現金給付30万円、仕組みの見直しを!

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、政府が緊急経済対策の目玉として打ち出した「1世帯30万円の現金給付制度」については、条件が厳しすぎるといった指摘や批判が相次いでいる。この制度、どう見たらいいのか考えてみたい。

結論を先に言えば、この制度の仕組みや条件については大幅に見直し、改善すべき点は、大胆に改善する必要があるのではないか。

その際、別の選択肢や方法があるかどうかが問題になる。個人的には「マイナンバーを活用した大規模な融資・給付制度」に変えてはどうかと考える。この案は、経済の専門家が提言している考え方で、今後、国会審議の場などでも検討してもらいたい。以下、現金給付制度や問題点、改善方法などを見ていきたい。

 複雑な現金給付制度

政府は7日の臨時閣議で、新型コロナウイルスの感染拡大を抑制するため、事業規模の総額で108兆円、リーマンショック時を上回る、過去最大規模の緊急経済対策を決定した。

この中では、収入が大幅に減少している世帯や中小企業などに対して、新たな現金給付制度を打ち出したのが、大きな特徴だ。感染拡大で収入が減り、生活が困難な世帯に対して、1世帯あたり30万円の現金を給付する。一方、中小企業や小規模事業者に対して最大200万円、フリーランスを含む個人事業主には最大100万円を給付する。

このうち、特に世帯に対する給付金については、対象者や支給条件が複雑でわかりにくいなどの批判が相次いでいる。この制度を中心に見ていきたい。

まず、現金給付の対象から見ていくと、今年2月から6月の間のいずれかの月で、世帯主の収入が、感染が発生する前に比べて減少している世帯が対象になる。
条件としては、①住民税が非課税となる水準になるまで落ち込んだ世帯。
②月収が半分以上減少し、住民税が非課税となる水準の2倍を下回る世帯。

この条件を読んで、自分が対象になるか判断できる人は、極めて少ないだろう。住民税の非課税額は自治体によって違う。細かい説明になって恐縮だが、お付き合い願いたい。東京23区では、次のようになっている。

◇単身世帯は、年収100万円で、月収に換算すると8万3000円、◇夫婦と子どもの4人世帯では、年収255万円で、月収換算で21万円になる。

例えば、4人世帯で年収900万円のサラリーマンが、600万円の水準まで減収になった場合は、どうか。収入が半減ではないので、対象にならない。450万円の水準まで減収になった場合は、非課税額2倍の510万円以下という条件も満たし、給付を受けられる。つまり、収入の減少幅の違いで、受け取れる世帯とそうでない世帯に分かれ、不公平感が残ることが予想される。

一方、世帯主の収入が基準になるので、例えば、夫婦共働き世帯で、片方が解雇されても世帯主でなければ対象外になる。
(※総務省は、現金給付の基準がわかりにくいとの指摘を受けて、10日全国一律の基準を公表しました。ご参考までに文末に内容を書いておきます。この場合でも月収半減などの基準、世帯主か否かなどの問題点は変わらないと考えます)

 野党は批判、与党内に不満も

この制度について、野党側は、国民1人1人の生活保障のため、世帯単位でなく、「1人10万円を一律で給付すべきだ」と主張し、政府案は「条件が厳しすぎ、対象者も限られる」と批判している。

与党の自民、公明両党は既に政府案を了承しているが、党内では「給付の条件がわかりにくい」、「もらえる人と、そうでない人に分かれて不公平」といった不満もくすぶっている。

これに対して、安倍首相は「世帯の現金給付に加えて、児童手当を1人1万円上乗せしている」と強調。支給の仕方も、リーマンショックの時は、1人1万2000円の定額給付にしたが、配るまで3か月もかかった。今回は対象者を絞り、早く給付することが大事だと訴えている。

 マイナンバー活用の大規模な融資制度

それでは、政府案とは別に、どのような仕組み、方法が考えられるだろうか。

私は経済の専門家ではないが、これまでの取材で最も納得した案は、小林慶一郎さん(東京財団研究主幹・慶応大学客員教授)と佐藤主光さん(一橋大学教授)の共同提言だ。私の理解の範囲で、ご紹介したい(参照:3月25日、日本記者クラブの研究会で行われた小林教授の会見、HPから動画の視聴が可能)。

提言では◇今回は、急激な所得の減少であり、迅速に生活資金を届ける必要がある。1回だけの資金提供では不十分で、一定期間、提供する必要。◇個人向け緊急融資制度で、自己申告、無差別、無条件、大規模に生活資金を融資する制度が必要だ。資金の貸付は、マイナンバーの確認だけで可能にする。
◇基本は、月15万円✕12か月✕1000万人(対象者)=18兆円を想定。
◇融資のため、3年後から返済が基本だが、収入が増えず、返済が難しい場合は、返済なし・実質給付もありうる。

つまり、毎月15万円程度の生活資金を12か月、計180万円の融資が可能とする。事業の立て直しができた場合は、その後の納税に合わせて返済する。マイナンバーによる管理とする。事後の所得の多寡に合わせて、返済の減免もある。事実上、給付となることもあり得る。

以上が、小林先生の提言。その上で、私の個人的な考えだが、融資ではなく、最初から、給付制度とすることも考えられる。その際、財源の関係で、月15万円を減額、期間の縮小もありうる。端的に言えば「マイナンバー活用の新たな生活資金制度」として、規模の大きな資金提供を考えてはどうか。

 危機に見合った生活保障政策を!

政府の個人向け現金給付に必要な予算は4兆円余り、事業者向け給付は2兆7000億円余り、合計で6兆7000億円余りだ。この総額をどのように見るか。

安倍首相は「甚大なマグニチュードに見合う必要かつ十分な経済対策を実施していく」と繰り返し強調。事業規模108兆円、財政支出で39兆5000億円の大規模な経済対策を打ち出した。

しかし、現金給付の総額は7兆円、必ずしもマグニチュードに見合う規模とは言えないのではないか。

参考までに◇イギリスは生活必需品を販売する店以外は全て閉店とする措置が取られているが、政府が雇用を維持するため、働く人の賃金の80%を肩代わりする。フリーランスを含め自営業の人に対しても、平均所得の80%を支払う。いずれも上限は、月2500ポンド(約34万円)で、少なくとも3か月は続けるという。

◇フランスでは、営業停止で仕事がなくなったレストランやカフェ、商店などの従業員に対し、政府が原則として賃金の70%までを補償するという。
このように欧米の主な国では、感染防止策とともに、働く人の休業補償に手厚い措置を打ち出している。

日本の場合は、現金給付を急がなければならないが、今後、追加の現金給付の事態も予想される。
また、半年から1年程度の長期戦も視野に入れた生活保障を考えていく必要がある。

さらに、将来の人口急減時代の社会保障として、個人に対する現金給付の仕組みが必要になるのではないか。そのためにもマイナンバーを活用した給付制度を検討しておく意味があるのではないか。

景気の回復だけでなく、将来社会の設計にも役立つような予算の使い方を検討していく必要があると考える。

※1世帯30万円の現金給付について総務省が示した給付条件。世帯主と扶養家族を合わせた人数。
◆単身世帯=◇月収が10万円以下に減収するか、◇月収が50%以上減少し、
20万円以下となった場合
◆2人世帯=◇月収が15万円以下に減収するか、◇月収が50%以上減少し、
30万円以下となった場合
◆3人世帯=◇月収が20万円以下に減収するか、◇月収が50%以上減少し、
40万円以下となった場合
◆4人世帯=◇月収が25万円以下に減収するか、◇月収が50%以上減少し、
50万円以下となった場合

 

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