20日投票が行われた第27回参議院選挙で自民・公明両党は、議席数を大幅に減らして大敗した。与党は衆議院に続いて、参議院でも過半数を維持できないことになった。自民党を中心とする政権が衆参両院で過半数割れするのは、1955年の結党以来初めての事態になる。
野党側は第1党の立憲民主党と、日本維新の会はそれぞれ改選議席を維持、または上回る議席を得たが、伸び悩んだ。これに対し、国民民主党と参政党は大幅に議席を増やして躍進した。
こうした中で石破首相は21日午後、自民党総裁として記者会見し「今、最も大切なことは国政に停滞を招かないことだ」として、首相を続投する意向を正式に表明した。
これに対して、自民党内には「党の総裁として政治責任を取るべきだ」として退陣を求める声が出始めている。参院選の結果をどのように見るか、参院選挙後の政治はどのように展開することになるのか探ってみたい。
与党過半数割れ、政権不信が直撃
さっそく、今回の参議院選挙の結果をどのように評価するか、与党からみていきたい。自民党は選挙区で27、比例代表で12の合わせて39議席となった。この議席数は1989年宇野政権の36議席、第1次安倍政権の37議席に次ぐ3番目の少なさだ。
参院選の勝敗は、1人区の攻防がカギを握っている。自民党はこの1人区で圧倒的な強さを発揮してきたが、今回自民党は14勝18敗に終わった。3年前の参院選は28勝4敗だったので、勝ちが半分に落ち込んだ。
政党の勢いが反映する比例代表選挙をみると今回の12議席は、野党に転じた2010年と同じ過去最低の議席数だ。得票数は1280万票で、前回選挙から546万票も減らした。
敗因については、最大の焦点になった物価高騰対策で、コメの高騰が去年の夏以降続いたのに対応が終始、後手に回った。1人当たり2万円の現金給付も打ち出したが、国民に選挙目当てと見透かされて評価は極めて低かった。
また、先の通常国会では、懸案の企業団体献金が先送りになったほか、トランプ関税に対する日米交渉でも思うような成果が出せず、説明も行われなかった。石破政権に対応能力はあるのか、自民党は耐久年数が過ぎてしまったのではないかと国民の不満、不信が政権与党を直撃したことが敗因になったのではないか。
自民党の長老は「去年の衆議院選挙の総括、反省がなされてこなかったのではないか。これでは、国民の信頼を信頼を得るのは難しく選挙には勝てない」と厳しい評価をしている。
公明党は選挙区、比例代表ともに4議席ずつの8議席に止まった。改選は14議席だったので、6議席も減らしたことになり、過去最低の議席数となった。
自公連立政権が発足してから四半世紀になる。両党とも政権運営がマンネリ化しており、主要な課題を解決していく意思と能力があるのか、厳しく評価されたのが今回の選挙だったように思う。
野党は多党化、躍進・退潮の明暗も
これに対して、野党の選挙結果はどうか。野党第1党の立憲民主党は、選挙区が15、比例代表が7の合わせて22議席を獲得した。1人区を中心に反自民票の一定の受け皿にはなったが、獲得議席は改選議席と同数に止まった。
日本維新の会は、選挙区が3、比例代表4の合わせて7議席で、改選議席を2つ上回った。だが、前回の比例代表では8議席を獲得したことを考えると半減し伸び悩んだ。
これに対して、国民民主党は選挙区10、比例代表7の合わせて17議席で、改選議席を4倍以上も増やした。比例代表の得票数でも762万票、前回から2.4倍も増やした。参院候補者の選考などをめぐって一時の勢いを失ったが、「手取りを増やす」という主張が若い年代を中心に支持を広げた。
参政党も選挙区、比例代表ともに7議席ずつの合わせて14議席を獲得した。改選議席1から、一気に大幅に議席を増やした。比例代表でも745万票を獲得し、立民を上回った。
参政党は「日本人ファースト」を掲げ、20代、30代の若い世代の他、40代から60代の中高年まで支持を広げたことが世論調査で読み取れる。自民党支持層にも食い込んで支持を広げており、こうした傾向が持続するのかどうか注目される。
れいわは3議席を獲得、改選議席2から増やした。共産党は3議席で、改選議席7から大きく減らした。日本保守党は2議席、社民党は1議席、「チームみらい」も1議席を獲得した。
このように野党については、立憲民主党は改選議席を確保したものの、多党化が進んでいる。また、躍進した政党がある一方、議席減や伸び悩みの政党もあり、野党の足並みがそろうのは容易ではないのも事実だ。
石破政権の不安定化、自民党内政局も
参院選挙の結果を受けて、石破首相は21日の記者会見で「極めて厳しい審判をいただいた。有意な同志が議席を失い痛恨の極みだ」とのべる一方、「比較第1党としての責任、国家・国民の皆さまに対する責任を果たしていかなければならない」とのべ、首相を続投する意向を正式に表明した。
また、石破首相は執行部の責任について「みんなで全身全霊、対応してきた」として、執行部を続投させる考えを示した。
