”2月は逃げる”と言われるようにあっという間に過ぎ去り、弥生・3月に入った。3月の動きを予想すると、日本にとって、”2つの危機”への対応が問われる節目の月になる。
1つは、新型コロナ・オミクロン株の感染拡大に伴う医療危機を乗り越えられるか。東京など31都道府県に出されている「まん延防止等重点措置」の期限が3月6日に迫っており、この扱いと出口戦略も問われる。
もう1つは、ウクライナ危機への対応。ロシアのウクライナへの軍事侵攻は、日本にとっては対岸の火事ではなく、冷戦後のアジアを含む世界平和や国際秩序が今後も維持できるかどうかの「岐路」に立っているという認識が重要だ。
こうした2つの危機に岸田政権はどのように対応しようとしているのか、日本はどのような取り組みが必要なのか探ってみたい。
ロシアの侵攻、冷戦後国際秩序の岐路
さっそく、ウクライナ情勢からみていきたい。ロシアが先月24日に開始したウクライナへの軍事侵攻は、19世紀や20世紀の帝国や大国が行った侵略を思わせる行動だ。国際法や国連憲章に違反する侵略行為そのものであり、ロシア軍は直ちに停戦、撤退すべきだ。
但し、現実の世界は、プーチン大統領の野蛮な行為をやめさせることができるかどうか不明で、既成事実が積み重ねられることもありうるのが実状だ。
そこで、ロシアに対する厳しい制裁で、国際社会が徹底した反撃が必要だと考えるが、ここでは日本国民の1人として何が必要か、2点に絞って取り上げたい。
▲1つは、今回の事態については「日本にとっての意味」を掘り下げて考え、国民全体が共有していくことが重要だと考える。
端的に言えば、ロシアの今回の行動を容認すれば、日本を含むアジアでも同様な事態が起こりうる。核開発やミサイル発射を繰り返す北朝鮮や、台頭著しい軍事大国である中国の存在と覇権主義的行動を念頭に置いておく必要がある。
したがって、日本としては、冷戦後の国際秩序を破壊するロシアの行為は認められないことを明確にすることが重要だ。短期的には日本にとってマイナスの影響が想定される場合でも、国際社会と足並みをそろえて対応していくことが必要だと考える。
岸田政権のこれまでの対応については、プーチン大統領を含むロシア政府関係者の資産凍結、SWIFTと呼ばれる国際決済システムからロシアの特定の銀行を締め出す措置に参加する方針を打ち出した。
さらに28日夜には、ロシア中央銀行との取り引きを制限する追加の制裁措置を行う方針を表明した。こうした一連の措置は、G7との連携した対応で評価していいのではないか。
但し、政府の対応の中には、例えばSWIFTへの参加表明が欧米主要国の意思決定から遅れて態度表明をするなど”後追い”を感じる局面も少なくない。欧米の情報をいち早くつかみ、主体的・能動的な日本外交を展開してもらいたい。
▲2つ目は、ロシアに対する経済制裁の強化などに伴って「物価・経済への影響」の問題がある。
原油価格の高騰に伴うガソリン価格の上昇をはじめ、昨年後半から続いている食品や生活必需品のさらなる値上げ、それに中小企業の経営悪化などが現実味を帯びている。
一方で、今月は大手企業の賃金引上げの集中回答も行われる。岸田政権は、経済の好循環を生み出すため、企業に積極的な賃上げを求めているが、物価上昇に見合うような賃上げが実現できなければ、個人消費の落ち込みも予想される。
ガソリンなどの小売り価格の上昇を抑えるため、政府は、石油元売り会社への補助金の上限を、現在の5円から25円へ大幅に引き上げる方向で調整を進めている。
さらにガソリン税のトリガー条項を解除して、税金の上乗せ分を引き下げることも検討している。この問題は、野党の国民民主党が政府予算案に賛成するのにあたって、岸田首相が実現を約束したとしており、3月中に必要な法改正が行われるのか注目している。
このほか、アメリカのFRBがインフレ抑制のため、3月にも利上げに踏み切ると観測されている。そうすると日米の金利差拡大による投資資金の流出、円安、輸入インフレ、国内景気減速の可能性も出てくる。
このように3月は、原油価格の高騰と物価高、ウクライナ情勢に加えて、アメリカの経済対策など変動要因が多く、日本経済の先行きは予断を許さない状況が続くことになりそうだ。
コロナ対策、出口戦略打ち出せるか
2つ目の問題が、新型コロナの感染対策だ。オミクロン株による新規感染者数は減少傾向が続いているが、減少のペースが鈍化しているほか、重症者数は高止まり、亡くなる人の増加が続いている。
こうした中で、東京など31都道府県に出されている「まん延防止等重点措置」が3月6日に期限を迎える。政府は、感染状況が改善し、医療提供体制のひっ迫を回避できる見通しがたった自治体は重点措置を解除する方針だ。
これに対し、病床の使用状況が高い水準にある場合は、延長する。東京、神奈川、愛知、大阪、京都、兵庫の6都府県で2週間程度の延長を軸に検討が続いており、近く最終的に決める見通しだ。(※文末、その後の動きなど追記)
政府のコロナ対策をめぐっては、1月9日に沖縄、山口、広島3県に重点措置が打ち出されたあと、全国的に拡大して既に2か月近くの長期に及ぶ。
重点措置をいつまで続けるのか、合わせて今後の経済・社会の立て直しに向けた道筋、出口戦略をどのように設定するのかが問われる。
参院選へ外交・安全保障論議浮上か
ここまでロシアのウクライナ侵攻や、コロナ対策を見てきたが、ウクライナ情勢に関連して、日本の外交・安全保障のあり方に焦点が当たり、夏の参院選の主要な論点の1つとして浮上してくるのではないかとみている。
外交・安全保障の問題は、今年の年末に国家安全保障戦略や防衛力整備計画などを取りまとめる予定なので、参院選後に議論が本格化するとみていたが、ウクライナ情勢で、前倒しも予想される。その場合、90年代に北朝鮮の核開発が問題になって以来、本格的な安全保障論議となる。
その際には、現行憲法と戦後の日本外交・防衛力の基本原則を踏まえたうえで、短期、中期に分けて、わかりやすい外交・安保論争にしてもらいたい。少子高齢化に伴い若い年齢層が少なくなっていることや、厳しい財政事情も考慮にいれた現実的な議論が必要だ。
岸田政権の政権運営については、通常国会前半の焦点になっている新年度予算案が先月22日、2番目に早いスピードで衆議院を通過したが、参議院でも審議は与党ペースで進んでおり、3月23日までに成立するのが確実だ。
岸田内閣の支持率は高い水準にあるが、支持率に陰りもみられる。その要因は、コロナ対策、特に3回目のワクチン接種の遅れが影響しているものとみられる。世論調査では、岸田首相の実行力に不満を持つ層が増えている点も読み取れる。
このため、コロナ対策や暮らし・経済のかじ取りを誤ると、世論の支持が大幅に低下する可能性がある。新型コロナ感染と、ウクライナ情勢の2つの危機への対応がどこまで順調に進むのか、3月が大きな節目になりそうだ。(了)
※(追記:コロナ対策について3月3日20時)=31都道府県のまん延防止等重点措置について、岸田首相は3日夜の記者会見で、東京など18都道府県で3月21日まで延長し、福島、広島、鹿児島など13の県を解除する方針を明らかにした。