コロナ政局と政権の危機対応

今年も残りわずかとなったので、2021年の政治をどうみるか、締めくくりとして取り上げたい。

今年元旦の当ブログのタイトルは「”首相交代含みの波乱政局” 2021年予測」だった。「コロナ大激変時代、政治もコロナ対応を軸に動く。菅政権は予想以上に不安定さが目立ち、さらに今年は自民党総裁、衆院議員の任期切れが重なる」として、上記のような予測をした。

菅政権が倒れ、岸田政権へ交代、衆院解散・総選挙で敗北した野党第1党の枝野代表も辞任したので、予測としてはなんとかクリアできたのではないかと総括している。

問題は日本政治が最も問われていた点、「政権の危機対応」は岸田政権に代わっても未だに手が付けられず、先送りされているのではないか。重い宿題を背負ったまま、新たな変異ウイルス「オミクロン株」に立ち向かおうとしているようにみえる。

 2代連続退陣、核心は政権の危機管理

2020年1月に新型コロナウイルスの感染が日本国内で確認されて以降、安倍晋三元首相が体調悪化を理由に退陣したのに続いて、菅義偉前首相も今年9月に退陣を表明、日本の首相は2代続けて退陣に追い込まれた。

菅政権では、年明けの第3波から緊急事態宣言が発せられ、夏場の第5波では、自宅待機を余儀なくされる人たちが多数に上り、治療を受けられずに亡くなる人も出るなど深刻な事態に陥った。

また、国民に対する説明も不十分で、内閣支持率も急落して支持を失った。問題の核心はどこにあったかといえば、新型コロナ感染症という新たなリスクに対して、政権の司令塔である首相官邸の危機管理が機能不全状態に陥り、失敗したということになる。

 初動は順調、危機管理は先送り

菅政権に代わって登場した岸田政権は、衆院解散・総選挙を何とか勝ち抜いた後、11月にコロナ対策の全体像を取りまとめたのをはじめ、新たな変異株の水際対策として、外国人の入国を全面停止するなどの措置を次々と打ち出した。

菅政権がワクチン接種を猛スピードで進め、感染者数が激減する効果が現われたこともあって、岸田政権の初動の対応は順調で、世論の評価も高い。

但し、岸田政権のコロナ対応をみると危機管理体制の見直しは先送りされている。岸田首相は12月の所信表明の中で「これまでのコロナ対応を徹底的に検証します。そのうえで、来年6月までに感染症危機に迅速・的確に対応するため、司令塔機能の強化を含めた、抜本的な体制強化策をとりまとめます」とのべた。

つまり、様々な対策を打ち出す一方で、肝心の危機管理体制の見直しは6月に先送りしているわけだ。野党がこの点を、なぜ追及しないか理解できない。そこで、この疑問を政権幹部に直接ぶつけたところ、次のような返事が返ってきた。

「岸田政権の対策の柱は、ワクチンの2回目接種の完了と治療薬の実用化、それに3回目のワクチン接種を行うこと。加えて、経済を動かしていくことが基本戦略だ。途中で体制を変えること、司令塔を変えるのは難しい。一連の対策が終わり、感染対策が落ち着いたところで、体制を決めたい」という考えだ。

実務的で現実的な考え方とも言えるが、危機管理は、平時に考え準備を完了させておくことが重要だ。日本の政治家の悪いところは、急場をしのぐと問題点の洗い出しや検証を行わず、先送りにすること。前任者の責任に触れるのを避けたいためかは知らないが、とにかく同じ間違いを繰り返す。

驚くほど急減していた感染も、新たな変異株・オミクロン株が国内でも広がり始めた。岸田政権の感染対策は「都道府県知事が感染状況を判断し、国と連携しながら対策を進めていく」新たな仕組みに変えたのが特徴だ。

国と都道府県知事、市区町村との連絡・調整をはじめ、医療機関や保健所、大学などとの連携・調整が本当に機能するのかどうか、首相官邸の司令塔機能が再び問われることになりそうだ。

 コロナ危機とリーダーの指導力

コロナ危機で改めて浮き彫りになったのが、政治のトップリーダーの判断力や決断力だ。また、リーダーが決断するためには、決断を支える体制が重要だ。

今回の新型コロナは百年に一度の危機といわれる。百年前というのは第1次大戦の時期で、スペイン風邪が大流行、日本でも39万人もの犠牲者が出た。

その時期の政治リーダーは、著名な原敬首相だ。第1次大戦が終了する1か月ほど前に就任した。平民宰相と呼ばれ、内外の難問に取り組んだが、3年後に暗殺された。

当時、日本は第1次大戦に参戦、戦勝国になったが、戦後には熾烈な列強間の経済戦争が予想され、将来への不安感も広がり、ちょうど今の日本に似た状況にあったとされる。(伊藤之雄京都大学名誉教授「真実の原敬」講談社現代新書)

原首相は、アメリカ中心の世界秩序をいち早く予測して、外交関係を再編するとともに、国内では交通網の整備、産業振興の列島改革を実行した。今風に言えば、コロナ後もにらんだ米中覇権争いと、国内の経済・社会の立て直しの構想と具体策を打ち出し、実行に乗り出そうとしたというところだろう。

さて、話を現代に戻す。年が明けるとコロナ・パンデミックは、3年目に入る。スペイン風邪も3年で収束した。政治がやるべきことは多い。まずは、海外で感染が急拡大しているオミクロン株のコントロールを成功させること。

そのうえで、新型感染症時代に対応できる危機管理体制を早急に整えること。先人にならって外交・安全保障の基本方針や、国内の経済・社会の立て直しの構想や具体策を打ち出すことだ。

そのためには、国会で与野党が真正面から議論し、競い合う政治が今一度、求められているのではないか。(了)

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