秋の政局 “消費減税法案がカギ 高市政権”

高市政権は今年2月の衆院選挙で圧勝し、長丁場の特別国会を終えたが、報道各社の世論調査によると7月半ばに内閣支持率が急落した。8月に入っても横ばいか、低下が続いており、支持率の下落傾向に歯止めがかかっていない。

高市政権は去年秋の発足から間もなく1年を迎えることから、高市首相は9月中旬以降にも初めての内閣改造・自民党役員人事を行う見通しだ。秋の政治はどこかポイントになり、どのような展開になるのか、探ってみたい。

秋の日程、臨時国会と外交・安保2本柱

まず、秋の政治日程から見ていきたい。2つ大きな柱があり、1つは臨時国会の召集だ。その臨時国会への対応と来年秋の自民党総裁選挙をにらんで、高市首相は9月に内閣改造・自民党役員人事に踏み切る見通しだ。また、衆院選挙の公約に掲げた食料品の消費減税の関連法案を国会に提出し、成立をめざす方針だ。

2つ目は外交で、9月22日から秋の国連総会がニューヨークで開幕し、各国首脳の演説が行われる。11月にはAPEC=アジア太平洋経済協力会議の首脳会議が中国の深圳で、12月にはG20サミットがアメリカのマイアミでそれぞれ開かれる。

11月3日はアメリカの中間選挙の投開票日で、結果はトランプ政権の命運を左右するだけでなく、日本を含む世界の経済・外交関係に大きな影響を及ぼす。一連の外交日程の中で米中首脳会談が行われるほか、高市首相にとっても緊張関係が続く中国の習近平主席との首脳会談が行われるかどうかなど注目点は多い。さらに年末には日本の安全保障三文書の改定と防衛力整備の問題が控えている。

臨時国会の具体的な召集日などは調整中だが、高市首相は9月22日開会の国連総会に出席するとみられることから、内閣改造などの人事は出発前の9月中旬以降、臨時国会は帰国後の9月下旬以降に召集する方向で検討しているものとみられる。

内閣改造、自民党の幹事長人事が焦点

さて、高市首相は内閣改造と自民党役員人事について、具体的な人事構想を周辺にも明らかにしていないが、与党の関係者は「自民党の党運営の要である鈴木幹事長を続投させるのかどうかが最大の焦点」との見方をしている。

また、内閣改造では閣外協力の日本維新の会から閣僚を起用するほか、去年の自民党総裁選を争った小泉、林、小林、茂木の各氏を引き続き閣内や党役員として処遇するのか否かも焦点だ。

このうち、自民党役員人事をめぐって高市首相は、麻生副総裁の義理の弟である鈴木幹事長を交代させ、旧安倍派の萩生田幹事長代行を据えたいとの見方が取り沙汰されている。

これに対して麻生副総裁は、鈴木幹事長の続投を強く求めているとされる。政府や自民党関係者の間では「幹事長を交代させた場合、高市・麻生関係に亀裂が入り、政権運営にも支障が出てくる」として鈴木氏続投の見方が強い一方、「高市首相は自らの考えを貫くのではないか」との見方もある。

自民党長老は「今の党内をみていると肝心なことは高市総理・総裁が独りで決めており、周囲があれこれ言っても意味がない」と語る。高市首相は25日、麻生副総裁と首相官邸で昼食をともにしたが、こうした会談以外の人事情報は、ほとんどが憶測の域を出ないとみてよさそうだ。

消費減税法案がカギ、財源含め論戦へ

それでは、秋以降の政治に大きな影響を及ぼすのは何かと言えば、食料品の消費減税法案の扱いだろう。

政府や8月5日の臨時閣議で、来年4月から2年間、税率を1%に引き下げるなどした基本方針を決定した。これに合わせて、中低所得層に1%相当分を給付することで、実質ゼロを実現するとしている。

政府は、与党で食料品の消費減税を盛り込んだ税制改正大綱をまとめるのを受けて、必要な法案を秋の臨時国会に提出し、早期の成立をめざす方針だ。

この消費減税法案に対して野党側は「食料品に限定した減税の効果には疑問があるほか、農家や外食産業に多大な負担が生じる」として反対する姿勢を変えていない。自民党内にも「財源のめどがついていない」として慎重論も依然として残っている。

