高市政権 ”補正予算案とナフサ不安”への対応

高市首相は25日、中東情勢を受けた物価高に対応するため、7月から9月の電気・ガス料金の支援を実施するとともに、3兆円余りの補正予算案を編成する考えを記者団に明らかにした。

このうち、電気・ガス料金の支援については26日の閣議で、今年度の当初予算の予備費から5135億円支出することを決めた。補正予算案については今後、編成作業を進め、6月第1週に国会に提出する方針だが、電気・ガス料金とガソリン価格への支援継続が主な内容になる。

経済界などからは、石油を精製して作るナフサと石油関連製品の品不足に加えて、石油関連製品の価格高騰を懸念する声が広がっている。これに対して政府は、原油やナフサ、それに石油関連製品の供給は年を越えても継続できるとしており、双方の認識にズレがある。

一方、私たち国民にとって6月は、ナフサ不足による影響で包装用資材など生活用品の値上げが相次ぐほか、納豆・即席麺・食用油・缶詰など食料品の数多くの品目で値上げの波が押し寄せる。

高市政権の今回の補正予算案は、こうした石油関連製品や食料品などの値上げに対して、国民生活を守るために有効な対応策を盛り込んでいるのか点検してみたい。

補正予算 電気・ガスとガソリン支援が柱

まず、新年度の補正予算案の内容を確認しておきたい。政府は、中東情勢の長期化に伴うエネルギー価格上昇に対応するため、電気・ガス料金について、標準家庭で7月から9月までの3か月の合計で5000円程度を支援する方針だ。この財源は、今年度当初予算の予備費から5000億円を充てる。

また、3兆円余りの補正予算案を編成し「中東情勢等対応予備費」を創設するとともに、ガソリン価格を抑制するため、現在行っている支援策を継続する方針だ。

さらに、プロパンガス利用者を支援するため、重点支援地方交付金も追加する方針だ。つまり今回の補正予算案は、電気・ガス料金、ガソリン価格、プロパンガス料金の3つの支援が主な柱になっている。

財源については、赤字国債を追加発行するが、予定していた今年度の赤字国債のうち、税収や税外収入の増加で3兆円分が発行不要となる見通しのため、総額は増やさずに対応できるとしている。

一方、中東情勢による原材料不足が懸念されている原油については、6月のホルムズ海峡を経由しない代替調達の見通しが8割程度まで上がっているため、「来年春までの安定供給が確保できる見通し」だとしている。

注目のナフサについても中東以外からの代替調達が回復しており、ナフサ由来の石油関連製品についても「年を越えて供給継続が可能だ」としている。

一方、過度な懸念による買いだめや売り惜しみが現場で発生し「目詰まり」が起きているのも事実だが、政府がきめ細かく対策を進め、混乱の回避に全力で取り組むと強調している。

ナフサ不足、石油製品の価格高騰に不安

イラン情勢の混迷が長引くにつれて企業や生産現場からは、製品の原料となるナフサの不足を訴える声が相次いでいる。原油を精製してできるナフサを経由して、さまざまな製品が作られる過程は多岐にわたる。

ナフサ由来のプラスチックや塗料、合成ゴムなどを基に、包装資材やインク、衣類、洗剤などの商品ができていく。先日、食品メーカーのカルビーが「ポテトチップス」などの包装を、カラー印刷から白黒印刷に変える発表があり、石油関連製品のひっ迫状況を認識させられた。

また、さまざまな生産現場から、原材料の品不足や価格の急騰で、生産ができなくなるのではないかといった不安や、経営の見通しが立たないなど深刻な声を聞く。

政府は「ナフサや石油関連製品は年を越えても確保できる」と繰り返し強調するが、企業や生産現場との認識のズレは大きい。

値上げラッシュ、経済のかじ取りが焦点

さらに6月は、食料品の値上げが相次ぐ見通しだ。以前からの値上げの予定に加えて、ナフサ不足の影響が広がり、包装用資材の値上がりによって商品本体が値上げとなるケースもある。例えば納豆、パン、菓子類などだ。

こうした包装用資材の値上げも含めて、6月は日常生活でよく購入する納豆、即席麺、スナック菓子、食用油、缶詰など値上げラッシュとなる見込みだ。これに加えて、電気・ガス料金も値上げされる。

政府の電気・ガス料金の支援によって家計は助かるのは事実だが、電気・ガス料金の支援は富裕層を含め一律で行われる。一方、子育て中の世帯のうち、特に低所得の世帯では夏休みで学校給食がないことは負担が重くのしかかる。

