アメリカとイランが戦闘終結に向けた覚書を19日に正式に署名する見通しになったのを受けて、各国とも原油輸送の要路であるホルムズ海峡の安全航行が実現するかどうかに強い関心を寄せている。G7サミットも15日からフランスで開かれ、中東情勢の安定に向けた取り組みを強めることを確認した。
日本国内では国会の残り会期が1か月となり、自民党と日本維新の会が連立合意文書に盛り込んだ3法案のゆくえが焦点になっている。衆院議員の定数削減、「副首都構想」、国旗損壊罪の3つの法案で、与野党の攻防が激化する見通しだ。
高市政権にとって6月は、皇族数の確保策を盛り込んだ皇室典範の改正案のとりまとめのほか、超党派でつくっている「国民会議」で食料品の消費税率ゼロと給付付き税額控除の取りまとめも控えている。
こうした内外の懸案が集中する中で、高市首相は重要案件にどのような姿勢で臨むのか、優先順位を含めた政権の対応力が試されることになる。
終盤国会、自・維連立合意3法案が焦点
今の国会では、えん罪をなくすため裁判の再審制度を見直す刑事訴訟法改正案が野党・参政党の賛成を得られることになり、改正案は16日に衆議院を通過、会期内に成立する見通しになった。この法案を含め、首相が質疑に出席する「重要法案」は4法案いずれも既に成立、もしくは成立のめどが立った。
政府・与党が次に成立をめざしているのが、高市政権が発足する際に自民・維新連立政権の合意文書に盛り込んだ3つの法案だ。具体的には、衆議院議員の定数削減法案と「副首都構想」法案、それに日本の国旗を損壊する行為を罰する法案だ。
▲このうち、国旗損壊罪法案については、自民党と国民民主党、参政党との間で修正協議がまとまったことから、16日に法案を国会に提出した。参院では与党は過半数割れしているが、国民民主党と参政党の参政で成立する見通しだ。
▲衆議院議員の定数削減法案は、与野党の協議で選挙制度改革の結論が1年以内に出なかった場合、比例代表のみで45議席を削減するとした内容で、与党は近く法案を提出する。
ただ、野党各党は比例代表のみの削減に強く反発している。また、企業・団体献金の見直しや、SNS上の偽情報対策などの法案審議を優先させるべきだという意見もあり、成立の見通しは立っていない。
▲維新が重視している「副首都構想」法案については、自民党内で批判が相次ぎ、与党内で議論が続いている。この法案では、維新がめざしている「大阪市を廃止して複数の特別区に分割する大阪都構想」を実現する場合、是非を問う住民投票の対象を大阪市から、大阪府全体に広げることが盛り込まれていることから「住民自治の観点から問題が多い」とする反対意見が根強く出されている。
この「副首都構想」と議員定数削減法案をめぐっては高市政権の発足時に自民党内の議論がなされないまま、高市首相と維新首脳との会談で連立政権の合意文書に盛り込んだ経緯がある。このため、野党の反対だけでなく、自民党内の幅広い支持が得られるのかどうか危ぶむ声も聞かれる。
皇族数の確保、食料品消費税実質ゼロ案
安定的な皇位継承をめぐり衆参両院の正副議長が10日、各党派の代表と協議し、皇族数の確保に向けた「立法府の総意」を取りまとめた。
女性皇族が結婚後も皇室に残る案と、旧皇族の男系男子を養子として迎える案を「いずれも了」とする内容で、政府は月内にも皇室典範の改正案を今国会に提出し、成立をめざす方針だ。
この「立法府の総意」を読むと女性皇族が結婚後も皇室に残ることは賛同できるが、女性皇族の夫や子どもの身分の扱いは明記されていない。また、皇室が養子を取ることに国民の理解が得られるのか疑問を感じる。
この問題をめぐって高市首相は12日、日本維新の会の藤田共同代表と官邸で会談し「自民党と維新の連立政権なので、まずは制度設計の細かいところまで両党でつめてほしい」と要請した。
これに対し、野党からは「こうしたやり方では、『立法府の総意』は無視することか」と反発や批判が相次いでいる。
この問題の背景には、高市首相など保守派の議員の間では「皇位の継承は、男系男子に限るという伝統を守るべきだ」との考えが強く、「皇族数の減少が続く中では、女系女性天皇も認めるべきだ」とする考え方との間で大きな違いがある。
「立法府の総意」はこうした違いを踏まえて取りまとめただけに、政府の改正案の取りまとめ方によっては与野党の意見の違いが表面化し、終盤国会の運営に影響する事態も予想される。
高市政権にとっては6月にはもう一つ、首相肝いりの政策について重要な判断を迫られる。超党派の「国民会議」で議論が続いている食料品の消費税率ゼロと、給付付き税額控除の取りまとめを受けて、政府としてどのような方針を打ち出すかという問題だ。
食料品の消費減税をめぐっては17日、「国民会議」の議長案が示された。それによると来年4月から税率を1%に引き下げ、給付と組み合わせることで「消費税率を実質ゼロ」にするとしている。
これに対し、野党からは「国民会議の議論は給付付き税額控除が中心で、消費税率の議論は行っていない」として強く反発している。また、消費減税で本当に価格が下がるのか、2年後に税率を元に戻せるのか、財源の確保はできるのかといった多くの問題を抱えており、国民会議のとりまとめは難航が必至の情勢だ。
中傷動画含め懸案集中、政権・与野党は
今の国会では、高市首相の陣営が自民党総裁選や衆院選で他陣営を中傷する動画を拡散したとする週刊文春の報道が取り上げられ、首相と野党側の応酬が続いている。
この問題をめぐっては共同通信も動画を作成した男性のインタビューを報道し、首相の秘書から総裁選で相談を受けたことや、衆院選では首相を含む与野党約50人の陣営から対立候補に関する動画の作成を頼まれ、うち20人に協力したと証言した。
この問題は、最高権力者である首相の信頼性に関わるとともに、SNS時代の選挙のあり方・公正さに関わる重要な問題だ。
それだけに、まずは「事実関係」を明確にすることが不可欠だ。高市首相が率先して事実関係を説明するとともに、秘書についても国会に招致するなどして事実関係を解明してもらいたい。
このほか、中東情勢はアメリカとイランの戦闘終結に向けた覚書の署名式典が19日に行われ、1つの節目を迎える。日本外交は同盟国のアメリカだけでなく、友好関係にあるイランへの働きかけが十分に行えたのか、戦闘終結後のホルムズ海峡の安全航行にどのような役割を果たしていくのか掘り下げた点検が必要だ。
このように国会の残り会期は1か月となり、重要法案の扱いをはじめ、首相陣営の政治倫理、ホルムズ海峡の安全航行、物価高騰や社会保障のあり方などさまざまな懸案が集中して降りかかってきているような状況だ。
こうした中で、気になるのは野党陣営の対応で、衆院選で大敗した影響が残っているとはいえ、政権をチェックする機能を果たせているようにはとても思えない。法案をめぐって与党に協力することはあるにしても、徹底した議論を尽くすことが必要だ。
国会の会期末に向けて私たち国民も、衆院選で歴史的圧勝を収めた与党・高市政権が内外の懸案に真正面から取り組んでいるのかどうか、特に政治課題の優先順位などの判断が適切になされているか見極めていく必要がある。(了)