このため、秋の臨時国会では消費減税法案をめぐって与野党の意見が真っ向から対立する見通しだ。特に与党が過半数割れしている参議院では、法案が成立するのかどうか見通しは立っていない。仮に参議院で法案が否決されたりした場合、衆議院に回付して3分の2以上の賛成多数で再可決することもありうるとの見方もある。

政府が、社会保障の財源となっている消費税率を引き下げるのは今回が初めてで、5兆円程度の財源をどのように確保するのかはっきりしない。新年度予算の財源としては、高市首相が重視する危機管理投資や成長戦略投資、さらには防衛力強化のための財源と合わせて、どのように確保するかは難題だ。

一方、秋に向けて石油由来の化学製品の値上げや、円安に伴う輸入物価の値上がりにどのような対策をとるのか、高市政権の経済・財政運営の在り方を含めて激しい論戦が交わされる見通しだ。国会審議を通じて、政府が説得力のある説明をできるかどうか、法案の成否を左右することになりそうだ。

税は鬼門、試される首相の政権運営能力

2月の衆院選挙で自民党は戦後最も多い316議席を獲得し、歴史的圧勝を収めたが、税制は政権にとって鬼門だ。これまでも衆院選挙で圧勝したケースとして、中曽根、小泉、鳩山、第2次安倍の各政権と高市政権がある。

圧勝した政権は、選挙後の政権運営も順調に運んだケースもあるが、失敗に終わったケースもある。高市政権のケースを考える際、参考になるのは中曽根政権のケースだ。

中曽根政権は昭和61年、衆参ダブル選挙で300議席を獲得し、その功績で自民党の総裁任期が1年延長となり、絶頂期を迎えた。政権後半の政治目標に売上税導入を打ち出し、法案を閣議決定、国会提出へと突き進んだ。

ところが、野党の反対に加えて、足元の自民党内、小売店などの関係団体にも反対が広がり、内閣支持率は急落、統一地方選にも敗北、ついに法案は廃案に追い込まれ失敗した。

高市政権とは法案の内容も異なるし、中曽根政権は増税に対し、高市政権は減税という違いもある。だが、税制は影響を受ける様々な業界・団体の利害調整、自らの党内はもちろん、野党への働きかけ、国民への説明や説得など地道な努力を幅広く展開する必要がある。政権全体の総合的な調整力や実行力が必要だ。

中曽根首相は元々、派手な雄弁で鳴らし、サミットなどの国際舞台で存在感をアピールするタイプの政治家だ。税制など地味な仕事は不得手だったことも影響したのではないか。

さて、高市首相はどのように対応するだろうか。これまでの活動をみると選挙の街頭演説などは得意のようだが、国会での質疑や国民に向けた記者会見などは好きではないように見える。

また、税制や財政も得意分野とは言えないようだ。首相はすべての分野に精通している必要はない。政権の最高責任者として、それぞれの分野に優秀な人材を配置し、指揮・調整していけばよい。それだけに9月に行われる予定の内閣改造と自民党役員人事でどのような布陣にするかが大きなポイントだ。

内閣と与党の人事から、臨時国会へと首相の政権運営能力が試されることになる。具体的には、首相官邸と自民・維新の与党側との調整、次に参院自民党との連携、それに霞ヶ関の官僚とも連携を図り、法案や政策が実行できるかが問われている。

先の特別国会での高市首相の言動を見る限り、高市首相が自ら調整力を発揮するのは相当、困難とみているが、政治家は大変身することもある。秋の臨時国会での首相の答弁内容や対応を注視したい。(了)

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高市内閣支持率 発足以降最低 “無党派層の支持離れ”

先の衆院選で自民党が歴史的圧勝を収めたのを受けて召集された特別国会は、先月25日に閉会した。また、焦点の食料品の消費減税について高市政権は5日、来年4月から2年間に限って消費税率を1%にまで引き下げる方針を閣議決定した。