さらに、今後の政権運営について「連立の枠組みを拡大する考えを持っているわけではない」とのべるとともに衆参両院で少数与党になる中で、政策ごとに合意形成を図っていく考えを強調した。
これに対して、自民党内からは「去年の衆院選挙で敗北、6月の都議選で過去最低の議席、さらに参院選敗北の3連敗では、首相の政治責任を問わざるを得ない」として、石破首相の退陣を求める声が出始めている。
一方で、アメリカ政府が対日関税25%を課す期限を8月1日に設定していることや、終戦記念日関連の行事も抱えており、首相交代を求めるのは難しいとの声も聞く。
石破首相は「両院議員懇談会などの機会を設け、国会議員だけでなく、地方組織の声も丁寧に対応していく」との考えを示し、党内を説得する構えだ。
こうした石破首相の対応について、自民党の長老に聞いてみると「選挙で敗北した以上、総理・総裁は出処進退を明らかにするのが筋だ。首相自ら非改選を含め与党で過半数確保を表明した以上、けじめをつけた方がいい」と指摘する。
また、「首相がこのまま続投した場合、次の衆院選でも敗北を続けることになりかねない。いったん区切りをつけて、党のあり方や政権構想などを練り直した方がよい」との考えを示している。
自民党執行部は今月31日に両院議員懇談会を開き、党所属議員から意見を聞くことにしているが、党内では今後、国会議員や地方組織などから、石破首相の政治責任を問う動きが強まることが予想される。”自民党内政局”がこれから始まり、政局は流動化してくる見通しだ。
一方、野党側の幹部からは、石破首相から連立の枠組みへの参加を求められても応じる考えはないとする考えが示されている。立憲民主党の野田代表は「民意は石破首相にノーという審判を示した。続投の意思表明にしては説得力がなさ過ぎる」と批判し、石破政権と対峙していく考えを表明した。
野党各党にとっても石破政権とこれまでと同じように個別の政策協議に応じていくのか、野党内の連携を深めて政権と対峙していくのか問われることになる。また、野党側は衆参両院で多数を占めることになったので、主要政策や国会運営などについても責任ある対応を求められる。
参院選を受けて議長などを決める臨時国会が8月1日にも召集される見通しだ。衆参両院で多数を占める野党側の要求で、物価高対策などをめぐって石破首相と与野党の論戦が交わされることも予想される。
内外情勢が激動する中で、石破政権と与野党は日本が抱える主要課題について、どのような方針で臨むのか、国民の不安を払拭できるような突っ込んだ議論と対応を強く注文しておきたい。
★追記(23日22時)◆石破首相は23日午前、首相官邸で記者団に対し、アメリカの関税措置について、トランプ大統領との間で合意に至ったことを明らかにした。相互関税を25%から15%に引き下げるとともに、自動車関税についても既存の税率を含めて15%とすることで合意したと説明した。そのうえで「対米貿易黒字を抱える国の中で、最も低い数字となる」と成果を強調した。 ◆石破首相は23日午後、自民党本部で、麻生最高顧問、菅副総裁、岸田前首相の首相経験者と会談した。この後、石破首相は記者団に「一部の辞任報道は事実でない」と否定したうえで、続投する考えを重ねて示した。自民党は、参院選挙の敗北を受けて、党所属議員から意見を聞く「両院議員懇談会」を今月28日に前倒しして開くことになった。自民党の中堅議員や地方県連からは、石破首相の退陣や執行部の刷新を求める意見が相次いで出されている。(了)
7月20日に行われた参議院選挙の結果を受けて、各党の獲得議
席数や獲得票数、さらには投票行動の分析結果を基に大変分かり易
く論理的に説明されており、大いに納得いたしました。
事前に予想されていたとはいえ、自公の大敗ぶりに驚くとともに、
ある意味、しかもありなんとの思いです。
国民が求めている懸案に何ひとつ結論を出し得ない現・自公政権に
「ノー」を突き付けるのは当然の結果だと強く思います!
政治とカネにしても、物価高騰(中でもコメ政策)にしても、大き
くはトランプ関税問題にしても、なんら結論をえられていないこと
を全く理解していないのですから、国民が期待しないのは当然で
す!
自公政権に対する評価として、国民は「耐用年数が過ぎてしまった」自民長老は「去年の衆議院選挙の総括・反省がなされなかった」との表現には全くその通りであると頷くばかりです。
とはいえ、今後ますます政権運営の混迷が予想されることは確実で
あり、懸念の種が尽きません。
与野党とも国民目線に立って、責任ある政治を行ってくれることを願うばかりです。
文章について
①小見出し「野党は多党化、躍進、退潮の明暗も」
→野党は多党化、躍進・退潮の明暗も
の方が良くないですか。
②同じ項
下から11行目
745万票を獲得し、立民や国民を上回った
→745万票を獲得し、立民を上回った
すぐ上で国民の獲得票を762万票と明記しています。
7月22日 妹尾 博史