オミクロン株の感染が驚異的な速さで拡大している。「まん延防止等重点措置」が21日から東京など16都県に拡大したが、大阪など関西3府県や北海道など各地の自治体からも適用の要請に向けた動きが相次いでおり、感染地図が大きく塗り替えられつつある。
岸田首相は国会の答弁で「過度に恐れることなく、対策を冷静に進める覚悟だ」と訴えているが、オミクロン危機の出口戦略は描けていない。感染抑え込みに何が問われているのか、探ってみる。
東京は過去最多更新、危機的状況も
今回の感染拡大のスピードはすさまじい。東京都を例に見ておくと1日当たりの感染者数は、去年10月9日から今月2日までのおよそ3か月は100人を下回る日が続いた。
ところが、今月8日に1000人を超えて1224人となり、急速に増加する。12日に2198人、13日3124人、14日4051人。そして19日に7377人で過去最多、20日は8638人で最多を更新した。
これを1週間平均のデータで1日当たりの感染者数をみてみると、今月1日は60人だったのが、19日時点では4555人、半月ほどで76倍も増えている。
このままの増加が続けば1月27日には、1万8266人になるという推計が都のモニタリング会議に報告された。専門家は「これまでに経験したことのない危機的な感染状況となる可能性がある」と指摘している。
全国でも20日は、4万6200人の感染が確認され、3日連続で過去最多を更新した。累計では、国内の感染者数は20日に200万人を超えた。
岸田政権 ”自治体要請 丸飲み”
こうした感染急拡大を受けて、自治体側は政府に対し「まん延防止等重点措置」の適用を要請し、沖縄、山口、広島3県には今月9日に適用された。続いて21日からは、東京など首都圏、東海地方、九州の合わせて13都県が追加され、重点措置は16都県に拡大した。
さらに、大阪、京都、兵庫の関西3府県が22日、重点措置を要請するほか、北海道が要請を決める方針だ。また、福岡、佐賀、大分の各県も要請する方向で、感染地図がオセロゲームのように塗り替わりつつある。
政府は、自治体から重点措置適用の要請があれば、速やかに検討に入る方針だ。岸田政権としては「感染者数の抑制や、医療体制がしっかり稼働するための準備が進む」として、自治体の要請を”丸飲み”する形で適用を認める考えだ。
カギは医療、ワクチン、危機対応
オミクロン株の感染拡大は、17日から始まった通常国会の代表質問の論戦でも最大の焦点になっている。野党側は、政府のコロナ対策は不十分だと強く批判したほか、3回目のワクチン接種の取り組みも遅いなどと追及した。
これに対して、岸田首相は「これまでG7で最も厳しい水準の水際対策で、海外からのオミクロン株流入を最小限に抑えてきた」と反論するとともに「今後は、オミクロン株の特性を踏まえ、メリハリをつけた対策を講じていく」と強調した。
政府・与党と、野党側の主張は平行線だが、岸田政権はオミクロン株の感染危機を抑え込めるのか、正念場を迎えている。感染抑え込みができるか否かのカギは何か、具体的にみておきたい。
第1は、岸田政権が準備を進めてきた「医療提供体制」が機能するかどうかが、試される。岸田首相は、病床を去年夏に比べて3割増やしたのをはじめ、自宅療養中の患者の健康観察、飲み薬の速やかな供給などを行うための体制を整えてきたとしている。果たして、急拡大の第6波に通用するか。
第2は「ワクチン接種の前倒し」だ。一般高齢者の3回目のワクチン接種について、政府は当初、原則8か月としていた2回目との間隔を7か月に短縮した後、今月13日には6か月に短縮し、接種体制などに余力がある自治体に対しては、さらに前倒しをして、接種を進めることも要請した。
こうした政府の方針転換に準備にあたる自治体側は、振り回されている。また、19日時点で3回目の接種を受けた人は162万人余りで、全人口のわずか1.3%に止まっている。先手、先手と言えるのかどうか。
さらにオミクロン株では、子どもの感染も目立っており、政府は新たに5歳から11歳までのワクチン接種も進める方針だ。その子どもを対象にしたファイザー社製ワクチンは21日、厚生労働省から正式に承認される見通しだ。但し、保護者や子どもの理解がどこまで得られるかという問題がある。
第3は「政府と地方自治体の連携・調整、危機対応」が順調に進むかという問題だ。例えば、前提となるオミクロン株の特性についても、政府と自治体側などとの間に認識や、評価、対応の仕方に違いがあるのではないか。
政府分科会の尾身会長は、報道陣の取材に応じ「今までやってきた対策を踏襲するのではなく、オミクロン株の特徴にあったメリハリのついた効果的な対策が重要だ。これまでの『人流抑制』ではなく、『人数制限』というのがキーワードになる」とのべ、飲食そのものではなく、感染リスクの高い状況に集中して対策を行うことが重要だとの考えを強調している。
これに対して、東京都の小池知事は、飲食店の営業時間の短縮や酒の提供制限の方針を決めた後、「感染者の急増は、医療提供体制のひっ迫に止まらず、社会が止まる事態も招きかねない。都民の皆さまには、再度、気を引き締め、行動を変えていただきたい」とのべ、不要不急の外出の自粛や、基本的な感染防止対策の徹底を呼び掛けた。
こうした考え方の違いの背景には、オミクロン株の特徴、重症化リスクの評価の違いがあるのかもしれない。あるいは、医療従事者やエッセンシャルワーカーの確保、経済活動とのバランスのとり方との関係で、感染対策の重点の置き方に違いが出てくることも考えられる。
オミクロン危機を抑え込むためには、どのような戦略、対応策がありうるのか。感染状況と社会、経済への影響などをみながら、政治、行政、それに国民の側もそれぞれ考えていく必要があるのではないか。国会で24日の週に始まる衆院予算員会の質疑も注目したい。(了)