一方、報道各社の世論調査によると高市内閣の支持率は先月半ば以降、急落しているが、8月に入って歯止めがかかるのかどうか。また、食料品の消費減税について国民はどのようにみているのか。NHKの8月の世論調査がまとまったので、そのデータを基に分析してみたい。

結論を先に言えば、高市内閣の支持率は53%で先月調査から5ポイント下がり、去年10月に発足して以降、最も低い水準となった。これは最も多い無党派層の支持離れが進んだためだ。

また、特別国会で成立した皇室典範の改正については国民の理解が得られていないほか、消費減税についても支持に広がりがみられないことが影響しているものとみられる。

特に消費減税をめぐっては秋の臨時国会で本格的な議論が行われることから、高市政権は厳しい政権運営を迫られる公算が大きい。なぜ、こうした見方をしているのか以下、具体的にみていきたい。

 無党派層・女性・高齢層の支持離れ

NHKの世論調査(8月7~9日実施)によると、高市内閣の支持率は53%で、7月調査から5ポイント下落した。一方、不支持率は33%で、6ポイント増えた。高市内閣の支持率は衆院選が実施された2月は65%と高かったが、それ以降は下降傾向が続いている。8月の53%は去年10月の政権発足以降、最も低い水準になった。

報道各社の世論調査では7月半ば以降、内閣支持率が急落している。NHKの8月の調査でも下落傾向が続いていることから、支持率下落の流れには歯止めがかかっていないと言える。

次に高市内閣の支持層を党派別にみると自民支持層では85%、横ばい状態で変わっていない。一方、有権者全体の4割を占めて最も多い無党派層では36%で、先月に比べて8ポイントも減少した。ここが大きく影響しているものとみられる。

男女別では男性が6ポイント下がって56%、女性は2ポイント下がって48%だった。女性の支持が半数を割り込んだのは、今回が初めてだ。

年代別では、18歳から20代・30代では62%、30代で65%が支持しているほか、50代でも59%と高い水準を保っている。これに対し、60代と70代、それに80歳以上では4割台に止まっている。特に60代は支持が14ポイントも減っており、50代を境に高齢層の支持離れも目立っているのが特徴だ。

皇室典範改正、消費減税の政策も影響

高市内閣の支持率が発足以降、最低水準に落ち込んだ背景としては、どのような背景があるのだろうか。

まず、高市内閣を支持する理由と、支持しない理由からみておきたい。支持する理由としては、①「実行力があるから」が33%、②「他の内閣より良さそうだから」が31%、③「政策に期待が持てるから」17%で、順位は7月調査と変わっていない。

一方、支持しない理由は、①「政策に期待が持てないから」が43%、②「人柄が信頼できないから」が23%、③「支持する政党の内閣でないから」11%となっている。

先月は「人柄が信頼できないから」が35%で最も多かったが、今回は「政策に期待が持てないから」が最多で入れ替わった。人柄というやや漠然とした理由から、支持しないのは政策だと理由を明確にしている点がこれまでと異なる点だ。

そこで、国会終盤で大きな争点になり、成立した改正皇室典範についてみると「国民の理解を得られていると思うか」という問いに対し、「得られている」は29%に止まった。「得られていない」は64%に上り、大幅に上回った。

皇室典範改正の審議時間は衆参両院を合わせても6時間余りと極めて短かった。また、政府案は皇位継承は男系・男子の皇族に限定し、女系・女性天皇を認めない点などに問題があると感じた国民が多かったことも影響したのではないか。

また、政府が来年4月から2年間、税率を1%に引き下げ、中低所得層に1%相当分を給付するとした方針を閣議決定したことへの賛否を聞いたところ、「賛成」は49%、「反対」は39%、「わからない・無回答」は12%だった。

さらに、この減税がもたらす国の財政への影響について聞いたところ「大いに懸念している」は30%、「ある程度懸念している」は37%の合わせて67%に上った。これに対して「あまり懸念していない」は19%、「まったく懸念していない」は9%の合わせて28%だった。

物価高が続く中での減税には、国民の多くが歓迎するのではないかとの見方がある中で、「賛成」が半数程度に止まったことは、減税の是非を慎重に考えようとする国民が多いことをうかせる。

