会期末まで3週間を切った国会は、自民党と日本維新の会の政権与党が29日の衆議院議員の定数削減法案に続いて、30日には「副首都」構想の関連法案を委員長職権でいずれも審議入りさせた。
これに対し、野党側は強引な国会運営だとして強く反発し、審議には応じられないとして与野党が全面的に対立するという異常な事態に陥っている。
こうした重要法案の扱いに加えて、高市首相陣営の中傷動画報道などをめぐる問題も絡んで、事態打開のめどはついていない。
与野党対立が続けば、防災庁設置法案や皇族数の確保に向けた皇室典範改正案などの審議への影響が予想される。終盤国会の与野党対立の構図はどのようになっているのか、事態打開には何が必要なのか探ってみたい。
法案山積も、与党の国会戦略見えず
今の国会に提出される法案については、既にこのブログで幾度か取り上げてきたので、詳細に触れるのは避けるが、多くの法案の審議がヤマ場を迎えていたり、審議入りが予定されたりしている。
具体的には、前の内閣から引き継がれた防災庁の設置法案をはじめ、個人情報保護法改正案、与党が最も重要な法案と位置づける皇族数の確保に向けた皇室典範改正案も30日に閣議決定された。
こうした中で高市首相と維新の吉村代表は先の党首会談で、自民・維新の連立政権合意に盛り込んだ衆議院議員の定数削減法案と「副首都」構想の関連法案を今の国会で成立をめざす方針を確認し、29日に法案を国会に提出した。
与党が連立政権合意に基づいて法案を提出するのは当然あり得ることだが、問題は会期末の7月17日が迫っていることだ。維新の中司幹事長は会期の延長を求めているのに対し、自民党の鈴木幹事長は、会期延長なしで今の国会を終える考えを表明している。
このように国会の会期延長をめぐっても連立与党の自民、維新、それに首相官邸の三者の間でも調整がつかないまま、個別の法案の扱いが進んでいる。
また、与党の幹部は「懸案の皇室典範改正案を成立させることが今国会の最重要案件であり、そのためには静かな環境で審議促進を図る必要がある」と強調してきた。ところが、実際には最終盤に入って与野党の対決法案を持ち出すなど政権与党の方針に一貫性がみられない。
国会運営は衆議院で多数を握る政権与党が主導権を発揮して、野党と交渉に当たるのが基本だ。しかし、今の国会で政権与党の対応をみると国会運営の戦略、基本方針が首相官邸と連立与党間で共有されておらず、終盤国会が混迷する根本原因はこの点にあるとみている。
中傷動画問題、首相・秘書の説明が必要
さて、終盤国会で与野党が対立している、もう一つの背景に首相陣営の中傷動画などをめぐる問題がある。
6月22日の衆参両院の予算委員会で野党側は「高市首相の公設秘書が自民党総裁選や衆院選での他陣営に対する中傷動画の投稿や、首相の個人名を使った暗号資産『サナエトークン』に関与したのではないか」と追及した。
これに対し、高市首相は事務所の関与を否定したうえで「秘書の陳述書を提出する。それをもって答弁に代えたい」と異例の答弁をした。野党側は答弁拒否だと反発し、首相出席の集中審議の実施と秘書の参考人招致を要求している。
この問題をどのように考えるかだが、現職の首相に関わる問題であることと、SNSと選挙のあり方が大きな問題になっていることを考えると、ここは高市首相が自ら進んで説明し、秘書も知りうる点を説明することが必要だと考える。
これまでの政権でもさまざまな疑惑が問題になったが、基本は「事実関係」を明らかにし、その事実に基づいて議論を深めることの重要性が指摘されてきた。そうした取り組みが、政権や国民にとってもプラスに働くと考える。
内外激動、国会の一刻も早い正常化を
それでは、これからの終盤国会で政権、与野党はどのように対応すべきだろうか。
