東京、大阪など4都府県に出されている緊急事態宣言が今月31日まで延長、愛知県、福岡県が追加されたが、感染急拡大に歯止めがかからない。
感染拡大は地方でも広がっており、政府は14日、北海道、岡山、広島の3道県を対象に緊急事態宣言を発出する方針を決めた。また、「まん延防止等重点措置」について、群馬、石川、熊本の3県を追加することになった。(この部分は、政府の方針が変更されたため、14日正午に内容の表現を修正した)
こうした中で、菅内閣の支持率が報道各社の世論調査で急落している。支持率急落の理由・背景、菅政権や政局への影響を分析、展望してみたい。
菅内閣支持率 発足以来最低水準
さっそく報道各社の世論調査からみていきたい。菅内閣の支持率は、読売新聞の調査では、支持が43%で前回から4ポイント低下、不支持が46%で6ポイント増加し、2月以来3か月ぶりに不支持が支持を上回った。
NHKの調査では、支持が先月より9ポイント下がって35%、不支持が5ポイント増えて43%、こちらも3か月ぶりに不支持が支持を上回った。今月の支持率35%は、菅内閣が去年9月に発足して以来最低の水準だ。
両社の調査とも調査日時は7日から3日間。7日は政府が緊急事態宣言の延長・追加の方針を決めた日で、それ以降の調査になる。支持、不支持の数値は異なるが、支持率が急落、支持と不支持が逆転した点は共通している。(データは読売新聞10日朝刊、NHK WEB NEWSから)
コロナ「政府対応の評価」に比例
そこで、内閣支持率下落の理由だが、結論を先に言えば、コロナ感染に対する「政府対応の評価」に連動している。これまでも何回か取り上げたようにコロナ感染が問題になった安倍政権当時から、感染が拡大し政府対応の評価が下がると内閣支持率も下がる。感染が改善されると支持率も回復するといったように両者は連動、比例するのが特徴だ。以下、データはNHK調査でみていく。
その政府対応の評価については「評価する」が33%で、先月より11ポイント減った。逆に「評価しない」は63%、10ポイントも増えた。「評価する」33%は、菅内閣発足以来の最低の水準だ。
この結果、菅内閣の支持率は低下した。支持しない人たちに理由を1つに絞って挙げてもらうと「政策に期待が持てない」が40%、「実行力がない」が39%を占めた。
こうした背景を考えてみると、菅政権は先月25日、3度目の緊急事態宣言に踏み切り、短期集中の対策として「人流の減少」を打ち上げたが、新規感染者の抑え込み効果が現われていない。
また、菅政権では対策の検証、総括がなされず、十分な説明がない。今回の宣言延長・追加では、再び「飲食重点」の対策に戻るといった「対症療法」「場当たり対応」が目立ち、これに対する世論の不満や批判が読み取れる。
女性、中年、無党派 ”支持離れ”
それでは、菅政権への影響はどうだろうか。内閣支持率の中身を分析してみると足元の「自民支持層の支持」が6割台前半まで落ち込んでいる。安倍政権では、7割後半から8割程度を維持していたのに比べると基盤が安定していない。
次いで、「女性の支持」が3割程度にまで急落している。コロナ感染拡大で、女性が多く従事しているパートや非正規労働の仕事が失われている影響だろうか。
年代別では、18歳以上20代と30代は、支持が上回るか、横ばい。40代・50代・60代の「働き盛りの中年層」では、いずれも不支持が増えて、支持を上回っている。最も多い「無党派層」では支持が2割を割り込み、不支持が過半数を占める。
このように「女性」「中年」「無党派層」の支持離れが目立つ。仮に今、衆院選となれば、かなりの打撃を受けるだろう。
もう1つの注目点は、自民党の政党支持率が下がっている点だ。自民党33.7%、先月より3.7ポイントも低下。菅政権下で最も低い水準だ。野党第1党の立憲民主党の支持率は5.8%で、0.5ポイントの低下。つまり、自民党の下がった分は、野党に回らず、無党派層43.8%に上積みされている形だ。