また、減税に伴う国の財政への影響を懸念する人が67%、3人に2人の割合にも上ったことは減税に必要な財源をどのように確保するのか、高市政権の取り組みを見極めようとする国民の慎重な姿勢も読み取れる。

経済のかじ取り・無党派層の動向がカギ

さて、高市政権の今後の政権運営と秋の政治の展開はどのようになるだろうか。今回の世論調査で、熊本地震への政府に対応について、「評価する」は「大いに評価」と「ある程度」を合わせて67%に上り、「評価しない」の27%を大きく上回った。

大きな震災や事故などが起きた場合、危機管理に当たる政府の評価が高くなる傾向がある。逆に言えば、この震災対応がなければ、高市内閣の支持率は5ポイント減に止まらず、大幅に下落したのではないかと推測している。

一方、無党派層について、高市内閣を支持する割合などを詳しくみてみると「支持」は36%に対し、「不支持」は42%に達し、不支持が支持を上回った。これは石破政権末期とほぼ同じ水準にあたる。つまり、無党派層については、不支持が多数を占めて、政権にとっては危険水域に達しているとみることができる。

こうした無党派層に大きな影響を及ぼすのは、暮らしや経済政策だ。消費税減税をめぐって無党派層をはじめとする国民は、財源の確保は本当にできるのか、財政に対する市場の信認は得られるのか、歴史的な円安への対応はどうするのかといった点を見極めようとしている。

したがって、秋の臨時国会で高市首相は、消費税減税をはじめとする経済・財政政策全体のかじ取りについて、説得力のある方針と具体策を打ち出せるのかが問われている。

説得力のある方針が示されない場合、無党派層の支持離れはさらに進み、高市首相は一段と厳しい状況に立たされることが予想される。高市首相の経済運営のかじ取りと無党派層の動向、この2つが秋の政治の大きなカギを握っている。(了)

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消費減税の基本方針 閣議決定”秋の臨時国会で徹底審議を”

消費減税をめぐって、政府は5日午後に臨時閣議を開き、来年4月から2年間に限って食料品の消費税を1%に引き下げるなどとした基本方針を正式に決定した。政府は具体的な制度設計を進め、9月に税制改正大綱を決定し、秋の臨時国会に関連法案を提出する方針だ。

閣議決定された基本方針によると食料品の消費税について、来年4月から2年間税率を1%に引き下げるとともに、中低所得の人に1%相当分を給付することで実質ゼロを実現するとしている。

財源は、市場の信認を損なうことがないよう赤字国債に頼らず、補助金や租税特別措置の見直し、それに税外収入などを通じて確保するとし、来年度の予算編成プロセスで結論を得るとしている。

こうした2年間の減税を経たうえで、2029年度には「所得に連動したきめ細かな給付」を毎年度、継続的に実施する新たな制度として導入するとしている。

1989年に消費税が導入されてから37年になるが、政府が消費税率引き下げの方針を決定したのは、今回が初めてだ。政府の方針をどのようにみたらいいのか、また政治の対応として何が必要なのか考えてみたい。

多くの疑問・懸念は残されたまま

さっそく政府の基本方針の内容からみていきたい。まず、食料品に課税される消費税率が8%から1%に引き下げられるが、専門家は「国民が期待するほどの引き下げ効果はないのではないか」との見方を多く聞く。

イラン情勢悪化に伴う原材料や包装の価格上昇、それに輸送費、人件費も上がっていることから、減税分がそのまま価格に反映されるとは限らない。消費減税の効果は、思ったほどないのではないかというわけだ。

次に減税などを実施するためには1年で5兆円程度の財源を必要とするが、基本方針では財源の具体的な内訳は示されておらず、来年度予算編成の中で検討していくことになる。

税制に詳しい議員に聞くと「1年に5兆円程度は赤字国債に頼らずに何とかかき集められるが、他にも首相肝いりの危機管理投資や防衛力強化の予算にも必要だ」として、財源確保の難しさを認めている。

