”土俵際の菅首相” 緊急宣言再延長

東京など1都3県に出されている緊急事態宣言について、政府は今月7日の期限を2週間延長し、今月21日までとする方針を決めた。これを受けて、菅首相が5日夜、記者会見をして、感染対策の徹底を呼びかけた。

政府は「この2週間が瀬戸際だ」と強調するが、菅首相の記者会見を聞いても、2週間に設定した理由をはじめ、達成目標、具体的な対応策もよくわからない。

一方で、目立った成果が上がらないと首相の実行力が改めて問われる。菅首相は、”土俵際”に追い詰められつつあるように見える。そこで、菅首相の記者会見の中身を点検してみたい。

 再延長の目標、具体策も見えず

菅首相の記者会見で聞きたかった点は、なぜ2週間の延長にしたのか。この期間で達成する目標と、そのためにどんな対応策を打ち出すのか。コロナ対策の今後の出口をどう考えているのかの3点だ。

まず、今回の延長について、菅首相は「1都3県については、ほとんどの指標が当初、目指していた基準を満たしているが、病床の使用率が高い地域があるなど依然、厳しさがみられる」とのべた。

その上で、「2週間は感染拡大を押さえ込むと同時に、状況をさらに慎重に見極めるために必要な期間だ。こうした点を総合的に考慮し判断した」と説明したが、2週間に設定した根拠・理由には言及しなかった。

次にこの期間で達成する目標や宣言解除については「目標としては、ステージ3の段階で、病床使用率が50%未満。病床使用率引き下げの努力をしっかりと行い、体制をつくることが、この2週間でやるべきことだ」とのべ、従来の目標を重ねて強調した。

今後の対策については、「飲食店の時間短縮、不要不急の外出の自粛やテレワークを徹底していく。さらに高齢者施設などでの感染を早期に発見するため、3万の施設で検査を行う。また、市中感染を探知するため、無症状者のモニタリング検査を行う」という考えを示した。

このように政府の対策は、高齢者施設の検査体制強化も従来の対策の延長で、新たに踏み込んだ内容は打ち出していない。専門家や自治体関係者からは「新たな対応策がないまま、病床の使用率の低下を目標に掲げ、短期間に実現できるかどうかは疑問だ」という見方も聞かれる。

 菅首相と小池知事の駆け引き

今回の宣言再延長では、菅首相と小池・東京都知事の駆け引きが大きく影響したとの見方が政界関係者の間では強い。

菅首相は、今月3日、記者団の”ぶら下がり取材”に応じ「緊急事態宣言の2週間程度の延長が必要ではないか」とぶち上げた。それまで菅首相は、7日で宣言を解除し、経済活動の再開に道筋をつけたい考えを示していた。その方針を大きく転換した。

こうした背景には、小池都知事が、千葉、神奈川、埼玉の3県知事と「再延長を政府に要請しよう」という動きが伝えられていた。政府は1月に宣言を発令する直前に、小池知事をはじめとする4県知事から発令要請を突きつけられた形になり、後手に回ったと批判を浴びた。今回は、そうした小池知事の機先を制するねらいがあったとみられている。

今回、菅首相は”小池劇場”を回避することはできたが、小池知事に振り回されている状況には変わりがないようにもみえる。感染状況や病床確保などの改善ができなかった場合、菅首相と小池知事との間で確執が再燃する可能性もある。

今回の緊急事態宣言は、年明けの1月7日に方針決定。菅首相は「1か月で必ず改善させる」と宣言。2月に1か月の延長を決定し「1か月で全ての都道府県で解除できるよう対策の徹底を図っていく」と表明。今回の再延長は、去年4月の最初の宣言以来初めてだ。次第に「土俵際」に追い詰められているように見える。

 コロナ出口戦略 不祥事対応も

菅政権にとっては、コロナ対策の出口戦略を示すことができるかどうかも大きな課題だ。今後、コロナ感染をどのように抑制し、社会・経済活動を本格的に再開していくのか。東京オリンピック・パラリンピックの開催問題も含まれる。

この出口戦略について、菅首相は5日の記者会見では踏み込んだ発言は避けた。しかし、今月25日には、東京オリ・パラの聖火リレーがスタートする予定だ。菅首相は五輪開催の方針だが、そのためには今後の感染防止対策や、ワクチン接種の進め方を含めた出口戦略を打ち出す必要がある。

一方、記者会見では、菅首相の長男が勤める放送関連会社が総務省幹部を接待していた問題や、新たに情報通信大手のNTTも総務省幹部を接待していた問題について、複数の記者から質問が出され、この問題に対する関心の強さを印象づけた。

菅首相は「接待でいろんな問題が出ているが、国家公務員に倫理法をしっかりまもってもらうことは当然だ。その中で、もう一度、私自身が、関係大臣や倫理監督官を通じて、徹底するようにしていきたい」と防戦に追われた。

コロナ対策では、国民の協力がなければ感染収束は一歩も進まない。一方で、政権の側が、中央省庁の官僚が高額な接待を受けていた問題を曖昧なままにしていれば、国民の反発を買いコロナ対策に跳ね返る。一連の不祥事に早期にケジメをつけられるか。不祥事対応の面でも、菅首相は土俵際に立たされている。

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