政権与党の一部には、議員定数削減法案や「副首都」関連法案を成立させるため、国会の会期を大幅延長し、参議院に送られた法案が採決されなくても60日が経過すれば否決と見なして衆院に法案を戻し、3分の2以上の多数で再可決する方策を検討しているとの報道もある。
だが、これを採用すると「参院無用論」を政権与党自らが行うことになり、事実上、二院制の否定と国民の政治不信を増幅させる可能性もある。自民党幹部の一人は「こうした手法は採らない方がよい」との考えを示しているが、最終的には高市首相の判断になりそうだ。
一方、日本を取り巻く情勢をみてみると、アメリカとイランの戦闘終結に向けた覚書の署名がなされたが、最終的な合意は不透明だ。署名から60日後、ホルムズ海峡の通航に管理料などが徴収されるようになると、貿易立国・日本への打撃は大きい。
パキスタンは仲介国の役割を果たしたが、本来は日本が果たす役割ではなかったか。通行料なしで、安全航行を実現することなど日本が積極的に取り組むべき課題は多い。
円相場は30日午前、1ドル=162円台をつけた。1986年12月以来、およそ39年ぶりの円安水準だ。著しい円安は輸入物価を押し上げ、私たちの暮らしに大きな打撃を与える。金融政策や財政政策のかじ取りは待ったなしの状態だ。
さらに超党派の国民会議で検討が進められてきた給付付き税額控除と、2年間限定で食料品の消費税率ゼロ政策は、野党側の反発もあり、政権がめざしていた6月中の「中間とりまとめ」を断念する事態に追い込まれている。
こうした内外の情勢を考えると国会の混迷に区切りをつけ、一刻も早い正常化を実現することが必要だ。そのために首相、衆参両院の正副議長、与野党双方とも積極的に汗をかくべきだ。
特に首相や政権与党の幹部は、野党との意見の対立を調整し、現実的な対応策を実現していくことが求められる。高市首相も与党や、過半数割れしている参院幹部との意思疎通を図り、政権を運営していくことが求められているのではないか。
一方、国民からすると幾つか注文がある。その一つが、法案の優先順位だ。例えば国旗損壊罪法案は急ぐ必要があるのかどうか、優先順位を考えてもらいたい。
もう一つは、焦点の皇室典範改正案の扱いだ。衆参の正副議長を中心にまとめられた「立法府の総意」に沿って法案化が進められたが、政府案では「旧皇族の養子の子どもが男子の場合、皇位継承資格を持つ」と規定されている。「立法府の総意」では先送りされた内容が盛り込まれており、国会での審議が必要だ。
今回の皇室典範の改正は、「皇族数の確保策」であり、「皇位継承」の課題には踏み込まないのが前提だ。国会では与野党とも慎重に審議を尽くし、国民の納得が得られた段階で、採決すべきだと考えるが、どうだろうか。
高市首相は1日から3日間の日程で、インドを訪問する。国会が最終盤の段階で、しかも週末ではなく、平日に首相が国内を留守にするのは異例の対応だ。
憲法で「内閣は、国会に連帯して責任を負う」と規定されている。特に首相が国会を留守にする場合、政府の対応が後手に回らないよう態勢を整えておくことが不可欠だ。終盤国会で、政権や与野党はどのような対応を取ったか、しっかり見届ける必要がある。(了)
★追記(7月1日23時:森衆議院議長は1日、与野党の幹事長らと会談し、与野党が協力して静謐な環境の下、皇室典範改正案を成立させることを最優先するよう要請した。また、与党に対し、予算委員会の集中審議や党首討論を開催するよう努力を求めた。中道の階幹事長は記者団に「与党がどう対応するか示す必要がある。きちんとした回答がなければ、静謐な環境は整わない」との考えを示した)。
★追記(2日22時:自民党の鈴木幹事長と衆院野党第1党の階幹事長が会談し、国会正常化に向けて意見を交わしたが、合意に至らなかった。引き続き、協議を続ける)。
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