高市政権の下で財政拡張がさらに進むとみられると市場の信認を失い、円安・債券安が一段と進むリスクを抱えている。

さらに懸念されるのは、2年後に食料品の消費税率を元の8%に戻せるかだ。高市首相は「2年後には私が責任を持って、確実に税率を元に戻す」と力説する。

だが、どうだろうか。消費税率引き上げの時期は2029年4月。その前年・2028年夏には参議院選挙が実施される。選挙を間近に控えた政権は、選挙への影響を恐れて引き上げを先送りすることはありうるのではないか。安倍政権も2回にわたって引き上げを延期したことがある。

このほか、食料品の消費税が実質ゼロになると、利用客の減少が予想される外食産業や免税農家に対する支援策の検討もこれからだ。このように食料品の消費減税には数多くの疑問や懸念が出されたが、ほとんど手つかずで残されたままだ。

首相 ”力で押し通す政治”の危うさ

今回の消費減税にあたって危惧されるのが、高市首相が進める政治手法だ。高市首相は衆院選での自民圧勝後、超党派の「国民会議」で給付付き税額控除の検討を進めたが、食料品の消費減税については与野党の合意を取りつけることに失敗し、結局、自民党の方針をそのまま政府方針として決定した。

また、政権与党・自民党の最終的な意見集約も、首相の方針を最初に党役員に提示して賛同を得た後、党所属議員の意見を聞いて集約する手法を採った。党所属議員の意見集約もわずか2日間だった。

従来の自民党であれば、党税調の意見を踏まえて方針のとりまめに活かしたり、”平場の議論”は当事者が疲れ果てるまで続けたりしたが、今やトップダウンの上意下達、”力で押し通す政治”の党に変わったように見える。

特別国会閉会後の記者会見で高市首相は「316議席、衆院選挙で国民の皆さまから頂戴した大きな、大きな負託。その責任の重さを毎日噛みしめながら公務に向き合っています」「何かを成し遂げようとすれば大きな抵抗もあるでしょうが、『公約実現』への私の思いは決して揺らぐことはありません」と強調した。

選挙公約を何としても実現したいとの首相の思いは理解できる。他方で、政治家、特に首相は選挙後に起きた内外情勢の変化、今年で言えば米・イスラエルによるイラン攻撃などの影響なども勘案し、大局的で現実的な政権運営が必要だ。

また、”力で押し通す政治”が前面に出すぎると大きな政治目標を達成することは難しくなる。首相は政治姿勢や手法を再考することが必要ではないかと考える。

消費減税を含む基本政策 徹底論戦を

消費減税の問題は、今回の閣議決定によって政府・与党の基本方針が決まったことになる。今後は秋の臨時国会で、関連法案の審議に焦点が移る。

そこで、消費税の意義と経緯をみておくと消費税は、急速な人口減少と超高齢化社会が進行する中で、社会保障を整備する新たな税制として導入された。若い世代だけでなく、高齢者も消費を通じて税を負担して社会保障を支える税制であることから、その意義を認める国民は多いとみていいのではないか。

こうした観点に立って今回の政府の基本方針をみると2年間に限定された「つなぎ」の措置のために基幹税である消費税の税率を引き下げることには疑問を抱かざるを得ない。別に財源を求めるか、給付に切り替える方策も考えられる。

秋の臨時国会では法案の成否の駆け引きでなく、人口急減時代の税と社会保障の整備について与野党が掘り下げた議論を行ってもらいたい。

また、今の日本が直面している政治課題も待ったなしだ。物価高騰対策をはじめ、日米が28年ぶりに円買いの協調介入を行った円安への対応、さらに市場が懸念を抱いているとされる政府の財政政策など取り組むべき課題は多い。

さらに今回の消費減税に必要な5兆円の財源確保をはじめ、首相が強い意欲を示す危機管理投資と防衛力の抜本強化を図るための防衛財源について、全体像を明らかにする必要がある。

秋の臨時国会は、こうした日本が直面している金融・財政、防衛力整備と社会保障などの基本政策について、政府・与党と野党側が真正面から徹底して議論を深めることが必要だ。

