消費減税をめぐって、政府は5日午後に臨時閣議を開き、来年4月から2年間に限って食料品の消費税を1%に引き下げるなどとした基本方針を正式に決定した。政府は具体的な制度設計を進め、9月に税制改正大綱を決定し、秋の臨時国会に関連法案を提出する方針だ。
閣議決定された基本方針によると食料品の消費税について、来年4月から2年間税率を2%に引き下げるとともに、中低所得の人に1%相当分を給付することで実質ゼロを実現するとしている。
財源は、市場の信認を損なうことがないよう赤字国債に頼らず、補助金や租税特別措置の見直し、それに税外収入などを通じて確保するとし、来年度の予算編成プロセスで結論を得るとしている。
こうした2年間の減税を経たうえで、2029年度には「所得に連動したきめ細かな給付」を毎年度、継続的に実施する新たな制度として導入するとしている。
1989年に消費税が導入されてから37年になるが、政府が消費税率引き下げの方針を決定したのは、今回が初めてだ。政府の方針をどのようにみたらいいのか、また政治の対応として何が必要なのか考えてみたい。
多くの疑問・懸念は残されたまま
さっそく政府の基本方針の内容からみていきたい。まず、食料品に課税される消費税率が8%から1%に引き下げられるが、専門家は「国民が期待するほどの引き下げ効果はないのではないか」との見方を多く聞く。
イラン情勢悪化に伴う原材料や包装の価格上昇、それに輸送費、人件費も上がっていることから、減税分がそのまま価格に反映されるとは限らない。消費減税の効果は、思ったほどないのではないかというわけだ。
次に減税などを実施するためには1年で5兆円程度の財源を必要とするが、基本方針では財源の具体的な内訳は示されておらず、来年度予算編成の中で検討していくことになる。
税制に詳しい議員に聞くと「1年に5兆円程度は赤字国債に頼らずに何とかかき集められるが、他にも首相肝いりの危機管理投資や防衛力強化の予算にも必要だ」として、財源確保の難しさを認めている。
高市政権の下で財政拡張がさらに進むとみられると市場の信認を失い、円安・債券安が一段と進むリスクを抱えている。
さらに懸念されるのは、2年後に食料品の消費税率を元の8%に戻せるかだ。高市首相は「2年後には私が責任を持って、確実に税率を元に戻す」と力説する。
だが、どうだろうか。消費税率引き上げの時期は2029年4月。その前年・2028年夏には参議院選挙が実施される。選挙を間近に控えた政権は、選挙への影響を恐れて引き上げを先送りすることはありうるのではないか。安倍政権も2回にわたって引き上げを延期したことがある。
このほか、食料品の消費税が実質ゼロになると、利用客の減少が予想される外食産業や免税農家に対する支援策の検討もこれからだ。このように食料品の消費減税には数多くの疑問や懸念が出されたが、ほとんど手つかずで残されたままだ。
首相 ”力で押し通す政治”の危うさ
今回の消費減税にあたって危惧されるのが、高市首相が進める政治手法だ。高市首相は衆院選での自民圧勝後、超党派の「国民会議」で給付付き税額控除の検討を進めたが、食料品の消費減税については与野党の合意を取りつけることに失敗し、結局、自民党の方針をそのまま政府方針として決定した。
また、政権与党・自民党の最終的な意見集約も、首相の方針を最初に党役員に提示して賛同を得た後、党所属議員の意見を聞いて集約する手法を採った。党所属議員の意見集約もわずか2日間だった。
従来の自民党であれば、党税調の意見を踏まえて方針のとりまめに活かしたり、”平場の議論”は当事者が疲れ果てるまで続けたりしたが、今やトップダウンの上意下達、”力で押し通す政治”の党に変わったように見える。
特別国会閉会後の記者会見で高市首相は「316議席、衆院選挙で国民の皆さまから頂戴した大きな、大きな負託。その責任の重さを毎日噛みしめながら公務に向き合っています」「何かを成し遂げようとすれば大きな抵抗もあるでしょうが、『公約実現』への私の思いは決して揺らぐことはありません」と強調した。
選挙公約を何としても実現したいとの首相の思いは理解できる。他方で、政治家、特に首相は選挙後に起きた内外情勢の変化、今年で言えば米・イスラエルによるイラン攻撃などの影響なども勘案し、大局的で現実的な政権運営が必要だ。
また、”力で押し通す政治”が前面に出すぎると大きな政治目標を達成することは難しくなる。首相は政治姿勢や手法を再考することが必要ではないかと考える。
消費減税を含む基本政策 徹底論戦を
消費減税の問題は、今回の閣議決定によって政府・与党の基本方針が決まったことになる。今後は秋の臨時国会で、関連法案の審議に焦点が移る。
そこで、消費税の意義と経緯をみておくと消費税は、急速な人口減少と超高齢化社会が進行する中で、社会保障を整備する新たな税制として導入された。若い世代だけでなく、高齢者も消費を通じて税を負担して社会保障を支える税制であることから、その意義を認める国民は多いとみていいのではないか。
こうした観点に立って今回の政府の基本方針をみると2年間に限定された「つなぎ」の措置のために基幹税である消費税の税率を引き下げることには疑問を抱かざるを得ない。別に財源を求めるか、給付に切り替える方策も考えられる。
秋の臨時国会では法案の成否の駆け引きでなく、人口急減時代の税と社会保障の整備について与野党が掘り下げた議論を行ってもらいたい。
また、今の日本が直面している政治課題も待ったなしだ。物価高騰対策をはじめ、日米が28年ぶりに円買いの協調介入を行った円安への対応、さらに市場が懸念を抱いているとされる政府の財政政策など取り組むべき課題は多い。
さらに今回の消費減税に必要な5兆円の財源確保をはじめ、首相が強い意欲を示す危機管理投資と防衛力の抜本強化を図るための防衛財源について、全体像を明らかにする必要がある。
秋の臨時国会は、こうした日本が直面している金融・財政、防衛力整備と社会保障などの基本政策について、政府・与党と野党側が真正面から徹底して議論を深めることが必要だ。
一方、国会の運営面では、高市政権は衆院では圧倒的多数の勢力を確保しているが、参議院では過半数割れしている。このため、先の特別国会で明らかになったように力で押し切るような国会運営は困難だ。加えて足元の自民党内では、消費税減税には慎重・反対論が根強く、高市政権の政治基盤は万全とは言えない。
一方、野党陣営は少数政党に分かれたままで、高市政権に対して本格的な論戦も挑めない状態で、国民の失望を買っている。
こうした状況から、高市政権と与野党がやるべきことは明らかだ。消費減税を含む基本政策について真正面から議論を戦わせて、結論を出していくことだ。私たち国民も高市政権と与野党がどこまで役割を果たせるか、秋の国会をしっかり見届けている必要がある。(了)