電気・ガス料金の一律支援は止めて、低所得や中所得層に対象を絞って現金給付を行うなどの工夫が必要だとの指摘もある。

また、政府が続けているガソリン価格の抑制に補助を行う政策については、原油不足の事態に逆行していることに加えて、1か月に5000億円もの巨額な費用がかかる。このため、与党や野党の一部からはガソリン補助の縮小や、資源の節約を呼びかけるなど新た取り組みが必要だといった意見が出ている。

さらに補正予算の財源として赤字国債が発行されることに関連して、財政の信頼性をどのように確保していくかも論点になっている。高市政権は、食料品の消費税率を2年間ゼロにする案の導入を検討しているが、財源確保のめどが立たない場合は、こうした案の見送りも検討すべきだといった指摘も聞かれる。

このように補正予算案をめぐる論点は多い。このうち、ガソリン価格への支援について高市首相は「物価動向や経済に与える影響を注視しながら、必要な検討を進めていく」との考えを示している。

一方、ガソリンや資源などの節約の呼びかけなどについて、高市首相は「経済活動にブレーキをかけるような踏み込んだ節約を要請する段階にはない」と慎重な姿勢を示している。

「強い経済」や「責任ある積極財政」を掲げる高市首相としては、節約などの動きで経済活動にマイナスの影響が出ることを強く警戒しているものとみられる。

一方、石油関連製品の不足や価格高騰が長期化する事態に備えて、日本経済をどのように運営していくのかといった観点からの議論も必要だ。補正予算案の審議にあたっては、高市首相が経済・財政運営の基本方針を明確に打ち出し、与野党との間で掘り下げた議論を行ってもらいたい。(了)

★追記(5月29日21時)民間の調査会社「帝国データバンク」の調査によると6月に値上げが予定されている食品は1078品目にのぼることがわかった。1000品目を超えるのは今年4月以来か2か月ぶりで、調味料や納豆、即席めんなどが中心。値上げの理由は原材料価格の上昇のほか、中東情勢に伴うナフサ不足の影響で、包装用資材の値上げも広がっている。7月の値上げは2269品目と値上げラッシュがさらに続く見通し。

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後半国会 ”イラン情勢と外交・経済対応”が焦点

大型連休が終わって国会は、衆議院を通過した国家情報局設置法案の審議が8日、参議院本会議で審議が始まった。また、裁判のやり直しの制度を見直す法案の国会提出に向けて、自民党内で条文の調整が続いているほか、衆議院では防災庁設置法案など重要法案の審議も本格化する見通しだ。

後半国会ではこうした重要法案をめぐって、与野党の審議と攻防が活発になる。一方、アメリカとイスラエルによるイラン攻撃のゆくえと、原油や石油関連製品の供給不足や価格高騰がどうなるのか、各国にとって最大の関心事項だ。

原油輸入の9割を中東に依存している日本にとって、イラン情勢の緊張が長期化した場合、石油関連製品の高騰が続き、企業や産業、国民生活に大きな影響が避けられない。

このためイラン情勢によって、後半国会の展開はガラリと変わり、高市政権も新たな対応を迫られる。その後半国会で高市政権は、具体的にどのような点が問われることになるのか探ってみたい。

イラン情勢、経済・暮らしに影響広がる

さっそく、イラン情勢からみていきたい。アメリカとイランの戦闘終結に向けた協議は合意が近いとの見方が伝えられるが、ホルムズ海峡の開放やイランの核濃縮の扱いをめぐって双方の主張には隔たりがあり、先行きは不透明な状況が続いている。

日本政府は、備蓄原油の2回目の放出を5月1日に行ったほか、ホルムズ海峡以外からの原油調達を進めている。その結果、原油や、原油を精製してつくるナフサの供給は「年を越えて継続できる見込みとなった」と盛んにアピールしている。

こうした一方で、国内では原油やナフサの供給不安による影響がさまざまな分野で広がっている。ナフサはプラスチック製の資材や医療機器、食品の包装、ゴム製品など幅広い用途に使われているため、さまざまな業界で「物が手に入らない」との悲鳴が上がっている。

イラン情勢の悪化が長期化すれば、石油関連製品の品不足が深刻化するほか、夏から秋にかけて価格高騰の波が押し寄せ、国民生活がさらに圧迫される事態も予想される。

強い経済路線、高市首相 節約に消極的

こうしたイラン情勢の悪化に伴う石油関連製品の不安や価格高騰を受けて、与野党からは、原油価格高騰対策を盛り込んだ補正予算案を早期に編成すべきだという意見が相次いでいる。