一方、国会の運営面では、高市政権は衆院では圧倒的多数の勢力を確保しているが、参議院では過半数割れしている。このため、先の特別国会で明らかになったように力で押し切るような国会運営は困難だ。加えて足元の自民党内では、消費税減税には慎重・反対論が根強く、高市政権の政治基盤は万全とは言えない。

一方、野党陣営は少数政党に分かれたままで、高市政権に対して本格的な論戦も挑めない状態で、国民の失望を買っている。

こうした状況から、高市政権と与野党がやるべきことは明らかだ。消費減税を含む基本政策について真正面から議論を戦わせて、結論を出していくことだ。私たち国民も高市政権と与野党がどこまで役割を果たせるか、秋の国会をしっかり見届けていく必要がある。(了)

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食料品消費税1%方針 ”前途多難な高市政権”

長丁場の特別国会を終えた高市首相は30日、自民党の臨時役員会に出席し、食料品の消費税率を来年4月から2年間、1%に引き下げる方針を正式に表明した。そのうえで、この方針で党内の意見を集約するよう指示した。

これを受けて自民党執行部は31日、党の税制調査会や全ての議員が参加できる会議を開いて意見集約を始めたが、異論が噴出したため、引き続き意見を聞くなどの調整を進めることになった。

自民党執行部は首相の方針通り党内の意見を取りまとめ、これを受けて政府は8月上旬に消費税率引き下げ方針を閣議決定する公算が大きい。

ただ、今回の消費減税をめぐっては、政策面で数多くの問題点を抱えているほか、高市首相の政権運営面でもさまざまな影響が出てくることが予想される。

端的に言えば、高市政権は政策と政権運営の両面で、前途多難な情勢にある。なぜ、こうした見方をしているのか以下、具体的に説明したい。

食品消費税1%、財源確保 説明できず

食料品の消費税減税をめぐって、高市首相は30日記者団に対し、来年4月から2年間、税率を1%に引き下げ、合わせて中低所得の人への給付を行い、実質ゼロとする方針について説明するとともに「衆院選挙で掲げた公約の実現を重視し、最善の方法を選択した」として、国民の理解を得ていく考えを強調した。

この方針については、既に超党派の「国民会議」で野党や有識者から、さまざまな疑問や懸念が示されたほか、自民党内の意見集約でも多くの慎重論や反対意見が出された。

国民にとっては物価高騰の中で、消費減税はありがたいのだが、一方で経済が混乱したり、社会保障に穴が開いたりするのではないかと懸念している人は多いのではないか。具体的な疑問点や懸念を挙げると次のような点だ。

まず、食料品の消費税率を8%から1%へ引き下げた場合、本当に食料品の価格が期待したほど下がるのかは疑問だ。イラン情勢を経て、石油由来の包装や材料が値上げされており、業者が税率の引き下げ分をそのまま価格に反映させるかどうかわからないからだ。インフレ時に食料品に限定した減税には限界がある。

また、肝心の財源をどのように確保するのか、高市首相の説明でも具体策を示すことはできなかった。食料品の実質ゼロを実現するためには、年間5兆円の財源が必要になるが、税収の上振れや税外収入が見込めるといっても高市首相が力を入れる投資や防衛力の抜本強化の予算とも重なり、調整のめどはついていない。

さらに「2年後に消費税率を元に戻すのは無理だ」との見方が自民党内でも聞かれる。高市首相は「2年後には私が責任を持って、確実に税率を元に戻す」と力説するが、2年後には参議院選挙が予定されており、実質増税を実施できるかと言えば難しいのではないか。

振り返ると消費税は社会保障を支える主要な税として、1989年に初めて税率3%で導入され、10%に引き上げるまで30年を要し現在に至る。この間、幾つもの政権が倒れながらも社会保障と税制の安定に尽力してきた歴史を思い起こす必要がある。

消費税率の引き下げは今回初めてになるが、疑問や問題点が多すぎる。社会保障の安定という観点からも再考した方が賢明だと考える。早期に物価高対策を行うのであれば、中低所得層に絞って大胆な給付を行う方がはるかに効果があると考える。