菅内閣の支持率が低下しても、自民党支持率は40%から30%台後半を維持してきた。今回のような大幅な下落はこれまでにないだけに、内閣支持率の低下が自民党の支持率低下に影響し始めたのかどうか、注視している。
ワクチン接種 進み具合の評価
さて、コロナ感染の抑え込みに向けて、菅首相が切り札と位置付けているのが、ワクチン接種だ。菅首相は、7月末までに高齢者へのワクチン接種を完了できるように取り組む考えを打ち出した。
世論調査では、そのワクチン接種の進み具合の評価を聞いている。「順調だ」はわずか9%、「遅い」が82%と圧倒的だ。
ワクチン接種状況は5月11日時点で、先行接種の医療従事者で、1回目のワクチンを打った人が319万人で66%。2回目を完了した人が129万人で27%に止まる。65歳以上の高齢者接種になると1回目は48万人、1.3%。2回目を完了した人はわずか2万4千人余り、0.06%にすぎない。
菅首相は12日「全国の85%を占める1490の市区町村で、7月末までに接種を終えるという報告を受けた」と自信を示す。ところが、市区町村では、高齢者の電話予約が殺到して通じなくなったり、予約システムが障害で中断したりとトラブルが相次いでいる。
東京五輪・パラリンピックの開催日程がわかっているのに、日本のワクチン接種率は先進国で最下位、世界でも下位に位置する。政府のワクチン競争への遅れ、戦略、危機管理能力の乏しさが改めて浮き彫りになっている。
政府は5月下旬以降、ワクチンの供給量は大幅に増えると強調するが、市区町村の接種で、医師や看護師の確保が順調に進むか不安は残る。
さらに、全国各地で変異株が急拡大しているが、ワクチン接種を終えるまでに抑え込めるのか緊急の課題だ。免疫学の専門家に聞くと「ワクチン接種効果が出てくるのは、早くて今年後半。五輪・パラリンピックには間に合わない」と語る。感染抑え込みに総力を挙げる必要がある。
政治の焦点 五輪 東京都議選
最後にこれからの政治・行政の動きをみておきたい。まず、厚生労働省は今月20日にアメリカ製薬大手のモデルナとイギリスのアストロゼネカの2つのワクチンを承認する見通しだ。承認されれば、アメリカのファイザーと合わせてワクチンは3種類に増え、供給量の増加が加速される。
一方、来月初めまでには、東京五輪・パラリンピック大会の観客数の上限などが決まる運びだ。菅首相は予定通り開催する方針だが、世論調査では「中止する」が49%で最も多い。次いで「無観客で行う」が23%、「観客数を制限して行う」が19%、「これまでと同様に行う」は2%となっている。
「中止」以外の合計、つまり「何らかの形で行う」は合計44%に達する。どう考えるか、「科学的データ」に基づいて判断するのが基本だ。開催しても安全と主張するのであれば、無観客でも大会参加者は何人になるのか。9万人説、6万人説などが取りざたされているが、明確にしないと判断のしようがない。
また、国内外の感染状況、医療提供体制はどうするのか。政府、東京都、組織委員会は、安心安全な大会を唱えるだけでなく、具体的なデータと条件を早急に示すべきだ。そのうえで、開催、中止、延期のどれを選択するのか、議論を徹底して合意形成を図る必要がある。
さらに通常国会は、来月16日に会期末を迎える。25日には東京都議会議員選挙が告示され、7月4日に投票が行われる。各党とも国選選挙並みの体制で臨む見通しだ。国政のテーマが選挙の争点になることが多く、秋までに行われる衆議院選挙の先行指標になる。
菅政権のコロナ対応の評価も大きな争点になる見通しだ。感染抑止対策や、ワクチン接種の進み具合、五輪開催問題などの動きに有権者がどんな判断を示すことになるのか。都議選の結果は、菅政権や政局のゆくえを大きく左右するとみて注視している。