感染第6波、正念場の岸田政権

新しい年が明けて1週間も経たないうちに、コロナ感染の波が、猛烈な勢いで押し寄せてきた。政府は7日、沖縄、山口、広島の3県に緊急事態宣言に準じる「まん延防止等重点措置」を適用する方針を決めた。

重点措置の期間は、9日から今月31日まで。夏の感染第5波に対する重点措置が解除された去年9月30日以来で、岸田政権になって初めてになる。

全国的にも1日当たりの感染者数が6000人を超え、オミクロン株の入れ替わりも早いペースで進んでいる。医療専門家は「全国的に第6波に入った」と警戒を強めている。

第6波を抑え込むことができるどうか、政権のかじ取りが大きく影響する。安倍政権、菅政権と2年連続、感染対応に失敗し退陣に追い込まれてきた。

岸田政権は、これまで感染対策を比較的順調に実施してきたように見えるが、第6波を乗り越えられるのか、どんな取り組みが必要なのか考えてみたい。

 驚異的な感染力、米軍基地が”穴”

まず、重点措置が適用されることになった3県の感染者数を見ておく。7日の時点で、沖縄は1414人で過去最多を更新、広島も429人で過去最多、山口は180人で高い水準にある。

特に感染の速さが、驚異的だ。7日の感染者数を1週間前と比較してみると沖縄は実に32倍、広島は19倍、山口は12倍にもなる。これだけの急拡大は、感染力の強いオミクロン株への置き換わりが急速に進んでいるものとみられる。

この3県に共通しているのは米軍基地だ。沖縄と山口県岩国市には米軍基地があり、広島県の西部は隣接地域だ。地元の知事や医療専門家は、米軍基地内の感染の流行が基地の外に広がったことが一因との見方をしている。

米軍関係者が、アメリカなどから在日米軍基地に入国する際にPCRなどの検査が免除されていたとされる。沖縄県の玉木知事らは、去年からたびたび米軍の感染対策の強化を訴えてきたが、日本政府の対応は安全保障面への配慮のためか慎重な姿勢が続いた。

岸田政権は、外国人の入国を全面停止するなど厳しい水際対策を取ってきたが、在日米軍基地に感染を広げる”穴”が開いていたことになる。岸田政権の失策と言わざるを得ない。

日米地位協定で、米軍関係者は検疫の対象外だが、地域住民の健康と安全を考えると、検疫や感染管理の不備を放置することは許されない。この問題は、今月召集される通常国会でも取り上げられることになるだろう。

 岸田政権の新対策は機能するか

次に岸田政権のコロナ対策をどうみるか。今回の3県の「重点措置」適用は、岸田政権が去年11月に決定した緊急事態宣言や重点措置を出す目安となる「新指標」に基づいている。

新指標は、従来の新規感染者数よりも、医療提供体制への負荷を重視しているのが特徴だ。具体的には、医療のひっ迫状況などに応じて、レベル0から4まで、5段階に分けて判断する。緊急事態宣言はレベル3、重点措置はレベル3か2に相当する。今回の3県は、レベル2に当たると判断された。

また、岸田政権は同じく去年11月に「コロナ対策の全体像」を取りまとめた。対策のねらいは、コロナウイルスの感染力が2倍になった場合にも対応できる医療体制を確保することにあると強調している。

具体的には、昨年夏に比べて3割増の3万7000人の入院を可能にすること。ワクチン、検査、飲める治療薬の普及で「予防、発見、早期治療までの流れを強化し、重症化リスクを減らすこと」を掲げている。

菅政権の前半は、飲食店の営業時間短縮に重点を置いた1本足打法だった。後半はワクチン接種最優先だったのに比べて、岸田政権の対策は、医療提供体制の確保に重点を置いたうえで、複数の対策を組み合わせているのが特徴だ。

問題は、全体像の目標で掲げる「予防、発見、早期治療までの流れを強化し、重症化リスクを減らす対策」が本当に機能するのかどうかにある。

 国と地方自治体の連携・実行がカギ

一番の問題は「国と地方自治体などとの連携・調整」が順調に進むのかどうかという点にあるのではないか。

具体的には、岸田政権の対策では、オミクロン株の感染が急拡大している地域では、自宅での療養体制が整っていることを条件に、感染者や濃厚接触者でも症状に応じて「自宅での療養」なども可能にするとしている。

確かに去年夏のピークを上回るような感染者が出た場合、入院だけでは対応できないので、自宅療養を認めるのは現実的な方法であることは理解できる。

問題は、入院か自宅療養かを判断をするのは、地域の保健所が担当すると思われるが、保健所の体制整備は進んでいるのだろうか。自宅療養が広がった場合、地域の医療機関の往診や健康管理はスムーズに運ぶのだろうか、多くの疑問がわいてくる。

このほか、無料のPCR検査など拡充や、ワクチン追加接種の前倒しなど多くの難問がある。最終的には、総理官邸が司令塔機能を果たして、厚労省など各省庁を指示し、都道府県、市区町村を通じて、保健所や医療機関などとの連携・調整、実行の歯車がうまく回るのかが、これから試される。

 医療提供、経済の二正面作戦

感染力の強いオミクロン株の感染は、7日夜までに全国45都道府県にまで拡大した。また、オミクロン株の置き換わりが急速に進んでいることなどを考えると今後は、東京や大阪など大都市圏へ波及していくことが予想される。

新規感染者数は7日のデータで、東京都は922人、1週間前の12倍に急増した。大阪府も676人で、1日の感染者数が500人を超えるのは2日連続だ。

ここまで見てきたように感染の拡大は避けられないが、重症者を減らしながら医療提供体制を維持できれば、感染抑制への展望が開けてくる。

また、感染が長期化する中で、国民生活への影響を最小限に食い止めるとともに経済活動を維持していく道を探っていくことも必要だ。

岸田政権が、こうした二正面作戦に取り組み、第6波の感染危機を乗り越えられるかどうか、正念場を迎えている。

※追記(1月10日)在日アメリカ軍の施設区域などで、コロナ感染拡大が続いていることを踏まえ、日米両政府は、10日から14日間、アメリカ軍関係者の不要不急の外出を制限することなどを取り決めた共同声明を発表した。

これに対し、野党側は、政府の対応が遅すぎるなどと批判しており、17日召集の通常国会の焦点の1つになる見通しだ。

 

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