衆院選公約との関係どう考えるか

消費減税の是非を考える際、「衆院選挙の公約」として掲げていたこととの関係をどう考えるかという問題がある。

確かに高市首相と自民党は、消費税減税を衆院選の公約として掲げ、「検討を加速する」としてきた。選挙の公約として掲げた以上、選挙後、実現をめざすのは当然で、その責任がある。有権者が、政策の実行を期待するのも当然だ。

一方、選挙後に予測していなかった事態が起きた場合、公約の内容を見直すことはありうるのではないか。現実の政治では公約の修正もありうるし、その場合、政権・政党が説明し納得してもらうことが必要不可欠だ。

先の衆院選を思い起こすと、高市首相は今年1月、突然の衆院解散を表明した記者会見で食料品の消費税ゼロは「私の悲願だ」と強調し、党の公約に盛り込んだ。だが、党内でこの問題をめぐり突っ込んだ議論を行うことはなかった。

また、選挙戦で高市首相が消費減税を取り上げ、自らの考えを訴える場面はほとんどなかったと記憶している。選挙で公約が取り上げられ、争点になったのかどうか実態も踏まえて考える必要があるのではないか。

政権の安定度や政治の展開を左右

さて、食料品の消費税減税が政権与党内でどのような形で決着がつくかは、高市政権の安定度や今後の政権運営、秋の政治動向に大きな影響を及ぼす。

自民党は3日も党の税制調査会と社会保障制度調査会の合同会議を開き、議員の意見を聞くなどの調整を行うが、麻生副総裁や鈴木幹事長ら党執行部は高市首相の方針を了承するものとみられる。

これを受けて政府は、8月上旬には閣議決定する公算が大きい。その場合、秋の臨時国会に食料品の消費税率を1%に引き下げる関連法案を提出することになる。

今後の政権運営を考えると高市内閣の支持率が7月半ば以降、急落していることをどのように考えるかが問題になる。この背景には、皇室典範の改正も影響しているとみられるが、高市政権の物価高対策などの経済政策が十分ではないという不満があるのではないか。

今月の飲食料品の値上げは2311品目で、去年8月と比べると8割も増えている。9月は4531品目とさらに値上げラッシュが続く(帝国データバンク調査)。イラン情勢悪化に伴う包装や資材価格上昇が影響しているためだ。

高市首相が消費減税の決定にこぎ着けても実施は来年4月からで、かなり先の話だ。今回の方針決定が支持率回復につながるとは限らない。高市政権は内閣支持率が高いことが政権運営の原動力になっていたが、その力が揺らぐ可能性がある。

高市政権として対応が迫られているのは、当面の物価高対策と経済運営の基本方針を明らかにすることだろう。為替水準は1ドル=164円に迫る歴史的円安で、日米通貨当局が円買いの協調介入を行った。物価高対策には、歴史的円安に歯止めをかけられるか、経済運営全体の方針を明らかにする必要がある。

次に秋の臨時国会で食料品の消費減税法案をめぐっては、日本保守党を除いて全ての野党が反対の立場だ。与党が過半数割れしている参議院では、法案審議は難航必至で、高市政権は膨大なエネルギーを費やすことになる。先の衆院選で得た膨大な政治資産を消費減税に投入するのが賢明な選択かという問題でもある。

先の特別国会で、高市政権の国会運営は、政権与党内の連携がうまく機能しなかった。その対策は手つかずのままなので、次の内閣改造・自民党の役員人事で体制が強化されない限り、不安定な国会運営が続くことになる。

さらに年末には、国家安全保障3文書の改定と、防衛力の抜本強化に向けた防衛財源確保の具体的な方策が問われる。

このように高市政権の政権運営は、最優先で取り組む必要がある経済政策をはじめ、重要政策の具体化、秋の臨時国会に向けた体制強化など課題は多いが、いずれも難題で前途多難な情勢にある。(了)

★追記(8月3日20時)自民党は3日、税制調査会と社会保障制度調査会の合同会議を開き、高市首相が表明した食料品の消費減税の方針について、今後の対応を小野寺税制調査会長に一任した。党執行部は5日の総務会で了承を取りつけ、党内手続きを終えたい考え。これを受けて政府は5日の閣議決定をめざしている。

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