緊急事態宣言 解除で 問われる点

新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づく緊急事態宣言について、政府は14日夜、対策本部を開き、39の県で解除することを決めた。東京など残る8つの都道府県については、1週間後の21日に解除するかどうか判断する見通しだ。

長く続いた外出自粛要請などの区切り.。当初の5月6日の期限からは遅れたが、ここまで感染爆発に至らず、宣言解除にこぎ着けたことは素直に喜びたい。しかし、油断は禁物、引き続き警戒を続ける必要がある。また、これからは経済・社会活動の本格的な再開に向けた準備も始めなければならない。

宣言解除の第1段階を迎えたのを機会に、政府や自治体、それに私たち国民の対応、何が問われているのか考えてみたい。

 感染状況・医療 実態把握に弱点

政府は、今回の宣言解除にあたって、①感染状況、②医療提供体制、③PCR検査などの監視体制を基準に判断した。

こうした解除の基準について異論はないが、問題は、その前提となる感染状況や医療現場の実態を把握できているのか。政府や都道府県など行政の対応には「実態の把握と国民に対する説明が乏しいのではないか」。国民の側から見ると、この点が1番の問題点だと考える。

具体的にどういうことか。政府と地方自治体の対応について、最近の出来事の中から幾つか見ておきたい。

まず、関心の高い検査の問題。東京都は毎日、PCR検査で陽性の感染者数などを発表しているが、正確な1日ごとの検査データが明らかにされるようになったのは、実は5月中旬からだ。検査の実施日や結果判明の日時の違い、保健所の多忙な業務も重なり、基準を統一する作業が遅れてきたためではないかと見られる。

一方、東京都内の病院の入院状況については、厚労省のホームページで全国のデータとともに見ることはできるが、古いデータが更新されず、実態とのズレが生じている。また、都の受け入れ体制は2000床、ピーク時の3300床は確保などとも聞くが、感染者の症状の違いなどで受け入れ体制がどうなっているのか、よくわからないのが実態だ。

国会の質疑で政府側の答弁を聞いていても同じようなことが言える。例えば、◇全国の病院での重症者受け入れ状況は、10日前のデータ。◇軽症者などを収容する宿泊施設の状況も、7日前のデータといった具合だ。

さらに国民の関心が高いPCRの検査。安倍首相は、検査能力を1日あたり2万件まで増やすと強調する。ところが、実際の検査件数は1万人に満たない状態が続いている。

14日の記者会見で安倍首相は、新たに承認された「抗原検査」についても触れ、6月には1日あたり2万人から3万人分の検査キットを供給する考えを示した。しかし、PCR検査と合わせて検査がどうなるのか説明はなく、記者団からの質問もないので、検査体制がどの程度改善されるのかわからないままだ。

このように宣言解除の基準となった検査や医療現場の説明は乏しい。だから、解除して大丈夫なのか、納得感が得られない。感染症対策は長期戦になるので、政府と自治体は、協力してデータベースを整備すること。その上で、リアルタイムで正確な情報を収集・分析、国民に十分説明することが基本中の基本ではないかと考える。

 地域医療の整備、長期戦の基本

2つ目の課題は、地域医療の整備。新型コロナウイルスは手強い相手で、専門家に聞くと、短期で完全に封じ込めるのは困難だという。一旦、押さえ込んでも第2波、第3波の感染が起こりうる。但し、地域の医療体制が整っていれば、十分に対抗できる。だから、地域医療体制の整備は、長期戦の基本となる取り組みだ。

既に各地域で参考になる取り組みが行われている。
◇東京の杉並区では、感染患者を受け入れた病院では、病床の整備などに伴う減収が見込まれるため、22億円の予算を確保して病院経営を補助している。区独自のPCR検査場も設置する方針で、7月下旬にも開始する計画を進めている。

◇千葉県松戸市では、医療現場を支援しようと医師や看護師に民泊施設を無料で提供する取り組みを進めている。医師や看護師などから「万一、感染した場合に同居する家族に感染を広げないか不安」との声が上がっている。そうした不安や負担を少しでも軽減できるようサポートするのがねらいだという。

◇東京の武蔵野市や調布市など6つの市では、地元の医師会などとPCRの検査センターを設置するとともに、軽症者を受け入れる宿泊療養施設を確保する取り組みを進めている。

自分の住んでいる地域の医療体制はどのようになっているのか調べておくことも重要だ。また、政府の対応だけでなく、地域の医療体制づくりに責任がある都道府県の取り組み方も注視していく必要がある。

 第2次補正、出口戦略を描けるか

39県の緊急事態宣言が解除されたことで、政府にとっては、残りの8都道府県の宣言解除や経済活動再開に向けた出口戦略の取り組みが大きな課題になる。

その際、政府の司令塔、総理官邸の役割・対応が問われる。これまでの総理官邸の対応は「後手に回っている」という受け止め方が強い。総理官邸、安倍政権の体制の立て直し、再構築ができるかどうかカギになる。

これまで2月の一斉休校を巡っては、関係閣僚との調整が十分、行われていなかった。国民への現金給付を巡っては、与党の公明党や自民党からの不満が強まり、閣議決定していた当初案を撤回するといった迷走も見られた。

安倍首相は14日夜の政府の対策本部で、今年度の第2次補正予算案の編成に着手し、雇用調整助成金の上限を1日あたり1万5000円まで特例的に引き上げる考えを明らかにした。補正予算案の編成を通じて、政権の態勢を立て直し、政権運営の主導権を取り戻すねらいもありそうだ。

一方、これからの政治の焦点は、5月末までに東京などの緊急事態宣言が解除できるかどうか。第2次補正予算案の編成で中小事業者の家賃や、大学生の支援策の取りまとめが順調に進むかどうか。さらには本格的な出口戦略、経済活動再開へと動き出すことができるかどうか綱渡りの政権運営が続くことになりそうだ。

 

 

 

 

 

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