都道府県連の党員・党友が投票する「党員票」と、党所属の衆参両院議員が投票する「議員票」の合計で決まる。第1回の投票で、過半数を得た候補者が当選となるが、過半数に達しない場合は、上位2人に絞って、決選投票が行われるのが基本的な仕組みだ。

そこで、候補者4人のうち、誰が優勢なのか。結論を先に言えば、今の時点で正確な予測をするのは困難というのが、本当のところだ。というのは、今回の総裁選は、今の段階では、党員の意向調査や派閥の票読みなど一定の根拠のあるデータがほとんどないからだ。

報道各社の世論調査では、次の新総裁に誰がふさわしいかを質問したりしているが、かつて大手全国紙が行ったような自民党員を対象にした調査ではない。

また、立候補を断念した石破元幹事長が含まれたりして、今の候補者の構図とも食い違っている。

さらに、国会議員についても、今回は岸田派を除く各派閥は、特定候補の支持を1本化せずに自主投票にしており、派閥単位で国会議員票を予測するのは難しいからだ。

 党員票は河野氏優位か、上限は?

そこで、自民党の長老に勝敗のゆくえを聞いてみた。長老曰く「注目しているのは、党員票で河野が最大どの程度、獲得できるか、上限の見極め。それによって、1回戦で河野が大量得票して決着がつくか。それとも決選投票に持ち込まれ、例えば岸田が逆転するか、2つのケースが想定される」と指摘する。

報道機関の世論調査で「次の新総裁にふさわしい候補者」は、自民支持層でも河野氏を挙げる人が最も多く、河野陣営も第1回投票で決着をつけたい考えだ。その際、河野氏がどの程度の支持を集めることができるかどうかが、ポイントになる。

かつて小泉純一郎氏が、橋本龍太郎元首相らに大差をつけて当選を決めた2001年の総裁選。都道府県連単位の党員の予備選では、小泉氏が党員票全体の87%を獲得して圧勝した。但し、この時は各都道府県でそれぞれ第1位の総どり方式で、今のドント方式とは仕組みが異なっていた。

自民党関係者に聞くと「河野氏が過半数を獲得する可能性はあるが、6割、7割も獲得するのは難しいのではないか。そのような勢いは、感じられない。野田聖子氏の立候補で、党員票はさらに分散する。河野氏は議員票の方では多くを期待できないので、1回戦での決着は難しいのではないか」との見方を示す。

なお、党員票は全国110万人余りの党員が各都道府県連単位で郵送で投票。全国集計され、国会議員票と同じ383票が各候補の得票比率に応じて、ドント式で配分される。決選投票の場合は、各都道府県の1位が1票を獲得して加算される。

 議員票 若手や衆参議員など複雑

議員票は、党所属の衆参両院議員の383票で争われる。若手議員から、派閥の締め付けを行うべきではないという意見が強まり、会長が立候補した岸田派を除く6つの派閥は、候補者を1本化せず、自主投票という異例の形になった。

派閥の存在感の低下は著しいが、自民党は派閥に代わる人事システムを未だに見いだせていない。このため、ポスト配分や選挙の応援などの際には、派閥が機能しているのも事実だ。

また、総裁選の時には、派閥の領袖を中心に結束して対応する役割を果たしてきた。ところが、今回はこの役割も果たせなくなったわけで、自民党の体質の変化が一段と進んでいるようにみえる。

さて、議員票で注目されるのは、若手議員の対応だ。衆議院の当選3回以下の議員は120人余りもいて、全体の半数近くを占める。このうち、選挙基盤の弱い議員は今回、自らの選挙を有利に運ぶため、「選挙の顔」の要素を重視して総裁を選ぶのではないかとみられる。

また、安倍前首相、麻生副総理、二階幹事長、さらには菅首相など実力者や派閥の幹部は、それぞれの影響力を残そうと行動するのではないかとみられている。立候補を断念した石破元幹事長が河野氏を支援する動きと、それに対抗する動きも影響してくるのではないかという見方もある。

さらに、衆議院議員と参議院議員との間で、温度差もみられるという。どういうことかと言えば、衆議院議員の側は、どうしても近づく衆院選挙を意識して、有権者の人気の高いリーダーを選ぼうとする。

これに対して、およそ110人いる参議院議員の半数は来年夏に、参議院選挙を迎える。来年の通常国会を乗り切るなど安定した国会運営や政権運営ができるリーダーを重視し、衆参で違いが出てくるのではないかというわけだ。

このように今は、まだ各議員がどのような投票行動を取るのか様々な要素が絡み合っている。このため、各候補の陣営がどの程度、議員票を獲得できるか票読みできる状態に至っていないように感じる。

但し、先の長老に再び見通しを聞くと「決選投票に持ち込まれた場合、国会議員票は383票、党員票の方は各都道府県1票ずつの47票に比重が低下する。このため、河野氏に対抗する陣営が足並みをそろえると、河野氏以外の候補、例えば、岸田氏が逆転したりするケースも起こりうる」と予想する。

以上を整理すると、1回戦で決着がつくのか、それとも決選投票までもつれるのか、大きな分かれ道ということになる。その際第1回投票で、比重が増した党員票を各候補がどのように分け合うかの割合が、大きなカギを握ることになる。

 総裁選の論戦、衆院選への準備も

自民党総裁選の構図は、告示前日にようやく固まった。このため、党員の多くは、これまでとはちがって、各候補がどんな政策を掲げているのか、政策論争を聞いた後で、投票をすることになるのではないか。

このため、17日に日本記者クラブで予定されている候補者同士の討論会が注目される。候補者間の論争は、党員、国会議員にも影響を及ぼすことになると思われる。

一方、私たちのような多くの有権者は、自民党員ではないので、総裁選に投票できるわけではない。まもなく実施される次の衆議院選挙が、選挙の本番ということになる。

政権与党の総裁選び、それに対する野党の反応や政策、さらには、総裁選後には新しい首相を指名するための臨時国会も10月初めには開かれるので、新首相と野党の各党首との論争も聞きたいところだ。

コロナ対策、医療体制の強化、経済・社会の立て直し、外交・安全保障など様々な問題を抱える中で、私たち有権者は何を重視して選択をするか、熟慮の1票を投じる準備を始めたい。

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