これに対して高市首相は、原油は備蓄の放出と調達先の多角化で、原油とナフサ、石油関連製品についても「年を越えて供給を維持できる」と強調している。

補正予算案についても「今年度予算の予備費が活用できる」として、現時点では補正予算案の編成は必要な状況ではないとの考えを示している。

さらに与野党から「中東情勢の長期化に備えて、エネルギーの節約など需要抑制を呼びかけてはどうか」との提案が出されているが、高市首相は「あらゆる可能性を排除せず、臨機応変に対応していく」として、明確な態度表明を避けている。

高市首相は「強い経済」を掲げて高い支持率を維持してきたことから、景気に冷や水を浴びせかねない節約の要請は避けたいというのが本音だとみられる。

野党各党は連休明けに再び、原油高騰を受けた経済対策を盛り込んだ補正予算案編成の要求を強める構えだ。国民民主党は、中低所得者層を対象に5万円の給付や電気・ガス料金の負担軽減などを求めていく方針で、高市首相の対応が注目される。

6月に懸案集中、決断迫られる高市首相

それでは、これからの政治の動きはどのような展開になるだろうか。外交面では、今月14日から2日間の日程で、トランプ大統領が中国を訪問し、習近平国家主席と米中首脳会談を行う。米中の貿易・経済関係や台湾問題、それに中東情勢についても意見が交わされる見通しで、各国の外交政策に多大な影響を及ぼす。

また、6月15日から3日間の日程でG7=主要国首脳会議がフランスで開かれる。ホルムズ海峡の航行をめぐっては、アメリカと、イギリス・フランスなどのヨーロッパ諸国がそれぞれ安全航行の枠組みづくりを進めている。米欧の間で日本はどのような役割を果たすのか高市首相の外交手腕が試される。

一方、内政では6月には、政治判断を伴う重要な懸案が相次ぐ。まず、高市首相が「悲願」と位置づける「食料品の消費税率ゼロ」について、国民会議が6月に「中間とりまとめ」を行う予定だ。国民会議では有識者や与野党から、レジの改修などの実務的な問題点が数多く指摘され、消費減税には慎重論や反対論が強まっている。

高市首相は衆院選で公約した政策であることから、当初の方針通り消費税率ゼロの方針を取りまとめ、秋の臨時国会に関連法案の提出をめざす考えとみられる。こうした高市首相の方針と国民会議の議論にはズレが目立っており、調整力が問われる。

また、国民会議との関係では中低所得者層の負担軽減を図る「給付付き税額控除」の扱いも問題で、食料品の消費税率ゼロ政策と合わせてどのようなタイムスケジュールで実施していくかも焦点だ。

さらに、6月は高市内閣にとって初めての中長期の経済・財政の方針となる「骨太方針」を決定する予定だ。「責任ある積極財政」を掲げる高市政権は、給付付き税額控除や防衛力の抜本強化を実現するための財源を含めて、説得力のある将来像を提示できるかが問われる。

こうした懸案に加えて、イラン情勢の緊迫化に伴う補正予算案を編成するか否かの問題を抱えている。今の国会の会期末は7月中旬であり、これから6月にかけて判断をせまられる。このように6月には、数多くの重要な政治課題が押し寄せる見通しだ。

その際、物価高騰対策の補正予算に踏み切る場合、与党内からは「食料品の消費減税は取り止めて、給付付き税額控除先行に切り替えるべきだ」といった意見も出されている。

これに対して、自民党の閣僚経験者は「高市首相は、選挙公約を取り下げるような選択はしないのではないか」との見方をしており、主要政策の調整が問題になる見通しだ。

高市政権は政権発足から半年が経過しても高い支持率を維持しているが、外交面では、日本経済にとって死活的に重要な「ホルムズ海峡の安全航行」をどのように実現していくのか、高市政権の外交力が厳しく問われることになる。

また、内政面では、イラン情勢に伴う石油関連製品の価格高騰対策など当面の対応策と、中長期の主要政策についても優先順位をつけながら決定できるのかどうか、高市政権は正念場を迎えている。(了)

★追記(5月11日21時)高市首相は11日の参院決算委員会で「日本全体として、原油も石油関連製品も必要な量は確保できている」として、現時点で国民に対し踏み込んだ節約を呼びかける段階ではないという考えを示した。また、現時点では補正予算案の編成は必要ではないという認識を示した。

★追記(5月18日21時)中東情勢を受けて、高市首相は18日に開かれた政府与党連絡会議で、今年度の補正予算案の編成を含め、検討を行うよう片山財務相に指示したことを明らかにした。また、与党に対し、今年7月から9月までの電気・ガス料金の支援策をまとめるよう要請した。

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